第三章 39 アシュのお姉ちゃんとして
「「「アシュ!」」」
昼頃、天空に戻ると龍王たちがアシュラとインドラとニケを出迎えた。二日間、ワンオペで面倒を見ていたシューンは疲れ果ててフラフラだった。ニケはシューンに近づいてインドラは立ち止まったままアシュラをずっと見ていて、アシュラは駆け寄って来る龍王たちのハグに応えていた。インドラもハグをして応えたが、ずっと変わらずにアシュラを見ていた。だから、龍王たちは不思議がって首を傾げた。
「アシュ。インドラと何かあったのです?」
「いや、何にも。ただ、俺がちょっと体調崩していたことに気付けなかったことを悔やんでるんだよ」
「じゃあ、ウォーはアシュを独り占めするのです。ようやく形になりましたから」
ウォーは黒色のオーラを纏うと水鏡を出現させた。その水鏡の先には木が見えていた。ウォーはアシュを持ち上げた。
「アシュ。ちょっと来て欲しいのです」
「いや、インドラは多分ついて来るぞ」
「絶対だよ。目の届かないところには行って欲しくない」
「だって」
「むう。二人きりじゃないと意味がないのです。仕方ないのです」
ウォーは肩を落としてアシュラに頬をすりすりした。だが、明らかに口角が上がっていた。
「もしかして、こうなることを予想しててやった?」
「えへへ。策士なのです」
「自分で言ったからって許されるとは思わない方がいいぞ」
ウォーの後ろでは顔を怖くしたセツナ、ミラ、ナリが、そして、インドラと触れ合って楽しんでいたクリとクロコクも顔を怖くしていた。一斉にウォーに飛び掛かった。だから、アシュラも浮遊してインドラの元へ移動した。インドラはアシュラが寄って来ても自らは触れ合おうとはしなかった。
「インドラ?」
「うんうん。何もない。ただ、ちょっと」
「ちょっと?」
「私はアシュにとってちゃんと特別な存在になれてるかなって」
「何言ってるんだ?当たり前だろう」
「違うの。私が言ってるのは、・・・私はアシュに無条件で受け入れてもらってる、アシュに喜んでもらうって努力せずに」
「インドラ。考え方を変えてみたらどうだ?」
「考え方?」
「おう。無条件で受け入れてもらえるほど好かれているって」
「それは、姉だからってこと?」
「うーん。俺は姉だからって言うのとプラスアルファーでちゃんと特別な理由があるよ」
「ホント?」
「おう。大好き」
「これからも、ずっとずっと?」
「おう。絶対。約束する。だから、そんなに不安にならなくてもいいよ」
「アシュ。アシュ。アシュ」
インドラはアシュラに抱き着いて泣きそうな顔をした。アシュラはニケがシューンの相手をしていたため、朝のことがあったため、インドラが泣いている姿を見せたくなかった。だから、インドラと瞬間移動をして見晴らしの良い、神龍の頭の腕に移動をした。
「俺はここにいる。泣かなくていい」
「うん。うん。うん」
インドラは噛みしめるように徐々に声を大きくして答えた。アシュラはそんなインドラをただただ、優しく抱きしめた。
インドラが急に不安になった理由の根源はアシュラへの依存。アシュラを観察するようになったことで、自分はアシュラのために何も喜ばせようとはしてないかった、自分のことだけしか考えてなかったということに気付いて、こんな調子だとアシュラが離れてしまうと思い強烈な不安に駆られたからだった。
神龍は小さく唸った。まるで、インドラを慰めようとしているかのように。
「インドラ。落ち着いたか?」
「うん。ねえ、アシュ。私は、私はアシュのお姉ちゃんをちゃんとやれてる?」
「ああ。やれてる。一日の大半はインドラのことを思うほど好きだよ」
「なら、アシュの方から甘えて来てよ」
「騙したな!」
「えへへ」
アシュラとインドラは夕日を見ながら神龍の上でずっとボーとしていた。ただ、二人で触れ合って変わりゆく景色を見ていると自然と心が澄み渡って落ち着いて来たからだ。アシュラはインドラのこの信教の変化を好ましく思えた。
この変化はきっと悪いことじゃない。俺が気を付けなけでばいけないのは今も昔も変わってない。インドラが初めてシックスセンスを使った時に正しい方向に導くことだ。
アシュラは心の中でそう決意しながら、インドラの女の子座りをしている太ももに顔を埋めて寝転んだ。インドラはアシュラのいきなりの行動に体を一瞬ビクッとさせたが頬が綻んで凄く嬉しくてアシュラの頭を撫でた。そうやってイチャついているとニケが瞬間移動をしてやって来た。
「晩御飯よ」
「「うん」」
「アシュ。ありがとね」
「何のこと?」
「ホントに。良い性格をしてる」
ニケは笑うとアシュラとインドラも瞬間移動をさせた。
家に帰ると庭に新たな木が立っていた。
「ママ。あの木は何?」
インドラは指を指して元気に尋ねた。アシュラはすっかり元気になっているようで安心した。
「ミケの新作。結構、面白いわよ」
目の前の木には大きな分厚いキュウリが実っていた。アシュラとインドラは楽しみにして繋いだ手をルンルンに振って家に帰った。家に帰ると三つの席が空いていた。シューンの隣が一つとシューンの向かい側の席は二つ空席だった。そして、二つの空席側に座っていたウォーが嬉しそうに微笑んでいた。控えめなピースをしていた。しかし、胸を張っていた。可愛らしかった。
「今日もウォーが勝ったのです。いっぱいお世話をしてあげます」
対する他の龍王たちは顔が沈んでいたがインドラの横に座ることになるセツナは嬉しそうに笑っていた。龍王たちは、アシュラが大好きなのは間違いないがインドラもアシュラに負けないぐらいちゃんと好きなのだ。
「大変だったのよ。結局、シューンと話せてないし」
「へえ。じゃあ、座ろうか」
「待って」
インドラがアシュラの袖を軽く握った。その目は一緒に横に座りたいと言っていた。だから、アシュラはインドラの頭を軽くポンポンと叩いた。
「少しの辛抱だ。後でいっぱい構うから」
「ホント?」
「うん」
インドラは満足してシューンの隣に座った。インドラもアシュラが特別好きなだけでちゃんと皆のことも好きなのだ。
「で、ミケ姉さんの新作っていうのは?」
「まあ、食べて見なさいな」
ニケは席に着くとフォークで焦げ目がついたキュウリを刺してアシュラの口に運んだ。アシュラはそれを口の中に入れると頭が混乱した。
見た目は大きいキュウリだ。だが、食べると確かに弾力があり、繊維を感じる。これは、間違いなく肉と判断してしまう。
アシュラはフォークを握り締めると浮遊して皿に乗ったそのキュウリを刺そうとしたところでニケに捕まえられた。
「コラ。はしたない。行儀よく食べなきゃ。まあ、分からんではないけどね」
アシュラは椅子に座らされた。そして、
「いただきます」
ようやく、晩御飯を食べることになった。
「じゃあ、ちょっとシューンと話すから先に温泉入ってて」
晩御飯を食べ終わるとアシュラたちは一緒に温泉に入った。インドラはセツナに捕まえられていてアシュラに近づくことができなかったと同時にアシュラはウォーにロックオンされていた。ついでに言うとミラ、ナリ、クリ。クロコクもアシュラにロックオンしていた。
「さあ、アシュ。このウォーの弾力のあるおっぱいを。ニケさんほどではないけど楽しめるはずです」
ウォーはアシュを抱っこすると温泉の水を操って縛り付けていた。絶対に逃がさないという意志表示をしていた。ミラはウォーにだけ温泉が凄く熱くなるようにして邪魔をしてナリはウォーにだけ足が速く痺れるように邪魔をして、クリとクロコクは協力してウォーの視界を少しすつ狭くなるように邪魔をしていた。ウォーはそんなことは意に介さずアシュを愛でていた。ウォーがどうして、意に介さずできているかと言うと理由は単純だった。
俺が適応させてるからいいけど、地味な抵抗をしてるなあ。
アシュは苦笑しつつもウォーのちっぱいを、七歳だから当然である、楽しんでいた。
一方、インドラとセツナはアシュラたちのその様子を見ながら話していた。
「ねえ、インドラ。いつもならアシュに近寄るのに今日はどうしたの?」
「うん。私、アシュにお姉ちゃんらしいこと一つもできてないと思って」
「人それぞれ、色んな形があるんだから、気にしなくて良いんじゃないの?」
「うん。アシュもおんなじようなこと言ってた。でもね、これは、私のわがままだから」
「うーん。そっか。じゃあ、インドラは将来、アシュのどんな存在になりたいの?」
「アシュのお嫁さん」
「そっか。でも、残念だけど、アシュはセツナの夫になるから、インドラのそのイメージを具体的に考えてみたらどうかな?」
「むう。具体的?」
「うん。インドラの将来を具体的にイメージするんだよ」
「将来を具体的に?」
「まあ、セツナもそんなに具体的にはイメージしてないけどね」
セツナは笑った。何のこともないように。しかし、インドラは真剣にイメージしてしまった。自分の未来を。
「インドラ。どうかした?」
セツナは突然黙ったインドラの顔を覗き込んだ。
インドラの眼は赤く輝いていた。
すると、涙を流した。
「私が、・・・アシュを守らなきゃ」
インドラは限りなく起こる可能性が高い未来を見ていた。アシュラが色んな女の人と触れ合って、でも、アシュラはインドラを一番にする未来。アシュラによってシックスセンスを適応してもらって楽しく暮らして、やがて、デストロイがやって来る未来。ツリトの尻子玉をデストロイに食われてアシュラがインドラに自分の尻子玉を渡して目の前で殺される未来。インドラが悲しみと憤怒を胸にデストロイと善戦するも負けて死ぬ未来。そして、デストロイが星の魂を喰って星が滅亡する未来。
インドラの心は壊れてしまった。




