アネモネ
審判まであと三日
エルフ。
長寿で目がよく、遠距離攻撃を得意とする種族。
最近はライフルを使用しているのだとか。
その町の中心には、とある少女がいた。
名はアネモネ。
白髪でロングの、女性。
エメラルドグリーンの瞳はどこか色が抜け落ちていた。
彼女は平和という言葉には似つかない状況にいた。
今は檻の中に閉じ込められ見世物にされていた。
時には石を投げてくるものがいた。
彼女は自分の母を殺した罪で囚われていた。
彼女は冤罪である。
しかしすでに処刑が決定していた。
真犯人は結局のところまだ見つかっていない。
だれも信用してくれない。
一人も味方がいない。
実の姉にだって。
そんな状況に心が擦切っていた。
ある日、旅人が観光に来た。
事件当初は役員かなにかが訪れていたが、用が済んだのかそれっきり来なくなった。
こんな状況だ。
とても珍しい。
でも結果はわかっている。
嘲笑し、叱責しにでも来たのだろう。
処刑される少女を一目見てネタにでもしようと。
旅人は何思ったのか、とても驚いた顔をしていた。
そして口を開いた。
「こ、こんにちは」
「...」
返事をする気は起きない。
何日も人と会話をしていない。
他人というものにはもう信用に値するものはない。
でも再度声をかけてきた。
「こんにちは!」
「......うるさい。」
鬱陶しかった。
適当にあしらえばいいだろう。
そんな考えだった。
「何?馬鹿にしに来たの?」
「違います。事件について聞きたくて。」
やはりそうだ。
それをうまく脚色して記事にでも書くのだろう。
「もういい。誰も信じれない。」
信じられるのは自分だけだった。
「一つ疑問に思ったんです。もし自分が族長を継ぎたいなら、長女を殺すはず。なのにあなたは族長を殺した。もし族長に恨みがあるとしたら、今あなたは喜んでいるはず。」
何を言っているのだろうか。
そんな推理をしたって何も変わりはしない。
なぜなら彼女がそれを訴えたから。
訴えたんだ。
でも誰も信じてもらえなかった。
「そう、どうでもいいじゃない。もうどうでもいいのよ。」
意味のないことをやっても意味はない。
「でも僕はあなたが犯人じゃないと思うんです。」
「......」
「冤罪で人が殺されるのは気分が悪いです。」
驚きだった。
ここまで思ってくれるなんて。
いやこれが普通なはずなんだ。
しかし彼女の環境が異常なまでに。
「そう、がんばって。」
「必ずあなたを開放します。」
彼女は異常という名の普通に出会った。
信じてもらえる。
彼女の中に何かわからないものが芽生えた。
感謝なのか、驚きなのか。
初めての経験だった。
他人から信じてもらえることがこんなにもうれしいなんて。
審判まであと二日
食事は簡素なものだった。
固いパンに、まずいスープ
一日に二食。
彼女は食事以外やることがなかった。
外をただ眺めているしかなかった。
しかし昨日、転機が訪れた。
彼女と話してくれる人が、信じてくれる人が来てくれた。
今日彼は事件について聞きまわっていた。
旅人という珍しいものだったので、皆快く対応していた。
まだ信じきれていないかった。
もしかしたら嘘ではないか。
でも外だけを眺める退屈な余生をすごすよりはましだった。
自分を見てくれた。
正午、彼女のもとに一人の人物が訪れた。
名はサルビア。
彼女の姉である。
アネモネよりも優秀で、才能もある。
そして革新的な思想を持っていた。
何かこの町を変えたいと
「旅人と会ったようね。」
「......なに、文句でもあんの。」
しかしサルビアは苛立っている様子はない。
「彼をどう感じだ?」
「べつに。珍しいなと思っただけよ。」
「そう。」
「要件はそれだけ?」
「ええ。アネモネが彼に対してどう思っているか。それを知りたかっただけ。」
サルビアは彼女の名前を呼ぶ資格があるのだろうか。
自分の家族を守らなかった。
そんな奴に。
サルビアは嬉しそうに去っていった。
いずれアネモネは処刑される。
その現場を旅人に見せて絶望でもさせたいのだろうか。
もう家族など忘れてしまった。
姉に裏切られたあの日から。
審判まであと一日
「おはようございます。」
「...おはよう。」
彼が彼女のもとに訪れた。
刻々と近づく執行日。
逃げ出すこともできた。
でも理由がない。
誰のために生きればいいのか分からないからだ。
「事件について聞きたくて...。」
「そう、なに?」
少しの間だけは付き合ってあげることにした。
「あなたは事件発生時に何をしていたんですか?」
「襲撃の様子を見ていたのよ。」
「その前後に誰か部屋に入りましたか?」
「入ってないわ。そういえば襲撃前に族長は軽食を取って寝たわ。」
「どうして族長の部屋に入ったのですか?」
「音がしなかったのよ。だから部屋に入ったみると銃殺されていた。はぁなんで入ったんだろう。」
過去の選択を後悔している。
族長は一番信用できる家族に守護を任せた。
母の頼みは断ることはできなかった。
「軽食は誰が作ったんですか?」
「使用人だったかしら。なぜか不自然に進めていたけれどお母さんは快くいただいていたわ。」
この町の付近には多くの種類の植物が生えてある。
毒など容易に調合できるだろう。
「お姉さんは使用人と仲が良かったんですか?」
「サルビアはみんなから慕われていたわ。まぁ私は能力も劣っていたからあんまりだったけど。」
エルフたちは族長の保守的なやり方に辟易していた。
確かに伝統を維持することは大事かもしれない。
彼女も賛成した。
しかし経済面でも軍事面でもほかの町より劣っていた。
そこでサルビアが立ち上がった。
当然多くの人が姉についていった。
「私も賛成だよ、サルビアが族長になってから町も活性化したし。」
別に政治には興味はなかった。
頭はサルビアが持っていったからだ。
深く考えず楽観的に生きるよりは、そこをちゃんとしているサルビアが族長を継いだ方がいいのは当たり前だった。
「族長はあなたを推した理由があったんでしょ。あなたにしかない魅力が。」
「ふふ、ありがとう。」
なぜか体の体温が上がった
分からない。
擦切った心を埋めてくれる存在がうれしかったのかもしれない。
彼が信用してくれるように、彼女もだんだんと信用が生まれた。
「あなたは死んでいいんですか?」
「......信じてくれる人がいるってことは、とてもうれしいことなのよ。」
本当だ。
自分を信じてくれるそんな存在が
「は?」
「何でもない。」
でもなぜか気恥ずかしかった。
まっすぐと彼を見れない。
少し感情が高ぶっているのかもしれない
彼は手に持っているおにぎりをくれた。
久々のおいしい食事。
彼女にとってそれだけでも幸せだった。
「これ好きなの。お母さんがよく作ってくれた。周りはあまり好きじゃなくて作ってくれなかったから。」
「そうですか。よかったです。」
「あなたが作ってくれたの?」
「そうですけど。」
「そう、珍しいわね。これが好きなんて。」
「まぁ俺の魂ですから、米は。」
一応この町でも米は作られていた。
ただそれは酒にしか使われない嗜好品であった。
周りはベチャベチャしたものだと感じていた。
母だけしかこのおいしさを共感してくれなかった。
でも彼も同様にこのおいしさを共感してくれた。
本当に彼女にとって彼は一番の理解者なのかもしれない。
「射撃は得意ですか?」
「あんまり、弓で育ったから。」
「そうですよね。銃はむずいっすよね。」
そう弓が伝統。
彼女も町も最初は弓がメインだった。
でもサルビアの改革でライフルへと変わっていった。
決して悪いことではない。
でも心のどこかで寂しい気持ちがある。
「クラスは何ですか?」
「『ボタニスト』植物を操るスキルを使えるわ。」
「檻を壊せますかw」
「まぁ出来ないこともないわね。」
「まじか。」
彼と話していくうちにとある選択肢が生まれた。
逃げる。
彼女を見てくれる。
彼女を信用してくれる。
そんな人のために生きてみてもいい。
そんな感情が生まれつつあった。
そして最後にこんな質問をされた。
「ち、ちなみに執行日は?」
「明々後日よ。」
「...なるほど?」
「心配しないで、たかが数日の仲。私が死んでもあなたはすぐに忘れるわ。」
そうだ。
数日の仲。
でも、でも心の中に何かが引っ掛かっていた。
これが何なのか、分からない。
生きていいのか。
その答えはまだ見つかっていなかった。
「そうですか。いろいろとありがとうございました。」
「...」
審判の日
悩んで、悩んで、悩んで、悩んで。
結局、あと一押しが足りなかった。
彼が彼女を必要と思う。
そんなことなんてない。
そして日が回ったころ、思わぬ来訪者が彼女のもとにきた。
「起きて、起きてください。一緒に逃げますよ。」
「な、に?」
「脱獄ですよ、脱獄。町という名のね。」
「え?」
彼女はうれしく思った。
自分のためにやってくれている。
その証明ができてたことに。
「さぁスキルで檻を破ってください。」
「え?は?ちょっとまって、どういうこと?」
ただちょっと唐突すぎて混乱もしていた。
本当ににげてこの先があるのか
「まぁとりあえず行きましょう。」
でも彼とならやっていけるそう思った。
彼女は思わず笑みがこぼれた。
「まかせて」
スキル発動:『ヴァイン・デトネーション』
夜の静寂を破るような爆発音とともに、檻が蔓によって破壊された。
彼女の自由が解放された。
「ふふ、ごめん。」
すがすがしい良い気分。
「何してんですか、逃げますよ!」
「行こう!」
走り出す。
「おいおい、なんだ。」「見ろ!死刑囚が逃げ出しているぞ。」「捕まえろ、捕まえろ!」
「大変なことになったわね。」
「そんな軽く言わないでください!」
楽しかった。
こんなバカげたことができるなんて。
「まずいわね、ねぇ私の手を握って。」
「え?あ、はい。」
彼女は自分の緊張が、彼に伝わっていないことを祈った。
手を握ることでここまで心臓が高鳴るとは思っていないからだ。
スキル発動:『ライド・オン・ルーツ』
地面から木の根っこが生えてきた。
「どう?」
「落ちそうです。」
「楽しそうでよかった。」
町の地面をえぐりながら進む。
彼女の不安や恐怖を壊すように。
全力で走った。
彼女たちは近くの森で休息をとることにした。
気分は爽快だった。
今まで町の外に出たことがなかった。
新鮮な気持ちが彼女を覆った。
「何とか、逃げ切れましたね。」
「ねぇ、この後考えてる?」
「......」
この後なんてどうでもよかった。
この時間、一秒一秒を大切にしたかった。
「え、えぇと、王都に知り合いがいるのでそこに行きましょう。」
「いいわね、行きましょう」
王都。
話では何度か聞いたことはあった。
彼女にとってキラキラした憧れの場所。
「ちなみに、行き方は?」
「とりあえず森を出ましょう。話はそれからです。」
「うまくそらしたね。」
「私、初めて町を出たんだ。だからやりたいこといっぱいある。」
「何をしたいんですか?」
「そうね、まずはご飯かな。最近はおいしくないご飯ばかり食べさせられていたし。」
森の不自然に木々たちが揺れていた。
今日は風がとても強かった。
彼女の髪をなびく。
「ほかには何がしたいですか?」
「そうね、王都に限った話じゃないけどいろんなところに旅をしたいわね。」
いろんな文化、いろんな世界を知りたかった。
「今まさに僕がやっていることですよ。」
「あら、だからエルフの町にきたのね。珍しいと思っていたけど。」
「もっとタイミングを選ぶべきでしたね。」
「いやベストタイミングだったわよ。」
彼女にとって心の隙間を埋めてくれる存在。
彼にとって小さなことでも、彼女にとっては大きいことだった。
「は?何言っているんですか。」
「はぁ、駄目ね。まったく。」
「何がいけなかったんですか?」
「そういうものは聞くべきじゃないのよ。」
「はぁ。頭に入れときます。」
この気持ちはどこにいくのだろうか。
いっそ町に彼に着いたら伝えようか。
この気持ちを蔑ろにしてはいけなかった。
しばらく歩いていると、開けた場所に出た。
「いったん休憩しましょう。」
「そうね随分と歩き続けたから。」
「ご飯が食べたいのね。私は植物に詳しいから探してみる。」
エルフの教育のカテゴリにはこれが含まれる。
もちろん毒も。
「詳しいんですか?」
「ええ、エルフはみんな習うわよ。たとえb」
"バンッ"
どこからともなく銃声が聞こえた。
そしてその方向から同時に歓声も聞こえた。
「やったぞ!」「死刑囚を殺したぞ!」「報酬はいくらだろう、フフフ。」
倒れる彼女の姿をだれ一人見向きもしなかった。
いや唯一彼を除いて。
「だ、大丈夫ですか!」
「は、はは。打たれちゃったわ。あなたの心を、射止める前に、ね。」
「な、に、冗談言ってるんですか。自分の体を治すスキルぐらいあるでしょう?」
「しゅう、とく、し忘れた、わ。馬鹿ね、ほんとうに。」
彼女の体から血が流れるのを止めない。
彼女の体が赤く染まる。
死に刻々と近づいてくこの時間。
一秒一秒大切にしなくてはならない。
「どうしてだよ。俺が、俺が代わりに庇っていれば。俺は無力だ。」
「違う、わ。あなたは私を、見つけてくれた。それだけで、十分よ。」
彼のぐちゃぐちゃな顔。
「そう、いえば、名前言うの、忘れていた、わ。」
「いいです、もういいですから!」
そして最後の力を振り絞った。
彼女なりの感謝。
「わたしは、アネモネ。よろ、し、く、ね。」
「アネモネ、さ、ん。」
やっと気づいた。
死の間際にこの気持ちの正解に。
「あなたに、出会えて、よかった。あなたを、忘れない。」
「俺も、忘れません。だから!」
さよならではない。
またいつか会える。
そんな日まで。
「」
兵士の雑音とともに彼女は息を引き取った。
彼女にとって彼は希望だった。
彼女を信じてくれる。
見てくれる。
一緒にいてくれる
そんな温かい希望に見問われながら、彼女の一生は終わった。
白いアネモネの花言葉:希望
赤いアネモネの花言葉:君を愛す
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