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曖昧なカノジョのメテオロロジー  作者: ゆきんこ


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20/23

#19 雨上がり

 色んな意味での精神的ダメージが濃すぎたんだろう。

 俺は気を失った二日間プラス、一週間ばかり不登校になっていた。


 そんな態度を取ろうものなら部屋のドアを壊さんばかりに激怒するはずの母さんが、静観ムードなのが俺のわがままを助長した。

 調子に乗って体力が続く限りゲームと動画三昧の日々を送り、疲れたら時間に囚われずにすぐに寝る。


 最初はこの世の幸せをつかんだ気になっていたが、そんな生活にもすぐに飽きてしまった。

 かといって、学校に行かないのに釣りに行くわけにもいかず、俺はどうしようもないジレンマに苦しめられていた。


 ※


「晴人、お父さんから電話。」

 

 やっぱり母さんにチクられたようで、単身赴任先の親父から電話がきたのは、いよいよやることが無くなって参考書を開いていた時だった。

 俺はイヤイヤ家電の子機を耳にあてた。


「お前は何様のつもりだッ‼」


 内容はもちろん、説教オンリー。

 ネチネチとした精神論と親父の学生時代の武勇伝で小一時間が過ぎた。


 親父の声色が変わったのは、小休止という名目で、ゴキュゴキュとビールを喉に流し込む音が聞こえたあたりだった。


「で? 好きな女子にフラれたから学校に行けないのか?」

 

 うへぃ、さすが親父。

 遠距離での会話だというのに、そこを突いてくるとは。

 しかも、当たらずとも遠からず。


 イヤイヤ、と俺は(かぶり)を振った。

 フラれてはいないんだよな?(今はまだ。)


「結果的にだけど、大衆の面前で告白しちゃったんだ。」

「そうか! 晴人、おめでとう‼」


 マジメな堅物だと思っていた親父の意外な言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


「そりゃないよ。」

「なんだ。てっきり落ち込んでいるのかと思ったら、余裕あるじゃないか。」

「だって、息子の恋バナ聞いて『おめでとう』っていう親がいるのかよ。・・・笑える。」

「笑えるなら、大丈夫だな。

 とりあえず母さんを心配させるな。学校は行っとけ。

 一時(いっとき)の噂なんて、これからのお前の人生の長さに比べたら些細なモンだよ。」


 俺は親父にどうしても聞きたいことがあった。


「親父はさ、母さんが今も能力者だったら、どう?

 好きでいられる?」

「唐突だな。

 まあ、変わらないと思うよ。」


 親父が間髪入れずに返答してきたので、俺は慌てて質問を重ねた。


「自分の頭の中見られたりするんだよ? 気持ち悪くないの?」

「能力があるとかないとかじゃなくて、母さんは母さんだからな。

 晴人、オマエもだぞ。

 能力とか関係なしに俺の息子だということは死ぬまで変わらないんだ。」


 俺の胸の奥につっかえていた何かが、ストンと腑に落ちた。

 

「ありがとう、親父。」


 明日から学校に行くという約束だけして、電話を切った。


 ※


 昨夜寝る前に、記録的な大雨がきて学校が永遠に再開されないことを願ったけど、起きたらカンカン照りのいい天気だった。


 青い顔でダイニングテーブルに座った俺に、珍しく雫がコーヒーを入れてくれた。


「どういう風の吹き回し?」

「マアマア。実験台になってよ。」


 立ち昇る湯気に顔をしかめながら俺はマグカップの中の茶褐色の液体を傾けた。

 口腔に残るほろ苦い旨みと喉に染み渡る熱さ。


 へえ。バイト一年目にしては悪くない。


「360円になります。」


 おどける雫の手のひらをどかすように、俺はテレビのリモコンで振り払った。


「今日一日、無事に生き延びられたら倍額で払ってやるよ。」

「じゃあ、生きろ!

 オニイ、応援してるよ! 頑張ってね。」


 俺の背中をポンと叩いた雫の手が、妙に温かい。

 珍しく玄関まで見送りにきた妹に、俺は明るく笑った。


「行ってきます!」


 ※


「佐藤、心配してたんだぞ!」


 クラスに入るなり、田中が俺の前に走って飛んできたことに、俺は驚きを隠せなかった。

「お、おう。」

「シケてんなぁ、まだ熱あんのか?

 ま、いいや。皆のものー勇者さまのご帰還だぜぃ!」


 田中のひと言で、男女問わずクラスの大半がどっと俺の周りに押し寄せた。


「おっ、大丈夫か?」

「待ってたぜ。ヨッ、オマエが冒険王だ!」

「オマエ、スゲーな。見直したぜ。」

「あんなハイスペ女子によく告ったよな!」


 な、何なんだこの騒ぎは!

 よく報道で芸能人がパパラッチに囲まれているのを見るけど、ちょうどあんな感じだ。


 思わず田中に助けを求めたけど、田中はちょっと悪い顔をしてニヤけた。


「オマエがいつもとり澄ましているからこうなるんだよ。

 懲りたら少しはファンサしろ。」

「ファンサだと? ぜんぜん意味わかんねーよ!」

「まあ、つまりアレだな。

 オマエが思っているより、みんなオマエと仲良くしたいだけだよ。」


 男の俺が赤面するようなことを平気で言うあたりが、この男の人たらしたるゆえんだと思う。

 教室の隅に追い詰められて質問攻めに合っていると、教室の入り口でたむろしている男子が俺を呼んだ。


「佐藤、廊下で誰かが呼んでる。」

「いっ、今行く!」


 俺を囲んだ人の輪をすり抜けて、慌てて廊下に飛び出した。


 ふぅ、助かった。

 でも、ボッチの俺に用があるなんて・・・誰だ?


(もしかして・・・心雨じゃないのか?)


 あれからまだ、一度も顔を合わせていない。

 連絡先を知らないから当然だが、もし会えるとしたら学校か釣りスポットしかない。


 ドキドキしながら廊下に出た俺は、見知らぬ男子を前にして固まった。


(誰だ、コイツ?)


 パッと見は、俺よりデカくて華奢な印象だ。

 

 色素が薄そうな肌と髪。

 それから大人びた顔に見覚えが・・・でも、まさか。

 

「えっと、何の用?」


 ソイツは一瞬下を見たけど、思い切ったように俺を見た。


「俺のこと、わかる?」


 俺は自分の直感を信じ、生唾を飲んだ。


「もしかして・・・雪也か?」

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