第三章 40 絶望
「アシュ!」
インドラの赤く輝く眼を見た時、セツナは咄嗟に叫んでいた。それは肌で感じるインドラのオーラの練度の高さ、禍々しさからはもちろん、涙を見たからだ。セツナの反応はこれ以上ないぐらい早かった。だが、遅かった。
「私に触れるな、デストロイ!」
インドラは急速な精神の崩壊から幻想を見ていた。
アシュラがセツナの叫びを聞いた時、すぐに瞬間移動をしてウォーから離れて状況を確認した。インドラはセツナに神龍の血を流していた。
「ぁあ」
アシュラはオーラを纏い刻印を体に纏うとセツナを瞬間移動して抱きしめた。そして、すぐに苦しんでいるセツナの体の神龍の血の適応をさせているとインドラは体を膨らませて手の甲を背中の後ろで合わせていた。
マズイマズイマズイ。どうして、こんな時に限ってママとパパがいないんだ!
アシュラが次の対応を必死に考えているとナリが雷を纏ってインドラを抱きしめようと走っていた。
「ぁあ、ダメだ!」
アシュラはすぐに神龍の力をつかって木の分厚い壁を立てた。ナリはその木にぶつかって転んで、アシュラに叫んだ。
「インドラは泣いてる!」
「ぁあ、分かってる。分かってるんだよ!逃げろ!」
アシュラは必死に泣くのを堪えて、自分への抑えきれない憤怒で叫んだ。
ウォーはアシュラの顔を見てすぐにいっぱいの涙を流して水鏡を一つ出現させた。アシュラはいつか、インドラとニケと一緒に捕まえた巨大魚のシックスセンスを使って龍王たちを水鏡に引き寄せた。
「「「アシュ!」」」
水鏡に入って行く龍王たちはいっぱい涙を流しながらアシュラを心配そうに見つめていた。アシュラはセツナを神龍の血に適応させるとセツナを投げ渡した。
「ママとパパを・・・」
「「今来た」」
「ぁあ」
アシュラは目の前の水鏡が消えたのを確認すると同時に目の前の分厚い木の壁が粉々になって吹き飛んだのを確認した。
「俺がインドラを助ける」
インドラは充血して目から血を流していた。肉体がシックスセンスに耐えれていないのだ。
「アシュから、アシュから離れろ!」
インドラは更に眼にオーラを集中させていた。だから、血が流れる一方だった。アシュラはそれを見て焦ってしまった。アシュラはインドラの後ろに瞬間移動をしてインドラの目に触れるとインドラのシックスセンスの適応を開始した。
「アシュ。戻って来てくれたね。でもね、アシュは力があると自己犠牲を惜しまない。惜しまないんだよ。だから、せめて、河童の力は無理でも神龍の力は奪って置かないといけない」
「は?」
アシュラはインドラが限りなく起こる可能性が高い未来を見たことを知らない。だから、インドラが言ったことの本当の意味を知らない。だから、アシュラは神龍の血を抜かれるということに頭が追いつかなかった。理解できなかったのだ。だが、そういう事象が起こるんだと認識した。だから、
「伸びろ刻印」
アシュラは神龍の血を抜かれて動きが鈍くなる前にやれることをとにかくしようと考えた。
まずは、刻印の意識認識を拡大した。己にしか纏えないということから、己以外にも纏えるように意識認識の拡大をしたのだ。インドラは伸びた刻印に意識を割かれてアシュラの神龍の血を吸収するのが遅れた。
俺がインドラのシックスセンスをインドラに適応させるには余りにも時間が掛かりすぎる。それに、この精神状態だと更に。だから、
「纏え」
アシュラはインドラの目元に刻印を刻んだ。そして、その刻印を分解して斬り離した。アシュラが刻印をインドラの目元に纏わせることに集中している間にインドラはアシュラの神龍の血を抜き始めた。
「ガアァァァァーーーー」「ハアァァァァァーーーー」
悶絶。アシュラは強烈な痛みを伴って尚、必死に耐えた。なぜなら、インドラも苦しんだから。神龍の血を濃くするということはかなりの苦痛が伴う。シューンが毎晩、夜な夜な一人で少しずつ神龍から神龍の血を体内に入れているほどに。インドラはアシュラの中の神龍の血を全て吸収していた。だけなら、まだ、ギリギリ耐えれていただろう。
アシュラの血に神竜の血が混じっていなければ。
インドラは神竜の血に悶絶していた。だから、アシュラは自分のことなど後回しにしてインドラに神竜の血を適応させることを優先した。そうやって、アシュラが苦しみに耐え続けて行く一方、インドラは徐々に元気な状態に戻って行った。
「ほら、そうやって自己犠牲をしてまで助けるでしょ?」
インドラは目から涙を流していた。瞳には星を三つずらして重ねた紋様を刻んでいた。尚も眼は赤く輝いていた。
「眠って」
アシュラはインドラの攻撃を近距離で食らって眠った。ニケはその瞬間、体を膨らませて手の甲を後ろで重ねた。シューンはオーラの結界を築いた。そして、ニケが手を叩いた瞬間、インドラの両目にたくさん集まっていたオーラを消費させた。
「なっ⁉」
ニケが起こした風とオーラの残滓は反射されてニケとニケの横にいたシューンにもろに近距離で食らう羽目になり、二人の体内のオーラは飛ばされて眠ってしまった。
「殺さなきゃ。デストロイは一人も残さず」
インドラはアシュラをお姫様抱っこしたまま、ニケとシューンに母と父にゆっくりと浮遊して近づいた。そして、ニケと触れれるほどの距離に近づいたところでアシュラが目を覚ました。
「早いね。アシュ。じゃあ、もう一回」
アシュラはインドラの目に溜まったオーラを分解した。そして、インドラにキスをした。舌を入れてなるべく時間を稼ぐように。インドラは突然のアシュラの行動に嫌がってはいなかった。だが、受け入れてもなかった。インドラはアシュラを押して距離を取った。アシュラも浮遊して相対した。
「邪魔しないで。私がアシュを守るんだから」
アシュラはインドラの決意を聞いても尚、キスをした。舌を入れた。
アシュラはインドラの精神を見ていた。シックスセンスの問題はあとで、ゆっくり適応させれば良い話だったから。ただ、それよりも深刻なのはインドラの精神状態だった。
殺意の繭が異常にデカい。そして、俺への愛も。インドラの殺意の矛先はデストロイ。デストロイの存在がインドラの中で占めている。今は、意識を細分化してデストロイのことに目を向けさせないようにすれば・・・。
インドラがアシュラを押して距離を取ると同時に冷たい視線を向けた。
「やっぱり、私がアシュを守らないとアシュが死んじゃう」
「ぁあ」
インドラが、俺に失望している。俺はインドラよりも遥かに弱い・・・のか。
アシュラは恐怖で体が震えた。
立場が逆転した。否、俺はずっとインドラに守られていたのかもしれない。インドラの強さを知らなかったから、俺はずっと強がって来られたんだ。
『咲け』
ミケの声が聞えた。ミケの仕掛けが発動した。アシュラの心に光が照らされた。アシュラはその光に全力で意識を向けた。そうやって、今から目を背けて前を向いた。
「俺が、インドラを守るんだっ!」
アシュラはインドラのお腹を殴り飛ばした。インドラは木に穴を開けながら飛んで行った。そして、神龍と神竜の緑と黒の鱗を纏った。目にはハートの紋様を刻んでアシュラに攻撃された時にできたお腹の怪我を回復した。アシュラは裸のまま瞬間移動をして倒れているインドラの前で宣戦布告をした。
「とりあえず、今、俺がインドラよりも強いことを証明してデストロイから俺を守らなきゃなんて考えを二度とさせないようにしてやるっ!」
「無理だよ。アシュには。だから、私がアシュを守るの。デストロイを殺すために」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い。俺に勝ってから言え、インドラ!」
「どうやら、アシュは尻子玉を取られないと分からないみたいだね。良いよ。私が相手をしてあげる」




