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精霊樹の眠る場所で、君を想う  作者: 星谷明里
第三章 森の村エルデン ―怒れる精霊と結ばれる絆―
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第十七話 精霊の焚き火

 日が沈み、火の精霊カレナを祀る祭りが始まる。

 森の異変が収まった祝いと、無事に戻ったフィリアたちへの感謝を込めて──村人総出の盛大な宴だった。


 焚き火を囲む村人たちの歌声は、夜空に星をまき散らすように響いていた。

 若者たちが笑いながら手を取り合って踊り、子どもたちは走り回っては、時折母親の腰にしがみつく。老人たちは長椅子に腰掛け、懐かしそうにその光景を眺めていた。

 香ばしい匂いのする鍋や焼きたてのパン、果実酒の甘い香りがあたりを満たしていた。


 フィリアとテオドールも、広場の一角に席を設けられ、村人たちから次々と料理を勧められている。

 香草と肉の香ばしい匂いと共に、木皿を抱えた女性が笑顔で近づいてきた。


「どうぞ、たくさん食べていってくださいね。今日はカレナ様にも、あなた方にも感謝する日ですから」


 木皿に盛られた肉の煮込みや香草パン、熟れた果物が次々と目の前に並ぶ。並べられたたくさんの皿を見て、フィリアは目を丸くした。


「わぁ……ありがとうございます。いただきます!」

『美味しそうね! でも、食べ切れるかしら……』


 クロリスは、フィリアの肩の上に座って羽を揺らしていた。その紫水晶の瞳は、瑞々しい果実がたくさん盛られた皿を見つめている。その隣の湯気を立てる煮込みには、大ぶりの根菜と香草がたっぷり入っている。


 テオドールも静かに礼を言って、ゆっくりと口へ運ぶ。噛み締めた瞬間、ハーブの香りと肉の旨味が広がり、ふと目を瞬かせる。


(……温かいな……味だけじゃない……)


 テオドールが、皿の中の煮込みをじっと見つめている。


「クレイさん、どうかしたんですか?」

「……食事を、こんなに美味しいと感じたのは初めてで……」


 思わぬ答えに、フィリアは一瞬言葉を失った。


「……ほら、これも美味しいですよ! クレイさんも、もっと食べてくださいね」


 果物の盛られた皿を差し出すフィリアに、クロリスがすかさず飛びつく。


『テオドール、まだまだ美味しそうな料理がたくさんあるわよ!』

「そんなに食べられませんよ……でも、ありがとうございます」

 

 そう言って笑ったテオドールの表情は、焚き火の光にやわらかく照らされていた。


* * *


 食後、ふたりは焚き火の傍らに立ち、燃える炎と村人たちの楽しげな姿を眺めていた。

 太鼓のリズムに合わせて手を叩く人々、笑い合う老人たち、肩を並べて踊る若い夫婦──村全体が一つの輪になっているようだった。

 その様子をフィリアが微笑んで見つめている。


「皆、幸せそうですね……こうして笑っている姿を見られて、本当に良かったです」

「ええ……本当に……」


 フィリアの言葉に、テオドールは静かに頷く。

 炎の明かりにやわらかく照らされるふたり。テオドールは、微笑むフィリアの横顔を静かに見つめていた。

 ──今後は、彼女に絶対に怪我をさせないように……心の奥でそう決意しながら。


 そこへ、村の女性が琥珀色の飲み物が入った木杯を持ってきた。


「果実を煮詰めた甘い飲み物です。お酒ではありませんので、よろしければどうぞ」

「ありがとうございます」


 フィリアは受け取ってひと口飲み、目を丸くした。


「……甘くて、少し酸味があって……すごく美味しい……!」


 フィリアの様子を見ていたクロリスも、『わたしにもちょうだい!』と言って、木杯に口付けた。


『本当、美味しいわね! こういうの、旅の途中じゃなかなか味わえないわよ』


 肩にとまったクロリスが、フィリアの耳元で囁く。

 テオドールも静かに口をつけ、小さく頷いた。


「……確かに、美味しいですね」


 焚き火の明かりに照らされ、三人は小さく笑い合った。

 果実の香りとほのかな甘みが、夏の夜風とともに喉を通り抜けていった。

次のお話は、第十七話「夏の終わりに」


エルデン村を去って、新しい目的地へと向かう一行。

次は、フィリアたちにどんな出会いが待ち受けているのか……。

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