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#6 晴人の秘密

 生徒会長と心雨のことを考えていると、時間が溶けていくようだった。

 額や背中から流れ落ちる汗のように、この胸のわだかまりよ、ダラダラと流れていってくれ。


 ※


 俺は蒸し暑い熱帯夜を閉めきった部屋の中で過ごしている。


 エアコンが壊れているから窓を開けて扇風機でも回せばイイのだろうけど、俺はベットの上で無料配信の音楽を聴きながらゴロゴロしていた。

 いちどダラけてしまうと、一ミリも動きたくないのが本音だ。


 一週間後にテストもあるし毎日の課題も山積みなのに、俺のやる気スイッチはどこに失くしてしまったのか。

 今さら捜索願いを出す気力すらないのだけど。


 ワイヤレスイヤホンから流れてくる切ないラブソングに共感しまくりの俺は、おすすめミックスリストがいつの間にか愛とか恋がつくタイトルだらけになったことに気づいて苦笑した。

 世の中には恋ソングが多すぎやしないか?あと失恋ソングも。


 それにしても・・・腑に落ちない。


「ーーー!」


 ホントに人違いだったのかな?


「ねえ、聞こえてるの? オ・ニ・イ・ちゃん・ってばぁ!」


 うーむ。


「もうッ、居るなら返事くらいしてよね!」


 あの心雨の艶やかな長いまつげと黒目がちな丸い瞳は唯一無二だと思うのだが。


「コワッ。ホントに聞こえてないみたい。いっつも変だけど、今日は特にだよ!」


 急に視界に白いものがひらひらと舞って、俺は驚いてベットの上で飛びあがった。


「うわッ!」


 俺のすぐ横で妹の(しずく)が、バイバイするように手のひらを左右に動かしていた。

 いつの間に?


「おまえ・・・なんだよ急に。黙って俺の部屋に入ってくんなよ!」

「もう何十回呼んだと思ってるのよー!

 しかも、この部屋暑すぎ!

 入っただけで汗ダラダラなんですけど!

 熱中症注意報の夜にエアコンもつけないで閉じこもるなんて、あたまオカシイよ!!」

「しょうがないだろ。エアコンは壊れちゃったんだから。

 夏は暑くて当たり前だし。」

「オニィ、そーゆーとこだよ! だから女子にモテないんだよ‼」


 もはや論点がずれまくっているけど、口で妹に勝ったことはないしこれ以上はまともに話す気力もない。俺はベットからデスクチェアに座り、リクライングさせて天をあおいだ。 


「いろいろゴメン。で、用件なに?」

「オニィの手を借りたいのじゃ!」

 雫は急な猫なで声で俺の膝の上に乗った。


 コイツは【妹】という立場をフル活用して俺をコキ使う術を、生まれた時から兼ねそなえている。

 多分だけど、人生二回目の回帰者じゃないかと思っている。


 まあ雫の下心を分かっていて、それに従う俺も悪いのは重々承知なのだけど。


「スマホをどこかに置き忘れちゃったみたい・・・ねえ、探してよ~!」

「俺のスマホ使えば?」

「さっき、ママのスマホで呼び出したけど、着信音鳴らなくて!」


 俺の膝の上で、雫は地団太を踏んだ。

 今どきの中学生のわりには幼い行動が目に余るが、これも雫の計算のうち。


 我が妹ながら末恐ろしい。


「可愛い妹の頼みじゃん! お願いします!!」

「・・・久しぶりだから上手くいくか分からんぞ。」


 雫の目にキラキラ星が映って見えた。

 少女マンガか。いや、わりと好きだけど。

 俺の膝から跳ねるように飛んで、雫は満面の笑みで右手を差し出した。 


「じゃあ握手!」

 俺は腹に力をこめて覚悟を決めた。


 差し出された雫の手を握った瞬間、水滴が弾けるような感覚とともに俺の視界が明るくなった。

 それから自分の目が他の人間になったような感覚。


 強いて言えば、俺の目が雫の目になったといえばいいのか。

 耳障りな金属音が頭の奥で鳴り響き、リアルではないような乾いた映像が次々になだれこんでくる。


 ※※※


 俺・・・いや、()()()は雫の部屋でスマホを弄びながら寝転んでいる。

 不意に階下の母に呼ばれて立ち上がり、無意識に枕の下にスマホを押し込んで部屋を出ていく。


 ※※※


 なんだ。


 俺は雫の手を乱暴に振りほどいた。

 水道の蛇口と同じで、能力の出しっぱなしは良くない。


「スマホ、オマエの部屋の枕元にあるじゃん!」

「さっきあれだけ探したのに。あれえ? 見てくるね!」


 笑い顔を引っ込めて、真顔の雫は慌てて部屋を出ていった。

 ほどなくして、部屋の向こうから声だけが返ってきた。


「あったよ! サイレントにしてたぁ!」

「ふぅ。もっとよく探せよ・・・!」


 ヤベ・・・クラクラする。


 能力を解放すると、いつもこうだ。

 だから・・・嫌なんだよ。


 俺は椅子から崩れ落ちて膝をつき、その場に前のめりに倒れた。


 ※


「オニィ、ありがと♪ って、オオッ!?」


 無意識の中に、雫の声だけが聞こえるが、身体は重く反応できない。

 フローリングの固い床の感触が頬に当たる。


「ありゃりゃ。また貧血?」

「サイコメトリーは鉄分を消費するからね。」


 いつのまにか母さんも部屋に入って来たようだ。


「アンタも分かっているでしょう。

 気軽にお兄ちゃんをGPSがわりにするのはやめなさい!」

「ヘヘ。ウチはママやオニィみたいに能力がないから、つい!」

「そんな良いものじゃないわよ。」

「私も思春期のころにしか発現しなかったから、今はもう使えないけどね。」


【サイコメトリー】


 科学的に証明されていない超能力の一種。

 物体に触れることにより、残された人の思念や記憶を読み取ることが出来る。


 かなりチートな能力だけど、俺はこの能力をうまく操ることができないんだ。


 人が触った物の記憶を辿るくらいでも貧血になるし、相手の過去を読み取ることも、できたりできなかったり。

 好奇心旺盛な小学生のときに相手に深入りしたことがあったのだけど、能力が暴走して精神が死にかけてしまった。


 そのときに一ヶ月ほど入院して以来、なるべくなら使わないように生きている。


 しかもこの能力のせいで、怖くて友達がつくれないことは、オフクロには言えないけど事実だ。

 しかもこんなオレが女の子と仲良くしようなんて、ムリゲーだよな。


 あ。

 もしかしたら心雨は、俺がボッチだと分かったから学校で無視したのかもな。


 ・・・。


 ・・・。


 もう、考えるのはやめよう。

 俺は週末、あの釣りスポットに行くのをやめた。

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