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王都警備隊・4  作者: 風羽洸海
花泥棒と色事師
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     3


 ドナの家に行く前に、リーファはいったん詰所に戻ってセルノに報告した。今度またアリアが来たら、あんたが何とかしろよ、という意味も含めて。

 だがセルノはいつものごとく、分かっているのかいないのか悟らせず、むろん何の確約もせず、とぼけて報告を聞き流すだけだった。

「そうか、事情は分かった。これからドナの家を訪ねるのなら、私も同行しよう」

「何か気になることでも?」

 リーファが胡散くさげに探りを入れると、セルノは無駄に爽やかな笑みで応じた。

「なに、美女を訪ねる機会を逃したくないだけだ」

「それが本心なら、首がもげるぐらい張り飛ばしますよ」

「つくづく君は、上司に対する態度がなってないな」

「まともに物申して聞いてくれる上司なら、暴力に訴えなくても済むんですがね」

 いつの間にやら、すっかり遠慮のない応酬をするようになった二人は、それでも連れだって歩きだした。

「で、実際のところ何なんです?」

「知識の出所だ」

 セルノは行く手を見たまま、端的に答えた。やはりか、とリーファもうなずく。

 レズリアの識字率は、決して低くはない。だが庶民が簡単に書物に親しめるというほどでもない。掲示板の張り紙や、神殿にある簡易な神話の本ぐらいなら誰もが読めるが、薬草学の書物は難解だし貴重品だ。

 日銭を稼ぐのに忙しい人々は、高度な本を読むのに費やす時間はない。

 となれば、ドナは誰かから草花の効用について口頭で教わったのだろう、という推論が成り立つ。その『誰か』とは?

 リーファは歩きながら、考えを整理するため口に出した。

「近所の物知りおばあさん、ってわけじゃなさそうですね。装飾用の花として買えるようなもので、しかも季節に応じて使えるものを何種類も知っているとなったら、専門知識がある人間じゃないと無理でしょう」

「だがそうなると、なぜ自分で治療せず素人に草花の種類だけ教えて、勝手にさせているのか、そこが奇妙だ。治療費を払えない客だからか? それなら格安にしてやればいい、無期限のツケにしてもいい、いくらでも方法はある」

 セルノも難しそうに言い、ふと眉を寄せてつぶやいた。

「それに、薬草をこっそり持ち帰らせるのが常態化するほど長期間にわたっているのなら、果たして奥さんの“治療”に効果があるのか、という疑問も生じる」

 物騒な内容に、リーファは思わず目を剥いて隣の班長をまじまじ見つめた。

「それはちょっと、穿ちすぎってもんでしょう」

「分からんぞ、夫に毒を盛る女は腐るほどいるからな。ラウロでは飽きるほど見た。結婚したら食事は毒入りと思って食え、と肝に銘じたものさ」

「本当に? いや、だって普通、旦那の稼ぎが頼りでしょうが。それが倒れちゃ、困るのは自分でしょうに」

「もちろん、どの程度まで弱らせるかは『匙加減』で調節するんだ。外で働けるぐらいの体力はあっても、帰ってきたら妻のなすがまま。毒入りの食事とも知らず、匙で口に運んでもらってありがたく頂戴するという寸法さ。その妻の手で毎日、爪の間に針を刺されていた奴もいたな」

「うぇ……」

「夫を支配するのが楽しいんだろうよ。それでいて対外的には、病弱な夫に献身的な妻で通る」

「浮気相手も再婚相手も不自由しない、ってわけですね……壮絶だなぁ。ですがドナの場合は実際に持ち帰っているのは喉に効くものだって座長も知っているわけだし、そういう心配はないと思いますがね」

 リーファは楽観的に言い、それ以上の不穏な憶測を封じた。

 効果があるのか、という疑問は言われてみればもっともだが、しかし、薬師の治療ではなく素人療法だ。気休めに近いだろう、あまり効かなくても不自然ではない。

 あれこれ考えながら歩いていたリーファは、いつの間にか目指す家の近くまで来ていることに気付いていなかった。

「うん? あれは……」

 セルノがつぶやいたので我に返り、リーファも行く手を見る。一軒の粗末な家から、見覚えのある女が慌てふためいて飛び出してきたところだった。

「ドナ?」

 呼び止める間もなく、ドナはスカートの裾をたくし上げて走り出した。反射的にリーファは後を追おうとしたが、

「待て、家の様子がおかしい」

 セルノに肩を掴まれてたたらを踏む。耳を澄ませると、誰かの苦悶の声が聞こえた。

 二人は急いで駆けつけ、扉が開けっ放しなのをいいことに、勝手に踏み込んだ。

「警備隊だ! 誰かいるか?」

 セルノが声をかける。入ってすぐの部屋は居間兼食堂で、テーブルと椅子があり、今日持ち帰ったのであろう草花の束が無造作に置いてあった。小さな火鉢には暑い季節にもかかわらず火の気が残っており、恐らく湯を沸かしたのだろうと察せられた。

(いつものように薬湯を作って飲ませたら、様子がおかしくなったのか)

 室内の状態から何が起こったかを推測しつつ、リーファは奥へ進む。

 続き部屋の敷居をまたぐと同時に、ベッドから人が転げ落ちた。

思わず飛びのいたリーファの足元で、痩せた男が喉や胸を押さえてもがく。セルノが素早くしゃがんで男の体を支えた。

「水だ、リーファ! ありったけ水を飲ませろ、それから吐かせるぞ!」

「了解!」

 返事と同時にリーファは居間へ駆け戻り、水差しを探す。幸いまだ半分は中身が残っていたので、念のためにちょっと匂いを嗅いでから、使われた形跡のないコップと一緒にひっ掴んだ。

 男は沼地の泡のような声を立ててえずいている。リーファとセルノは二人がかりで、男の喉に無理やり水を流し込み、続けて存分に吐かせてやった。床が汚れたが、そんなことを気にしている場合ではない。

 しばらく、ごぼごぼげえげえと美しくない音を繰り返した後、ようやく男の容態が落ち着いた。

「やれやれ……とりあえず危機は去ったか」

 ぐったりした男の脈と呼吸を確かめて、セルノがほっと息をつく。その手際良さに、リーファは素直に感嘆した。

「随分手馴れてますね、班長。もしかして警備隊に入る前は、治療師でも目指してたんですか」

「なんだ、応急処置もまだ習得していないのか? 何がなんだか分からないが中毒らしい場合は、とにかく吐かせるのが常識だろう」

 すべての毒に有効なわけではないし、下手をすると喉がただれて逆にひどい事になる毒もあるが、現場で咄嗟に出来る処置といったら、大量の水で薄めて吐かせるぐらいだ。

 男をベッドに横たわらせて、二人が嫌々ながら床掃除にとりかかったところで、ドナが帰ってきた。

「お願いします、早く……、っ!?」

 連れを急かしつつ入ってきたドナは、予想もしない光景にぎょっと立ち竦んだ。セルノが素早く立ち上がり、気障ったらしく前髪を掻き上げる。

「これはどうも。通りがかったら誰かがひどく苦しんでいるようでしたので、勝手に入らせて貰いました。警備隊四番隊二班班長、セルノ=ラーシュです」

 優雅に一礼してから、彼はちらりと意味ありげな笑みを閃かせた。

「先日、大劇場のロビーでお会いしましたね」

「え……あの、すみません、私」

 ドナはすっかり動転し、しどろもどろになる。リーファはこれまた勝手に拝借した雑巾で床を拭きながら、恨めしげに班長を睨んで唸った。

「とりあえず旦那さんは無事だって教えてあげるのが親切じゃないんですかね。さらにこっちを手伝ってくれたら、班長さんの評判はうなぎのぼりですが」

「部下の仕事の邪魔はしないさ。いい班長だろう?」

 セルノはしれっといなして、ドナに向かい合った。彼女の肩越しに見える、妙にそわそわしている中年男を視線で示して問う。

「見たところ、神官のようですね。彼があなたに薬草の処方を教えていたんですか」

「あ……はい、ええ」

 慌ててドナは横に避け、場所を空ける。セルノが一歩踏み出すと、なぜか神官は後ずさった。その反応に、セルノはおやと小首を傾げて山猫のような笑みを広げた。

「ご心配なく、部下がすぐに掃除を済ませますよ。病人の具合を診に来られたんでしょう?」

「え、ええ、まあ。ですが、もう手当てをされたようだし」

 もごもご言いながら神官はまた後ずさる。セルノがさらに一歩踏み出した直後、神官は弾かれたように身を翻して逃げ出した。

「リーファ!」

「はいよッ!」

 すぐさまセルノが横に退き、リーファが疾風の如く駆け抜ける――かと思いきや、

「せいっ!!」

 ぶん、と何かが風を切って唸り、神官に向かって飛んだ。

 ベチャッ!!

「ひっ!? あっ、わ、うわあぁぁ!!」

 後頭部に濡れたものがへばりつき、神官は悲鳴を上げてつんのめる。とっさにそれを払いのけようとした途端、悪臭に顔を背けようとしてのけぞり、よろけつまずいて派手に尻餅をついた。

「おぉ、命中~」

 汚い雑巾をぶん投げたリーファは、おどけて自分に拍手する。セルノが非常に嫌そうに顔を歪めていたが、リーファは澄まして手柄を譲った。

「どうぞ班長、容疑者逮捕、お願いします」



 ひたすら「すみません、すみません」を繰り返す気の弱い神官を、脅したり宥めすかしたりしながら尋問した結果、明らかになったのはなんとも情けない動機だった。

 いわく――ドナに頼られるのが嬉しかったから。

 それだけのために、神官はあえて薬草の用量を少なく指示して、快復するかしないかといった線を維持してきたのだ。

 弱い効き目にしたのは素人療法で万一のことがあってはいけないから、という言い逃れも出来るが、神官はそれさえもせず、涙ながらに正直な告白を聞かせてくれた。

「治ってしまったら、ドナはもう私の所へ来てくれないじゃありませんか。私は彼女に会えるだけで良かったんです、彼女が『お願いします』とか『ありがとうございます』とか言ってくれるだけで、もう、本当に幸せで」

 だから、感謝されたいあまり、時にはわざと効能が異なる薬草を、咳に効くと偽って教えたりもしたという。夫の具合が悪くなった、とドナが助けを求めてきて、神官がそれに応じると、実に素直な感謝と崇敬のまなざしを向けてくれる、それがこの上ない幸福だったのだ、と。

「殺すつもり? まさか、とんでもない! そんな事をしたらドナが悲しみます。それに、馬鹿みたいに健康な夫が後釜に据わったら困るじゃありませんか!」

 なんとも勝手な言い分である。

 しかし彼がしたことは基本的には『貧窮者に対する無償の治療指導』であり、たまに違う薬草が混ざっていたとしてもそれは『単なる手違い』であり、しかもそれに対して手当てを施してもいるため、罪に問えるかどうかは非常に難しかった。

 そこで、司法に代わって神殿が、迅速な決定により罰を下した。

 神官位を剥奪された男は修練生からもう一度すべての修行をやり直し、その間誰にも決して自らの知識を伝えてはならないとされたのだ。同時に、定期的に城に上がって国王陛下に拝謁し、精神修養しろという命令までついてきたのは余談である。


 ――さておき、数日後のこと。

「こんにちは、具合はどうですか」

 ドナの家を訪ねたリーファは、なんとなく風通しが良いことに気がついた。それも道理、先日ドナの夫が寝ていた部屋に今は誰もおらず、開け放たれた窓から新鮮な空気が入っている。

 奥を見やったリーファに、ドナは微笑んで頭を下げた。

「おかげさまで、夫は今、散歩に出ています。新しい神官様が良くしてくださるおかげで、体力がついてきました」

「それは良かった。代わりの神官さんもまた男だって聞きましたけど……」

 笑顔で応じてから、リーファはやや心配そうに声をひそめる。神殿は今回の不始末の謝罪に、新しい神官が直接、無償で、ドナの夫を治療すると約束したのだ。

 リーファの懸念を、ドナは笑っていなした。

「大丈夫です。今度の神官様は、神々の御力には慣れているからとおっしゃって」

「ああ、やっぱり加護持ちなんですね。色々大変でしょう」

 納得と共に同情したリーファに対し、ドナは肯定とも否定ともとれない曖昧な角度に首を傾げた。

「大変だなんて……。持って生まれたものですし、おかげで花屋の仕事を続けていられるんです。確かに、女神の加護があるから卑怯だと、今までにも非難されたことはあります。言い寄られて迷惑したことも、数え切れません。でも、良い面も悪い面もひっくるめて、神々からの授かりものですから。それを活かすのも恨むのも、一人一人の心がけ次第だと考えるようにしています」

 夫に出会えたのも加護があったからですし、とドナはのろけて頬を染める。その表情は加護などなくとも充分に愛らしく、リーファもつられて笑顔になった。

「頼もしいですね。でもまぁ、何か困った事があったらいつでも詰所に相談に来て下さい。そのための警備隊ですから」

「ありがとうございます。そう言って頂けると心強いですわ」

 ドナは艶やかな笑みで言い、優雅に、しかし静かな強さを秘めた仕草で、丁寧に一礼した。

 この分なら、余計な心配は無用だろう。リーファは安心してその日の仕事を終えると、城へ帰った。



 普段使われる居館の食堂は、もともと家族的な広さと雰囲気だったが、国王が結婚してからまさに一家団欒の場と化していた。王と王妃、それに秘書官とその妻が共にテーブルを囲む図というのは、まるでこの城が辺境の砦に過ぎなかった頃にでも戻ったかのようである。

 むろん、当人たちは慣例破りなどまったく気にしていなかった。

 当たり前のように席についたリーファは、用意された食事を見て、あれっ、という顔をした。

 いつも通りのパン、豆と野菜の煮込み、炙り肉……はいいとして。

「なんか、変わったサラダがある」

 リーファは誰にともなく疑問をなげかけた。サラダ自体は珍しくはない。が、使われている野菜の取り合わせが見たことのないものだし、かけられているソースもいつもと違う。

 もしかして、とリーファが目をやると同時に、マリーシェラが口を開いた。

「せっかくあるのだから、皆にも食べて貰いたくて。実家で食べていたのと同じになるように、街の屋敷に行ってレシピを聞いてきたの。あの、神官様に改めてお尋ねしたら、生の葉をサラダで食べるぐらいなら、その……そんなに目立った効果はないのですって」

 言葉の後半は早口で、頬にほんのり赤みが差した。リーファがぐっと笑いを堪える前で、マリーシェラは自分に言い聞かせるように何度もうなずいて続けた。

「あの、でも、その、少し元気が出るのは確かだとおっしゃるから、それなら私、あなたたちのように、お仕事で一日中駆け回っている人には、良いのじゃないかしらと思って。さあどうぞ、召し上がれ」

 あれこれ突っ込まれる前に食事で口をふさいでしまえとばかり、マリーシェラが勧める。他の三人はそれぞれなりに苦笑をごまかしつつ、短い食前の祈りを済ませた。

「あ、美味い」

 早速とばかりサラダを口に運び、リーファは率直に感想をもらす。マリーシェラが助かったとばかりホッと笑顔になった。

「お口に合って良かったわ」

「あの花の葉っぱがこんな味なんですねぇ。なんだか意外だけど、うん、美味しいです」

「ソースも珍しい味ですね」ロトも話に乗ってくる。「この味付けは向こうでは一般的なんですか?」

「ええ、こちらではあまり使われない調味料もあるのだけれど、屋敷に余分があったから、少し貰ってきました。お城の厨房は初めてだから使い勝手が分からなくて、陛下にも手伝って頂いたのですけど、美味しく出来て良かったわ」

 マリーシェラは嬉しそうに言って、感謝のまなざしをシンハに向ける。

 温かな笑みを交わす二人に、リーファはむず痒い顔をしながらも、改めて今の幸せをしみじみと噛みしめた。

「なあ、シンハ」

「うん?」

「おまえ、王様で良かったな」

「どうしたんだ、いきなり。おまえはとっくに俺の地位など忘れ去っていると思っていたが」

 シンハが軽い皮肉まじりに問いかける。リーファはそれについては言い返さず、視線で王妃を示した。

「王様じゃなかったら、マリーシェラさんと出会うことさえなかったわけだろ」

 ごほっ、とシンハがむせかける。表情を取り繕えずに明後日を向いたシンハに、リーファは真顔で続けた。

「今日さ、こないだ話した加護持ちの女の人と会ったんだけど。加護があって、いいことも悪いこともあったけど、持って生まれたものだから、って言ってたんだ。それをどうするのも本人次第だ、って。……結局さ、生まれつきを恨むより、それでどうやって生きていくか、ちゃんと向き合って来た人が強くなるんだよな」

「耳が痛いな」

 シンハが苦笑する。予想していたリーファは、わざと厭味っぽくにやにやした。

「誰かさんは一時期やさぐれてたらしいからなぁ?」

「うるさい」

「でも、加護を生かして王様になって、逃げずにやってきたから、可愛い奥さんと有能な秘書官を手に入れて、あと史上最高の警備隊員まで味方に出来たわけだろ」

「最後の一人に心当たりがないんだが」

 さも不思議そうに眉を上げるシンハ。リーファが「おい」と唸ると、彼は小さく笑って続けた。

「まあ、そうだな。この加護がなければ、道端の小汚い浮浪児が自分の半身だとは気付きもしなかっただろうし」

 さらりと言われて、リーファはしばらく言葉の意味を理解できずにきょとんとする。次いでみるみる真っ赤になると、手で顔を覆ってうめいた。

「……おま……そーゆー恥ずかしい台詞を人前で」

「先に人の弱みをつつきに来たのはそっちだろうが」

「ただの反撃かよ! くっそ、可愛くないな!」

「いまさら可愛げなんぞ要らん」

「ちょっとは残しとけよ、ただでさえ図体でかくて鬱陶しいのに!」

 大人気なく言い争う二人に、ロトとマリーシェラはやれやれと視線を交わすと、同時に小さく愛情のこもったため息をついて、口を開いた。

「リー、食事中だよ。そのぐらいで」

「二人とも、照れ屋さんなんだから」

 今までならロトにたしなめられるだけだったのに、マリーシェラからの追撃を受けて、リーファとシンハは共にぎくりと怯んだ。悪戯を見付かった子供のように身構えた二人に向かって、マリーシェラはいつものように、春風の笑みで一言。

「ふふっ、可愛い」

 ――見事にとどめを刺され、リーファとシンハは揃って沈没したのだった。



 なお、余談であるが。

 後日、四番隊二班の詰所を、花屋が困り果てた顔で訪ねていわく。

「どうしたらいいんですかねぇ。ドナの旦那さんが元気になったみたいで」

「良かったじゃないですか」

「おかげでドナが前よりこう、華やかというか艶やかというか」

「……?」

「非常にその、美女っぷりが増してきましてですね」

「…………」

「どうしましょう……」

「すみませんが、こちらではどうしようもありません」

「ですよねぇ」

 はぁ、と大きなため息をついて、とぼとぼお帰りになったそうである。



(終)


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