⭕ 些細な依頼 2
──*──*──*── 応接室
受付嬢さんに頼んで、使わせてもらえる事になった《 応接室 》には、ギルド長をしている〈 器人形 〉が居た。
今回はギルド長を交えての話し合いになる訳だ。
因みにだけど、パッと見して〈 器人形 〉だと分かるのは、セロとキノコンとオレだけらしい。
だから、人間や亜人種と同様に眷属であるシュンシュンにもギルド長が〈 器人形 〉だという事は分からないって事だ。
マオ
「 先ずは自己紹介をしようか?
オレの名前はマオ・ユーグナル。
Sランク冒険者で、S級冒険者パーティ〈 S・G 〉のメンバーの1人な。
此方は、シュンレイ・ユーグナル。
オレの妹で冒険者に成り立てのDランク冒険者だ。
オレと同じで〈 S・G 〉のメンバーだよ。
君の名前を聞いても良いかな? 」
若い女の子
「 ………………私の名前は……リコズ……です 」
マオ
「 リコズ、冒険者に依頼を頼む時は、自分の安全を最優先に考えて行動するんだ。
必ず《 冒険者ギルド 》を通した方が良いよ。
冒険者もピンキリだから、素行の悪い奴とか悪知恵の働く冒険者も居るんだ。
善人ばっかりじゃないから、直接の直談判は止めた方が良いな。
先ずは、受付嬢に相談する事だよ 」
リコズ
「 ……………………でも、タダじゃないんでしょ?
お金が余分に掛かるんでしょ? 」
マオ
「 子供の相談は無料だった筈だけどな。
相談料を支払うのは大人からだよ。
事情に依っては無料で依頼書の作成もしてもらえる筈だし──。
ギルド長、今は…どうなってるのかな? 」
ギルド長
「 マオさ──んの言う通りです。
相談料,依頼書作成料に関しては、子供は無料となっています。
子供は大人から庇護を受ける立場ですから──。
但し、大人がこの制度を悪用する場合も考慮し、知らせてはいません。
相談は受けますが、依頼書の作成をする為には確かな裏付けを得る為に、此処で依頼書の作成をする必要が有るのか徹底的な調査を行います 」
惷麗
「 確かな情報のソースが必要な訳だな。
なら、今回のガキ──リコズの依頼にも当てはまるのか?
どんな依頼なのかは知らないが相談は無料で受けるが──、依頼書を作成する前に《 冒険者ギルド 》が徹底的な情報調査を行うって事か? 」
ギルド長
「 今回に限り “ 特例 ” とさせて頂きます。
信頼の於ける〈 S・G 〉のマオさ──んが受けられるので、此方からの依頼書作成の件はサービスとさせて頂きます 」
惷麗
「 ふぅん?
随分と太っ腹なんだな。
リーダーのセロフィートが《 冒険者ギルド 》の弱味でも握って牛耳ってんのか?
彼奴なら絶対にやりそうだよなぁ! 」
マオ
「 シュンシュン、ギルド長の前では言葉遣いには重々注意だぞ。
気を付けろぉ~~ 」
〈 器人形 〉はセロに対して絶対服従、キノコン以上に忠誠心が異常に高い。
何か有れば直ぐにセロへチクる──情報提供を怠らない。
実の処、チクリ魔のキノコン以上に油断ならない存在だったりする。
それにしてもさっきからオレの事を “ マオ様 ” って呼び掛けて、必死に堪えてるよな。
マオ
「 えと──、リコズが冒険者に頼みたい依頼内容を教えてもらって良いかな?
今回 “ だけ ” は相談料も依頼書作成料も掛からないから、安心したら良いよ。
話してくれるかな? 」
惷麗
「 ちゃっかり念押しをするのがマオらしいな 」
リコズ
「 ………………うん……。
パンテルの花が必要なんです!!
パンテルの花を見付けて、摘んで来てほしいんです!! 」
惷麗
「 パンテルの花だぁ?
花摘の依頼かよ。
如何にも詰まらなそうな依頼じゃないかよ! 」
パンテルの花の事を知らないシュンシュンは、機嫌を悪くしたのかムスッとさせた顔でリコズを睨んでいる。
薬草採集の依頼を嫌がるシュンシュンだから仕方無い。
マオ
「 パンテル花だって?!
何てエグい内容の依頼だよ……。
それを100Qで受けろって?
これは割りに合わない依頼だな…… 」
惷麗
「 マオ、パンテルの花を知ってるのか?
花なら其処等辺に生えてるんじゃないのか? 」
マオ
「 そうでもないんだよ、シュンシュン。
“ パンテルの花 ” ってのは、《 紅の墓地 》の後ろに広がる《 死霊の森 》を抜けた先に在る花畑にしか咲いてない稀少な花なんだ。
万病薬の原料の1つだと言われている花だよ。
花だけじゃなくて根刮ぎ必要になるから、根っ子から抜かないといけないんだけど──。
パンテルの花はマンドレイクの親戚みたいなもんだから、稀に根っ子がマンドレイクみたいになってる場合が有るんだ。
土から抜いて根が空気に触れると叫び声を発して── 」
惷麗
「 気絶するのか? 」
マオ
「 怪物を呼び寄せるんだ 」
惷麗
「 怪物かよ……。
迷惑極まりない面倒な花だな…… 」
マオ
「 根っ子がマンドレイクになってるパンテルの花が原料だから、集めるのに苦労するんだ。
100本中3本の確率だから、100Qで受ける冒険者は先ず居ないよ。
リスクの高い高難易度の依頼だから 100万Qでも足踏みされるよ 」
惷麗
「 このガキ──、見た目に依らずとんでもない依頼を持ち込みやがったな 」
マオ
「 シュンシュン、言葉遣いと態度ぉ~~。
リコズは “ パンテルの花 ” を手に入れて何をするんだ?
まさかとは思うけど、万病薬でも作る気なのか? 」
実を言うと “ 万病薬 ” ってのは、セロが盛大にやらかした事の1つだったりするんだよな~~。
原料に関しては考えたくもない。
あげなヤバい原料を使いまくって、綺麗な液体になるんだから “ 世界の七不思議 ” に入りそうだ。
そうそう、パンテルの花を生み出したのは、誰でもないセロだったりする。
因みにだけど、土から抜いたら叫び声を上げて怪物を呼ぶ──ってのは、当時のオレがセロに伝えたアイディアだったりする。
オレが発案者…………シュンシュンに言えない秘密が増えていくぅ~~。
パンテルの花は謂わば、セロとオレが共有する “ 恥ずかしい黒歴史の産物 ” ってヤツだ。
まぁ、セロにとっては恥ずかしくもないだろうし、黒歴史の産物でもないと思うけどな~~。
そんなパンテルの花だけど、悪用されるのは気分が悪いんだよな~~。
リコズ
「 ……………………煎じて飲ませたい人が居るんです……。
万病薬なんて作れません!
あんな高額な薬は私達には買えません…… 」
マオ
「 そうだろうな。
万病薬を飲めば、どんな病も完治してしまう “ 魔法の霊薬 ” って言われてるんだ。
万病薬1本で、一国が買える程の値段が付いてるからな。
現在では “ 神々の媚薬 ” なんて名前で呼ばれてるみたいだし── 」
何で “ 媚薬 ” なのか詳しくは知らないんだよな。
万病薬を巡って、戦争だって起きちゃうぐらいとんでもない品になってるんだから、オレからしたら吃驚だよ。
惷麗
「 命名した奴のセンスを疑うよな 」
マオ
「 パンテルの花を煎じて飲ませたい相手って誰かな?
パンテルの花は煎じる前には幾つかの行程が必要だから、簡単に飲める状態には出来ない筈だけど?
知り合いに調合薬師でも居るのか? 」
惷麗
「 マオ、随分と詳しいんだな? 」
マオ
「 ま、まぁな~~。
セロが薬草や毒草に詳しいからな。
覚えてたんだよ…… 」
惷麗
「 お前、偶に毒入り料理を食わされてるもんな~~。
そりゃ嫌でも詳しくなるか…… 」
マオ
「 …………思い出させないでくれるかな?
忘れたいんだ……。
──兎に角だ、この依頼は受けられないよ 」
リコズ
「 ──っ、どうして!?
報酬が少ないから? 」
マオ
「 違うよ、リコズ。
《 紅の墓地 》に入るのも《 死霊の森 》を抜けるのも、オレには容易な事だよ。
だけど、時期が悪い。
この時期に花畑へ行っても “ パンテルの花 ” は咲いてないんだ 」
リコズ
「 咲いて……ない??
どうして!? 」
マオ
「 パンテルの花は、雪溶けの時期にしか咲かない花だからさ。
今は5月だ。
これから暑くなるし、雪が溶けるのは来年の3月上旬頃。
10ヵ月も早いから、パンテルの花は咲いてないんだよ 」
リコズ
「 そんな…………。
どうしてもパンテルの花が必要だったのに!!
どうしたら……良いの………… 」
マオ
「 確かに “ パンテルの花 ” だけでも薬にはなるけど、症状に依っては別の薬でも代用が効くかも知れないよ。
煎じて飲ませたい相手の症状を教えてくれないかな? 」
リコズ
「 ………………………………ハンテン病なの…… 」
惷麗
「 はんてんびょう??
何だよ、それ? 」
マオ
「 あ~~と、身体中に黶が出来る病気だよ。
黶が斑点みたいに見えるから “ 斑点病 ” って呼ばれてるんだけさ。
そっか……斑点病なのか………… 」
惷麗
「 どうしたんだよ、マオ 」
マオ
「 オレが持ってる薬で斑点病に効果の有る薬は無いけど──、マオキノに聞いてみようかなって 」
惷麗
「 そうか!
キノコン汁だな!
キノコン汁を飲めば大概の症状は良くなるもんな! 」
リコズ
「 きのこんじる?? 」
マオ
「 オレ、今からマオキノに聞いて来るよ!
ギルド長、裏口を借りても良いかな? 」
ギルド長
「 どうぞ、自由に御使いください。
マオさ──んが戻って来られる迄、このまま御二人を《 応接室 》で保護させて頂きます 」
マオ
「 有り難う!
心強いし、助かるよ 」
惷麗
「 まるで人質だな 」
シュンシュンはニヤッと笑いながら、テーブルの上に出されているクッキーを食べている。
マオ
「 コラ、シュンシュン!
余計な事を言って、リコズを不安にさせるなよ…… 」
オレは《 応接室 》のドアを開けて廊下に出る。
マオキノなら何とかしてくれる筈だ。
なんと言ってもセロへの “ チクリ魔 ” だからな!!
◎ 訂正しました。
リコズ冒険者に頼みたい ─→ リコズが冒険者に頼みたい
どうして!! 」─→ どうして!? 」
「 まるで人()質()だな 」─→「 まるで人質だな 」




