第三章 41 アシュを守りたいから
アシュラはタコの脚を体に巻き付けると瞬間移動をしてインドラの足元に横になって浮遊した。
よし、完璧!
アシュラはインドラの虚を突いた確信があった。だが、インドラはアシュラを蹴飛ばした。タコの脚がダメージを軽減してくれたため痣程度に終わった。
「何だ。この違和感は?」
アシュラは痣を治すとたくさんの分身を出現させた。そして、背中の後ろに手の甲を合わせようとしたところで、浮遊してアシュラを追っていたインドラに分身のアシュラたちが引き寄せられた。
「対応が早い。早すぎる」
アシュラは近くに落ちていた石を二つ適当に拾うと一つを分解して砂ほどの大きさにすると石と砂にオーラを纏わせて一緒に投げた。インドラは星を三つずらして重ねた紋様から片方の眼に円い紋様を刻むとインドラの目の前の空間が歪んで穴ができた。その穴に石と砂は吸い込まれてアシュラの背中に飛ばされた。
「なっ⁉」
インドラは再び両方の眼に星を三つずらして重ねた紋様を刻むとアシュラに全てを焼き尽くす黒炎を放出した。アシュラはオーラの意識認識の拡大をするとオーラを変形できるようにした。そして、傘を広げるようにしてオーラを広げると黒煙を受け止めてオーラで包んだ。アシュラはそれを分解していくつか小さい球に変えると身に着けている吸盤に付着させた。そして、アシュラはようやく背中にできた痣を回復させていると、お腹に衝撃が走った。
サウルスの、神竜の力をもうものにするか。俺の血の影響か?
アシュラは思わず口角が引きつって上がった。と同時に大量の血を吐いた。神龍と神竜の鱗を纏ったインドラの鳩尾を狙ったアッパー気味の寸勁を神竜の力を通じて食らったからだ。
「っとに、俺はどれだけ塩を送ってるんだ」
アシュラは血を吐きながら笑った。笑いながら自身が纏うオーラを分解して棘ほどの大きさにして四方八方に永遠に飛ばし続けた。飛ばし続けながら体の回復に専念した。
「無駄だよ」
インドラはアシュラが飛ばした棘を反射させた。アシュラは先ほど、タコの吸盤に付着させていた、インドラの黒炎を包んだ球を自身の四方八方で壊して黒炎を出現させた。アシュラの反射された棘はインドラの黒炎で燃やした。アシュラは黒炎に巻き込まれないように瞬間移動をしようとした時、もう一度、鳩尾に強い衝撃が走った。アシュラは今回は血を吐くだけではなく、頭もクラクラした。おまけに、インドラの黒炎が迫って来ていた。
「ああ、クソ」
アシュラは自身に纏われているオーラを硬化して全身を守った。と同時に瞬間移動をして体の回復を急いだ。すると、インドラが空間を歪ませて穴を作ると穴からインドラが現れた。アシュラは急な重力の増加で地面に叩きつけられた。
「もう、諦めたら?全て遅いよ。私がアシュを守るから、もう、諦めてよ!」
インドラは泣いていた。アシュラが苦しんでいる姿を見て泣いていた。だが、アシュラが戦うことを諦めてくれないと、自己犠牲の果てにデストロイに殺されてしまうのだ。
「私は、私より早く、アシュに死んでほしくないんだから。ねえ、もう諦めてよ」
「嫌だね。インドラは未来を見たのかもしれないが、それは、現時点の予測だろう?俺は諦めない」
「アシュは優しいから、この刻印、顔を隈取しているのも解くつもりはないんでしょ?」
「当たり前だ。その眼でインドラの肉体が壊れてしまうだろう」
「ほら。そうやって自分のことは顧みずに私を助ける。だから、私がアシュの力を奪ってあげる。そしたら、私がデストロイのことは何とかするから。眠って」
インドラは眼に溜まったオーラを消費した。アシュラは歪む視界の中でその様子を捉えていた。頭はクリアではっきりと動いていた。インドラの神竜の力への対応もそうだが、何よりも危険だったのはインドラの眼だ。アシュラは喋りながら、インドラの言葉に傷つきながら、必死に対応策を考えていた。ずっとインドラの眼を見てオーラが溜まっているのを感じて、先ほど眠らされた時よりも、かなり、多いオーラが溜まっているのが分かった。刻印の影響でオーラの残滓をオーラに変換する機能があるため、オーラを分解するのを止めた。だから、インドラの眼のオーラが消費された瞬間、アシュラは力の流れを見た。オーラはアシュラの頭に向かって一直線に凝縮されて飛ばされていた。それは、普通なら見ることのできないスピードだった。普通なら、だ。アシュラが見えたのは極限状態だったために脳の処理速度が爆発的に上がったからだった。タキサイキア現象。アシュラがインドラのオーラの流れを完璧に見切ったのはこのためだった。アシュラはオーラの流れを変えて自分の周りで滞留させて操った。
「オーラの意識認識の拡大。そして、この状態の適応。俺はまだ、戦える」
「強がり」
インドラは無理をしているアシュラを見て更に悲しくなって涙が溢れて来る一方で、アシュラの力を奪ってこれからは、守られる立場になって欲しいという相反する感情が渦巻いた。だから、インドラはアシュラの尻子玉を食べることに決めた。
「苦しまないで眠って欲しかったけど、仕方ないね。力尽くで眠ってもらうよ」
「インドラ。一緒に未来に抗ったらいいじゃないか?」
「アシュは優しいから皆のためにいっぱい無理するの。いっぱい、いっぱい無理して、最期には、最期には私を!・・・。私を庇って死んじゃうの!」
「・・・。天狗やカエルの未来予知よりも正確なのかもな。カエルとツチノコのように今までの世界の情報を元に予測するのと違って、何の情報もなしで未来を見れるのかもしれない。きっと、インドラの状態はシキラシたちに会ったことで、より深刻になってるのかもな。より力を引き出す結果となってるんだろうな」
アシュラは声の調子を落として独り言のように喋った。インドラは否定しなかった。
「今の、インドラの状態も未来予知ではなかったんだろ。きっと、インドラ自身が切り開いた未来」
インドラは否定しなかった。
「刻印もインドラには隈取されてなかったんだろう」
インドラは否定しなかった。
「きっと、インドラは自分の意思で眼を使わなかったんだろう」
インドラは否定しなかった。
「おそらく、俺がインドラを助けたいという固い意志もあって、適応が中々できなくて、怖くなって、焦って、インドラの意思もあって、インドラの尻子玉を俺が奪ったんだろう」
インドラは否定しなかった。
「だから、俺が自分の限界を顧みずに無理して、一人で解決しようとして、焦ってしまうんだろう」
インドラは否定しなかった。
「具体的じゃなくたって、俺は大まかには未来を考えることができる。ここ数日、色んなパターンを考えて、これが、一番現実的だって考えたさ。インドラの強さは予想外だったけど」
インドラは否定しなかった。
「俺が弱いせいでインドラを不安にさせてしまった」
インドラは大粒の涙を流しながら叫んだ。
「違う!私が、私の心が弱かったから、アシュが無理したの。私が無理させてしまったの。今だって、きっと、アシュ以外を見ると全員デストロイに見えてしまう!だから、私は、アシュがデストロイに立ち向かうための力を失わせて、アシュが無理できないようにしたいの。そうしたら、アシュが私を庇って死ぬ未来は無くなるから!」
「今度はインドラが自分を犠牲にするのか?」
「っ!?」
「だからこそ、俺が今、インドラに勝ってインドラを安心させる必要があるんだ。インドラも望んでいるんじゃないのか?自分の本気を引き出したら、きっと未来が良い方向になるって。だからこそ、デストロイという恐怖で視界が塞がったんじゃないのか?」
「五月蠅い!」
「生きていたら、何度だって挑戦できる。一回で何とかしようなんて思わなくていいっ!」
「っ!?・・・。でもね、アシュ。生きていても、それは無理だよ。アシュの尻子玉を私が食べたら、何度挑戦しても負けてしまうでしょ?」
「そこら辺は、全然大丈夫。だって、俺、負けないもん」
「アシュ。どうなったって知らないよ」
アシュラは怪我の回復を終えるとインドラの眠らせる力のある滞留しているオーラに自分のオーラも混ぜて凝縮してパワーアップさせた。
「どんな、凄い攻撃でも当たらなければ痛くも痒くもないんだよ」




