エピローグ
すべての騒動が終わって、しばらく経った頃。
「サプライズプレゼントがあるんだ」
なんだか妙ににこやかなルキウスに連れられて、玄関ホールに向かったわたしを待っていたのは――――
「姫様!」
「アリシア様ー!」
「お会いしとうございました!」
なんと、オディウムの離宮で一緒に暮らした使用人たちだったのだ……!
「みんな、いったいどうして……?」
「サラから手紙が届いたのですよ」
「旦那様が、俺たちをザヴィアン公爵家で雇いたいと仰ってるって……」
「姫様にとっては家族同然だった私たちに、ぜひとも来てほしいとのことで」
「すべては姫様のためですよ!」
大興奮の使用人たちの横で、サラがしてやったり、という顔をしている。
「なんで、教えてくれないのよ……?」
思わず抗議した声に、だんだん涙が交じっていく。
「奥様を、お、驚かせようと思って……!」
なんて言いながら、サラも次第に涙ぐむ。
「姫様もサラも、泣かないでよ」
「これからはずっと一緒ですからね」
「姫様のもとでもう一度働けるなんて……」
「姫様、また一緒に畑でも耕しますか?」
庭師のハンスが冗談めかしてそう言うと、みんながどっと笑い出す。
「よかったな」
感動の再会を後ろのほうで見守っていたルキウスが、わたしの肩をそっと抱いた。
「わざわざ呼んでくれたのですか……?」
「サラを介してな。お前にとっては、実の家族よりも家族みたいなものだろう? そばにいてくれたほうが、何かと心強いかと思ってさ」
「……ルキウスは、やっぱりわたしを甘やかしすぎじゃない……?」
「お前を甘やかすのは、俺の役目だって言っただろ」
優しくわたしを抱きしめるルキウスの胸に顔を埋めながら、言葉にできない喜びで満たされていく。
その後も、わたしは数々の夢を見た。
国の西側で大規模な水害が発生する夢とか、人身売買の犯罪組織が暗躍して小さな子どもが何人も行方不明になる夢とか、国の東側に隣接する二つの国で武力衝突が起こり、フィニスも大きな打撃を受ける夢とか。
夢見の力のことを打ち明けたとき、ルキウスは「夢の内容を尋ねるようなことは今後一切しない」と言っていた。でも内容が内容だけに黙っているわけにもいかず、わたしは自分の判断で、ほとんど毎回夢の内容を伝えている。
ルキウスはその都度驚き、大袈裟なくらいわたしに感謝しながらも、結果として夢見の力を利用している現状に罪悪感があるらしい。ちょっと申し訳なさそうな顔をしながら、それでも常に宰相として最善を尽くそうと奔走し続けている。
そんなルキウスのおかげで、水害の影響は最小限に抑えられ、犯罪組織はあっけなく壊滅に追い込まれ、武力衝突は戦争に発展する前に話し合いによる解決がなされた。
宰相ルキウス・ザヴィアンによって、この国に襲いかかる重大な危機はことごとく退けられているのだ。
だからわたしは、もしかしてこれが自分の使命だったのかも、なんて大層なことを考え始めている。
夢見の力で見る夢は、決まって自分自身やわたしの大事な人、もしくはこれから大事な存在になり得る人物に関するものである。わたしがルキウスの夢を見たのも、ルキウスがわたしにとって大事な人になり得る存在だったから。
そのルキウスが大切に思っているラザロ様やこの国そのものだって、いずれはわたしにとっても大切な存在になっていくはず。だからこそラザロ様の夢を見たし、この国とバーラエナとの間に戦争が起こる夢も見たのではないかしら。
この国に来たら途端に夢のスケールが大きくなったのも、ルキウスがこの国の宰相だから、という気がしてならない。
だとしたら、ルキウスのためにも、この国のためにも、自分の身に宿る不思議な力を存分に利用していいのでは……?
「シア?」
するりと伸びてきた腕が、わたしを優しく抱き寄せる。
「考えごとか?」
気遣わしげな表情で、わたしの顔を覗き込むルキウス。わたしがいつも笑顔で、健やかに過ごせているかどうかが常に一番の関心事らしい。
「考えごとではないのですが……」
ルキウスの憂いを払うつもりで、わたしはずっと気になっていたことを口にしてみる。
「ヘレナさんやくろねこ亭のみんなは、どうしてるかなって」
「……そういえば、公爵邸に戻ってきてから一度も顔を出せていないな」
すべてのしがらみから逃げ出したわたしを、快く受け入れてくれたヘレナさんと食堂くろねこ亭。
公爵邸に戻ってきたあと、オディウムとのあれやこれやがあったせいで、会うこともままならずに日々が過ぎている。
「近いうち、お忍びで行ってみるか?」
「いいのですか?」
「当たり前だ。ついでに王都の街も案内しようか? シアを連れていきたい場所がたくさん――」
そこまで言いかけたルキウスは急に何かを思い出したらしく、どんどん不愉快そうな顔つきになっていく。
「どうかしたのですか?」
「……シアをくろねこ亭で見つけたとき、知らない男に言い寄られてなかったか?」
「……え?」
そうだっけ?
……あ、思い出した。
ヨセフだわ。
「あの男、いったい誰なんだよ」
「あれは、その、くろねこ亭の斜め向かいにある花屋の息子です」
「言い寄られてたのか?」
「いえいえ、ただ、王立公園に連れていってくれるとか、そういう話をしていただけで……」
「なんだよそれ」
ルキウスはますますわかりやすい仏頂面になって、わたしをぎゅう、と抱きしめる。
「そういうのを言い寄られてたっていうんだよ」
「そう、なんですか、ね……?」
「……俺のシアに、ちょっかい出しやがって」
ぞっとするほど低い声で、ルキウスが吐き捨てる。鋭い刃物のような視線は、明らかな殺気を纏っている。や、やばい。
いつだったかサラが言っていた、「旦那様に知られたら、その男確実に殺されますよ」というセリフが不意に頭をよぎる。
「あ、あの、ルキウス……?」
「シアは、俺のものだよな?」
「……は、はい?」
「あんな男のところには、行かないよな?」
「い、行きませんよ」
「まあ、俺も逃がす気なんてないけどな」
そう言ったルキウスは、ぞくりとするほど妖艶な笑みを浮かべていて――――
わたしは今夜も、冷酷宰相に寝かせてもらそうにない。
最後の最後でタイトル回収しました!(笑)
最終話までおつきあいいただき、ありがとうございました!




