結末が見える少女 〜礼拝堂磔殺人事件〜
私の通っている高校で奇妙な殺人事件が起きた。
私の通っている高校はミッション系の女子高。礼拝堂もありお祈りの時間もある。地方では今時珍しい。
事件はその礼拝堂で起きた。
生徒が殺され礼拝堂の十字架に磔にされていた。
しかも、その十字架は人間が届く高さには無かった。
どんなトリックを使ったのか、それとも人間ではない何かの力が働いたのか、全く分からない。
ここでミステリーやオカルトに興味がある人間なら興味を惹かれて調査に乗り出すのかもしれないが、私は全く興味がない。
私は高校三年生で今年は大学受験も控えている。静かに普通の高校生活を送りたい。
警察が無事に解決して平穏な生活が早く戻ることを祈るばかりだ。
礼拝堂だけに神様に祈るか、なんて考えている私の方が罰が当たりそうだ。
それでも同じ学年の生徒が殺されたのだ。
警察の事情聴取は受けないといけないらしい。容疑者ではないので校内の空き教室を使って順番に行っていく。
正直、同じ学校の同じ学年の生徒と言われても名前も知らない。顔は分かるくらいだ。それでも校外で制服以外で会ったら分かるかは自信がない。
私の順番になったみたいで、担任の教師に空き教室へ行くように言われた。
「失礼します」
ノックをして部屋へ入る。
空き教室なので机は部屋の後方へ片付けられている。
机は二つ向かい合わせになっていて、少し離れた所にもう一つある。それは記録係の人のためのものだ。空き教室でも簡単な取調室になっているみたいだ。
「空谷晴子さん?」
「はい、そらたにはるこです」
「可愛らしい名前ね」
「可愛いのは名前だけなので」
褒められるのは名前だけだ。黒髪、おかっぱ、丸メガネ。しかも厳しい校則でスカートを長い。見た目は可愛いとは程遠いと自分でも思っている。
「そう? あなたとても可愛いわよ」
目の前にいる警察の人は私と同じ黒髪でもとても長く綺麗に整えられていてキリッとした目つきの美人の女性だった。座っているので確かな身長は分からないが、背も高くスタイルも良さそうだ。
それだけに意外だった。
警察と言えば、もっと厳つい男が威圧的に接してくると思っていたら美人なお姉さんで拍子抜けしてしまった。
もう一人の警察の人も女性だった。金髪かというくらい明るい髪でツインテール。およそ警察関係者には見えない。
女子校で起こった事件ということで女性警察官が派遣されたというなら分かる。
目の前の黒髪の方が警察官というのも分かる。
だが、もう一人の女性が警察官には見えない。私よりも少し年上の大学生って言われた方がしっくりくる。
「チャコ、空谷さんで事情聴取は終わりでいいわ。先生に伝えてきて。あ、でも今伝えたら空谷さんが犯人みたいになってしまうから、そうね、あまり時間を取らせても申し訳ないので続きは明日にします、って言ってきて」
「はーい、わかりましたぁ」
チャコと呼ばれた女性は部屋を出て行った。およそ警察官にはやはり見えない。
それにしても私で最後というのはどういうことだろう。
時間もまだそんなに経っていない。夕方くらいまでなら学校も協力すると思うのだが、まだ午後を少し回ったくらいだ。
「結論から伝えるわね。空谷さん、特殊な能力があるでしょ? それを使って事件を早期解決しましょう」
「えっ? いや、何言ってるんですか? 私は普通の女子高生ですよ」
否定しても意味が無いことも分かるが否定しておく。
「私の固有の能力ってわけじゃないんだけど、能力が高い異能力者は異能力を持つ人間が分かるのよ。だからこの学校に来た時に異能力者が二人も感知して驚いちゃった」
そんなことができるなんて知らなかった。
「もしそうだとして、私が犯人だったらどうするんですか?」
「そうね、確かに異能力者がいてもその能力までは把握できない。でも、あなたは犯人に見えないわ。そうね、これは刑事の勘ってことにしておいて。それであなたの能力は何?」
「それって私のを話したら刑事さんのも教えてくれるんですか?」
「それは内緒。業務に支障が出るから。でも、あなたが私たちの同僚になってくれることがあるなら教えてあげるわよ」
「そう言うと思ってました。言っても信じてもらえるか分かりませんが、私はその人が最後に見た景色を見ることができます。生きていても死んでいても……」
「発動条件は?」
「触るだけ」
この能力に気付いたのは祖父の葬式の時だった。納棺の時に花を添える時に祖父の遺体に触れてしまった。その時に祖父が病院で見た最後の景色が見えたのだ。
それ以来、友達に触っても最後に見た景色が見えてしまう。私から触らなければ大丈夫なのだが、それでも不便だった。だから、私はなるべく目立たないような生活をすることを選んだ。
「事情がありそうだけど、今は聞かないでおくわ」
「キリコ先輩、伝えてきました!」
この刑事はキリコと言うらしい。
「チャコ、遺体はまだこの学校にあるわね。礼拝堂にすぐ行くわよ」
「はーい」
チャコはキリコの指示に何も疑問を抱かないで素直に指示に従う。礼拝堂へは当然私も連れて行かれた。
礼拝堂に着いてキリコは残っていた捜査員を一旦外に出した。そんなことができるくらい偉いのだろうか。
磔にされていた遺体は下ろされていた。
「先に伝えておくわね。犯人は現代文の教師の青野よ。そいつの姿が見えても驚かないで。犯行方法だけ教えてくれたらいいから」
もう犯人は判明していた。
青野先生かぁ。かっこいいけど、独特な雰囲気があったからなぁ。私は苦手だった。
そして、私は名前も知らない生徒の遺体に触れた。
彼女が最後に見た光景が頭に流れ込んでくる。
「見えました」
あまりに不思議な光景で現実とは思えなくて不謹慎ながら少し笑ってしまった。
その時、校内放送が入り私は青野に呼び出された。
「ちょうどいい。逮捕といこう」
移動までに青野の能力をキリコとチャコに伝えた。
「失礼します」
呼ばれた文芸準備室に入室した。
「何で呼ばれたか分かるかい?」
青野はまだ若く生徒に人気のある先生だった。私は興味がないけど。
「さぁ、分かりません」
犯行のことだろうし、先ほどのキリコの時の展開と同じように言い訳しても無駄なんだろうけど一応形式として私は言い訳をしておいた。
「空谷、お前が異能力者ということは分かってるんだ。さっきの警察二人もな。礼拝堂に一緒に行かなければ見逃すつりだったが、一緒に行ったなら俺が犯人だということも分かってるんだろう。それでよく一人で来たな。お前もあの警察も殺してやる」
青野がそう言うと青野の手が伸びてきた。彼は部屋の奥、窓側にいるのに私がいる入口まで手が伸びてくる。これが彼の異能力なのだ。これで被害者を締め殺し、礼拝堂の高さのある十字架に磔にしたのだ。しょうもない男だ。
「はい、現行犯。逮捕です!」
チャコが私の影から飛び出してくる。影に入りこんで隠れることができるのがチャコの能力だった。
そのままストレートをお見舞いして青野をぶっ飛ばした。
「相手の能力が分からないのに油断し過ぎですよ」
「しかも、その程度の能力で気持ちが大きくなるなど小物過ぎるな」
部屋の扉を開けてキリコが入ってきて、青野の横に進む。
「とりあえずお前の能力はこれで使えなくなる」
キリコは針のようなものを出して青野の首筋に刺した。
「何をする?! 毒か?」
「毒ではない。私の能力の一つだ。これで刺されたものは自分の能力を失う」
「うおおおお、なんでだあああ」
青野は発狂した。
「腕が伸びるだけなんて大した能力じゃないんだからそんなに叫ばないでくださいよ。犯行方法も犯行方法だけに普通に取調べも裁判もできないんですから、こうして能力を奪わないと前に進まないんですよ。静かにしてください」
チャコはさらに一発殴った。
あとで聞かされたのは犯行の動機は女子生徒に交際を迫られて上手く断れない青野が衝動的に殺してしまったということだ。腕を伸ばす能力があることは自覚していたが使い所は無かったが、今回不可能犯罪に見せかけて逃げるつもりだったということも教えてもらった。どうしようもない男だ。
キリコがこの話を伝えてきてくれた時に私はキリコへお願いをしてみた。
「私の能力も消してもらえませんか?」
「どうして?」
「単純に不便なんですよ、これ」
「もったいない。私がいる警察の特殊部隊に入れば大活躍だ。高校卒業したらすぐに私の推薦で入れるぞ。給料もそこら辺の大卒以上に出る。公務員だし一生安泰だ」
キリコはそんなこと言ってるが公務員と言っても特殊過ぎて親にどう説明していいか分からない。
「まぁ、それじゃ考えておきます」
私は適当に返事をした。
「この世界には晴子が知っている以上に不思議な力を持った悪い奴らが多い。今回の事件のように突発的に見つかることの方が稀だ。だからこそ晴子の力は平和のために必要なのだよ。今は気乗りしないだろうが真剣に考えてくれたまえ」
そう言ってキリコは去って行った。
キリコとは連絡先は交換してある。
私が世界平和のために活躍する未来は想像できないが、進路として考えてみるのも悪くないのかもしれない。




