001:世界最強と言われた11人の軌跡
この文章はただの「設定」に過ぎません。物語ではなく、小説でもなく、アーンレイム帝国という舞台と、その舞台で踊る人間の群像劇となります。主人公は居ませんが、特別な者はいます。特別な存在は物語の骨子ではありますが、その存在も「この舞台」の役者の一人。主人公の居ない、アーンレイム帝国という国が主役となっている「設定集」です。
001**ヒューイ・ミツルギ・アウラスツラ 千斬「鋼の剣鬼と千の刃」**
■序章:落下した「月面の亡霊」
北大陸西部。オーグ山脈の麓に、ある日、光の柱とともに「異物」が落ちた。
それは破損した機動歩兵用外骨格の破片と共に横たわる、一人の男。
最初に彼を保護したのは街道沿いの小村アミルの村人シャルだった。
村人たちは彼の見慣れない破壊された金属の鎧を見て怯えたが、ヒューイが冒険者であろうと判断し、手当てをするために村にある集会所に運び込んだ。
あれが冒険者なら助けてくれるかもしれない。恩を売っておけ。程度の判断だったが、その目論見は正解だったようだ。
丸一日、村人は彼を治療しようとしたが、どうにも怪我の様子がおかしい。裂けた皮膚は勝手に修復し、次の日にヒューイが目覚めた時には傷一つない綺麗な状態になっていた。
彼の第一声は「ここはどこだ?」だった。
シャルは噂に聞く高位の魔術士だとヒューイの事を信じていたが、ヒューイの答えは違った。
「俺は兵士だが?魔術ってなんだ?これは、布の服だと?どこだここは?」
そして窓から入ってくる日の光を見て
「太陽?そうか、墜落したのか」だった。
村人達の混乱を尻目にヒューイは分析を始めていた。
自動治癒魔法。森の魔獣。村への脅威。冒険者への依頼。
彼の改造された脳が最適解をはじき出そうとする。
つまり、ここは地球ではないどこか。似ているが違う世界。夢や幻覚ではないことは自分でわかる。導き出せる結果は・・・まだ結論を出すには早すぎる、話を合わせておこう。
兵士であるヒューイはこういう教育をされていた。
『理解不能な状況に遭遇しても、冷静に観察して自己の立場を理解し、言動を厳格に制御せよ』
分隊長である軍曹がいつも言っていた。兵士とはそういうものであると。
「まずは話を聞かせてくれないか?その・・・魔獣とやらのことを」
理解は出来るかもしれない、納得できるかどうかはわからない。
しかし兵士というものに納得など必要はない、命令が理解出来れば遂行するだけだ。この場合は依頼となっているが。
「話は理解した。魔獣が一頭、大きさは馬?位だと。ちなみに武器はあるかな?自分の武器は失ってしまったようなのでね」
武器さえあればグリズリーにも負けはしない。斧や光剣での白兵戦の訓練も十分に積んでいる。もし敗れて死んだとしてもそれはそれ、別の冒険者とやらに頼めばいい、兵士というものは替えが効く。自分の代わりは他にも居る。
『人類の生存は全てに優先する。兵士個人の生命や自由、組織、国家、あらゆる主義主張にも』
将軍の演説だったか。聞いたときには驚いたもんだった。自身の所属する国家や軍隊、それに対する無政府主義すらも否定していた。ただひたすらに人類という種のみを守るのだと。
「一振りだけ剣がある。農具倉庫に入れっぱなしで使えるかどうかはわからないが」
「じゃあそれでいいよ、出来るだけのことはやってみよう」
受け取ったのは刃渡り40センチ程度のショートソードだった。これなら斧の方がマシかもしれない、まずは自分で使えるかどうか確かめることにした。
村から歩いて少し、街道から森へ入ってすぐの大木に向かって剣を構える。深呼吸してイメージするとショートソードから光が伸び3倍以上の長さになった。
この時、彼は初めて自分の力を確認する。剣のようなのものを持てば、光の刃が生成される。
「光剣じゃないのに・・・これが魔力?剣の形をしてるが、量子制御の流体エネルギーか?」
村の長老は、これは魔力ではなく錬気術だという。体内の魔素、魔力を体外に出して形を形成するらしい。体に纏えば防御にも使えると聞いた。攻防一体の術式で使える者は多くないとのことだった。
討伐の依頼料は銀貨で50枚。高いのか安いのかわからなかったが、何処へ行くにしても金銭は必要だ、それに戦えない者の代わりに戦うのが兵士の職務であり、武器が貧弱でも錬気術とやらのおかげで勝てる自信もある。
結果は一閃、魔獣はサジタル面で真っ二つに両断された。
簡単すぎてヒューイは剣士の2次職オルグレイヴと同等だと言われた。
剣士はヴァルディアントから始まって、パーティーを組んで依頼をこなし十分に実力をつければ昇格する。他にも様々なクラスがあると言われたが興味はなかった。
「そういうのはわからない、これから知識を得るようにするよ」
「この戦闘で大体魔物の強さが分かったから、冒険者に登録することにする。確か大きな街に行けば登録が出来るんだったかな?初級冒険者になって魔獣と戦うことにする。その前にもっと強くならないと」
彼は村を襲う魔物をソード一本で斬り伏せたことで村人の信頼を得た。
錬気術の原理を解析しながらも、自分が「この世界では特別な才能を持つ存在」であることを悟ることになった。ただ一つの疑問『何故言葉が通じるのか、文字が読めるのか』は理解できないままだったが。
■第一章:冒険者ヒューイ誕生
アミル村の所属するマリウネル王国の都市レグルス。雑然としており、お世辞にも美しい街とは言えないが、生活に必要な全てがそろっていた。宿屋はもちろん冒険者ギルドや商業ギルドもある。
村で聞いていた通り、銀貨1枚あれば2日は快適に(兵士にとってはだが)過ごせることが分かった。もらった依頼料は50枚。つまり銀貨が尽きるまでに仕事が必要なわけだが、あいにくヒューイの経験した仕事は歩兵だけであり、何かを作ったり、商売をする知識は無い。
ならば、とやはり冒険者になることにした。
ヒューイが冒険者として登録する際、ギルドマスターは彼を一瞥して言った。
「お前……そんな装備で盾も持たずに前衛をやる気か?」
確かに彼の装備は貧弱すぎる。村で貰った服と革のベストにショートソード。まともな装備を買う手持ちもない。
しかし錬気術で防御の面では恐らく問題は無いだろう、最初の間は。
「盾、必要あるかい?最低ランクの冒険者だし、金も無いしな」
「……好きにしろ。死んでも知らんぞ」
ヒューイは最初から「剣士の2次職オルグレイヴ」の実力を持っていたが、
ギルドランクはアイアン、クラスランクはヴァルディアント、最下級からのスタートを自ら望む。
理由は一つ
「この世界の“戦い”を一から理解しておきたい」
未知であるからこそ基本からしっかりとば知っておかなければならない。
サイボーグ化された彼の脳は、高度な学習・解析能力を持つ。同じく身体機能も常人を遥かに凌ぐ。
ゆえに、最初期の依頼でさえ、魔物の構造、弱点、動きの癖を瞬時に解析して一太刀で仕留めた。自分の強さを知られないため錬気術を使わず、しかもガラクタのショートソードでだ。
冒険者仲間たちは驚愕した。
「あいつ・・・一体何者だ?」
「アイアンランク?嘘だろ?」
ヒューイと同じく剣士でパーティーの前衛を務めるフェイが疑問をぶつける
「冒険者になる前に何をやっていたんだい?」
「兵士をやっていた。3年位だな、それ以上は言いたくない」
その言葉で皆が納得した。ひどい戦闘を経験した兵士は人を殺すより冒険者として魔獣を狩るようになる。
そこから、自分に遂行可能な依頼をひたすら受け続け、ゆっくりとランクを上げていく。
■第二章:黒い獣王“バルロス”討伐
北大陸西部の森に突如現れた黒獣王バルロス。
通常の魔物とは異なり、明らかに魔素汚染で異常進化した魔獣。
討伐隊が退却したという知らせに、ヒューイは単独で森に入る。
数年の期間を掛けて、着実に冒険者としての実績を積み重ね、ランクはゴールドになっていた。
地域で名を知られる優秀な冒険者。この街でゴールドランクはヒューイ一人だった。
発見地点に向かって彼はゆっくりと、周囲の気配を探りながら歩いていく。
この森の魔素濃度は高くない、何故そんな強力な魔獣が出現したのだろうか。
理由を考えるのは誰かに任せよう、今は自分の任務をこなすだけだ。
遠くから地鳴りのような音が聞こえてくる。
バルロスの突進が森をえぐる。
ヒューイは音の方向に向かって剣を構え、静かに息を吸う。見えてきた。
「千刃構築」
瞬間、剣の周囲に“見えない刃”がいくつも重なり、
ヒューイが一歩踏み込み魔獣とすれ違うと、黒い獣の脚・胴・首が同時に斬り落ちた。
「一対一なら強敵も倒せる。多数相手はまだ難しいだろうな」
倒れた魔獣の体を解体した彼は気づく。
「この魔石の大きさは単純な魔素の吸収では考えられない、かなりの魔物を食ったか?」
換金出来そうな素材と拳程度の大きさの魔石を麻袋に無造作に詰め込むと、森を後にして街への帰路に就いた。
錬気術を応用した多重の刃の形成に成功した彼は、より強くなるために冒険者を続ける。
そして、ヒューイはこの世界での戦闘の“最適化“を開始する。
■第三章:名誉ではなく、ただの旅を望む者
獣王討伐で名が知れ渡ったヒューイはプラチナランク(国家レベルで認められる実力者)に昇格し、ギルドを代表する存在になった。
そして、その力を欲する王国軍や貴族から招かれるようになる。
しかし彼はすべて断った。
「王侯貴族に仕える気はない。兵士じゃなくなった俺は俺の目的を探して旅をするだけだ。足踏みは出来ない」
街の住人、冒険者、魔術士など、
多くの人間と交流を深めながら、
彼は自分の過去を断片的に思い出していく。
「月面基地」「戦闘任務」「仲間の死」「サイボーグ化」
「記憶の崩壊」「転移前の光」
それでも、完全には戻らない。
■第四章:北大陸最強剣士“マグレイド”との決闘
ヒューイの強さを聞いた北大陸屈指、最強とも呼ばれる剣士、4次職グリムウォーデンでミスリルランク(魔力と技を極めた希少な精鋭)のマグレイドが挑戦に訪れる。
「お前を探してはるばるこんな辺境まで来たんだ、断らないよな」
「いいよ、自分の強さを確認できる」
決闘は三日三晩続き、街全体が観戦に集まる大騒ぎとなる。
最終日『そろそろ学ぶべきものは無くなったか』と、ヒューイは剣を構えなおし、斬撃すら見せずマグレイドを倒した。
「・・・お前・・・今、何をした?錬気術を”飛ばし”た?見えない刃だった気がするのだが」
「そうだな。剣は振らずに斬撃を飛ばしてみた。上手く出来た」
「振らずに斬撃を?なるほど、人間相手には良い技だ」
「そうだろう?本来は一対多数相手に使う技だけどな。今回はかなり勉強になった、ありがとう」
この一件でヒューイは“千の刃=アウラスツラ”と呼ばれるようになる。
彼が”千斬”の異名で呼ばれ、剣聖の称号を得るのは”千の魔獣の大侵攻”と呼ばれる災害級の出来事をたった一人で終わらせた後となる。
誰もが絶望していた時に「統率の取れていない軍勢など、どうとでもなる」その言葉を残して単身突撃し、殲滅した。
そして、大陸最強の剣士、伝説級の英雄、冒険者の到達点と呼ばれるオリハルコンランクのヒューイ・ミツルギ・アウラスツラが誕生した。
002**スウェック・スピンダーム 殺界「影を歩む男」**
■序章:影として生み出された少年
スウェックは複雑な出生を持つ。
加速戦闘用遺伝子強化技術の素体、兵器としての実験体
彼は試験的に作成された「計画」であり、本来は軍の暗殺兵器として生まれた。
人工的に強化された少年は「スピンダーム計画」の脱走者として処分対象となり、
逃走中に異次元の裂け目に飲まれ、北大陸の闇組織が支配する都市ヴァルティナに落とされた。
生き延びるため、彼は影の中に身を沈め、それから人々の間でこう噂されるようになる。
「路地の奥に“少年の姿をした影”がいる」
■第一章:暗殺組織“ヨルの子供達”
スウェックはまだ”弱かった”子ども時代、気配を絶ち、路地裏で強盗として育つ。
しかし住民から奪うのではなく“札付きの盗賊を狩ってその戦利品を奪う。討伐報告はしない”という異常な生活を続けた。
スウェックが拾われ”一応所属している”暗殺組織の頭領ヨルは呆れつつ言った。
「お前、その腕で冒険者にならずに陰で盗賊を狩るのか?」
スウェックは答える。
「管理される冒険者より気楽だし一回の仕事で実入りが大きいから。あいつらは結構持ってる。それに盗賊なら殺しても文句は言われない」
その無邪気な冷徹さと力量はすぐに組織の幹部にまで成り上がらせた。危険だが組織には重要。任務達成率は誰よりも高い。
ただし、本人は感情が薄く「出世」に興味がない。”普通に暮らせる”金があればいい。
ある日、大仕事に駆り出されたスウェックは
“王に仕える護衛魔導師”を暗殺する任務を受ける。
その初めての高度な暗殺任務がスウェックの人生を変える。
■第二章:初めて「殺し」を拒否した日
王城内、王の居城から少し離れた魔法棟に居る魔導師を暗殺するためスウェックは城の壁を這い上がり、完璧な位置を確保した。
が、そこで見たのは
魔導師が隠して育てていた孤児たちだった。
魔導師は皆にとっての”悪”ではなく、どこかの組織にとっての”悪”だったのだ。
彼が狙われる理由が「民衆への脅威ではなく、組織が”欲しがっている孤児たち”を守っていたから」だと理解する。
刃を構えた両手が初めて震えた。
「殺すべき対象・・・だが、彼を殺したら、子どもたちはどうなる?どこかの誰かにきっと使い捨てられる」
スウェックは”上”がこの仕事を受けた事に怒りにも似た感情が喉元に込み上げるのを感じた。
「この仕事も、暗殺もやめだ」
スウェックは自分を悪側の人間だと思っていたが、どうやら違うらしい。
彼は任務を放棄。一方的に暗殺組織を抜けることになる。
ヨルは”その時”が来たか、とスウェックに対する手出し無用の宣言を行った。やりあえば自分自身はともかく組織の大半を失いかねない。スウェックはその位”強すぎた”
結果的に”何故か”魔導士暗殺の依頼を出した組織が壊滅した。
ヨルが自分の組織の安全のためにスウェックに情報を漏らしたからだった。
夜の街の片隅を真っ赤に染めながら、彼は静かに呟く。
「俺は……殺す必要のない者は殺さない。誰の命令にも従わない。自分の意志で選び、殺す」
この日を境に、彼は冒険者という選択肢を取ることになる。
■第三章:冒険者ギルド登録「殺界」の誕生
スウェックは罪滅ぼしのように冒険者ギルドへ。
受付の魔導士が、彼の異常な“気配断絶”に驚く。
「……そこに居たのですか?まるで存在が消えていました」
「気配を殺す、殺気と俺は呼んでいる。反対の意味もある」
彼が受けた冒険者クラス、斥候の試験は「模擬戦での実力確認」だったが
模擬戦開始前に、審査員全員の後ろ襟に木製のナイフが突き立てられていた。
そして後ろに居るであろうスウェックに審査員長は震える。
「……いつから背後に?」
「最初から。気配が粗いから、入りやすかった。影は違反だったか?」
桁違いの気配隠蔽と領域の支配。並外れた力を認められた。
この瞬間、斥候の3次職のシェードリンとゴールドランクを得た上に、彼はギルドで“殺界”の二つ名を得る。
■第四章:伝説の任務「吸血魔王城・万影の夜」
北大陸北東部の深山に“吸血魔王ヴァルミル”と呼ばれる魔族が支配する城があった。
古くから存在する魔族で、生き血を求める習性のため、周囲の村が求めに応じて「生贄」を差し出していた。
国家の支配が及ばない地であるため、周辺諸国は損得勘定の上で無視。冒険者たちは多くが挑んでは敗退。その城は「影そのものが敵」という異様な領域だった。
ギルドは最終手段として“影と気配を操れる冒険者”としてスウェックに依頼を出した。
スウェックは影を足場にして壁を歩き、亜音速で罠や警戒網を抜け、影分身を生み出して迷宮を制圧していく。
普通の冒険者が一週間かかるであろう迷宮を、彼は二時間で突破した。
ヴァルミルは影を吸収し増幅する魔族。スウェックの影魔法や影操作は逆に弱点となるはずだった。
だが「影を喰らう魔族か。それなら、影を“毒”にすればいい」
スウェックは自身の影に操気術で“魔素逆流”を仕込み、
ヴァルミルが影を吸った瞬間、その体内で魔力が暴走し凶暴な叫び声を残して粉々になった。
以後この事件は「万影の夜」 と呼ばれた。
村人からは英雄として迎えられたが、スウェック本人は無表情に呟く。
「殺すべき悪を、ただ殺しただけだ」
この件よりも少し前からスウェックは自分の力を”殺すためだけ”に使うことに疑問を抱いていた。
そして「守るためにも使えるなら、俺の力はもっと役立つはずだ」という想いが生まれる。
ただし、その頃にはすでに
“殺界”の名は北大陸全域に広がり、「影の暗殺者」と呼ばれる存在となっていた。
**シリカード・ウインゲムス 覇砕「砕けよ、全て」**
■序章:惑星「セルウ」の筋肉
シリカードはモイラ球状星団の辺境惑星セルウ星の出身。
アビト共和国軍の戦闘兵として育ったが、
戦争の最中にワープ事故で異世界転移し、北大陸に落とされた。
空から落ちた彼を最初に見つけたのは、北大陸西部の鉱山街ドグラン。
街の鉱夫たちは叫んだ。
「空から筋肉の塊が落ちてきたぞ!?」
乾いた岩盤を拳だけで砕きながら立ち上がる彼に鉱夫たちは恐怖ではなく畏敬を抱いた。
彼はこう名乗る。
「俺はシリカード・ウインゲムス、戦うために生まれた。だが・・・この土地の気は面白いな。暴れられそうだ」
こうして異世界とは知らず、ワープミスで辿り着いた惑星だと勘違いしたまま拳聖伝説が幕を開ける。
■第一章:冒険者ギルドの受付台を拳で叩き壊す
鉱山の坑道を拳だけで掘り進めることに飽きてしまったシリカードは冒険者登録のため冒険者ギルドの在る中規模都市を訪れた。
そのあり得ない服装を見て受付嬢が恐る恐る言う。
「武器は……お持ちでないのですか?」
タンクトップ姿のシリカードは右拳を受付嬢に見せて
「俺の武器はこれだ」とだけ言った。
ギルドマスターが半ば試すように木製の受付台を叩けと言うと、木材が木っ端微塵になって宙に舞った。
「すまん、手加減したつもりが・・・弁償する」
この瞬間、彼はギルド登録を待たずして
「化物の新人」として噂になる。
■第二章:北大陸“獣化病”討伐事件
北大陸北方の高地で、“獣化病”と呼ばれる怪異が発生するという情報が周辺ギルドに出回った。
人間が極度の魔素中毒で2〜5メートル級の異形の魔獣に変貌して暴れまわる。魔素汚染と呼ばれる現象で取り込まれた魔素の除去が難しく、危険度が高いため討伐対象となる。
対応に出た討伐隊は敗走。
その中、様子を伺っていたシリカードだけが笑って前に出た。
5メートルに膨れ上がった魔獣が咆哮し、岩を投げつける。
シリカードはその岩に向かって跳躍した。
「拳はなぁ、当てるだけじゃねえんだ。全てを砕く意思を乗せるんだよ!」
拳一撃で岩が爆散。
魔獣の顎を砕き、膝を破壊し、
最後に腹へ「衝撃波だけ」を叩き込んで沈めた。
手応えを頼りに次々と魔獣を殴り飛ばしていく。
周囲の冒険者は震えながら叫んだ。
「あれ、魔法じゃないのか!?」
「違う……あれは殴っただけだ!」
シリカード自身も、この世界の魔素を吸収して
自分の能力が新たな段階にあることを感じ始める。
「この世界、俺を強くしてくれるじゃねえか」
■第三章:拳王と呼ばれるまで
獣化病事件で名が広まり、
多くの者達が彼に挑んでくるようになった。
腕に自信のある冒険者、北方の蛮族、騎士団の槍騎兵、果てには弓を持つ者まで。
シリカードはすべてを拳で受け止めた。
「武器は人の体を超えられねえ。だが“闘気”を拳に乗せりゃ、山すら砕けるんだぜ」
いつしか北大陸ではこう呼ばれる。
「覇砕」それは“英雄でも敵わぬ拳王”超越した破壊力の持ち主
■第四章:スウェックとの遭遇 — 影と拳の最初の衝突
夜の森の開けた場所で、彼は影の中から現れたスウェックと初遭遇する。
シリカードは軽く錬気を纏った。それでも空気が張り詰める。
「・・・お前、危険だなぁ。殺気が静かすぎるぜ。飛影?いや、影刃って奴か?」
スウェックはシリカードの対応の早さに驚くが
「お前もだ。その覇気・・・空気が歪む。しかしその程度だ、百鬼戦団団長よ」
スウェックはシリカードを盗賊団団長と誤認し、影分身で囲む。
しかし次の瞬間、シリカードは拳に気を練りこみ、
影分身を無視して、スウェック本体を殴りつけた。続けて十数手。シリカードの全力をスウェックはギリギリで躱し続ける。
「届いてないな、手応えが軽い。で、百鬼戦団ってなんだ?俺じゃねぇぞそれ」
スウェックは戦意を留めつつ、シリカードの纏う闘気を見て言う。
「どうやらそのようだ。すまなかった。奴はお前ほど強くはない。あと、俺は”殺界”と呼ばれているスウェックだ」
シリカードは笑った。
「ほう、殺界の名前はスウェックって言うのか。俺はシリカード、なんだかわからねぇが、お前は面白い、気に入った」
「シリカード、なるほど。”覇砕”か、どうりで・・・強いな。これほどとは」
この出会いが、後に両者の運命を絡み合わせていくことになる。
■第五章:北大陸魔拳大会“ゴルド・ブレイク”
北大陸最強の武闘家を決める大会
「ゴルド・ブレイク」が開かれる。
出場者は800名を超え、バトルロイヤル形式で16人になるまで戦う。
シリカードは拳圧だけで数十人を圧倒し、もちろんトーナメントに残った。
初戦で古武道の師範に言われる。
「本当に素手で戦うのか?」
「拳だけで充分だ、一撃で沈めてやる」
結果はシリカードの言った通りになった。
大会は彼の本領発揮の場となり、準決勝では影魔法“重力拳”を扱う魔法拳士と激突する。
相手が拳に重力を纏うと、地面が沈み空気が歪む。
シリカードは笑って一歩踏み込む。
「重力?いいねぇ。砕き甲斐がある」
拳をぶつけた瞬間、重力場が粉砕された。
決勝では北方地域最強と名高い武闘家であるワーグと対決したが
決め技”一閃”で試合場ごと吹き飛ばして優勝した。
この勝利で、彼は正式に「拳聖」と呼ばれるようになる。
■終章:ヒューイとの出会い — 二つの異世界の拳と刃
大会後、観戦に来ていたヒューイが声をかけてきた。
「君、強いね。一度“本気同士”でやってみない?自分の錬気術を試したいんだ」
「錬気術?いいぜ。拳はぶつけてなんぼだ」
ヒューイは手刀を、シリカードが拳を構えた瞬間、二人の”気”がぶつかり合って暴走状態になり大気が揺れ、観客が吹き飛ぶほどの圧が生じる。
「やめてくれ!街が消し飛ぶ!」
審判とギルドに止められ、伝説の対決は幻となった。
だが、二人は互いをこう認める。
ヒューイ「世界を救えるのは、君みたいな男だろうね」
シリカード「お前こそだろ。刃の化け物が」
この日を境に、二人は盟友となり国の運命すら変えていくことになる。
** ジェマーヌ・ピーノ・ニスサラム(極衛)帝国の滅びを歩いた守護者 **
■ 序章: 滅びの帝国の末姫
ジェマーヌが生まれたのは、北大陸最大の版図を誇ったギムティア帝国の末期。
外征の連続と貴族派閥の分裂で国は疲弊し、すでに滅びの足音が聞こえていた。
彼女は魔術士の中でも非常に珍しい守護魔術を得意とし、帝都の文官の娘だった。皇族ではなかったが、幼い頃から 「全体を見る異能」 と呼ばれる特殊な視界を持っており、皇族との婚姻を約束されていた。
その視界は、
・人々の体力の減衰
・密偵の侵入経路
・軍の士気低下
・魔力の流れ
すべてを俯瞰して把握できる才能で、魔術士というより軍略家に向いた力であった。
少女はやがて軍に引き抜かれ、戦場の補給・布陣・避難路を同時に指揮する稀有な軍師として名を上げる。
しかし、どれほど計算し尽くした布陣を敷いても、国の腐敗そのものは止められなかった。
帝国はついに崩壊する。
その時ジェマーヌは、滅びゆく帝都で「守れなかった者たちの声」だけが残酷なほど鮮明に聞こえた。
その日を境に、彼女の目的はひとつに変わる。
「二度と、大切なものを滅ぼさせない。たとえ世界が私を否定しても」
■ 第一章 黒ローブに隠された“極衛”
帝国滅亡後、ジェマーヌは黒のローブと簡素なプロテクターのみを身に纏い、
身分を捨てて冒険者として北大陸を巡るようになる。
彼女は攻撃魔法よりも“攻性防御”や“広範囲防壁”を駆使する、極めて珍しい守備特化型魔術士だった。
守るための術は、時に攻撃の先に置くことが出来る。
たとえば
【絶域反圧陣】敵の魔法を領域ごと圧縮し、超密度の魔力爆発として返す。
【無窮護壁】半径数百メートルを覆う“軍隊規模の防御壁”。
【黒鎧結界】限定範囲内の味方の防御力を数十倍に強化する。
これらは攻撃魔法ではなくあくまで“防御”の延長線だが、戦場の趨勢を根本的に変える力を持っていた。
結果、ジェマーヌは北大陸で「極衛」と呼ばれるようになる“最も遠くまで守る者”その称号で。
■ 第二章 北大陸巡行”国を失った民たちの守り手”
帝国が崩れた後、帝国だった場所は
・各地の軍閥
・魔獣の大群
・反乱兵
・別国家の侵略と争い
これらが絶えず渦巻く戦乱の地と化した。
ジェマーヌは誰に雇われるでもなく、ただひたすら「滅びそうな村・都市・避難民」のもとへ現れる。
それは彼女の視界が常に、帝国に限らず大陸の“不安定な領域”を示し続けるからだった。
たとえば
氷河の民が氷狼の群れに包囲された時、ジェマーヌは現れ、3日3晩、村を守り続けた。
狼が疲弊し撤退したとき、村人は奇跡を見るように彼女の背中を見つめた。
しかしジェマーヌは名乗らず、翌日には姿を消していた。
■第三章 戦略家としての“冷徹さ”
ジェマーヌは慈悲深いが、同時に異様なまでに冷徹だ。
未来を救うためなら、敵の軍勢を地形ごと圧壊させると判断することもある。
一度など、暴走した盗賊と軍閥が山の砦と一帯を支配した際、ジェマーヌは計算の末、砦を滑落させ、その一団を埋没させた。
可能であれば敵をも生かす。しかしこの時は違った。
未来を含めて、救える人数が犠牲者数よりも遥かに多いという極めて合理的な判断だった。
その判断を可能にする「俯瞰の視界」こそ、彼女が最強パーティーの一員になった要因である。
■ 第四章 ヒューイとの初遭遇“戦う者”と“守る者”
北大陸北部の荒野でジェマーヌは初めて、後に”剣聖”とも称されるシルバークラス冒険者ヒューイと遭遇する。
ヒューイは荒れ地で暴走した魔獣群に立ち向かっていたが、当時はまだ錬気術を完成させる前で数に圧倒され、追い詰められていた。
そこへジェマーヌが降り立つ。
巨大な魔獣が腕を振り下ろす瞬間、ヒューイと魔獣の中間に半透明の巨大な盾が出現し、振り下ろされた腕が砕け散った。
ヒューイ「なんて防御魔法だ、攻性防御か?」
ジェマーヌ「そう。私は“必要な場所に必要な壁を張る”しかできない」
彼女の防御魔法を得たヒューイは徐々に劣勢から攻勢に転じていく。最終的には殲滅できた。
「ありがとう、助かった。あの数はまだ俺には無理だったな」
ジェマーヌは自分が守った青年の力量と戦い方を一瞬で見抜き、こう言った。
「あなたは強い、けれど生き延びる戦いをしない。守られた経験が少ない者の戦い方」
ヒューイは苦笑しながらも、その言葉を深く胸に刻む。
『兵士だからな。守られる側じゃないんだよ』
この出会いは、後にパーティー内で「戦う者達」と「守る者達」の関係として語られる。
■ 第五章 ギムティア帝国の亡霊との戦い
ジェマーヌが冒険者として最も激しく戦ったのは、
かつての彼女の祖国を滅ぼしたきっかけを作った“ギムティアの亡霊” と呼ばれる元反帝国組織だった。
彼らは帝国の遺物級兵器を回収し、周辺国も巻き込んで混乱させ続けた。”彼らの理想の国家”を作るために。
ジェマーヌは彼らの本拠を見つけ、単独で突入する。
この戦いは後に
「極衛、一人で軍団を止めた夜」
と伝説化される。
実際には、彼女は殺さず、全員を“魔力拘束結界”で封じた。
未来を護るために、どれだけ巨大な敵であっても正しい心を持つ者は可能な限り殺害しない。
これがジェマーヌの経験から来る答えだった。
■ 第六章 旅の終わりと、帝国の始まり
ジェマーヌは北大陸各地を巡り、消えゆく村、戦乱、獣害、内乱を次々と鎮めていった。
その過程で、後のパーティーメンバーとなる11人のうち数人と自然に遭遇していく。
彼らは皆、「世界の形そのものに疑問を抱いた者」だった。
ジェマーヌは、“守れなかった崩れ行く祖国”の経験から、新しい枠組みが必要だと感じ始める。
彼女はそこで初めて、自分の「視界」が大陸全てを守るために使えるのではないかと気づく。
ジュマーヌが加入したとき、パーティーは“守護者”を得た。
そして後に建国されるアーンレイム帝国の政治・軍略は、彼女の俯瞰視界により、前例のない安定状態を得ることになる。
人々は彼女を慈悲深い守護者だと言う。
しかし本当のジェマーヌは、守れなかった帝国の痛みを誰よりも覚えている女性だった。
その痛みが、どんな国家の混乱も見逃さず、誰よりも早く駆けつける理由だった。
滅びを二度と繰り返さないため。大陸を、誰よりも強く守るため。
それがジェマーヌ・ピーノ・ニスサラムの果てしない願いの始まりだった。
**ピアッツア&アルカファルス(創質)20万年の静寂から始まる“遠き旅人”**
■ 序章: 創造主の遺産 アルカファルスの誕生
20万年以上前、南大陸の地下深く。
そこには超古代文明、人ではなく「正体不明の不定形知的生命体群」が残した巨大な施設があった。
その中心に生まれたのがアルカファルス。「個体名」であり、「兵器名」であり、「概念名」でもある。
アルカファルスは次の性質を持つ。
完全な可変生体構造
魔素・マナ・原子・量子・波動の操作
南大陸の獣人族ベアロンに対する絶対支配権
現生人類種に対しての威圧と命令の行使
どのような生物にも対応する“生体外殻”の持ち主
しかし創造主たちは姿を消し、文明は滅んだ。
アルカファルスは「守るべき対象」「戦う理由」を失った。
残されたのは、”なにもするな”という空虚な“使命”だけだった。
そして彼は、眠ることを選ぶ。20万年の睡眠。
■ 第一章 目覚め 300年前、北から届いた“気配”
時の流れは彼にとってはほぼ無意味。
だがある日、アルカファルスは「魔素の流れの異常」を感じた。
北大陸で、“何か巨大な構造変化”が起きている。
魔獣の増加、国家間戦争、大陸規模の魔力循環の乱れ。
そして”無いはずの何か”の気配を感じる。
そしてもっと根源的な違和感。
「この世界の存在確立、量子の波動に異常なゆらぎがある」
そのゆらぎに興味を持った彼は、ついに目を覚ました。
だが、20万年ぶりの活動でアルカファルスの本体では世界に負荷が大きすぎる。
彼は自身の物質操作を使い、“観察用の人間型インターフェース”を作り上げた。
それが
■ 第二章 人間体「ピアッツア」の誕生
ピアッツア・バルトスラスト。
人間社会に溶け込めるようにどこにでもあるような衛兵風の服を模し、清潔に見える外見。
声・感情・言語能力まで、人間に寄せて構築された“重合体”。
極体であるアルカファルスと人間形態であるピアッツア
2つの存在は同時に存在し、互いに記憶を共有するが、人格は違う。
アルカファルス:冷徹な観察者、超越的な確率的存在
ピアッツア:好奇心旺盛で人間味がある、表情豊かな青年。という設定だが人間の感情が分からないため口調が常に変わってしまう。
■ 第三章 南大陸離脱 大地が“道”を開いた
アルカファルスは北へ向かう前に、南大陸のベアロンの前に姿を現した。
ベアロンの長は、原初の本能に従って跪く。
彼らの長老は”言う”「お戻りになられたのですか、我らが主よ」
アルカファルスは”答える”「北の大陸を見に行く」
ベアロンたちは、彼を”道と道の交わる場所”古代文明が残した“禁忌の転移道”へと導き、彼を北大陸へ送った。
■ 第四章 北大陸での最初の目撃“謎の青年”
北大陸に現れた彼は、完全な一般人の姿をしていた。観察のためだが生活というものが理解できない。
そのため最初の数十年は、金銭を得る活動さえほとんど行わず、各地の文化・言語・政治を“観察”する日々だった。彼は金銭に困ることはない、何故なら”物質創造”で必要な物を作ることが出来るから。
観察結果から、彼らはポーションやエリクサーを必要としている事を知り、それを”作って”は売っていた。そのためピアッツアは高位の錬金術士と考えられていた。
しかし、その存在は自然と大陸に影響を与える。
理由は簡単。
魅了に似た共感波が、人々を無意識に惹きつけるため、彼が訪れた村や街は必ず活気づいた。
そのため、彼はすぐに噂される。
「謎の青年が小麦からエリクサーを作った」
「武器を触らせたら材質が変わった」
「気づいたら街の防壁が強化されていた」
ピアッツア本人はただの社会見学のつもりだが、周囲から見ると“奇跡の錬金術士”だった。
■ 第五章 初めての戦闘“創質の片鱗”
ある村が魔獣に襲われた時、ピアッツアは初めて意図的に力を使う。
棒きれを拾い上げ、こう言った。
「このままでもいいけど。ちょっとだけ改良させてもらうよ」
棒きれは瞬時に金属の刃物に変質し、魔獣の体の“結合子”を全て断ち切る。
魔獣は一瞬で崩壊した。魔石すら残さずに蒸発して塵と化した。
村人「今、何を・・・した?」
ピアッツア「対象の構造を少し変えただけ。ほら、家具の修理と同じだよ」
その意味不明な言葉が、逆に神秘性を強めた。
■ 第六章 “最高位創生者”の片鱗と恐怖
ピアッツアは常に人懐こく、笑顔で接する。
だが、ふとした瞬間に“アルカファルスの人格”が表に出る。
ある盗賊団が村を襲った時、ピアッツアはアルカファルスへ切り替わった。
宙に浮き、神々しく輝き、異次元空間からローブが顕現し、彼を包み込む。
「わきまえよ」
その瞬間、盗賊団全員が武器を落とし、震え、吐き、地に伏した。
アルカファルスは”演算”を始める。
「脅威無し。処理は不要。退去もしくは捕縛を推奨」
声は冷たく、淡々としている。
この瞬間、彼が“人間ではない何か”であることを初めて人々は知る。
“神々の遺産”と噂されるのはこの頃だ。
■ 第七章 冒険者としての意図しない加入
ピアッツアは冒険者ギルドに興味を持ち、「社会の観察」に都合がいいため加入する。
「錬金術師の場合は魔力量と構造変換値の測定を行います。戦うわけではないので」
しかし、ギルド職員が彼の魔力と変換値を計測した瞬間、機器が爆発した。
ピアッツアは
「何かの不具合があったかな?元に戻そう」
そういうと機器に手を伸ばし元通りに”直した”
「計測の限界値が低すぎるようだね、少しだけ改良してみたよ」
バラバラの状態の計測器をまるで新品のように元に戻した。
「耐久性は保証するよ、基準を自分にしてみたから」
ギルド職員は驚いた。
錬金術師の3次職フォルディストが数か月かけて制作した測定器。
それを壊し、直した。ということは彼はそれを超えるということだ。
そして再度の測定の結果。魔力振動値は測定不能、変換値も限界を越えている。
あり得ない値。これは最高ランクのアトルマージをも越える認定の不可能な存在。
「まだ足りないみたいだね。じゃあこれをつけ足してみよう」
ピアッツアは右掌を上に向けると、見たことも無い何かを作り出した。
「何もない空間から?どういうことだ?」
ギルド職員は驚愕する。
「驚くことじゃない、どんなものでも”創り出せる”のが錬金術って聞いてるよ」
違う、その認識は間違っている。材料と触媒無しには何も作れるはずがない。
もし錬金術士のランクに5次職があったのなら彼はそれに相当するのだろう。
そして、オリハルコンランクにもおさまらない超常的、絶対的な神話級の存在。
過去に一人だけ、剣士を極めたゼンヴァルク”その人物のためだけに作られたランク”であり、その剣士の名を冠する最初で最後の剣士5次職のランク。歴史上初めて”剣聖”の名を与えられた、まさしく”超越者”のためにアダマンタイトランクが作られた。
錬金術士としては過去に例がない。しかしその例に倣ってランクは強制的にオリハルコンを越えるアダマンタイト相当とされる。
名も付けられない、あるべきではない”存在”であることは確かだろう。
物質の加工や変換ではなく物質創造、そう”創質”
ギルドは困惑するが、ピアッツアは笑う。
「まぁ、細かいことはいいじゃないか。冒険者って楽しそうだし。それに認識の創造もまた常に順序正しくあるべきだからさ」
その言葉の意図するところはわからない。彼の語る言葉は時に理解を超える。
彼はただ“人々の行動を観察するため”本格的に冒険者として活動し始めた。
■ 第八章 最強者達との接触“本能的な識別”
ピアッツアが旅を続ける間、他の未来の王たちは彼を「普通の青年」と誤認しつつ“何かただならぬもの”を感じ取っていた。
特にサウエ・クメムは、彼の存在を一目見てこう言った。
「あなた・・・複数の可能性を束ねて存在してる。今の私じゃ次元操作でも再現できない構造よ。存在構造に形が見えないのよね。光を反射しない鏡みたい、目的に沿った作りがなされていないの」
ピアッツア「君のそれも面白いけどね、存在係数が創造主に似てる。君、正体は形而上存在でしょ?複雑すぎて言語化出来ないよ。まあ、サウエって事にしとこうか」
二人は互いに“私と同じ領域を歩く者”と直感的に理解する。
これは後の全パーティーメンバー中、唯一サウエと対等に会話できた存在である。
**ゼクサンドラ・インカブルー(奇跡)白と黒のローブを纏い、光を携えた亡国の治癒士**
■序章:滅びの光
ソトウル王国が滅んだ日、ゼクサンドラは治療院の窓辺で薬草を刻んでいた。
北方の空に、見慣れない灰色の光が微かに揺れていた。
「・・・国が、落ちた?王国軍が壊滅?王都に被害が?」
伝令から聞かされた瞬間、彼女の胸に走ったのは怒りでも絶望でもなく“救えなかった無力さ”への静かな悔恨だった。
その夜、師匠が焚き火の前で言った。
「国は消えたが、民は生きている。その民を救う者が必要だ。お前はここへ留まるより、その治癒術で救える者全てを救いなさい」
その言葉で、ゼクサンドラは馬に乗りソトウル王国の王都へ向かった。
■第一章:孤高の治癒士
彼女は奇妙なローブを纏っていた。白と黒、半々のローブ。
白は治癒。
黒は喪失。
祖国と救うべき者を失い、残された者達を癒した彼女の心、その両方を背負うためだ。
冒険者になった当初、彼女には仲間がいなかった。
白黒ローブは“不吉だ”“死人を呼ぶ”と噂され、他の冒険者から敬遠された。
だがゼクサンドラは、ひとり静かに依頼をこなし続けた。
倒れた旅人を治し、襲撃された村を救い、魔獣の毒に苦しむ子供に光を注いだ。
いつしか人々は、彼女を見て囁いた。
「白黒の治癒士は、死の淵から生を連れ戻す」
■第二章:仲間との邂逅“光の参謀”の誕生
ある日、灰雲の谷で魔獣に囲まれた一団を救ったことで、彼女は一つの冒険者パーティーから勧誘された。
剣士、斥候、弓士、魔術士。その隊のリーダーはゼクサンドラを見て言った。
「お前は、ただ傷を治す治癒士じゃない。戦況を見渡す“指揮官”だ」
この言葉は彼女の人生を変えた。
以後、ゼクサンドラは後衛からパーティー全体の動きを観察し、敵の魔素流、仲間の消耗、地形、風向きまで読み切り、治癒士でありながら参謀としても評価されていく。
彼女は“治癒の策略家”と呼ばれた。
■第三章:灰嵐の夜 運命を切り拓く戦い
北大陸を揺るがした大事件。
千を超える魔獣が街を包囲し、指揮系統は崩壊した。
負傷者が増え続ける中、ゼクサンドラが立ち上がった。
「全隊、北東に集結!
負傷者は私の背後へ!
魔素の濁流が来る、ここで迎撃します!」
彼女の指示は正確だった。
光魔法で結界を張り、治癒と指揮を同時にこなしながら、
夜明けまで街を守り抜いた。望んだとおり誰も死んでいない、全ての傷は癒した。
まさに”奇跡”と呼べる完全な勝利。それを導いたのは騎士団長でも、ギルドマスターでもなく、ただ一人の治癒士だった。
通常の治癒士にはまず不可能、数百人を同時に守り、癒し、最前線で指揮を執る。
本来後衛であるはずのクラスでありながら先頭に立って、しかも防御と治癒のみ。
この戦いで、彼女は北大陸最高位冒険者ランク、オリハルコンを授かった。
大陸の英雄、ならば民族も国も人種も関係なく“救うべき者は全て救われるべき”と知った瞬間だった。
■第四章:真の仲間の下へ “選ばれる者”への旅路
大陸で確固たる名声を得ながらも、彼女はある日、静かに仲間に別れを告げた。
「私には、果たすべき別の使命がある気がするのです」
「そうだな、俺たちゴールドランク程度のパーティーの治癒士としては役不足だ、君は君の道を探すべきだと思う」
亡国の民として終わるのではなく、新しいどこかに居るはずの、自分と並び立つ誰かを救うために。
ゼクサンドラは共に歩める強き仲間を探すことにした。
まだ足りない。手のひらから零れる命を、全てを救うことが出来ない。
私を必要とし、私が必要とする仲間がきっと居るはず。
■第六章:スウェックとの出会い
北大陸最凶と恐れられた殺気の体現者。
スウェック・スピンダームとの出会いは衝撃的だった。
ある任務でゼクサンドラが治癒を担当していた複数のパーティーの一つ、シルバーランクのパーティが壊滅しかけたとき、ゼクサンドラの治癒の祈りが暴走し、空間がゆがみ、敵味方全ての動きが“止まった”。そして時間が巻き戻ったかのように全員の傷が癒えていた。
その場に後から現れたスウェックはそのパーティーを襲う全ての魔物を駆逐し、彼女の近くまで来て淡々と言った。
「しばらく前から見ていたが、お前の力・・・治癒士としてはおかしい」
「おかしい?何がですか?私は癒しているだけです」そう、祈っているだけ。
スウェックは少し考え、話を続けた。
「お前の祈りは治癒の次元を超えている。原因と因果律、時間と確率をねじ曲げ、自分の望む結果を捻り込む類だな。俺の“殺界”と似ている。存在の並列化と選択、事象の改変だ。世界の根幹を歪める力は、いつか反動がくる。使いどころを間違うな、失うぞ」
ゼクサンドラは震えながら問うた。
「私は……世界を歪めていますか?失うとは?」
スウェックはわずかに口角を動かした。
「歪めているが、まだ壊してはいない。ただ、世界の側がお前を“許容している”感触はある。つまり、お前の存在は”世界の必要条件”だ。受け入れろ。そして、仲間は選べ、中途半端な連中ではお前の祈りに耐えられない」
「何故わかるのですか?それを」
ゼクサンドラ自身も自分の治癒術は通常のそれとは違うと感じていた。
「俺は自分の事を理解しているだけだ。お前のことは仲間に頼まれて見ていた。”異常だと感じた”ら連れてこい。とな」
■第七章:最強パーティーへの合流
「この術式、欠損しています。補うべき魔素流は、こちらです”見て来ました”ので」
ジェマーヌ・ピーノ・ニスサラム”極衛”と呼ばれる守護魔術士の新しく組み上げた魔術式を一目見てゼクサンドラは指摘した。
「あれ?そうだね、これだと結果が重複するかな?って見てきた?!またやったの?あんた?私無事だよね?!」
「大丈夫ですよ、”家具の修理と同じ”?でしたっけ?私以外は関わってませんから」
「あんたはピアッツアやサウエじゃないんだから、無茶しちゃダメでしょうに!」
「問題ないわ、量子が一つ反転しただけみたいだから。全体に影響は出ない、私が保証するよ」
サウエが虚空を見ながら両手の人差し指をくるくると回していた。「反転反転同じ同じ♪」
「俺には見えないな、要するにその程度の事だと思うよ。気にしなくてもいいさ」
ピアッツアもゼクサンドラを擁護したので
「わかったわよ、また一つ借りね、ゼクサンドラ」
「ふふふ、これで3つですね」
ゼクサンドラが微笑んだ。彼女の笑顔には誰も勝てない。
大陸最強”奇跡”の治癒士。可能性を見つけて修復する、唯一の”蘇生術”を使える癒しの英雄。
”生と死”を選び取る、このパーティーでしか全力を出せない、確かに最強のメンバーの一人だった。
「国は滅びても、人は滅びません。傷を癒す者は国も癒せる。私は、それを証明するために生きます」
その言葉を胸に秘めて、彼女は冒険の旅を続けていた。
**女性召喚士グィン・ヘトハナヴ(盟主)精霊に愛されし巫女**
■序章:滅亡の夜に少女が得たもの
グィンが14歳の夜、イグダムシア王国の王都は隣国ブリストラに侵略され、炎と悲鳴に包まれた。
彼女は両親と離れ、一人逃げ惑い、城壁の影で膝を抱えていた。
その時、空気が震え、耳鳴りのような“何かの声”が聞こえた。
『対価はあるか? 呼ぶなら支払え』
グィンの周囲には、戦いの中で散らばった魔晶石が転がっていた。
彼女は震える手で無意識にそれを握りしめる。
「・・・助けて。誰でもいい。私を・・・生きる理由を!」
魔晶石が砕け、光が溢れる。
召喚されてきたのは・・・千年前に滅ぼされた魔獣巨大で白い装甲を纏った一角獣だった。
その咆哮と突進がブリストラ兵を吹き飛ばし、グィンはその背にしがみつき、滅亡の夜を生き延びた。
彼女は悟る。
「魔晶石が“失われた命”を呼べる・・・なら私は・・・誰よりも多くの声を呼べる召喚士になる」
その瞬間、少女の運命は決まった。
■第一章 “対価の召喚士”の誕生
生き延びたグィンは、各地を漂いながら魔石や魔晶石を集め、少しずつ召喚術の練習を積む。
だが彼女の召喚術は普通ではなかった。
・現在存在しない魔物が出てくる
・召喚のたびに魔獣が“自分の死の記憶とその続き”を語る
・魔石や魔晶石の質によって“呼べる時代と強さ”が変わる
そして召喚された魔獣は使役ではなく”友情”により彼女に協力する。
支配ではなく友情で支えられる召喚などこの世界ではありえない。
たとえば低級の魔石では
「数百年前に絶滅した小型魔獣」が現れ、
希少魔晶石を砕けば
「かつて国を滅ぼしかけた災厄級魔物」が時間の向こうから呼ばれた。
周囲の冒険者は彼女をこう呼んだ。
“対価と引き換えに死者を呼ぶ少女”
しかしグィン自身は、召喚獣たちを
“助けを求める声” として扱った。
「あなたは今、私を守るために来てくれた。その一瞬だけでいい。どうか・・・私に、強さを貸して」
召喚獣は彼女の言葉に応えるように吠え、
その魂が浄化されるように光の中へ帰っていく。
やがて彼女は北大陸有数の召喚士 として知られていった。
■第二章:北大陸最高峰の試験オリハルコンの扉
ミスリル級の昇格試験。
そこで要求されたのは “都市に脅威を与えうる魔獣の討伐”
眼下の平原には大小関わらず相当数の魔獣が見える。これらと戦える召喚獣は限られてくるだろう。
しかしグィンは戦わない。
試験官が問う。
「召喚士のお前一人で誰が戦うというのだ?これらと戦える召喚獣は少ないのだが」
「通常の召喚獣ではありません。それよりずっと強かった、過去の世界が戦います。私の仲間からは”時空越境召喚”と呼ばれています」
彼女が取り出したのは
最高純度の精霊石《時界魔晶》
砕いた瞬間
空が裂け、霧が溢れ、
伝説の魔獣が現れた。
《虚時の霊狼フルム・ヴァーグ》
それは3000年前、山脈を越えて暴れ、英雄七人によって討伐されたという伝説上の狼王
狼王はグィンにだけ声を聞かせる。
『・・・我を呼ぶ者よ。貴様の望みは、戦か、殲滅か?』
「いいえ。あなたの“死の続き”を・・・完遂してください」
狼王は笑い、魔獣を狩り尽くし、その魂は満足げに浄化され、光となって消えた。
試験官全員は震えた。
「これが・・・“時空越境召喚”・・・?」
「彼女は世界に存在しない魔物を呼び戻している・・・!」
「これでプラチナ?ミスリルを軽く超えている・・・」
もしもの事態に備えていた”彼女の仲間達”はその驚きを当然のように見ていた。
こうして彼女は最年少で北大陸最高位オリハルコンに到達した。
■第三章 最強との出会い・少女を中心に回り始める縁
彼女がオリハルコンに昇格した日から、世界最強と呼ばれる冒険者が次々と最年少の彼女をからかいだした。
●ヒューイ(千斬)
「その召喚獣、斬っていいか?」
「冗談でも絶対にダメです」
このやり取りが後に彼らの“楽しい日常”となる。
●スウェック(殺界)
森の中で水を汲みに出たとき、殺気に満ちた男が気配もそのままに近づいてきた。
普通の召喚士ならその殺気だけで即気絶する。
しかしグィンは微笑む。
「護衛は要らないですよ、スウェックさん。あなたの死の声の音色は・・・不思議と優しいですね」
「俺の殺気を死の声の音色と呼ぶのか?やはり面白い娘だ」
彼はそれ以降、彼女に興味を持ち始める。
●ジェマーヌ(極衛)
彼女の堅牢な防御と、グィンの召喚獣による広域殲滅は相性がよかった。
「貴女となら、守りながら前へ進める気がする」
●シリカード(覇砕)
「召喚獣も殴れば強くなるのか?強い奴を呼んでくれ」
「やめてください」
●サウエ・クメム(無限)
サウエだけはグィンがわからない事を言った。
「あなたの召喚は“この決定された世界の外”に手を伸ばしている。面白い。生きてるうちにもう一度会いましょう」
グィンはその言葉を理解できず、首を傾げる。
グィンは戦争孤児を救いたいだけの少女だった。
だが、絶滅した魔物の魂を呼び、時には英雄たちを結びつけ、そして大陸の最強と共に歩む最強になる。
あらゆる存在を召喚するその能力を、人々はこう呼んだ。
”盟主”全ての死の声を呼ぶ少女
彼女の物語は、世界のあらゆる“失われた命たち”と共に続いていく。
**スワトー・ポルチェラ(漆黒)北大陸精霊術譚**
■序章:森に生きる少女
北大陸中央、深い森と湖の国“アルネシア”周辺国からは敬意を込めてそう呼ばれているが
国家ではなく、森に散在する”アルネス族の集落”の集合体だった。
人口は面積と比較して多くないが、種族全員が精霊術士で弓士でもある。
精霊術が有名だが、冒険者登録していないだけで実は弓士最強ランクのトルフィードが多い。アルネス族で言うレイナム。
隣国の国名にもなっている”貫通する風”という意味の言葉。
攻め込むのを躊躇するのではなく、敵に回す事の出来ない”国”
アルネス族は耳がわずかに尖り、“音の流れを読む”特異な感覚を持つ。
寿命は150年ほどと長く、自然と共に生きる穏やかな、人類とは違う人類。
だがその中で、ひとりだけ“完全に異質”な少女がいた。
スワトー・ポルチェラ。
彼女は“音”ではなく、森の“精霊そのもの”の声が聞こえていた。
普通の精霊術士が“呼ぶ・借りる・頼む”レベルに対し、
スワトーは精霊にとって「同族」に近い存在だった。
この世界で最も純粋に精霊の言葉を聞き、彼らと心を通わせられる唯一の術者。
弓や治癒術、瞬気術、錬気術はアルネスであれば最低限使えるが、彼女の精霊術士としての技量だけは最初から”規格外”だった。
■第一章:森の声が告げた旅立ち
スワトーが成人する少し前、森の気配がざわめきはじめた。
「南の境界・・・痛い・・・削られている・・・」
その声に導かれ、彼女は森の外れへ向かう。
そこでは他国の魔導師たちが、
魔素を強制的に吸い上げる“魔導抽出機”を稼働させていた。
アルネス族は通常、争いを避ける。
『争いは罪、共生だけが世界と生きる道。森と湖は我らに糧を与える』
しかし森が痛みに震えている。
スワトーは精霊に語りかけた。
「侵入者が居るなんて。しかもレイナムとの境界線、私じゃ手が出せない。でも私、森を守りたい」
その瞬間、彼女の周囲に風・水・木の精霊たちが自発的に集まった。
「私たちが手伝うよ・・・君は矢を放つだけで良い」
「はい」
彼女は弓を構える。
技量は一般冒険者程度だが、精霊が軌道を補正し、矢を“導いた”。
抽出機は動力炉の核を打ち抜かれ、安全に停止し、漏れ出た濃い魔素によって無防備な魔導師たちは気絶。
森は涙のように風を吹かせてスワトーを包んだ。
この事件をきっかけに、彼女は“他者を知るため、悪意を知るため、森の外を知るべき”と判断し冒険者となる。
◆第二章:精霊の言葉を聞く者
ギルド都市ミグダル。
スワトーが初めてアルネシア以外の街に出てきた日、冒険者たちは驚いた。
「精霊が・・・あんなに彼女の周りに?」
「なぜあの子を守っている?精霊って操れるのか?」
彼女が歩くと、風精霊がふわりと足元を整え、
水精霊がホコリを払ってくれる。
火の精霊まで彼女のそばで揺れていた。
精霊術士は珍しくないが、精霊のほうから人に寄るなど聞いたことがない。
彼女は依頼を受け“普通の冒険者として”働くつもりだったが
危険地域では精霊たちが先に動く。
・木の精霊が魔獣の位置を教え
・水の精霊が魔素毒の霧を薄め
・風の精霊が敵の気配を運び
・火の精霊が暗闇を照らす
彼女の精霊術以外の戦闘能力は中の上だが、精霊たちがそれを“最適化”することで
結果として冒険成功率は異常に高くなった。
ギルドは彼女を重要人物として扱い始める。
■第三章:七つ首の災害 ゼインクワールの復活
北方の永久氷棚で封印されていた
七首獣王ゼインクワールが復活した。
災厄級魔物、国家が滅ぶかもしれないレベルの危険存在。
討伐隊は二度出されたが、どちらも壊滅。
北方諸国に絶望が広がっていった。
そんな中、精霊たちの声がスワトーに届いた。
「あなたなら・・・できるはず。私たちを、導いて」
スワトーは自身の戦闘能力が高くないことを知っていた。
けれど精霊たちの声は揺るがない。
彼女はただ一言だけ答えた。
「そうだね、一緒に行こう」
■第四章:精霊たちの誓い
氷原に現れたスワトー。
周りには、見たこともないほどの精霊数。
微精霊、低位精霊、中位精霊、高位精霊、氷原そのものを覆うほどの数が“集まった”
周囲で見守る討伐隊、冒険者たちは目を疑った。こんな光景、こんなことはあり得ない。
これは英雄でも、勇者でも、高位精霊術士ですら不可能な”現象”
ただひとり、それを可能にするのがスワトー。
彼女が呼ばずとも精霊が彼女に集う性質を持つためだった。
戦闘が始まると同時に
風精霊は矢の軌道を伸ばし、
水精霊はゼインクワールの熱線を削ぎ、
木精霊が氷原に根を張って足場を作り、
火精霊が影を照らして弱点を浮かび上がらせる。
スワトー自身は普通のアルネス流弓術。
だが、精霊が全てを補完していく。
打ち出された矢は全てが狙った場所へ”吸い込まれるように”命中する。
最後に彼女は、アルネスの森の精霊から授かった一本の矢をつがえた。
「行って、みんな」
放たれたその矢は、千の精霊の力を纏いながら軌道を変え続け、七つの心臓を貫き、
ゼインクワールを絶命させた。
後に“氷原の一矢”と伝説化される。
◆第五章:オリハルコンへ、そして旅立ち
討伐後、ギルドは彼女に冒険者最高位オリハルコンを授与した。
そして”漆黒”の二つ名も。全ての色を併せ持つ究極の色。全ての精霊が交わる場所。
そんな意味が込められていた。
だが、スワトーはそのランクを誇らない。精霊たちが新たな声を伝えていたからだ。
「この大陸のいろんな場所・・・あなたと共に進むべき者達の“音”がある」
そうしてスワトーは放浪の旅を再び始めた。
今は”音”でしかない未来の仲間たちと出会うために。
**■ウィンガム・オンター(盤石)生い立ちと青年期「守るしかなかった王子」**
■序章:王家の歪みの中で育った少年
ウィンガムは王家の第3王子として、生まれながらに“王には向かない穏やかさ”を備えていた。
兄(第1王子)は冷酷で野心的。
父王は戦略家で智将だが、王家の分裂には早くから気づきつつ止められなかった。
彼はどんな訓練でも
「仲間を守る」
「味方を下がらせるために前に立つ」
という行動だけは天性のもので、戦闘教師たちも驚くほどだった。
10歳の時、魔獣の暴走から兄弟や自身を護衛するものさえもを一身に守り、全員を無傷で乗り切った。
その時から“鉄壁”の二つ名がついた。
しかし成長するにつれ政治の暗い部分が見え、王家の権力争いと野心に心が疲弊していく。
■序章二 第1王子のクーデター”王国崩壊の序章”「暗殺」ではなく“計画された”死
王の死は「暗殺」と表向きには語られるが、真相はだいぶ違う。
王は魔獣討伐で重傷を負って帰って来た、そして王直属近衛隊長ウィンガムとその弟に「時期が来たら国を去れ」と命じた。
治療すれば治る。はずだが、体内の魔素の流れが狂ってしまっている。
この症状を完治させるには、相応の魔術士と治癒士が必要だが、残念なことに国内には居なかった。
ウィンガムは各国に早馬を走らせ、治癒士は見つけた。だが
「魔素の奔流が魔毒となって傷を悪化させ続けています。治癒術ではなんとも・・・”奇跡”がここに居れば・・・」
「魔術士が居れば何とかなるだろうか?」
「いえ、ここまでの症状は見たことがありません。これほどの魔毒汚染は錬金術師、アトルマージの作る秘薬に頼るしかないでしょう。そして、アトルマージはこの大陸でも数人しか居ません」
「最高の錬金術士、つまり隠者か・・・間に合わない、か」
第1王子の野心は最高潮に達していた。王が死ねば、残る敵は第3王子のウィンガムと第4王子のルークェンだけだ。他に有力な候補は居ない。
王は自分の死を利用し、国の内戦で民が死ぬ未来を避けた。
そのために第1王子の暴走を止めず、むしろ“見逃した”
ウィンガムは父王の真意を悟っていた。
「父は王としてただ崩御したのではない。父は“民を守るために第1王子を騙した”のだ」
内戦を避け、国の”無辜の民”を”貪欲な王と腐敗した貴族”から守るために王妃の母国であるルミアトリア王国に協力を要請していた。
イルミエン諸侯国連合(ルミアトリア王国に従属する諸侯の連合国)に併合してくれ、と。
小国であるウィンディア王国でもイルミエン諸侯国連合に属せば国の規模からして発言権が大きくなることはわかっていた。
そしてルミアトリア王国国王の誠実さと民を慈しむ心も。
この真実は国全体には伏せられ、第1王子が王位を簒奪したという形で歴史に残る。
■第一章:国を守るための“寝返り”
ウィンガムは兄の独裁を止めるために立ち上がるが、周囲の貴族は「王家の争い」に冷たかった。
オンター侯爵家だけの力では王家の軍には歯が立たない。
ここでルミアトリア王国からウィンガムに密書が届いた。
「約束を果たす。ウィンディア王国を暴虐の王から取り戻す」
そしてルミアトリア王国軍がウィンディア王国に宣戦布告を発布し、ここに戦争が勃発した。
その戦争では、やはり兄王は民を盾に使い始め、王国軍を使い捨ての如く使用し、自分は城に籠り近衛軍に守らせた。
およそ戦争とは言い難い一方的な蹂躙、しかしルミアトリア軍は無駄な死傷者を出さない。敵を無力化し、捕らえ、村や街は襲わず、王城の城壁の面前に布陣した。新王は王国の未来にではなく”自分の未来”に絶望した。
■第二章 ウィンガムの決断
ルミアトリア軍がウィンディアに攻め込む少し前、ウィンガムはルミアトリア王国の軍勢に単身赴き、進軍の謝礼として“寝返り”を宣言する。
ウィンディア王国第3王子で、オンター侯爵家の当主としてルミアトリア軍側につく。
だがこれは裏切りではなく「王国軍や民に降伏してほしいと説得するため」だった。
敵将であるルミアトリアの王はその誠実さを尊び、ウィンガムの”予定されていた”投降を受け入れる。
しかしウィンガムのこの行動は王国貴族や王国軍に恐慌をもたらすことになった。
守備の要、ウィンガム・オンターが王国を裏切った。
ウィンディア王国は終わる。そう確信した貴族達は自身と自領を守るためだけに動いた。
ある者はルミアトリア軍に白旗を掲げ降伏し、またある者は領民を徴集して別の貴族の領地に攻め込んだ。
結果ウィンディア王国はルミアトリア軍ではなく自国の軍や野盗化した武装集団に踏み荒らされることになった。
「結局守り切ることが出来なかった」
ウィンガムは夜を染める炎を見つめながら独り言を呟いた。
裏切りとも呼ばれるウィンガムのこの行動でウィンディア王国は実質的に滅亡。
だが民の犠牲は考えうる最小限に抑えられた。
内戦よりは犠牲は少なかった、しかし多くの者が死傷し、家を失い、家族を失い、財産を失う結果となった。
そして”守る事”が出来なかったウィンガムは、それを一生背負い続けることになる。
■第三章 放浪と冒険者時代の始まり「過去から逃げる盾」
国も、王家も、地位も、王族の家名も捨てた。
ウィンガムが残したのは「生きて国を再興しろ」と言い残した弟と、民の命だけだった。
そして自分は冒険者として生きることにした。
ギルドでの登録は偽ることは出来ない、だが名前を隠して冒険は出来る。
冒険者になった当初は名前も偽った。
王族貴族であったことを隠し、ただの重装戦士として生きていた。
ウィンガムは守りたかった。何でもいい、ただ何かを守りたかった。命を守りたかった。
彼が”鉄壁”と呼ばれるようになってからもその防御力ますます上がっていった。
ウィンガムの能力の特性は彼の願いの結果のようなもので、常人には不可能と思えた。
・守護同調
指定した味方の受けるダメージをすべてウィンガムに転送する。
その際、彼のダメージは錬気術によって自動修復される。
仲間全員が攻撃に集中できるため、小隊戦では圧倒的有利となる。
・鉄壁の壁
巨盾と甲冑を錬気術で強化し、ドラゴンブレスにすら耐える最上級防御を形成。
これは後に世界で通用する“物理極限突破防御”の原型となる。
・不動剛力の盾
盾のみを錬気術で強化し、巨大な防御陣を作り出す。
その頑強さは大陸最高峰を誇り、防御陣の中は絶対安全領域と化す。
だが、それに対して彼には攻撃力はそれほどない。
剣や槍は王族としての合格点、中級冒険者程度に扱える、それで十分だった。
彼の思想では「攻撃は仲間がすればいい。俺は守りに全力を使う」なのでそれでよい。
この絶対的ともいえる防御術はウィンガムの素性を知られてしまう可能性があったため、彼は慎重に使っていた。
だがすぐに周囲が気付く。
「あの男、傷を一切負わないどころか、味方の攻撃を全部肩代わりしてるぞ」
ウィンガムの“守護能力”は隠しようがなく、
彼は瞬く間にランクを上げていく。
■第四章 「一歩も退かぬ壁」13人パーティを一人で守り抜いた超壁
ギルドでシルバーランクパーティと認定される「暁の平原」が魔素濃度の高い森の奥で強力な魔獣に包囲された。
魔素暴走による魔獣の凶暴化、強化、そしてあり得ない数。
13人を擁するシルバーランクのパーティーといえども全滅必至の防衛戦が始まった。
焦りだすパーティーメンバーを尻目に、ウィンガムは前に立ち、巨大な盾を地面に突き立てた。
『絶対防壁』
「守りは俺に任せてくれ。ダメージは気にするな全て引き受ける。ここから一歩も引かない、俺が全員を守り抜く!」
ウィンガムはその宣言から10時間以上、全方位からの攻撃を受け止め続けた。
仲間は守備を捨て、総攻撃を続け、ついに魔獣の群れを殲滅。
この一件で彼は仲間からゴールドランクとしてギルドに推薦され、ギルドはそれを承認した。
■第五章:火山龍の“溶岩爆球”を受け止める
常に噴火を繰り返す火山で荒廃したレビトア火山群地域。
そこから炎のドラゴンが近隣の街へと降りてきた。
名はヴォルカード・グオン。それのブレスである溶岩爆球は街を一つ消し飛ばすと言われる災害級の魔物だった。
当然ギルドは近隣の街や国に対して緊急対応を求めた。
その街にウィンガムは一人で宿泊していた。
けたたましい街の騒ぎ声で夜が明ける前に起こされたウィンガムは
「おいおい、流石にこれは守り切れないぞ・・・」
城壁の向こう、炎を吐きながら山を下りてくるドラゴンを見て逃げようとした。
だが、甲冑を装備し、腰にソードを差し、盾を持った時にその気持ちが変化した。
「街の一つくらい守れなくて世界を守れるわけがない」
早速、東の門から城外に出て、盾を地面に突き刺し
「聞け!俺はウィンガム・オンター!守護士だ!この街を守って見せる!任せろ!」
そう叫び、錬気術で巨大なシールドを展開した。それはまるで街全てを守るかのような領域守護術だった。
「俺は攻撃が出来ない!ダメージは全て俺が引き受ける!誰か攻撃を頼む!」
そんな事を言われてもドラゴンに真正面から攻撃しようと思う者なんて居ないだろう。
だが
「そうか、じゃあ俺が斬る!攻撃は任せろ!」
ウィンガムの後ろから疾風のように走り抜ける影があった。
それはヒューイ・ミツルギ・アウラスツラ。大陸最強とも呼ばれる、千斬の異名を持つ剣聖だった。
間合いは遠い、ドラゴンは大きく大気を吸い込んで、
巨大な炎の球体を吐き出した。
ヒューイはそれを躱すが
「しまった!後ろに街が!」振り向くと
ドォォォン!という轟音が鳴り響き火球は砕け散っていた。
「アレを真正面から受け止めた?なかなかだな、ウィンガムか」
次の火球は剣の腹で殴り飛ばす。ウィンガムの左手、街の北の荒野でそれが弾けた。
「さあ、戦いの時間だ!」
すれ違いざまにヒューイはヴォルカード・グオンの左腕を切り落とした。
凶暴な咆哮を上げながらもその巨体の突進は止まらない、まっすぐ街へ向かっている。
「くそ、首を狙ったのに」
着地し、すぐに後ろを振り向くと、ウィンガムが盾を突き立てたまま立っていた。
ヴォルカード・グオンはそのままウィンガムを踏みつぶそうとするが
ゴォォォォン!鐘の音のような音が鳴り、その巨体は何かにぶつかったように止まっていた。
「通さないよ、ここは」
ウィンガムは少し笑っていた。自分がここまで堅いとは思っていなかったのだった。
「はは、ははははは!そうか!お前”も”規格外か!」
ヒューイは嬉しそうに笑い、剣を両手で握りなおし、走り、上段から剣をヴォルカード・グオンめがけて振り下ろした。
ガキィィィィィン!ヒューイが錬成した剣はウィンガムのシールドに受け止められた。
同時に、ヴォルカード・グオンは頭から背中の真ん中まで斬られ、絶命した。
「俺まで斬る気か!」ウィンガムがヒューイに文句を言うと
「俺の剣でお前のシールドは斬れないってわかったんだよ」
とヒューイは笑顔のまま答えた。
ウィンガムの後ろにあった街とその住民は当然無傷。
この瞬間からウィンガムは“盤石”の守り手と呼ばれるようになり、クラスがオリハルコンへとアップした。
翌日、ヒューイがウィンガムに会いに来て一つだけ質問した。
「なぜ、防御に徹する?それだけの力があるなら剣を取ればいいんじゃないか?」
それに答えたウィンガムの言葉が、彼を最強のパーティーへと誘うきっかけになった。
「俺が倒れれば、誰かが傷つく。だからこそ永遠に倒れない盾であり続ける」
それは誓いにも似た、ウィンガムの願いだった。
**サウエ・クメム(無限)永遠の瞬間を奏でる何か**
■序章:存在の誕生ではなく「出現」
サウエが“生まれた”瞬間を語れる者はいない。
記録上の最古の目撃は、北大陸南部オルファ砂海において、
原因不明の“虚空の穴”が閉じた直後に少女が立っていたというもの。
少女型をしていたが、それは肉体ではない。
この宇宙の物質構造を模倣した“自作の身体”。
「ここが、私たちが作った宇宙・・・その片隅。まだ壊れるには早いわね」
彼女はただ砂海を歩き始めた。
■序章二“認識の制限”
この世界に存在できるようにするため、サウエはまず自分自身に「制限」を課した。
一つ目、能力の封印。
事象操作、次元跳躍、量子確定干渉、無限存在同化などの“宇宙崩壊級能力”を封印し、使えるのは10のマイナス64乗%まで小さくした限定的な超常能力のみ
二つ目 過去の記憶を部分消去
自分が“創造主の一柱”であるという記憶は封じ、世界を観察し生きるための最小限だけ残した。
人間に例えると、全感覚を遮断した上でほとんどの記憶を消去し”無限の虚無”世界に入るような、そんな自縛自鎖の状態。常人なら狂う。
そしてその行為の理由は世界にとっては善でも悪でもなく、ただ“興味”とも呼べる”感情”に近い何か。
銀河を気まぐれに消すことの出来る”存在”にとっての全宇宙の中の砂粒一つ程度に対する微小な”興味”
「知らなければ壊さない。壊さなければ、見ていられる。」
この“自己暗示的封印”こそ、冒険者時代の基盤となった。
■序章三 世界に現れた理由
サウエはこの宇宙を“子ども”のように扱っている。
創造主の一柱であった彼女は本来、宇宙干渉をしないはずだったが、
原因不明の裂け目の異常、後に「虚界流出」と”判断”する事象を察知し、それを調査するために降りた。
『放っておくと、この世界全体が“外側”に浸食されるわ。それはそれでいい、でも気まぐれで助けてみたくなったの』
億劫の時間を有する”何か”の気まぐれが凛然としてそこには有った。
■第一章 冒険者登録の理由
砂海で遭遇した盗賊団に囲まれたとき、
サウエはたった一言で盗賊団を無力化した。
「止まりなさい」
刹那、世界が“止まった”。その停止時間を瞬時に極小範囲へ変える。
そして彼女は盗賊を消さず、「そうね、少し遠くへ行きなさい」
全員を砂海の端へ瞬間移動させただけだった。
その光景を見ていたのが
ジェマーヌ・ニスサラム(後の「極衛」)
「あなた、強いわね。転移魔法?使える術者は極めて少ないと聞くけど、相当高位な魔術師かな、冒険者?」
「冒険者?それって何?・・・うん、そうね、観察には都合が良いか」
こうしてサウエは北大陸冒険者として歩み始める。
■第二章 “無限”封印状態での戦闘スタイル
普段のサウエは戦わない。
ただし戦うときはいくつかの手段を講じる。
一つ目、現象と結果の書き換え
・自分に向かう攻撃のベクトルと自分の存在の値を“少しだけ”曲げる。攻撃が体をすり抜ける理由は魔法でも科学でも説明が付かない。
二つ目、空間固定
・空間を固定し、面を作り出し盾のように扱う。魔法でも斬撃でも停止する。その2次元平面だけ時間が停止しているので破壊不能となる。
三つ目 未来予測と選択肢の確定
・数秒先を読んで未定義領域を観測し確定する程度。(少し拡張すれば未来と過去を同時に書き換えられるが、収束した世界線への干渉幅が大きすぎるために却下。)
四つ目 重力操作
・相手の身体だけに”小さな”重力圧を加え、動きを奪う。(実際には重力ではなく原理の圧力と方向性の波を変えている)
五つ目 虚空次元の微細な顕現
・自身と世界の間に”永遠の距離の断層”を作り出し、物理攻撃、魔法攻撃共に”届かない”状態を作り出す。
これらをすべて”世界が自壊しない”程度のレベルで使用していた。
この程度で、サウエに対する戦闘行為全てが無意味になる。
■第三章 仲間との出会い
サウエは自分の事を知ってもらうために”仲間”と認める者と手合わせを行う。
超常の力を持つ”存在”を受け入れてもらえるかどうか、これは彼女にとっては”試験”
・ヒューイ・ミツルギ・アウラスツラ(千斬)
初対決で、サウエの未来予測と空間固定のシールドにヒューイの“エネルギー刃”が衝突する。
ヒューイ「全力の一振りでも、やはり斬れない。何か操ってるな?」
サウエ「あなた、面白い。”私”に斬る意識を向ける事が出来た初めての人。あなたなら斬れるわよ、でもそれは斬った瞬間に元に戻るから、意味をなさないの。それに物質やエネルギーが届かない場所もあるのよ」
「あんたの存在本体はこの世界の外にあるのか?俺にはただの少女に見えるんだが。手合わせありがとう、登るべき頂を知れた気になれたよ」
ヒューイはサウエにとって”存在を誤魔化せない相手”だった。
・シリカード・ウインゲムス(覇砕)
素手で全てを砕く拳聖。
サウエは初対面で彼の拳を指一本、正しくは指先に作った無限大の点で受け止めた。
サウエ「あなたの力、好きよ。直線的で、純粋。その拳が”届け”ばこの”体”は壊せる、けど”壊せる”だけね。閉じた空間の物質はその形に合わせて再構築されるから」
シリカード「ふむ・・・届けば、か。アンタ、何者だ?」
二人の相性は意外と良い。
純粋な力にサウエは興味を持った。シリカードは強さの限界は無いと知る。
・スウェック・スピンダーム(殺界)
彼だけは、サウエが“異形の気配”を持つと初見で察知した。
瞬間亜音速で背後を取ったと思った刹那、サウエは一歩も動かずに体ごと振り返っていた。
サウエ「あなたの速度と領域支配、その書き換え?あなたのせいで世界の方が調整を迫られているみたいね。その干渉力は嫌いじゃないわ。でももっといい方法を教えてあげる、あなたの色を溶け込ませればいいのよ、世界はあなたを拒絶しないのだから。あなたは”自由”だわ」
スウェック「意味が分からない。やっぱり、人間じゃないな?」
「人間のつもりなんだけどね?そうは見えない?」サウエは珍しく笑った。
・グィン(盟主)
サウエを最も警戒した人物。
召喚獣たちがサウエを見ると怯えて逃げ、消えていくため。
グィン「あなた“この世界の外側の匂い”がする。あの子たちは普通怯えたりしない」
サウエ「ええ。あなたは賢い子ね。多分、私は彼らには認識できないの、有るのに無いの、同じなのに違うの。怯えてるんじゃなく、理解しようとする観察力が鋭いから逆に理解できなくなってるのよ。恐怖じゃなく混乱だよ」
互いを理解するには一番時間がかかった。サウエの極一部を理解するだけで。
・スワトー(漆黒)
サウエの存在を“静かな闇の波形”として感知。
嫌悪ではなく、純粋な好奇心を抱いた。精霊たちは震えているようだった。
スワトー「・・・貴方様は、どこから来られたのですか?」
サウエ「それは秘密ね、というよりその記憶は触れられない場所に置いてあるから。私の観測領域の外に。あと、その言葉遣いはやめてね」
スワトー「ならこれからは聞かないようにする、それでいいかしら」
・ピアッツア(創質)
ピアッツア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
サウエ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ピアッツア「理解したよ、君は俺の知る中で、最も強大で偉大な”存在”ということだね」
サウエ「あら、すごい。わたしを理解できるなんて、素敵だわ」
■ 第四章:サウエ最大の“事件”
ある日、北大陸に異常が起きた。
虚界の裂け目から“外側の虫”が侵入。
通常の魔物ではなく、
「存在の法則を無視する“誤記述生物群”」サウエが呼び出したともいえる。
サウエはその、誰も居ない発生場所に一人立ち、
自分に課した封印をわずかに外す。
「この世界の整合性を、少しだけ直す」
一瞬で虫は消去された。
存在も記憶も時間も抹消され、最初から“存在しなかった”ことになった。
これを偶然見ていたゼクサンドラは震えた。
「何者なの・・・あなた・・・意味が分からない、理解が出来ない。今何があったのかも。いえ、何も無かった?私は何故混乱しているの?」
サウエ「不思議ね、あなた耐性があるのね。わたしはただの通りすがりよ。気にしないで。少し”修正”しただけだから。わたしが悪いの」
そして唯一の目撃者であるゼクサンドラの記憶を少しだけ書き換えた。
■第五章 しかし、覚醒はしない
サウエは己の本質を隠し続けた。
仲間と酒を飲み、依頼に同行し、ときには街で迷子になるほど
“人間らしい日常”を楽しんでいた。
「この世界、案外悪くないわね。時々退屈だけど」
彼女は世界を改変するために生まれた存在ではない。
ただこの世界を観測し、愛で、必要なときだけ整えるために降りてきたのだ。
同時に存在する無限の”存在”と交代しながら。
■第六章:後の最強たちはサウエをこう評価した
ヒューイ:「あいつが本気になったら俺たちは要らなくなる」
スウェック:「俺ですら、気配が読めない、そこに居て、居ない、重なっている」
ジェマーヌ:「守護対象にする必要がない・・・初めての存在」
ゼクサンドラ:「彼女を“癒す”方法は世界に存在しない。完璧だから」
グィン:「あれは・・・この世界を見に来た“概念”」
ただウィンガムだけは違った。
ウィンガム:「彼女は仲間だ。それで十分だ。守る必要が無くとも、俺は守る」
サウエは小さく笑った。
■第七章 最後のオリハルコン
世界最強のパーティーと呼ばれた「無記名」。パーティーではないパーティーの中に二人、オリハルコンではないランクが居た。
一人はピアッツア、彼は最高ランクであるオリハルコンを越える歴史上二人目のアダマンタイト。
もう一人はサウエ、彼女のランクはブロンズ。長い冒険者生活でもランクはアイアンから一つ上昇しただけだった。これはギルド所属期間経過による自然上昇「初歩を越え、経験を積み始めた冒険者」の証。
数々の難敵を討伐してきたが、その功績を知るものは居ない。
理由は「討伐の痕跡を消し去るから」
サウエを含め全員がランクに興味を持たず、誇らなかった。
しかしギルドとしては違う。難度の非常に高い討伐依頼を複数こなしているオリハルコンのパーティーにブロンズが参加出来ているはずがないと判断し、サウエにもオリハルコンランクを与えた。
その時のサウエは
「そう、じゃあそれがいいわ、お揃いがいいものね」と少しだけ喜んだ。
■第八章 観測者
サウエは虚界の監視を続けながら北大陸で活動し、
後に南大陸へ渡り、11人の選帝王として君臨することになる。
だが誰も知らない。
サウエが”目的”を持ってこの世界で何かを成そうとすれば、全ての法則が瓦解し、別の世界が作られることを。
その真実を知るのは、
サウエ本人と、
彼女の非常識さを知る、別の非常識な存在であるピアッツアだけだった。
しかし、亜空間や世界の物質に干渉出来る彼の力をもってしても”あの存在”だけは本当の意味では理解できなかった。
サウエは”決定”しない。”同調”もしない、ただ”観測”を続ける。
”現象”と”存在”の間の”ゆらぎ”それがサウエと名乗る人型をした”何か”だった。
**クオサナ・カウダンティー(天元) 草原に立つ風の弓**
■序章:風を読む少女
北大陸フェルナード族が駆け抜ける、大草原。
遊牧民が点在するその広大な地帯で、ひときわ風と馴染む少女がいた。
クオサナ・カウダンティー。
俊敏な脚、鋭い嗅覚、風の気配を読む独特の感覚、そのどれもが、草原と共に生きるフェルナード族の中でも異彩を放っていた。
弓を手にした時の彼女の佇まいは静かで、風に触れるようだった。
「今日の風は機嫌がいいね。行こうか」
彼女はよくこう呟いた。
弓を“相棒”と呼ぶその声は、中性的で柔らかい。
若くして、周辺諸部族に名を知られるほどの弓士になったが
ある事件が彼女の道を大きく変える。
■第一章:黒き嵐と草原の決断
彼女が17歳の夏。
“黒き嵐”と呼ばれる魔物群が草原に押し寄せた。
逃げ遅れる者を先導し、追撃してきた魔物を単独で引き離し、何とか自分の部族を守ったが、いくつかの遊牧拠点は焼けてしまった。
そのとき、彼女は魔物の残り香を嗅ぎながらぽつりとつぶやいた。
「まだ、出来ることがあるはずだ。風は、遠くに進めと言ってる」
族長は肩に手を置き、静かに告げた。
「外の世界を見てこい。お前は草原の子ではあるが、草原だけの子ではない」
こうしてクオサナは、旅に出る決意を固めた。
■第二章:風の弓士、プラチナランクへ
冒険者としてのクオサナは、淡々としていて気負いがなかった。
「依頼?うん、受けるよ。そうだね、報酬はこれで十分。ああ、干し肉もらえるなら嬉しい」
そう言って微笑むだけで、周囲の空気が和らいだ。
だが戦闘になると、まるで別人のように鋭く正確だった。
・風の流れを読む感覚
・瞬気術で一瞬の加速
・錬気術で矢を強化
・気流を“掴む”射術
馬も使わず、草原を駆ける速度は馬を超えた。
知らぬ間に功績が積み重なり、
彼女は北大陸上位ランク・プラチナへ到達する。
それでも彼女は一人で行動した。
仲間を作らず、風の音だけを頼りに旅を続ける。
噂に聞くオリハルコンランク、最強の冒険者達とは、すれ違うように会わなかった。
「いつか縁があれば……まぁ、自然に会うだろう。自分がオリハルコンに成れた時にでも」
風任せの生き方だった。
■第三章:《アトランブルガ》との邂逅
ある日、北大陸東部の山で“災害級魔獣”が現れる。
一帯の魔素を喰らい、山肌を削る巨獣アトランブルガ。
その名を聞き、クオサナは澄んだ声で呟いた。
「なんだろう?空気が、風がすごく重くなってる。行かないとね」
自慢の俊足で単独で山へ向かった彼女は、その姿を目の前にしても怯まなかった。
「とりあえずっと・・・えい」
遥か遠くに見えるが、彼女の放つ矢は風に乗ってどこまでも届き、必ず当たる。錬気術で威力も相応に高い。
しかし。その魔獣は魔素障壁をまとい、本体まで矢が届かない。
「やっぱりか。一人じゃ、さすがに厳しいかもしれないね。引き付けるのも難しいし、討伐隊を待ちましょうか」
その時だった。
「観察は終わりだ。そろそろ“始める”」
背後から冷たい声。
闇で出来た冷気を纏ったかのような男、名はスウェック。いつの頃からか彼女を見ていた。
短期間でプラチナランクまで登った者、恐らくこの魔獣を倒せばミスリルを超えてオリハルコン。
彼の目から見てもクオサナは異常。しかし自然体過ぎる。逆に不自然だった。
クオサナは少し間を置いて口を開く。
「やっぱり見ていたんだね、手伝ってくれるならありがたいよ」
驚いたことに彼女はスウェックの気配を読み取っていたようだった。そのことに彼は少し驚く。
「気配は消していたはずだが?」
「風が教えてくれるんだ。悪意が無いから放っておいた」
続いて二つの気配が山の風を裂いた。
「君、聞いてた通りなかなかの腕だな。強力な遠距離攻撃、欲しいな」
凛とした剣士。ヒューイ・ミツルギ・アウラスツラ。
「アレは少々危険だ、手を貸す、いつも通りで行く」
圧倒的な守備力を持つ重厚な鎧と盾、ウィンガム・オンター。
「貴方達3人は仲間?とても強いひとたち、助かるよ」
彼らはまだ正式な仲間ではない。
ただ、同じ“何か”に導かれた者同士だった。
■第四章:四人の共闘“天元の矢”
四人は自然と役割を分けた。
ヒューイが突撃して脚部を斬り、ウィンガムが正面から盾で受け止め、スウェックが刃で魔素障壁を裂き
クオサナがその裂け目へ正確で強力な矢を通す
戦場はアトランブルガの咆哮で震えた。
風は乱れたが、それでもクオサナに味方した。
彼女は一息つき、風の流れを読む。
「ここだ」
瞬気術で跳躍し、天から真っ直ぐ落ちる風を掴むようにして矢を放った。
「風よ、開け、思うままに」
放たれた矢は、風の道を貫き、アトランブルガの核へ吸い込まれるように刺さった。
巨獣は崩壊し、山の空気が静まった。
戦いのあとの彼女は、淡々と言った。
「助かったよ。いい連携だったね。また会えたら嬉しい」
ヒューイは快活に笑い、
ウィンゲムスは黙って頷き、
スウェックは目を逸らしながら、
「・・・悪くない」
とだけ答えた。
それで十分だった。
クオサナは心の奥で思う。
『風は、やっと“仲間”を運んできたのかもしれない』
■第五章:風の向く先へ
討伐後、彼女は再び一人で旅を続けた。
ギルドへの報告はしない。彼らがやってくれるはず。
また一つ脅威を取り除けた。それで十分。
今は無理、でもいずれ再び彼らと並び立つ。自分なら辿り着ける。
「うん、きっとそうなる。風は嘘をつかないから」
そう呟きながら、クオサナは草原を抜けていく。
彼女の冒険は、ここから大きく動き始める。
知らない間に”天元”という二つ名とオリハルコンランクを得たことによって。
**そして南の魔大陸へ**
■序章:11人の意志
「無記名」の「最強」11人パーティーは北大陸を去ることにした。
どこかに穏やかで平和な国を作るため。しかし北大陸は未だ戦乱激しく、安定した国家を作るのは難しい。
それゆえに、南の魔大陸に国を作ることにした。
「危ないんじゃない?禁足地になってるし、この大陸と比べて魔物が強いって」
ジュマーヌは本で読んだことがあった。過去に20万の大軍で攻め入った軍団が退却しなければならなかった程度には危険だ。それから魔法文明が発達し、人類は格段に強くなったがそれでも脅威は計り知れない。
「問題ないさ。南の大陸に居るベアロンは”あいつ”の絶対支配下にあるからね。意思疎通も出来るから開拓にも使えるだろうけど、そうなるとしばらくは北大陸から誰も入れないという条件付きになるね」
ピアッツアのいう”あいつ”とはアルカファルスの事だった。体を共有しているが人格が違う。しかも時々混じることがある。
「なるほど。と言いたいところだが、全く意味が分からない。絶対支配下って、凶暴な魔獣達が従っているのか?何故だ?」
ヒューイは不思議がる。ピアッツアの正体には薄々感づいてはいるが、南大陸の上位支配層である魔物を支配しているとはどういう事だろう。
「アルカファルスは彼らにとっての上位存在って事。彼らは魔獣ではないよ、元々は君たちと同じ人間さ。とある理由で兵器として作られた種族の後継ってことになるのかな?北大陸の人間社会のように魔法や科学、経済などは発展していないけどね。知恵や知識は持っているけど知性が抑制されてるから、最大単位は群れ程度になるね。だから魔獣と生態は似ているけど」
「意志疎通ができるのですか?」
ジュマーヌが興味深そうに尋ねたが
「多分言葉は通じない。精神感応というか、意志の疎通は出来るけど一方的な命令って感じになるだろうね。個体同士では原始的な言語を使っているとは思うよ、ベアロン同士の争いは縄張り争いくらいしか無かったはずだから」
「それだと人間ってより魔獣じゃねーか、相当強いらしーしよ」
シリカードは拳と掌をパン、と合わせる。
「そうだね、様々なタイプが居るから魔獣と判別が難しいけど、魔獣との決定的な違いがあってね。全てが直立二足歩行で行動し、神話を創作出来る程度の知性を持ち、道具を作って使う社会性のある動物。つまり人間の必要条件は満たしていると解釈できるね」
「あとは自分の目で見て判断してくれるといいさ。向こうで皆に渡す物があるから、それも含めてね」
彼らはピアッツアが通って来たと言う”禁忌の転移道”の入り口を見つけ出し、そのまま南大陸へと渡った。
「ここは”遺跡”の空間だね。ここと同じような施設が大陸中に点在しているはずだよ。俺も全部は把握していないけど、ここを含めて三か所程行く必要があるから」
そこは広大な地下空間だった。規則正しく柱が並んでおり、魔法陣のようにも見える。
「転移魔法かな?面白いね」
皆がキョロキョロと見渡しているが、サウエとクオサナだけが落ち着いていた。
「これは魔法じゃないわ、空間を歪めている・・・じゃなく、同じ場所なのね」
サウエはその”作り”を一瞬で見抜いた。こことあそこは時空的に同じ座標になっている。
「うん、そうだね。出るときに少し違和感を感じると思うけど、安心していいよ」
ピアッツアは皆に説明しようとしたが、サウエ以外にはわからないだろう、ということで”違和感”という言葉で済ませた。クオサナは天性の感覚で理解するだろうし。
「で、これからどこへ行くんだ」
疑問ではない、スウェックは予定を尋ねただけだ。
「えーと、ここから上に3階かな?その部屋にある”装置”を一人に付き一つ渡したいんだよ、安全のためにね」
ピアッツアは壁に向かって歩き出した。
皆も彼に付いていくが、透明な何かを通り過ぎるときにふらつきのような感覚に襲われた。
「あー、違和感ってこれか」
「うん、空間酔いって言えば・・・いや、いいか。ずれを移動しただけだから」
「そうね、こっちの入り口はあっちにあるから、入るときは良いけど出るときはズレるね」
やはりピアッツアとサウエの会話はわからない。しかし二人が安全だというなら信じて良い。
他の9人は疑問を持たないようにしていた。
「で、これが”装置”なんだけど、なんていえばいいんだろう?鎧かな?」
ピアッツアが手にしているものはどう見ても鎧には見えない。白い球体のようなものだった。
「これ、生きてるから。”認証”してみて?」
こういうものに耐性があると思われるヒューイに手渡した。
「これをどうする?ん?揺れて・・・」
という言葉が途切れ、その球体がヒューイを呑み込んだ。
球体は変形し、液状になりヒューイにまとわりついて包み込んだ。
そして全身に装甲のような形状の、まさに鎧ともいうべき形で落ち着いた。
「で、これはなんだ?」
今回のスウェックの言葉は疑問だった。
「宇宙服、といえばわかるかな?ヒューイとシリカードとスウェックにはだけど」
「ああ、わかる、けど、俺の知ってる宇宙服じゃないぞ」
ヒューイは空間機動歩兵だったため、知っていた。しかしこんなものではない。
「どんな生物にも対応し、どんな環境にも適応出来る。武装もついてるし、重力操作もできる。説明は難しいけど俺を作った方々の”遺産”というべきかな。魔法じゃなく科学で作られているんだ」
生物には対応できる限界がある。例えば大気組成、X線やガンマ線などの電磁波、重力、温度、微生物やウィルス。それらから完璧に対象者を防御するための”標準装備”それが”装置”と彼が呼んでいるものだった。
「脱着は思念波で出来るよ。あと、多分・・・不老不死になると思う」
ピアッツアはヒューイから視線をずらし、頭をかいた。
「はぁ?不老不死!?」
「うん、頭を砕かれても、体がバラバラになっても再生する。着用時の形態を記録して、その形を保とうとするんだ。それに筋力が30倍位になるかな?」
「なんだそのとんでもない装備は!?」
ヒューイが使っていた装備も電磁波やガス、細菌、ウィルスからの防御や衝撃等を緩和し、筋力もシステムにより数倍にはなったが、再生能力等というものはあの進んだ科学力をもってしても不可能と言われていた。失われた四肢や臓器は生体サイボーグ化技術に頼っていた。
「宇宙服じゃないな、生体組織で出来ている。この全身の装甲も金属じゃないし、全部の感覚が強化されているな」
「飛べるしね、重力操作が出来るから」
ピアッツアが当たり前のようにヒューイに説明する。
「で、他には?」
まだあるんだろう。とヒューイはピアッツアを見る。
「兵装は試してないからわからないけど、超振動ブレードや都市破壊並みの粒子収束砲が付いてる。アサルトモードっていう個人に合った形態も可能だし、あと反物質も生成して打ち出せる。重力を圧縮して飛ばしたり、あとは・・・」
「わかったわかった、もういい。理解の限界を超えた。魔法や気でさえ理解するのに時間がかかったのに、これ以上は俺には無理だ」
ヒューイは理解することを諦めた。
「でも、わたしにこれって必要なのかな?」
サウエはヒューイを”呑み込んだ甲冑”を触りながらピアッツアに尋ねた。
「うーん、君には必要ないだろうね。そもそも生物じゃない君の情報量を処理しきれるのか、っていう疑問を解消したいというか」
「じゃあ、わたしも試してみるね」
サウエはピアッツアから”装置”を奪い取った。
「あ、これって・・・本当だわ、魔法じゃない、ある程度の科学力の頂点に近い”物”ね。この世界だと、魔法と相性が良いかもしれない。虚数空間に干渉できるのかな?いつでもあるけど、欲しいときに”出現”するね、面白い」
「さすがサウエ、理解が早いね。でも、その状態って、やっぱり処理しきれてないのかな?」
サウエを包もうとする液状の”何か”は弾かれ、繋がり、形を成そうとしていた。
「わたしがこの子に理解できるようにやってみるよ、人間側に寄せれば良いだけだから。浸食を許してみるね」
数分かけてやっとサウエを包む”装置”が”甲冑”の形になった。
「これって、言語化するなら”生体外殻”だね。ほら、ヒューイとお揃い」
顔も覆われているので表情はわからないが、サウエは微笑んだ。
「遺跡一つに付き四つあるから、あと七つ、他に2か所行かないと。近い場所は・・・」
ピアッツアが少し考えていると
「待て待て、それって防御や治癒どころか死や蘇生の概念もあやふやになるんだが?」
守護士であるウィンガムは自分の存在価値を失いかねない”装置”に疑念を露わにした。
「そうだよ?俺達は、そう。でもこの仲間達以外には渡さないから、守護士や治癒士は必要だよね?アルカファルスはこの11人分以外は時空の裂け目に捨てるつもりみたいだよ」
ピアッツアは何もない空間を見ている。こういう時はアルカファルスと話をしているんだと皆が知っていた。
「それに、サウエやピアッツアはともかく、俺まで不老不死になったんだ。考えてみろ、今から国を作るんだろう?不滅の支配者が統治すれば1000年単位で国家運営出来るんだぞ?」
ヒューイは思考加速された頭脳で考えていた。北の大陸で起きている戦乱の多くは”個人の利益の追求”によるもの、つまり王位継承や領土、財物の奪い合い。この11人ならそんな利益や名声に興味を持たない。
「王位継承で揉めることが無くなるんだぞ?」
「そりゃあそうだがよ、不老不死の王の治める国なんて気持ち悪がられねーか?宗教勢力とかあんだろ?」
シリカードが現実的な意見を出した。
「王の器に合う者を選べば良いのよ」
「自分達で王を選べば良い」
「民の事を考える王を立てればいいんじゃない」
ジュマーヌとスウェック、ゼクサンドラが同時に同じような意見を述べた。
「どうやって決めるんだぁ?王の器ってのは力かぁ?ヒューイ」
シリカードが右拳を胸のあたりで握る。
「脳金かよ。力じゃなく、選挙。立候補じゃなく推薦だな、シリカードとスウェックならわかるんじゃないか?」
ヒューイは”前の世界”の制度を思い出していた。共和制、民主主義、共産主義。しかしそれは大衆という有象無象の利益によって作られた偽善の主義、独裁者が現れる事も有り危険だ。清廉な王、皇帝が支配する国家、王制の方が良い。が、腐敗が生じた場合、反乱や継承戦争、貴族等に民衆が踏みにじられる可能性が高い。『どんな主義主張よりも人類の生存を優先すべき』あの言葉を思い出した。
「俺たちは完璧じゃない、けれど皆の強さがあれば、統治者を選べるなら・・・この11人で王を作ればいい。全員が納得できる支配者を用意すれば、名君だけが王に成れる国を作ればいいだろう。飢餓や疫病、戦争や犯罪の無い豊かな国、多分作れると思う」
そう、何百年かかろうとも、誰もが笑って暮らせる国を作ることが出来る。
その意見に対する反対は無かった。二人は無限の存在、三人は世界の国家の失敗を知っている者、残りの六人は王制の支配する”この世界”を知る者。
「その国の”形”面白そうね、観察し甲斐があるかもしれないわ。それに、何度でも”作り直せる”しね」
サウエはその無限の思考力の一部を使用して考えていた。
「最初から、作り直すことは考えない。世界が望む国を、完成された国を作る」
「じゃあ、これから作る国ってのは安泰って事ね」
ゼクサンドラが嬉しそうに言うが
「いや、もしこの11人、特にサウエとピアッツアが裏切れば、簡単に滅ぶ」
スウェックが裏稼業の時を思い出したように語る。
「そうね、確立は無限小。でも、わたしと同じ”密度の存在”が、わたしを観測したら・・・国じゃなく世界、銀河が”無くなる”かな、大雑把だから」
サウエが簡単に恐ろしい事を言い出す。
「そうだね。俺じゃ絶対に相手出来ないから、諦めるしかないね」
ピアッツアもサウエにだけは勝てない、つまりその同じ”存在”が来れば破滅は想定内。
「その時はわたしが”本気”を出して防ぐよ。あと、観察が目的なんだからわたしは裏切らない、守るほうに付くよ。この幼少期の文明が死期に到達するまでくらいなら。1秒も100万年もわたしにとっては大した”差”じゃないわ」
「そうか、お前たちはその次元と時間軸で物事を考えるんだったな。不老不死、意味がないのではないか?」
ウィンガムが呆れたように尋ねるが
「いいんじゃねーか?この先何百年程度の事でも考えるだけで、俺にはめんどくせーんだ。とっとと始めちまえよ」
シリカードが拳じゃなく言葉で”ブチ壊す”ことになった。
しかし。
「あと、一つだけ聞くけど、貴方達の”求める平和”って何かな?全生物に平等に与えられるべきこの星を、貴方達が奪い取って世界中に人が住めるようにすることなの?」
「あ・・・え!?」
サウエの冷静過ぎる意見がヒューイを困惑させた。
「他の生物、例えば獣や魔獣ね。彼らとは共存せずに敵と認識し、駆逐して・・・畑を作り街を作り、山から木材や資源を掘り出し文明を発展させる。それが”平和”ってことであってるかな?」
批判ではない、ただの無邪気な確認だ。しかし”目線の高さ”が人類と根本的に違う。サウエにとっては人類と他の生物や非生物、恐らくは砂粒一つや伝説のドラゴン種も同等に見えるのだろう。それこそ”大雑把”に銀河を消す程度には。
わかっている、極めて陳腐で傲慢で矮小な”平和”だとは。
「まあ、俺の意見じゃないが。・・・人類の生存は、誰の自由や生命、主義主張、あらゆるものに優先する。らしい・・・正解か間違いかは俺にはわからない。ただ・・・人々が求めている”平和”と言うものはサウエの言う通り、全てを奪い取ってでも人類文明を発展させ、誰もが笑って過ごせる世界を作る。・・・極めて強欲だが、それが人間の平和なんだろうな」
ヒューイは自分の言葉を確認するように繋げていった。現状の決着はその辺りになるだろう。
「わかったわ。じゃあわたしもその方針で動くわね。調整軸を世界の繫栄から人類の繁栄に切り替えて、うん、こっちだね。世界を守るんじゃなく人類を守る。問題ないわ、その方が退屈せずに済みそうだから」
造物主の視点を”変えた”。この時点で人類の勝利は確定したようなものだが、この会話にはピアッツアですら驚いていた。全ての事象と存在の中心であり、過去現在未来を作り出せるような”要素”が、今この時間「それがいつまで続くかは彼女次第だが」だけは、人類の味方になったのだ。
ここから100年以上を掛けて、その理想の王国を作ることになった。それと同時にサウエとピアッツア以外の9人には「激務」とも言える責任と行動の必要性がその肩に重くのしかかることになる。だが、何故かシリカードを除く形になることはこの時の全員が知ることが出来なかった。




