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夢見の王女は今日も冷酷宰相に寝かせてもらえない~冷遇必至の政略結婚から逃げ出したいのに、なぜか夫が追いかけてくる~  作者: 桜祈理


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20/22

19 比翼の鳥 連理の枝

 わたしの言葉に、ルキウスは驚きながらも真剣な目をして言った。


「そんなこと、この俺がさせるわけないだろう?」

「でも――」

「もう二度と逃がさないって言ったよな? お前が嫌だと言っても、俺はお前を手放す気なんてさらさらないから」


 事もなげにそう言って、ルキウスは気遣わしげな視線をわたしに向ける。


「……俺の妻でいられなくなるかもなんて、いったいどんな夢を見たんだ? 俺にだけは、教えてくれないか?」


 遠慮がちに促され、わたしはあのおぞましい夢についてすべてを包み隠さず話すことにした。


 ルキウスは、今回のオディウム王訪問の裏に姉二人の存在があったと知って納得し、二人の策略を知るや否や怒髪天を衝く勢いで怒り狂った。


「お前の姉二人の頭の中はどうなってんだよ? お前を傷つけて妻の座を奪おうと画策するなんて、俺に喧嘩売ってんのか? 売ってんだな。よし、即刻始末しよう」

「ちょ、ちょっとルキウス」

「おまけになんだその、正妻と愛人ってのは? 二人で一人の男を共有しようとするなんて、普通に無理があるだろ。馬鹿げてるとは思わないのか?」

「そこはね、まあ、ほんとそう」

「でも一番許し難いのは、夢の中でお前を襲ったっていうクソ野郎だよ。俺のシアを穢そうなんて、万死に値する。百回殺してもまだ足りない」

「いや、まだ、現実になっていないから」

「当たり前だ。誰が現実にさせるかよ」


 あっさりと言い切って、ルキウスはぞくりとするほど不穏な笑みを浮かべる。


「心配するな。お前のことは、俺が絶対に守るから。シアは安心して、高みの見物でもしてればいい」

「どうしてそう言い切れるのですか?」

「俺がこの国の宰相だってこと、忘れたのか? 『稀代の天才』に不可能なことなどないんだよ」


 やけに自信ありげである。というか、もはや自信しかないらしい。


「ただ、お前に一つ、聞いておきたいことがあるんだが」


 どこまでも穏やかなルキウスの声とは裏腹に、その瞳の奥にはなぜか憤怒の炎が見え隠れする。


「お前、姉二人に復讐したいか?」

「……復讐?」

「それと、お前を蔑ろにし続けたオディウムの王にもだ。お前はこれまで、血のつながった家族に一貫して軽んじられ、冷遇されてきたんだろう? 仕返ししてやりたいとは思わないか?」



 ……そんなの、考えたこともなかった。



「復讐なんて、さすがにそこまでは……」

「なんでだよ。散々ひどい目に遭ってきただろう?」

「そうですけど、でも復讐したいとか仕返ししたいとか思ったことは、一度もないです。わたしのことは放っておいてくれれば、それで……」

「ずいぶんと欲がないんだな」

「まあ、多少、ぎゃふんと言わせたいところもないわけじゃないですけど」


 もごもごとつぶやいたそのセリフを、ルキウスが聞きもらすはずはなかった。


「わかった。じゃあ、あいつら全員、ぎゃふんと言わせてやろうじゃないか」

「え」

「これまで嫌というほど俺の大事なシアを傷つけて、軽んじてきたやつらだ。報いは受けてもらわないとな」

「……何をする気なのですか……?」


 わたしの問いには答えず少しだけ口角を上げたルキウスは、唐突にわたしをじっと見つめてぽつりと言った。


「ありがとう、シア」

「な、何が……?」

「お前の秘密を、話してくれて」


 ルキウスの手が、わたしの頬にそっと触れる。涙のあとをなぞる指先は、ひどく優しい。


「お前にとって、その力の存在を隠し続けることは何より大事なことだったはずだ。亡くなった母親が、半ば遺言のようにそうしろと言い続けていたんだからな。それでも、俺になら秘密を打ち明けてもいいと思ってくれたことが、俺は死ぬほどうれしい」

「……死ぬほどって……」

「お前がそれだけ、俺を信頼してくれるようになったってことだろう? 心を許してくれたから、全部話してくれる気になったんだろ?」

「……それは、はい」

「大丈夫だ。人に明かすなと言った母親の言葉ごと、俺がお前を守ってやる。その力のことは当然誰にも言わないし、夢の内容を尋ねるようなことも今後一切しないから」

「……え?」


 驚いたわたしが顔を上げると、目が合ったルキウスの顔は可笑しそうに笑っていた。


「なんだよ。そんなに意外か?」

「だって、この力があれば、宰相としてきっと有利に事を進められるでしょう? ラザロ様の件だってバーラエナとの戦争だって、この力があったからこそ事なきを得たわけで……」

「確かにシアの言う通りだよ。なんだかんだ言って、ラザロは俺にとって唯一友人といっていい存在だし、バーラエナとの戦争回避に関しては言うまでもない。シアのおかげで俺は大事な友人を失わずに済んだし、この国は危機を免れた。改めて礼を言うよ」

「だったら――」

「でも、お前の力を利用するようなことは極力したくないんだ。俺にとって、大事なのはシアだけだから。お前が俺の隣で、ただ健やかに笑っていてくれたら、それでいい」


 嘘偽りのないその言葉は、とにかく破壊力がありすぎた。


 おかげで、わたしの涙腺はものの見事に崩壊してしまう。


「そんな、そんなの、おかしいでしょう……? 冷酷宰相のくせに、優しすぎます……」

「俺が優しくしたいと思うのは、シアだけだよ。シアに余計な負担をかけたくないし、シアを傷つけるものは全部排除したい。シアが困ったら全部俺がなんとかするから、だからずっとそばにいてくれよ」


 ルキウスの低く抑えた声はどこか切実な祈りにも似て、わたしは思わずその精悍な頬に手を伸ばしていた。


「……わたし、どうしてもあなたのそばにいたくて……」

「……え……?」

「……夢見の力で見る夢は、『警鐘』だと言ったでしょう? うまく立ち回れば回避できるものだし、今までだってずっとそうしてきたのです。だから今回だって、自分の力でどうにかしようと思えばきっとできたのに、あなたのそばにいられなくなるかもしれない未来が怖くて……」

「……シア、それって……」

「わたしも、あなたのそばを離れたくない」


 震える声でそう言うと、ルキウスは雷に打たれたように呆気に取られた顔をした。


 それから真面目な顔をしようとして失敗し、次第に緩む頬をこらえきれなくなったらしく、口元を手で押さえながら「これ、マジでやばい……」と口走る。


「やばい? 何がですか?」

「……うれしすぎて、おかしくなりそう」

「はい?」

「シア、行くぞ」

「え? ――あ、ひゃあっ!?」


 その瞬間、わたしはルキウスに抱きかかえられていた。


 いわゆる、横抱きというやつである。


「い、行くって、どこへ――!?」

「寝室だよ」

「へっ!?」


 さも当然といった顔をして、わたしを抱きかかえたルキウスは廊下をすたすたと歩き出す。


「あ、あああ、明るいうちから、な、何を言っているのですか!?」

「夫婦が愛し合うのに、時間なんか関係ないだろ」

「ふ、夫婦が愛し合うって……!! 表現が生々しい!!」

「そうか? じゃあ、どう言えばいいんだ? 今すぐお前を俺のものにしたい、とか?」

「そそそれはもっとダメなような気が……!!」

「心配するな。時間はたっぷりあるし、夕食は部屋に運んでもらうから。あ、明日の朝食と、昼食もかな」

「はい!?」

「さすがに何か食べないと、体力がもたないだろう?」

「そういう問題じゃなくない!?」


 思わず叫んだら、ルキウスは寝室の前でピタリと止まった。


「シア」

「な、なんですか……?」

「嫌なのか?」


 ルキウスのガーネット色の瞳が、儚げに揺れている。


「……い、嫌なわけ、ないじゃないですか……」

「……お前、その顔は反則だろう?」

「え?」


 勢いよく寝室のドアを開け、ルキウスはそのまま真っすぐ部屋の中央にあるベッドへと向かう。


 そしてわたしをゆっくり寝かせると、焦がれるような目をして言った。


「……愛してる、シア」


 それから何度も何度も甘い口づけを繰り返し、ルキウスは宣言通り朝までわたしを翻弄し続けたのだった。

 









 



〈本当にどうでもいい余談〉

ルキウスは翌日の午後から出勤しましたが、アリシアの体が心配で夕方早々に帰ってきました。

←仕事しろ



残り四話+エピローグで完結予定です。

次話からいよいよ姉たちと父親を追い込みます……!



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