エピローグ ─君を想い続ける日々─
春の陽射しが降り注ぎ、グラーデの森の奥では大樹が静かに葉を揺らしていた。
若葉色の葉の間から差し込む木漏れ日が、絨毯のような苔の上にやわらかく降り注いでいる。
その根元に、フィリアとテオドールは並んで立っていた。
クロリスは二人の頭上の周りをふわりと飛びながら、嬉しそうに羽を震わせる。
『──よく戻りました、二人とも』
葉擦れの音と淡い光と共に現れたのは、銀糸のような髪を持つ美しい女性。
グラーデの大樹の精霊、シルヴィアだった。
深い森のような瞳が、優しく二人を見つめる。
『長い旅路を共にし、互いを守り、支え合ってきましたね……。その尊い絆を、私は心から祝福します』
シルヴィアの祝福の言葉に、クロリスがふわりと飛んだ。
小さな春の花々で編んだ花冠をフィリアとテオドールの頭にそっと載せると、クロリスは満足げに胸を張って微笑む。
シルヴィアはゆるやかに歩み寄り、二人の手をそっと重ね合わせた。
温かな光がその上に降り注ぎ、テオドールの左手の薬指に、やがてひとつの形を結ぶ。
白金の輪に、精霊樹の葉を象った細かな彫刻──フィリアが左手に嵌めている指輪と、お揃いの意匠のものだった。その中央には、翡翠の小さな石が煌めいている。
『これは、グラーデの精霊たちの祝福を宿す証。互いが互いの帰る場所であることを示す、永遠の契りです』
クロリスが嬉しそうに笑い、『やっとお揃いになったわね』と声を弾ませた。
テオドールは新たに手にした指輪を静かに見つめ、そっとフィリアの指を握る。
「……これからも、ずっと、あなたのそばにいます」
「はい……わたしも、ずっと……」
その言葉を包み込むように、大樹の葉がそよぎ、春の風が二人をそっと抱きしめた。
小鳥のさえずりがグラーデの森に響き、木漏れ日が金色の花びらのように降り注いだ。
* * *
あれから幾日かが過ぎ、グラーデの村にも本格的な春が訪れた。
すっかり暖かくなったフィリアの家の庭では、色とりどりの花が咲き誇り、ハーブの香りが風に運ばれていく。
テオドールは庭先でハーブや花の手入れをしていて、クロリスは近くの花の蜜を味見しては、ひらひらと飛び回っていた。
フィリアは台所から籠を抱えて出てくる。籠の中には、焼きたての白パンと瑞々しい苺、ハーブティーの小さなポットが入っている。
「休憩にしましょう、テオ」
「フィリア……ありがとうございます」
日差しを受けて微笑むテオドールの左手には、あの日シルヴィアから贈られた指輪が輝いている。
フィリアもまた、お揃いの指輪を薬指に光らせていた。
テオドールは額の汗を拭い、軽いため息を吐いて立ち上がった。その何気ない仕草さえも、造られた体ではなく、今は“人として生きている証”──フィリアの胸に幸せな温もりが広がった。
「摘みたての苺ですよ!」
笑顔のフィリアに、テオドールも微笑み返す。
「パンも焼き立てです」
「どちらも、美味しそうですね」
フィリアは籠を差し出しながら、彼の左手の指輪に目をやる。
その輝きも、少し汗に濡れた前髪も、目に映るすべてが尊くて──これから先も、こうした何気ない日々を重ねていけることに、この上ない幸せを感じていた。
フィリアはベンチの脇の緑のガーデンテーブルに籠を置くと、お揃いのティーカップと、クロリス用の小さなカップにハーブティーを注いでいく。
『美味しそうね! わたしはハーブティーと苺をいただくわ』
クロリスはテーブルにふわりと舞い降り、ちょこんと腰を下ろすと、顔ほどもある苺に齧り付いた。『甘〜い!』と幸せそうに微笑むと、ベンチに腰掛ける二人を眺める。
二人は庭のベンチに腰掛け、仲良くパンと苺を分け合っている。
クロリスは、その笑顔を見上げて満足そうに笑った。
遠くから小川のせせらぎが聞こえる。
森の木々は若葉色に芽吹き、空はどこまでも青い。精霊たちの囁きも春の空気に溶け、村には穏やかな時間が流れていた。
フィリアはふとテオドールの肩にもたれ、小さく囁く。
「……これからも、ずっとそばにいてくれますか?」
「勿論です……ずっと離れませんよ」
返ってきたその声は、春の陽だまりのようにあたたかかった。
二人は微笑み合うと、寄り添って春の庭とグラーデの森を眺める。
『春なのに熱いわねぇ……わたし、小川で涼んでくるわ』
フィリアが悪戯めいた瞳で微笑むと、ふわりと森の方へと姿を消す。
「フィリア……」
恥ずかしそうに少し俯いたフィリアに、テオドールがそっと顔を寄せる。栗色の髪に口付けると、肩を優しく抱き寄せた。
頬を染めたフィリアが、その胸に身を預ける。春風に運ばれる彼女の香りに、彼はもう一度そっと口付けを落とした──
二人を見守る森は、今日もやさしい風を運んでいる。
どんな季節が巡っても、この先に何があっても、共に寄り添い笑い合える日々が続いていく──そう信じられる温もりが、今は確かにそこにあった。
春の風は森を越え、遠い未来へと続く季節の訪れを告げていた。
寄り添う二人の笑顔が、その未来を明るく照らしている。
──これから先も、ずっと。
─fin─
✧ 読んでくださった方へ ✧
フィリアとテオドールの物語を最後まで見届けていただき、本当にありがとうございました。
フィリアたちと一緒に、切なさや温もりを感じていただけたなら嬉しいです。
読んでくださった方の心に、少しでも何かを残せる作品をお届けできていたら、幸せです。
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✧ 応援してくださる読者様へ ✧
リアクションやブックマーク、評価などしていただき、本当にありがとうございます!!
とても励みになっています✨️
これからもロマンスファンタジーを執筆していきますので、また他の作品でもお会い出来ますように……。
星谷明里
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