23 『オディウムの馬鹿どもをぎゃふんと言わせよう大作戦』の全容
パーティー自体は無事に終わったものの、オディウムの王女二人の策略が明るみに出たことで、すぐさま両国間の話し合いが行われることになった。
オディウムの国王は、王女二人の企てをある程度知っていたらしい。何をどうするつもりなのか詳しいことは知らなかったようだけれど、「傷物になったアリシアを連れ帰るつもりだった」「ドロテアとコルネリアが代わりとして公爵家に嫁ぎたいと言っているから、受け入れてもらうよう手を回す気でいた」などと話しているという。
オディウム側の邪な思惑に、フィニス側は怒りを爆発させた。
未遂に終わったとはいえ、公爵家に嫁いだ元王女に危害を加えようと企てたのだ。誰が見ても明らかに卑劣な犯罪行為であり、王族という立場を考えても人道上の観点からいっても、お咎めなしでは済まされない。
両国の国王を交えた話し合いの結果、オディウムはフィニスに対し、多額の補償金を支払うことがすんなり決まった。
また、経済や交易、産業技術の開発・協力に関する二国間協定に関しても、フィニス側にとってかなり有利な条件のものへと改定されることになった。
これにより、新興国フィニスは歴史あるオディウム王国に対し、外交上圧倒的な優位に立ったのだ。
そして肝心の王女二人についても、フィニスの上層部はオディウムの王家に厳正な処置を求めた。
「本当はデキムス侯爵と同じように、北の流刑地にでもぶち込みたかったんだけどな」
眉間にしわを寄せるルキウスは、不満そうにため息をつく。
「さすがに、他国の王女を鉱山で働かせるのはまずいと思いますよ?」
「まあ、あんなのを鉱山に行かせたところで、大した戦力にはならないだろうけどさ。かといって、あの能無しの王に任せたら緩い処分で終わりそうだしな。だから一蓮托生ってことで、王女二人はオディウムの王都から遠く離れた辺境の地で幽閉、王も責任を取って即刻退位し、王太子ガスパルに王位を譲って蟄居するよう要求したんだよ」
これにはオディウムの王も王女二人もだいぶ激しく抵抗し、話し合いは揉めに揉めたらしい。
でも、『稀代の天才』相手に、あの人たちが勝てるはずもない。
最後にはオディウムの王太子が慌てて出てきて、フィニス側の主張を全面的に受け入れたのだという。そうでもしなければ戦争が始まり、国を滅ぼされるとでも思ったのかもしれない。
それくらいの勢いが、フィニス側(というか明らかにルキウス)にはあったのだ。
そんなすったもんだの末、オディウム王国が盛大にやらかしたという噂は、たちまち世界中に知れ渡ることとなった。
オディウムはいまや、歴史が古いだけの能無しが治める国、という烙印を押されてしまっている。新たに王となった異母兄ガスパルの前途は多難だろうけど、なんとか踏ん張ってほしいとは思う。
「シアのお望み通り、あいつらにぎゃふんと言わせることができたか?」
事の顛末を説明し終えたルキウスが、わたしの反応を注意深くうかがっている。
「それはもう。期待以上のぎゃふんでした」
「そうか」
「……ルキウスは、いつもわたしのわがままにつきあってくれますね」
わたしがしみじみそう言うと、ルキウスは案の定ふふ、と小さく笑う。
「惚れた弱みってやつだよ」
夢見の力の存在とパーティーの夢について知ったルキウスは、『オディウムの王族どもをぎゃふんと言わせよう大作戦』と銘打って、あれこれと策を練り始めた。
実は、王城の大ホール脇に並ぶ個室の中で、隣の小部屋とつながっているのは最奥の一室しかないのだという。
「だからシアの話を聞いてすぐ、あいつらがどの個室を使うつもりなのか特定できたんだよ」
その後、オディウムの一行がこの国に到着した際には、どの男が夢に出てきた『騎士風の男』なのかをこっそり確認したわたしとルキウス。
男が護衛騎士のトマス・ムステラだと判明すると、ルキウスは密かにトマスと接触した。そして、王女二人の策略はすでにフィニス側にバレていること、彼女たちの言うがままに罪を犯せば、トマス自身の極刑は当然免れないことなどをあっさり宣告したのだ。
もちろん、トマスは驚いた。そりゃそうだ。密命を帯びてフィニスに到着した途端、全部バレてるぞと言われてしまったんだもの。いろいろとキャパオーバーになったに違いない。
それでも、死にたくない思いが強かったトマス。護衛騎士に任命されてまだ日が浅かったこともあり、自分を捨て駒として利用しようとしていたオディウム王家への忠誠は簡単に翻ったらしい。
かくしてトマスはフィニス側の『駒』となり、ルキウスの指示に従って王女たちに誓約書を書かせるという荒業をやってのける。
そう。
あの誓約書は、完全にルキウスの入れ知恵だったのだ。
確固たる物的証拠を入手するために、彼が考えた策である。
王女二人、というかどちらかというとドロテアは、誓約書なんて必要ない、とはじめは作成を拒んだという。でも、トマスが「誓約書がないなら指示には従いません」と開き直ると、背に腹は代えられないとでも思ったのか、渋々誓約書を書いたそうである。
ちなみに、ドロテアとコルネリアの筆跡に関しては、抜け目のないルキウスが秘密裏に入手していたらしい。本当に、隙がないというか用意周到が過ぎるというか、なんというか。
こうして、王女二人を追い詰める段取りを整えたルキウスは宰相補佐官の面々や騎士団員にも協力を仰ぎ、わたしがドロテアたちに連れていかれたのとほぼ同時にあの部屋へと向かった。
そしてトマスと一緒に息を潜めて、自分たちの出番を待っていたのだ。
騎士団員がトマスをぐるぐる巻きにしていたのは、王女たちにトマスの離反を気取らせないようにするためだったんだとか。確かにあの状況を見て、実はトマスがフィニス側に寝返っていたなんて誰も気づきはしないだろう。
ただ、ルキウスとしては、誓約書を入手した時点ですぐに王女たちを厳しく追及するつもりでいたらしい。誓約書という物的証拠があれば、彼女たちの罪を暴き、糾弾することが十分可能だからだ。
それなのに、「どうせなら、姉二人に直接反論してみたかった」なんてわたしがうっかりわがままを口走ったもんだから、ルキウスはわざわざあの断罪の場面を用意してくれたわけである。
おかげで、わたしの望みは叶えてあげたいけど危険な目にも遭わせたくない、という余計な葛藤を抱くことになってしまったルキウス。ほんとに申し訳なかったな、と反省しかない。
「……ルキウスは、わたしを甘やかしすぎだと思うんですけど」
「いいんだよ。オディウムでは、ずっと我慢していたんだろう? 言いたいことは、はっきり言わないとな」
「でも、いろいろと面倒をかけることになってしまって……」
「あんなの、面倒でもなんでもないよ。シアがあいつらに『離縁するつもりはない』とか俺のことを『譲らない』とか、ガツンと言い返しているのを聞くのは気分がよかったしな」
そうだった。あれって、全部聞かれてたんだった。
今更ながら、あのときのことを思い出してちょっと恥ずかしくなる。
ルキウスはそんなわたしを愛おしげに眺めて、わたしの額に自分の額をこつんと当てた。
「お前がわがままを言ってくれるようになって、俺は素直にうれしいよ。シアを喜ばせるのもシアのわがままを叶えるのも、全部俺でありたいから」
甘やかな熱を孕んだガーネット色の瞳が、わたしを捕らえて放さない。
その熱に浮かされて、わたしはそっと目を閉じた。
次回、エピローグで完結です……!




