表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

プロローグ 理不尽な扱い。

連載してみます(*'▽')





「おい、ミク。お前はもう、この国から出て行け」

「それは、どういう意味でございますか? 旦那様」



 魔王討伐後の平和な世界。

 その功績を称えられた勇者アデルは、精霊族の姫を妻として迎えることになった。水色の透き通るような長い髪に、白く染み一つない肌。金色の円らな瞳に永遠の若さを持つ、絶世の美女である。

 名をミクという少女は、これまで横柄な勇者を必死に支えてきた。

 しかし、国を出て行けとはどういうことか。



「俺はお前を捨てて、これからはアイシャを妻として迎える。お前のように通り一辺倒で面白みもない女ではなく、彼女のように快活な女が俺は好みだからな」

「それはつまり、浮気……ということですか?」

「浮気なんて人聞きが悪いぞ、ミク。これはただ、お前が不要というだけだ」

「……………」



 その言葉を聞いて、世間に疎いミクもさすがにすべてを悟った。

 つまりこの元勇者は、ミクのことを裏切って浮気をしていたにもかかわらず、自分を正当化しながら彼女を追い出そうというのだ。そのことにミクは当然、絶望する。

 しかしもとより感情の起伏の少ない精霊族の姫は、ただ静かに涙を流すのみ。

 その涙に、この勇者が気付くわけがなかった。



「さあ、荷物をまとめたら夜明け前に国を出て行くんだ。分かったな?」



 告げられたのは、そんな無情な言葉。

 ミクはただ言われるままに、感情を押し殺して数年過ごした国を出るのだった。





 王国を出てしばらく進む。

 するとまるでミクの心を表すかのように、大粒の雨が降ってきた。雨に打たれながら、ミクは今後について考える。あの王国には精霊族の加護があったが、ミクが離れたことでおそらく滅亡の道をたどるだろう。アデルには何の感情も湧かないが、そこに住む罪なき人々の身が心配だった。

 だがそれ以前に、ミクもまた行く当てのない身。



「……どう、しましょうか」



 曇天の空を見上げながら、少女はまた一筋の涙を流した。

 彼女は人間が大好きだ。このような仕打ちを受けてもなお、人々のためになりたいと、心の底から願っている。頼りない自分だけど、誰かのためになりたいと。

 ミクはそう願いながら、そろそろ雨避けをと、森の中に身を隠した。

 すると、そこには一台の馬車がある。



「これは……?」



 そして脚を痛めたらしい馬が二頭。

 ミクが驚きながら近づくと、その馬車から一人の男性が現れた。

 赤く長い髪に、紫色の瞳は美しい。身にまとう衣服はオートクチュールだろうか。少なくともいずこかの貴い血筋であることは、ミクの目で見ても明らかだった。

 その男性はしばらく少女を観察すると、こう口にする。



「もしかしてキミは、精霊の子、かい?」

「…………はい、そうですが」



 訊ねられたことに、少し迷ってからミクは答えた。

 何故なら彼の胸にあるエンブレムには、見覚えがあったから。あれはたしか、勇者のいた国と敵対する国の紋章であり、そこでは精霊族は忌み嫌われているという。

 直接的な敵対心はないが、少なくとも歓迎はされないはずだった。

 だが、いまは少し状況が違うらしい。



「済まないね。キミのような美しい女性を前にしても、いまは何のおもてなしもできない。せめて愛馬の怪我が治り、母国へ帰還できれば話は違うのだが……」

「……馬の怪我、ですか?」



 少なくとも青年は、危害を加える気はなかった。

 それどころか歓迎の気持ちを示そうとするが、残念そうに首を左右に振っている。その話を聞いて、様子を確かめたミクは、おもむろに馬の怪我を確認し始めた。

 そのことに男性は驚くが、しかしあえて口は挟まない。そして、



「あぁ、痛かったでしょう。でも、これで大丈夫」

「これは……!」



 ミクがそう口にすると、薄暗い中に淡く優しい光が満ちた。

 彼女は、とにかく人間のことが好きだのだ。だから困っている者があれば、たとえ敵国の人物でも手を差し伸べたくなる。自身の力が役に立つのであれば、それでいい。

 そんな少女の献身的な想いに、男性の愛馬たちの傷は瞬く間に癒えていった。



「これで、大丈夫……です」

「お、おい! キミは大丈夫なのか!?」



 だが思いの外、ミクは消耗していたのだろう。

 考えてみれば王国を出て以降、何も口にしていなければ、睡眠もとっていない。そのような状態で力を行使すればどうなるか、詳しくない者でも考えれば分かる状況だった。

 崩れ落ちるミクの身を支え、青年は思わずその美しい顔立ちに息を呑む。

 そしてしばしの沈黙の後、彼は馬車にミクを乗せ、馬を走らせるのだった。




面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります!


応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ