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#18 タイムリープをもう一度

「・・・。」


 ん?


「・・・晴人。」


 遠くで、誰かが微かに俺の名前を呼んでいる気がする。

 優しい小鳥のさえずりのようなささやきだ。


「目を覚まして。」


 今度は頭の上から聞こえた。

 この声は、母さん?


「起きて。」


 待てよ。

 本当に俺の母さんなのか?


 いつもの一階から大音量で響いてくる鬼みたいな怒鳴り声じゃないから、調子が狂うな。


「起きて。」


 切実な声に胸が痛い。

 大声より、コッチの方が効果はバツグンだな。


 ハイハイ、起きればいいんだろう・・・。

 とは思ったものの、目が重くて開きそうにない。


 昨日、完徹でゲームかなんかしたんか、俺?

 頭の中がグチャグチャして、思い出せない。


 気が変わった俺は、寝たフリをしてこの場をやり過ごすことにした。

 とりあえず、あと十分(じゅっぷん)は寝かせてよ・・・。


「ねぇ、晴人。アナタ・・・もしかして・・・。」


 ()()()()()って、なんだよ。

 うわ、めちゃくちゃ気になる。


「まさか・・・そうなの?」


 アアッ、ホントに・・・!

 うるっさいなぁ!!


 俺はイライラして眉間にシワを寄せた。


 わかった、わかったよ!

 今起きるから。


 起きればイイんだろ!!


 ※


「ハッ!」


 飛び起きた俺は見慣れた部屋の壁紙を凝視した。

 小さい頃、素振りで開けた小さな穴があるから間違いない。


「俺の部屋?」


 それから・・・ベッドの横に座る母さんが目に入った。

 母さんが俺の部屋にいるなんて・・・何で?


「良かったわ、意識が戻って!」


 そう言いながら母さんが濡らしたタオルで俺のおでこの汗を拭ってくれた。

 まるで小さな子どもみたいだけど、火照った額に冷たい感触が心地良かった。


「なんのこと?」

「覚えている?

 晴人は、熱を出して二日間寝込んでいたのよ。」

「熱を出して二日間って・・・。」


 何かを忘れているような・・・。

 壁に貼りつけているカレンダーを遠目に見た俺は、ハッとした。


 心雨の転校する前までにタイムリープをしたんだった!

 時間がないかもしれない。


 いま、何年の何月だ?


「二日間寝込んだのは、確か高校一年生の夏。

 とりあえず心雨が転校してくる前に戻ったのか。」


 俺は胸をなでおろした。

 とりあえずは計画通りだ。 


「あとは心雨が転校してこないようにするには・・・。」


 俺のひとり言を聞いた母さんが、大きなため息を吐いた。

「ちょっと、いいかしら。」


 それから少しトゲのある声音になったから、俺はドキリとした。


「なに?」

「アナタ、もしかしたら倒れる前にタイムリープを使ったの?」

「う、うん。高校二年生の夏から戻ったんだ。」

「あんなに脅したから使うことはないと思っていたのに・・・その前にも使った?」

「二回目だよ。友だちを・・・助けたくて。」 


 母さんの言いつけに背いたことが、気に入らないんだろうか?

 いつもは温厚な母さんが、少し緊張感を顔に出して俺に指示した。


「懐中時計はどこにあるの? ここに出しなさい。」


 俺は半身を起こしてパンツのポケットをまさぐった。

 指に細いチェーンの感触を感じてそのまま引っ張り出した俺は、少しギョッとした。


 錆びてるーーー?


 チェーンと懐中時計の文字盤を覆ういぶし銀のハンターケースが、びっしりと赤黒い錆に覆われている。

 今日昨日でできた錆ではないことは、パッと見ただけでもわかる。


 おかしい。

 確かに古い年代物だけどメンテナンスはしっかりやっていたし、最後見た時にもこんな見た目ではなかったはずだ。 


「か、母さん。この懐中時計、変だよ。」

「その話は後から聞くわ。

 晴人、今すぐ蓋を開いて中の針をよく見てみなさい。」


 全然、俺の話を聞く気がないじゃん。

 頭の中で母さんに反発するシナリオを考えながらも、俺は錆びついた蓋をどうにかこじ開けた。


 ところが・・・。


「え! そんな⁉」

 俺は思わず悲鳴をあげた。


「針が錆びて止まっている!」


 ど、どうしてこんなことに?

 慌てて懐中時計の上部にあるネジを回して動くかを試そうとした俺を見て、母さんはおごそかに口を開いた。


「タイムリープは罪深き能力よ。

 サイコメトリーと違って、何回も使えるモノではないの。」

「エッ? でも、今回で二回目だよ。」

「やっぱり、倒れたのは無茶した反動だったのね。

 アナタは二日前に学校で倒れて、そのまま先生たちに運ばれて来たのよ。」


 二日前・・・先生に・・・ということは・・・?


「そばにいた生徒会長の女の子が家まで付き添ってくれてね。

 すごく心配してたから、なんだか申し訳なかったわ。」

「う、嘘だろ?」


 自分の置かれた状況を把握した俺は、一気に青ざめた。


「じゃあ俺、タイムリープしていないの⁉」


 みんなの前で心雨に告白したままなのーーーッ⁉


(うぉぉぉぉぉぉぉーーー⁉

 俺の人生、詰んだぁぁぁぁぁぁぁーーー‼)

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