第三章 38 吐露
「そっか。ゼウスに会いに行ってたんだね」
家に帰る前にミケを適当な場所に呼び寄せてアシュラとニケとサウルスは今日のことを話していた。
「俺は、フロンティアの王を目指すよ」
「そっか。一応、心は晴れたみたいだけど、心配だから仕掛けを用意するよ」
「何を?」
「咲け」
ミケがそう呟くとツリトの体が光った。ミケはツリトを持ち上げて顔を真正面から見て微笑んだ。
「一回だけ、不安や恐怖を和らげられるようにした。必要ないかもしれないけど、頑張って」
「おう」
「よしっ。じゃあ、インドラとエマの猛攻に頑張って耐えてね」
「「アシュ!」」
インドラとエマはアシュラを見るなりすぐに飛びついて来た。アシュラは心が乱れることなく、自然と受け入れることができて一安心した。
「大丈夫?」
エマがアシュラを心配して恐る恐る声を掛けて来た。だから、アシュラは笑顔で応えた。
「おう。もう大丈夫」
「良かった」
「ねえ、何の話をしてるの?」
「ちょっと体調が悪かったんだよ」
「アシュ。どうして、私には話してくれなかったの?」
「ホントに一瞬だったからさ」
「じー。次からはちゃんと、私にも言ってよね!」
インドラはアシュラの手を振えながら握って心配そうに泣きそうな顔で見た。
「おう。悪かった」
アシュラが笑顔を見せるとインドラは笑ってアシュラに抱き着いた。
ああ、何にも怖くなんかないじゃないか。
「ねえ、アシュ。今日はやけに素直にインドラは僕にアシュを渡したね」
「まあ、エマはその分、俺にくっついてるけど」
「ふふん。インドラが観察するということを覚えてくれたおかげで得してるよ」
「これはこれで嫌だけどな」
アシュラとエマはサウルスの太ももの上に座っていて真正面にはニケの太ももの上に座っているインドラとミケから必死に離れようとしているが逃げれずにミケの太ももの上に座らされているキキがいた。七人は温泉に入っていた。そして、インドラはアシュラを観察しようと目を見張っていた。
「だったら、エマに考えがあるよ」
エマはアシュラの右手を引くと少し引き寄せてからアシュラの上に座った。
「これで、顔が見えない。えへへ」
「それじゃあ、私のやってることの意味ないじゃん!アシュの顔を見せてよ!」
「アシュはインドラにずっと見られるのが恥ずかしいって」
「じゃあ、私がアシュから離れた意味がないじゃん。ママ。放して」
「ダメ。インドラの摂取量が足りないの」
ニケはインドラの胸を揉みながらインドラの頭の上に顎を置いた。
「やっ、止めて!」
「よし。インドラに邪魔されない今がチャンスね。エマ。アシュを好きなようにできるよ」
「うん。サウルス。インドラにじっくり観察させてあげよう」
二人は見せつけるようにアシュラに愛情表現をしてインドラはギャーギャー騒いだ。アシュラは途中で体力が切れて眠ってしまった。
「アシュ。起きた?」
アシュラは視界が眩しくてしばらく目をぱちぱちさせた。家の中で寝ているはずだが、外にいた。アシュラを外に連れ出していたのは、ニケだった。
「おう」
「そっか。インドラに心境の変化があったね」
「おう」
「これは、きっと予兆だよ」
「おう」
「覚悟はできてる?」
「おう」
「震えてないね。良かった」
「おう」
「アシュ。最善の未来を諦めないでね。一回で全て解決しようだなんて思わないでね。生きていたら何度でも挑戦できるんだからね」
アシュラはニケのか細くて、でも、確かに、芯の通った心の奥からの声を聞いた。目からは一筋の涙が流れていた。だから、アシュラは心をギュッと掴まれたように苦しくて、悲しくて、自分に対する怒りが込み上げて来た。
「ママも、ずっとずっと怖かったのか。俺とおんなじでずっと。それを隠し続けて」
「うん。ホントはずっとずっと怖い。怖いんだよ。少しでも希望がある未来があるって信じるための確証が欲しいんだよ。もう、家族が不幸に会うのは嫌なんだよ。嫌なんだよ」
ニケの心の結界が溢れた。今までずっと蓋をして蓋をして抑えて来たものが一度、蓋を開けたことで駄々洩れて来た。その思いは波は止まることを知らなくて。
「父さんが死んで、母さんは傷ついて塞ぎ込んで、ニケたちの前からいなくなってずっと寂しくて、でも、ミケがいたから、シューンが寂しさを埋めてくれたから、前を向けて、アシュとインドラが生まれて来てくれて、ようやく心が楽になったのに、アシュが天才だったから、生まれる前からシックスセンスを使ってたから、インドラにも何かあるって、強すぎるシックスセンスで身を壊すかもしれないって、ずっと不安で、でも、アシュがその不安を消してくれて、でも、シキラシたちと会って、未来はずっと暗闇で、光が差してないって知って、アシュが強烈な不安や恐怖に駆られて、ママが何とかしなきゃって、ゼウスの力も借りてアシュに前を向いてもらうことができて、安心して、インドラに心境の変化があって、強烈に怖くなって、このままじゃ、ダメだって思って、・・・ごめん。アシュにする話じゃなかったね」
アシュラはニケの熱が伝わってニケと同じようにボロボロと涙が零れて来てニケがアシュラを強く抱きしめて泣いて泣いて泣いてーーーー
風が吹いた。
『僕ね。後悔はないよ。きっといつか巡り合える。だから、強く生きるんだよ』
父のツリト最期の声が聞えた。ニケだけではなく、アシュラにも聞こえた。アシュラは誰の声かは分からなかった。だが、ニケは父のツリトの最期の声が聞こえて、この風は父が起こしたものだって、突然吹いた風に理由を付けて信じてまた、涙が溢れた。もう一度、父と会わせてくれた奇跡に不安が小さくなって、落ち着いて、前を向いた。
「うん。父さん」
アシュラはニケの涙を流しているが、決意の籠った顔を見て全身が震えて、今するべきは泣くことではないと思って、泣きながら浮遊してニケの母の頭を優しく撫でた。すると、タイミングを見計らったかのように、同じように泣いているミケとサウルスが瞬間移動でやって来て、ミケは後ろから姉のニケを抱きしめて、サウルスはアシュラを抱っこしながら、ニケを前から抱きしめて、泣き声が自然に反響した。そして、もう一度風が吹いて笑い声が聞えた。
『にしし』
「ねえ、ミケたちも聞こえた?」
「うん。ミケも父さんの声が聞こえて思わず出て来ちゃった」
「僕もね」
「ねえ、アシュも聞こえたの?」
アシュラはニケの太ももの上で頬をつねられながら聞かれた。朝風呂ならぬ朝温泉に入った四人は感動冷めやらぬだった。
「おう」
「母さんに伝えたいなあ」
「だね」
ニケとミケが特に興奮していた。三人で交代でアシュラを抱っこしては顔がずっと綻びまくっていた。
「ずっと、言わないようにしてたけどさ、アシュってツリトに似て来たよね」
サウルスはずっと言いたかったけど、言えなかったことを言った。ニケとミケは一瞬だけ表情を暗くして顔を俯かせた。サウルスはしまった。と思ってアタフタした。
「「そうなの」」
「アシュは生まれ変わりかもね。父さんの」
「でも、それってニケ姉としては凄い複雑よね」
「うん。でも、アシュは可愛いからあんまり気にならないよ」
ミケがサウルスにアシュラを渡した。サウルスはアシュラの顔を胸に当ててギュッと抱きしめた。
「違う。ミケが言ってるのは、サウルスとかサウルスとかサウルスとかがアシュにちゅっちゅっしてることだよ」
「僕ばっかりじゃないか!」
「そう。サウルスとかサウルスとかサウルスとかのしていることはプラスアルファーで複雑なんだよ」
「ははは。だね。でも、そういう意味じゃ、ミキがキキに似てて良かったかも。ミキはミキで可哀想な感じだしね」
「だね」
サウルスがニケにアシュラを渡した。アシュラは肩で息をしていた。ニケは笑いながらアシュをミケやサウルスに見えるように抱いた。
「にしし。父さんが見てくれてる。ニケはそれが、凄ーく嬉しい」
ニケは満面の笑みを見せていた。




