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曖昧なカノジョのメテオロロジー  作者: ゆきんこ


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23/23

#22 それはカフェオレとカフェラテの違いくらいのこと

 夕方のカフェ『afterall』は学生と仕事帰りの大人たちとでごった返していた。


 人並みをかき分けてようやくレジに並ぶ俺。

 大声で冗談を言い合って笑いあう制服姿の学生の集団と、それを見てうるさそうに舌打ちするスーツ姿のサラリーマンとが列になって並んでいる。


 いつもなら空いているレジを探しながらキョロキョロするけど、今日の俺にはこのレジにしか並べない理由があったので、大人しく人間観察をしていた。

 すると学生の集団がドッと盛り上がった時に、疲れ顔のサラリーマンが口の動きだけで悪態をつくのを見てしまったんだ。


『こっちは一日仕事して疲れているのに。マジうるせぇな。』


 だよね。

 まあ、その気持ちは分からなくもない。


 サラリーマンのサイレント・アクションは徐々にヒートアップしてきて、革靴が床を踏み鳴らし始めた。

 さすがに学生たちも、背後の険悪な男の異様さにに気づいて囁き合う。


『なんかにらんでくるけど、アイツウゼェな。』

『コッワ! 不審者ムリ。』


 学生は数年後には大人になり、大人は数年前まで学生だった。

 どちらも通る道だというのに、どうして違う人種のように感じるんだろう。


 なんていう俺も、少し前まではこのサラリーマンと同じように舌打ち上等だったし、なんならもっとヒドイ言葉を心の中で生成していた。

 今はそんな気持ちが1パーセントもないなんて綺麗ごとをいう気はないけど、なぜか気にはならなくなっていた。

 凪の海のように心が静かで、まるで他人事だ。


 なんでかって?

 それは・・・。


 学生の集団とサラリーマンが注文を終えて、ようやく俺の番が来た。

 いつものオーダーを早口で伝える。


「ホットのカフェラテとパニーニをください」

「お客様。」


 レジの女の子は呆れた顔で軽く頬を膨らませた。

「あいにく当店には【カフェオレ】しかございません!」


 俺は目の前のレジの女の子を見上げると、ニヤリと笑った。


「そうなんですね。」

「てゆうか、わざと間違えて注文するのはやめてよ。」

「だって心雨、前はオーダーの間違いを指摘する店員さんは意地が悪いって言っていたよ。」

「また晴人くんが変えた過去の私の話? そんなの知らないよ~!」


 俺の陰鬱な性格を更生した原因の少女は、真夏の太陽のようにカラカラと笑って俺に番号札を手渡した。


 ※ 


 心雨に能力のことをカミングアウトしたのは海で告白した次の日だった。


 だけど、俺のサイコメトリーの能力は少しも使えなくなっていて、心雨に証明ができないことに、少し残念な気持ちになった。

 あっても残念なチカラだったけど、ないならないで変に寂しいものだ。


 つまり俺は、【チートな能力があるのに上手く使えないボッチ】から、【ただのボッチ】になったというわけ。

 でもなぜか学校では、田中のように俺にわざわざ話かけてくる人たちが増えた。


 変なの。

 相変わらずカフェラテとカフェオレは違うし、降水確率とオンナゴコロは曖昧なのに。


 ※


 窓際のテーブルを先に陣取ってくれていた田中とだべっていると、除菌スプレーとダスターを入れたカゴを手にした心雨が現れた。

 心雨は隣のテーブルの清拭をしながら俺に話しかけてきた。


「晴人くん、今日はバイトが20時までだけど、待ってる?」


「おいおいッ!」

 田中が俺と心雨の間に手刀をブンブンと振り回して、わざとらしく声を荒げた。


「オマエのカノジョ、俺も隣にいるのに見えていないのか?

 これが噂のマジックか?

 つきあいたての男女しか使えないラブラブマジックなのか??」


「ゴメン!」

 頬を赤らめてトレイで顔を隠す心雨の横で、俺は苦笑した。


「ワリィな、田中よ。次回の川釣りに誘うから、今日はこれで解散にしよ。」

「おう。エサ代はオマエ持ちな。」

「高くつくな!」


 ニヤニヤしながら店を出た田中の背中を見ながら、心雨が焦った顔で俺の側に来た。


「晴人くん、田中くんと話していたのに邪魔してゴメンね!」

「ああ、あれは冗談だよ。元から田中はすぐ帰るって言ってたからね。

 俺はもともと心雨のバイトが終わるまで待つつもりだったから、釣り新聞と新しいライン買ってあるんだ。

 リールにラインをセットしていたら時間なんてあっという間だからね。」

「それって今週末のマス釣り用?

 楽しみ!」


 心雨が身を乗り出してリールを触ろうとした時、尻上がりの口笛が鳴った。


「オッ、来たな。

 学校一派手な告白をした伝説の男!」

「雫ちゃん!」


 俺たちの前にモノクロの腰エプロンを着けた制服姿の雫が、腕を組んでニヤけていた。


「困るんですよ~お客様。

 ウチは指名制じゃないんでェ、可愛いスタッフを独占しないでもらえますかぁ?」

「常連としてオマエみたいな意地の悪い年下の先輩にいじめられていないかを、定期的にチェックしたいだけだ。」

「にゃにおう!」


 見えない火花が散る一触即発の空気の中、心雨がのんきに発言した。


「ホントに仲良し兄妹だよねぇ。」

「ど・こ・が?」


 俺と雫は同時に心雨をにらんだ。


「ほら、シンクロしてる!」


 思わず頬が緩んで、三人の顔に自然に笑みがこぼれた。  

 相変わらず心雨は180センチのままだし、俺も167センチのままで何も変わらない毎日だ。


 でも、俺と心雨はちょっとだけ違う人生を歩んでいる。


(人生は、チートな能力なんかじゃ何も変わらない。ほんの少しの勇気、だったんだ。)


「お待たせしました!

 ()()()()()()()()とパニーニです。」



 心雨の声を聞き違えたのかと思いながら()()を飲んだ俺は、ティーカップの中の乳白色と茶色が入り混じる飲み物を見つめた。


「カフェラテにできるの⁉」

「晴人くんだけの特別レシピなの! みんなにはナイショだよ!」


 こんな風に、少しだけ・・・ね!



 <終> 

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