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6.チョロイン系男子?

 晃君が可愛いのは世界共通。勿論想定内だが、私はその日の放課後にいわゆる『およびだし』を食らった。

「ちょっと、私達の晃君に告白したんですってッ?」

「あなた、ファンクラブ会員何番よ。会長の話に報告もせずにそんなことッ!」

 なんて古典的展開だ……。しかし、物怖じせずに私は言い返す。


「私は告白ではなくプロポーズしたんです。それに、ファンクラブではありません。生徒会副会長ではありますが」

 囲む女子達の名前は知らないが、おそらく同い年だろう。絵里と違って私は、生徒全員の名前を覚えているという訳ではないが、向こうはきっと私のことを知っているはずだ。そして、私が彼女達より上で、この呼び出しが無意味なことに気づいているはずだ。


「くっ……、知っているわよ! しかもあなたは文武両道で超エリートな、一匹狼の漢前な少女漫画のヒーロー的存在でしょっ!」

「むしろ一般的少女漫画で言ったら晃君の方がおよびだしを食らうわ!」

「でもね、晃君がどんなにヒーローにすぐコロっとしちゃう逆玉チョロイン的存在でも、私達は彼のファンクラブなの! 抜け駆けを認めちゃいけないの!」

「確かにプロポーズされた乙女な晃君ちょー可愛い、肉食系にたじたじしちゃう晃君マジ可愛い! でもね、晃君は私達の、『俺の嫁』なの! 分かるッ?」


 何となく分かる。簡単に言うと、認めたくない、ということだろう。

「分かりました。しょうがないですね。そっちがその気なら……」



 ……次の日から、私は晃君への猛アタックを開始した。


「おはようございます、晃君。また曲がり角で会っちゃいましたね」

「わ、わざとだろッ」

「えぇ、またここで会いたかったんです」

「……っ」


「こんにちは、晃君。三年の教室で、一緒に昼ご飯食べませんか?」

「い、いや、でも、俺は真澄と食べるし……」

「絵里も一緒です。真澄君もどうぞ」

「晃、行こうよ」

「ま、真澄が言うなら、行ってもいいけど……」


「君が晃ちゃん? 可愛いね!」

「生徒会長の絵里さんだよ、晃」

「ど、どうも……」

「きゃー可愛い! ねえねえ戸惑ちゃって、どうしたの、絵里の美貌に一目惚れしたの?」

「絵里……」

「冗談だって、もう〜! 恐い顔しないでよ、凛。君の婚約者をとったりしないって!」

「こ、婚約者なんて、まだそんなんじゃねーよっ!」

「晃君。『まだ』ってことはこれからの可能性があるってことですか?」

「こ、言葉のあやだよバカッ! あ、すいません思わずバカとか言ってしまって……」


 顔を赤くする晃君。明らかな手応えを感じる。

 なんてチョロい……っ、でも可愛い!


 晃君と真澄君が教室を出てから、絵里は私にひそひそと言った。

「凛って結構アクティブだったのね……」

 いきなりプロポーズしたときからそんな気はしていたけど、と絵里。

「そうですね、でも、この目的はこれだけじゃないんです。ドアの方を見てください」

 教室のドアに、スマホを持った女の子達が群れている。

「晃君、先輩達怖がって三年の教室に全く来ないでしょう? だから、ファンクラブの人達と取引したんです」


『あなた達が晃君を愛でるのは別に止めません。それに、私ができるだけ三年の教室に晃君を呼ぶので、私と彼の結婚を許してください!』

『『『いきなり結婚ッ……?』』』


「なるほど、あの子達あそこから隠し撮りしていたのね」

「しかし、ファンクラブの人達のほうが一枚上手でした。婚約を許す代わりに徹底的に彼を赤面させるという条件付きで……」

「凛。ファンクラブ、徹底的にあなたの味方よ、それ」

 悔しがる私。絵里は、あきれたようにため息をついた。


「ファンクラブのことなら、絵里がどうにかするからよかったのに。絵里、ファンクラブ会長だし」

「え、そうなんですか」

「ちなみに、真澄ちゃんのファンクラブ会長も絵里! 凛のファンクラブ会長も絵里!」

「ちょっと待ってください、最後の何ですか、私知らないんですけど!」

「ファンクラブなんてそんなものよ〜」

「というか、どうして絵里が私のファンクラブの会長にッ?」

「何か問題があった時に、上に立つ人間であった方がいろいろできるからねー。問題はちゃんと把握して手綱を握っておかないと」

 やはり、絵里は凄い。ただ者じゃない。

 ギャルだけど、絵里は私の足りないものをいくつも持っている。彼女がいる限り、この学校は安泰だろう。


「凛、晃ちゃんのこと、本当に好き? 正直、クッキー1つでプロポーズなんて、絵里には考えらんないんだけど……」

「好きです」

即答する。

「私のお母さんが、ずっとシングルマザーなこと、知っていますよね? だから、昔から、お父さんも、仕事で急がしいい母さんも、家にいない。一人っ子だし、私が帰ったら一人でした。だけど、あのクッキーを食べた時、無性にあったかい味がしたんです。その時、ああ、この人だ。この人を幸せにしたいって思ったんです」

 絵里は、じっと私の話を聞いていたが、私の後ろに視線を移した。


「……だってよ、晃ちゃん」

 慌てて私が振り向くと、彼が大きな目をさらに大きくさせて固まっていた。

「ひ、晃君……、いつから?」

「さっきの質問のちょっと前から!」

ニヤニヤと笑う絵里。どうやら分かっていてあんな質問をしたらしい。

「俺、箸を持って帰り忘れていて……」

「え、あ、本当だ! は、はい、どうぞ!」

慌てて、机の箸にあった箸のケースを差し出す。彼はそれを受けとったが、なかなか動こうとしない。


「えっと、まだ何か……」

 赤くなってうつむいてばかりだった晃君が、目をそらそうとせずに私を見つめてきて、私の方が気恥ずかしくなる。そう言えば、彼の方が背が高かった。

「あの……」

「弁当、いりますか?」

「え?」

「俺、凛さんのお昼に、弁当作ってきて良いですか?」

 それだけ言うと、風を切るように勢いよく視線を外した。ようやく、彼の意図が飲み込めた。

「作ってくれるの?」

 彼は、顔をみるみる赤くしながら、激しく頭を上下に動かした。

 この恋の道、少しうまく行き過ぎている気がするけれど。

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