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夢見の王女は今夜も冷酷宰相に寝かせてもらえない~冷遇必至の政略結婚から逃げ出したいのに、なぜか夫が追いかけてくる~  作者: 桜祈理


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22 因縁の対決 第三ラウンド~終幕~

「……え?」


 ドアを開けたドロテアは、なぜかそのまま呆然と立ち尽くしている。


 どうやらドアの向こうの光景を目にして、硬直しているらしい。


「何やってるのよ、ドロテア!」


 動揺したコルネリアが焦れたようにドロテアに近づき、ドアの向こうに目を遣ってやっぱり固まった。


 そして二人とも、血の気の引いた顔をしながら二、三歩後退る。



 と同時に、ドアの向こうから現れたのは――――



「シア!」


 走り寄ってわたしを抱きしめるルキウスと、ラザロ様を含めた宰相補佐官の面々、数人の屈強な騎士団員と、その騎士団員にロープでぐるぐる巻きにされている謎の男だった。



 言うまでもなく、謎の男とは夢で見たあの騎士風の男である。



 ドロテアもコルネリアも、この状況が何を意味するのか俄かには理解し難いらしい。「あ……」だの「なんで……?」だのとつぶやきながら、わたしたちと距離を取ろうとする。


「ドロテア殿下、コルネリア殿下」


 ルキウスはわたしの無事を確認して安堵の表情を見せると、凍てつく声で言った。


「あなた方の目論見は、すでに露見しています。観念したほうがいい」


 すべてを威圧する絶対零度の視線が、容赦なく二人を突き刺す。


 でも、敵もさるもの。先に冷静さを取り戻したらしいドロテアが、澄ました顔で応えた。


「あら、なんのことかしら?」

「あなた方は、この男に私の妻であるアリシア・ザヴィアンを襲うよう命じましたね?」

「そんなわけ――」

「すでにこの男から、話はすべて聞いているのですよ」


 ルキウスが目を向けると、騎士風の男はハッとして項垂れる。


 ドロテアはその様子を忌々しげに眺めて、なおも抵抗を試みる。


「いくらこの国の宰相とはいえ、一国の王女たる私たちにいきなり失礼ではなくて? その男が何を言ったかわかりませんが、言いがかりも大概にしてくださいませ」

「この男は、あなた方の指示でアリシアに危害を加えるべく、隣の部屋に潜んでいたと言っているのですがね」

「そんなの、口から出まかせの言い逃れに決まっています。ルキウス様ともあろうお方が、見知らぬ下賤の者の戯言を鵜呑みにされるだなんて」

「――トマス・ムステラ」


 ルキウスがそう言うと、余裕ぶった顔を見せていたはずのドロテアは即座に表情を強張らせた。


 隣に立つコルネリアも、まさか、という顔をしている。


「この男の名前ですよね? トマス・ムステラはあなた方の護衛騎士の一人だ。『見知らぬ下賤の者』なんて言ったら、彼がかわいそうでしょう?」


 言われて、ドロテアは反射的にトマスを睨みつけた。


 トマスは必死になって、ぶんぶんと首を横に振っている。


「ああ、ご安心ください。この男が自分の名前を自ら白状したわけではありませんよ。友好国の国王と王女殿下がこの国を訪問されるというまたとない機会に、失礼があってはいけませんからね。随行する侍女や護衛騎士、使用人の一人ひとりに至るまで、顔と名前は全員頭に入れてあるのです」


 得意げな顔のルキウスに、姉二人は信じられないのかただただ唖然としている。


 まあ、ルキウスにとっては、それくらい朝飯前だったらしいけど。


「ト、トマスは、アリシアに懸想していたのよ! どうしてもひと目会いたいって言うから、つ、連れてきてやっただけよ!」


 不利な形勢を悟ったコルネリアが、唐突に叫んだ。


「ほう。シアに懸想を?」


 ルキウスが片眉をつり上げただけで、なんだか部屋の温度がぐぐぐっと下がった気がする。


 コルネリアの言い分は、いくらなんでも咄嗟に考えた作り話だと思う。わたしはあんな人知らないし。姉たちの護衛騎士ならどこかで顔を合わせたことがあるのかもしれないけど、「不気味」だの「魔女」だのと蔑まれてきたわたしに懸想するなんてあり得ないもの。


 案の定、コルネリアの悪あがきは、悪手中の悪手でしかなかった。


「なるほど。どうあっても、認めてくださらないのですね」


 部屋の温度を下げた張本人は、感情の読めない目をして薄く笑う。


「では、この誓約書でしたら、さすがに見覚えがあるのでは?」


 ルキウスが胸元からさっと取り出したのは、三つ折りにされた紙切れ一枚。


 でも「誓約書」という一言で、ドロテアとコルネリアはわかりやすく狼狽えた。


「え、ちょっと……!」

「どうして……」

「これは、あなた方がこのトマスに請われて書き記した誓約書ですよね? あなた方はあろうことか、護衛騎士のトマスに私の妻を凌辱するよう命じた。トマスは一旦受け入れたものの、他国の公爵家に嫁いだ元王女を凌辱なんてしたら、すぐに罪が露見して自分自身も厳しい処罰を受けることになるのではと不安になった。あなた方は『お父様がうまくやってくれるから大丈夫』と仰ったそうですが、どうにも不安が募るトマスはあなた方の指示を受ける代わりに、何があっても自分の身の安全だけは保障してほしいと誓約書を要求したのでしょう?」


 ルキウスは手に持った紙切れをささっと広げ、一瞬だけ目を落とす。


 そして、やれやれと言わんばかりの露骨な表情を見せた。


「ここにちゃーんと、記してありますよ? あなた方がアリシアを害するようトマスに指示を出し、その結果トマス自身が責任を追及されても罪に問われることのないよううまく取り計らうことを約束する、という文言がね」 


 広げた誓約書を自分の前に突き出したまま、ルキウスはゆっくりとドロテアとコルネリアに近づいていく。


 二人はルキウスの圧に気圧され、身動き一つできない。


「これでもまだ、ご自分たちの罪をお認めにならないつもりですか?」

「それは……」

「そ、そんな誓約書なんて知らないわ! これはきっと、私たちを貶めようとする罠よ!」


 コルネリアが観念したように俯いた一方、諦めの悪いドロテアは必死の形相でまくし立てる。


「私はそんな誓約書を書いた覚えはないし、見たことだってないわ! だいたい、私たちがアリシアを襲えなんて卑劣な指示をするわけがないでしょう? 仮にも妹なのよ? むしろ、私たちのことを逆恨みしたアリシアが罠を仕掛けた可能性だって――」

「ふざけるな」


 地を這うような低い声が、ドロテアの言葉を一刀両断する。


「この期に及んで、往生際の悪い王女だよまったく」

「な、何を……!」

「こんな誓約書知らないって? 明らかにあなたの筆跡ですけどね。自国ではないから筆跡の確認なんてすぐにはできない、その間に父親に頼んでなんとかうやむやにしてもらおう、とでも思っていたのでしょうが、あいにくあなたの筆跡ならすでにたんまりと取り寄せてありまして」

「はあ!?」

「ですから、この誓約書の筆跡があなたのものだということは、とっくに確認が取れているのですよ。ちなみにあなた方の策略に関しては、すでに我が国の国王にも報告してあります。今頃あなたのお父上様にも伝えられているとは思いますが、それが何を意味するのか、悪知恵の働くあなたならもうおわかりですよね?」

「え……」


 ドロテアは衝撃のあまり、言葉を失った。


 父親であるオディウムの王はともかく、この国の国王陛下にまで自分たちの悪巧みが知られてしまったということは、すでにうやむやにできる段階にはないということ。


 他国の公爵家に嫁いだ人間を、しかも王甥の妻を、いくら血のつながった身内とはいえ危害を加えようと企てたのだ。ただで済むわけはない。


 両国の関係に大きな影響を及ぼすのはもちろんのこと、王女であるドロテアやコルネリアだって直接罪を問われる可能性がある。今頃この国の王は、オディウムの王に対してどう落とし前をつけるつもりなのか詰め寄っているに違いないのだ。


「そ、そんな……」


 ドロテアは今度こそ敗北を認めたのか、がっくりと頽れる。


 その場に座り込む王女二人を一瞥して、ルキウスは冷徹に言い放った。


「そもそもあなた方の会話は、隣の部屋で一言一句聞かせてもらっていましたからね。あれだけ好き勝手にアリシアを嘲り罵っておいて、俺が許すわけないでしょう? 地獄に堕としてやるから、覚悟しておけよ」


 突きつけられたその決定的なセリフに、罪深い王女二人はひれ伏すよりほかなかった。









次話で終わるつもりだったのですが、やっぱり長くなってしまったので二話に分けました。


次話とエピローグで完結です。


明日は二話投稿しますので、お楽しみに!



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