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王都警備隊・4  作者: 風羽洸海
想いの証
42/66

後日談 (1)

色々危険なので、噴き出しても突っ伏しても良い環境でご覧下さい。

飲み物は安全圏に退避。OK?


「よ、お疲れー」

 いつもの声と共に、リーファが国王の執務室にやって来る。ロトとぎくしゃくしていた頃はしばらく途絶えていたが、最近はすっかり元通りだ。

「あのさ、ロト、今日ちょっと司法学院の人と話したんだけど……」

 気安く秘書官に話しかけるリーファの姿を、シンハは安堵と羨望のいりまじる目で見やる。この感情は何だろうか、と彼は自問した。

「それで、ロトに訊こうと思ったんだ。あ、ロトがいたのって、ここの学院だよな?」

 マリーシェラに出会い、久しぶりに恋する気分を味わったため、リーファに対する想いが全くの別物だとはっきりした。だから、彼女がロトと仲良くしていようと、部屋に入るなりロトに歩み寄ってしまい、こっちには簡単な挨拶ひとつしか寄越さなかったことも、嫉妬するには当たらない。……筈だ。多分。

「……へえ、そうなのか。じゃ、ロトがいた頃ってさ、学院では……」

 実際、リーファが明るい表情で嬉しそうにロトと話していると、こっちも何やら胸が温かくなる。良かった、と感じる、その思いは紛れもなく本物なのだが……

「あ、やっぱりロトもそれは気になってたんだ。あはは、ロトらしいや」

 ――が、しかし。

「おいリー」

 とうとう我慢できなくなって、シンハは話の途切れた隙に割り込んだ。おや、と思い出したような顔で振り返られたのがまた癪に障る。

「おまえ、二人称代名詞をド忘れしたのか? さっきから名前ばかり連呼して、聞いてるこっちが恥ずかしいぞ」

 苦虫を噛み潰しつつ指摘してやると、途端にリーファは言葉に詰まり、ウッと顔を赤くした。ロトもわずかに赤面したが、こちらは訝る表情になって小首を傾げた。

「そういえば、前は普通に『あんた』って言ってたのに、最近そう呼ばれていない気がするね。どうかしたのかい?」

「う……いやその、えぇと……ほら、なんかこう、いつまでも『あんた』って呼ぶのはさ、ぞんざいだし、よそよそしい感じ、かなぁ、って思って」

 リーファは赤くなったまま、らしくもなくうつむいて、両手の人差し指をもじもじ擦り合わせる。

 シンハは思わず「何を今更」と呆れ、ロトも小さく失笑した。言葉遣いが荒っぽいのはいつものことだし、今になって仕事中のような物言いで接されたら、その方がよほど他人行儀だ。

「仮にも国王を『おまえ』呼ばわりする奴が、何を気にしてるんだ」

「僕は今まで通りで構わないけど?」

 二人がそれぞれ優しい微苦笑で言う。が、リーファは口の前で指をにじにじさせたまま、さらに赤くなっていく。

「でもさ、その、やっぱりそろそろ、ちゃんと呼ばなきゃ、いけないかなと……ほら、あの、」

 どんどん小声になっていくので、自然、シンハとロトは身を乗り出すようにして耳をそばだてた。室内に満ちた緊張と沈黙の上に、リーファの消え入るような声だけが、点々と足跡を残す。

「あ、……あな、…………あな、た、って」

 ちらっ。上目遣いに様子を窺うリーファ。

「――っっ!」

 直後、えもいわれぬ奇声が男二人の口から漏れた。緊張の破れたリーファは、耳まで真っ赤になって両腕をぶんぶん振り回した。ロトがよろけ、机に手を突こうとして失敗し、床まで沈み込む。

「ほらあぁぁぁ!! 変だろ、おかしいだろっっ!? だから呼ぶに呼べなくてっっ、仕方ないから名前ばっかり……うわあぁぁぁん笑うなあぁぁぁぁ!!!」

「わ、笑ってない、笑ってないからっっ」

 ぽこぽこ背中を殴られつつ、ロトはうずくまって必死に耐えている。シンハは片手で口元を隠したまま明後日の方を向いて、感情の波を無理やり鎮めるべく努力した。

 ああもう全く、こいつときたら。

 ほとんど凶暴なまでの愛しさがこみ上げて、なりふり構わず抱きしめてしまいたくなる。どうにか堪えて崩れた顔面を修復し、シンハは特大のため息をついた。途端にリーファが振り向いて、きっ、と潤んだ目で睨みつけた。

「っっ、ちきしょう、ばかでっかいため息つきやがって、どうせオレには似合わねーよぅっ」

 半分泣きそうになりながら唇を噛む。シンハはとびきり苦い笑いを作り、やれやれと頭を振った。

「馬鹿。今のは破壊力がありすぎだ。ロトの自制心に感謝しろ」

「……へ?」

 きょとんとなったリーファが何も分かっていなさそうなので、シンハはまだ立ち直れないロトを一瞥し、わざとらしい真顔で彼女を手招きした。用心しつつも素直に寄ってきたところを、ひょいと抱えて膝の上に座らせる。そして、

「うわ! 何すんだ、ばかやろっ」

 三つ編みがほどけるぐらい勢い良く、くしゃくしゃに頭を撫で回してやった。どさくさ紛れに、額に口付けをひとつ。

「もういいから、おまえは名前を呼んでおけ。さっきみたいなのは、寝室に入ってからにしろ」

「は? ……って、なっ、な、何考えてんだこの助平!!」

 張り手が頭に飛んできた。避けられるのだがシンハは敢えて受け、リーファがつむじ風のように逃げ去るのを見送る。

「あ、ちょっ……リー!」

 ロトが呼び止めようとしたが、完全に手遅れである。ややあって立ち直った彼は、恨めしげに主君を睨んでため息をついた。

「次に会う時、どんな顔をすればいいんですか……」

「俺が知るか」

 シンハは意地悪く笑い、上機嫌で次の書類にとりかかったのだった。


ひどい王様ですね!(笑)

実際リーは『想いの証』本編中で一度もロトを「あんた」と呼んでいません。

(うっかり見落としがあれば別ですが…。そして今後どう呼ばせるか悩み中)


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