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#8 曇りのち晴れ

「どう考えてもオカシイ! やっぱり生徒会長は心雨だろ!!」


 俺は気温が高すぎて熱風しか出さない扇風機の前で、あぐらをかきながら声を張り上げた。

 ボイスチェンジャーを使ったかのように声が小刻みに震えて、耳が受信した俺の声は宇宙人みたいだ。

 

「じゃあ、俺が話しかけた時に無視したのは?

 待てよ、苗字が同じとか双子ってセンも有りうる?」


 うーむ・・・わからん。

 考えるたびに髪をかきむしると指の間にけっこうな本数の髪の毛がついていた。


 ヤッベ!

 このままじゃいいオヤジになる前に薄毛になりそうだ。


「オニィ、なんで唸っているの? 犬みたい。」

「雫!」


 突然現れた雫に驚いて頭を振りかぶった俺は、扇風機を倒してしまった。

 首を15度傾けて横たわる扇風機は、それでも悲しそうに回り続ける。


「 いい、いつから居たの?」

「そんなに驚かなくても・・・さてはエッチぃ動画でも見ていたな?」

「今すぐ出ていけ!」

「ウソウソ! 悩んでいるなら相談に乗るよ♪」


 風呂上りの雫は、頭にグルグルとタオルを巻きつけたまま瓶のフルーツ牛乳を飲んでいる。

 俺は迷いながらも胸の内をさらけ出した。


「じゃあさ、女が男に・・・最初は友好的だったのに次に会ったら冷たくて、その次はトイレまで追いかけてきて話したがるってどう思う?」

「オニィに彼女ができたの?」

「だから、小説の話な!

 そういう女の子の心理はどうなのかなって・・・興味があるだけだよ。」

「はっはーん、おけおけ。

 雫的に言うとねぇ、その女子は男子に気があるんだよ。」

「エッ⁉」

 俺は身を乗り出して雫に詰め寄った。



「でもまだ自分の気持ちに自信が持てなくて、優しくしたいけど冷たくしたりするのかな?」

「そ、そうなんだ。へ~。」

「気持ちが知りたいなら、サイコメトリーしたらいいのに。」

「あのなぁ、そこまで親しくない人間にシッカリと手を握られて、ソイツが目の前で貧血で倒れたらドン引きだろ?」

「あ~。」


 雫がニタニタ笑っている。


「まっ、頑張りたまえ。応援してるよ。

 おやすみぃー!」

「応援?」


 閉じられた部屋のドアに向かって俺は叫んだ。


「あ・く・ま・で小説のハナシだからなー!!」 


 ※


 週末、俺は始発に揺られて海を目指した。

 ワイヤレスイヤホンからは普段聞かない流行りのJ-popが流れている。


 実は最近の音楽嗜好が自分でも定まっていなくて、目についた色んなジャンルを聴くようにしている。

 とりあえず今は、メロコアとかハードロックな気分じゃないことは確かだ。


 テトラポッドに立つと潮と生臭い磯の匂いはいやがおうにも肺に入り込んでくる。

 いつもなら高揚するシチュエーションだけど、釣り竿の用意をしながら俺はキョロキョロと周囲を見まわした。


 砂浜やふ頭は熟練の釣り師たちである程度賑わっているが、やはりこのスポットは人気がない。

 残念ながら、心雨はまだ来ていないようだ。


「一週空いたけど、会えるかな。」


 とりあえずキャストしてみたけど、俺は釣りに対する集中力がゼロに近かった。

 全然集中できていなくて、ジギングのタイミングもうまくいかない。


 せめて厄介なサイコメトリーが魚たちにも使えたら、俺は今ごろ伝説の釣り師になっていただろう。

 魚の気持ちが理解できる天才少年、なんてな。


 だとしても人生はそう、うまくは行かないのだとわかっているけどさ。


「来ない・・・かな。」

 もちろん、魚のことではない。


 ずいぶん怒っていたしなぁ。

 ハァ。


 こんな気持ちになるなら、最初から約束を守れば良かった。

 ・・・俺ってなにやっても、うまく行かない。


「引いてる引いてる! ハンドル回して‼」 

「ウワッ!」


 頭の上で落雷のようなどデカイ声がして、俺は慌てて耳に触れた。

 あ・・・チクショウ、イヤホンつけ忘れてた!


 後悔先に立たずで、とにかく言われるがままに俺は必死にハンドルを回した。

「重い・・・!」


 これは間違いない。

 しかもこのクラスの魚は、今まで体験したことのない大物だ。


「いっかい泳がせようか。

 落ち着いて、ゆっくり回して!」


 フッと冷静になって、声の主を確かめるために振り向くと長身の女子と目が合った。

 心雨・・・いや、生徒会長?


「キミは・・・。」

「今だ! 引いて‼」

「ハイ!」


 俺は一心不乱にハンドルを回し続けた。


 タイミングはドンピシャ!

 ハンドル回しが軽く感じて、俺は一気に勝負に出た。


「ウワアァ‼」


 腹の底から出たかけ声とともに巨大な魚が鱗を光らせてその姿を露わにした。

 真鯛だ!

 心雨 (ということにしておく)が紅潮した面持ちで自分の網を差し出してフォローしてくれた。


「サンキュ!」

「重い! この辺りの主かしら。こんなの見たことないよ‼」

「今まで釣ったなかで、いちばんデカイ!」


 俺たちは同じタイミングで顔を見合わせた。


「よっしゃー!」


 二人そろって飛びあがって、思い切り歓声をあげた。

 こんなにも釣りが楽しいと思ったのは、生まれて初めてだ。


 心雨が無邪気にハイタッチをしようとしてきたので、俺は慌てて手がふさがっていることをアピールして肘タッチにしてもらった。


 ふう。危なかった・・・。

 意識していても制御するのが難しい能力なのに、うっかり手が触れてサイコメトリーが発動したら・・・俺は一瞬にして暑さ以上の冷たい汗をかいた。

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