3.男でも女でもない?
20××年。女尊男卑の世界の中、世界には男と女と、そうでないものが存在している。
見た目は、長身美形男子。しかし、宝塚系女子にも見える。そんな容姿の僕、真澄はその3つ目である。
そんな僕の前に、悩める子羊が一匹。
「一体どうしたんだ、晃? 一日中上の空で、先生怒っていたよ」
「真澄……。聞いてくれ。俺、うちの学校の大和撫子に会った」
頬杖をついて、悩める乙女のように教室の窓の外を見る僕の親友、晃。僕は彼の前の席で、後ろ向きに座って彼の話を聞いていた。
大和撫子に会ってやる、と晃は常に言っていたが、正直僕はそれをネタだと思っていたが、どうやら本気だったらしい。友人の春だ、僕に応援する以外の道はない。彼の話を黙って聞くことにした。
「それで、俺、毎日広辞苑持ち歩こうかな」
「……ん?」
脈絡がない。
「どうして、広辞苑が出てくるの? 大和撫子とどんな関係があるの?」
「大和撫子が、大辞泉を持ち歩いているんだ。鞄重くて、落下した時アスファルトがひび割れた」
「え、その辞典で大和撫子とは言えないんじゃないかな」
というか、多分鞄に入っていたのは大辞泉だけではない。思わずツッコミをいれるが、「いいや、あのこは大和撫子だったっ!」とムキになって怒鳴られてしまった。彼がそう思うなら、それでいいか。晃の話から、大体の内容は理解した。
「じゃあ、その子は同じ学校なんだね。同学年で、そんな子は知らないから、先輩か後輩か、……彼女の落ち着きようから言って、先輩かな」
「先輩とか、良い思い出ないなぁ。名前聞いとけば良かった俺の馬鹿っ!」
「晃が三年の教室に行けるとは思えないからね……。そうだね、僕がちょっと探りを入れてみるよ」
僕の提案に、彼は顔を輝かせる。実は、僕はもう彼の見た大和撫子の候補を持っていた。
「ほ、本当かっ!」
「大げさだよ、晃。昼休みまだあるし、晃はご飯食べといて。今から少し3年の教室行ってくるね」
「真澄……っ、本当に謙虚だなっ! 俺、昨日父さんとクッキー焼いてきたんだけど、やるよっ!」
晃は美味しそうな色をしたクッキーを僕に押し付けた。
「お前が女だったら俺は真っ先にプロポーズしているかもしれないなっ!」
僕は苦笑して、教室を出た。
「あの、」
「あ、真澄君っ。なになに、絵里に用事っ? 絵里に告白っ?」
「絵里、ウザいですよ。真澄君、すいません」
近くの人に声をかけたら、思いがけず知り合いだった。茶髪のギャルに、大人しそうな黒髪の対照的な女子二人。僕は生徒会の会員で、彼女達は会長と副会長である。
「いえいえ。絵里さんだって、僕のことを知っているなら本気ではないでしょう」
「あー、残念っ! あなたが男なら、絵里絶対アタックしているのに!」
茶髪の子の聞き覚えのある台詞に、僕は少し笑った。
僕は男でも女でもない。そもそも、性別さえない。僕のようなタイプは少数派であるが、わりとこの時代に存在し、普通の人達の中に馴染んでいる。ただ、僕に好意を寄せてくる人は、僕の正体を知って、少なからずショックを受けるだろう。昔は奴隷のような扱いも受けていた存在であり、今でも一部からは、少なからず嫌悪さえ抱かれている。
僕はロボットである。
「絵里は誰にでもイケメンならアタックしているでしょう。真澄君、もしかして会のことですか?」
「いえ、確かに凛さんに聞きたいことがあるのですが、今日はそうではなくて……」
僕は、大切な友人との約束を思い出す。
「凛さん、今朝、曲がり角で誰かとぶつかったりしませんでしたか?」