第三章 37 ゼウスとツリト
「ニケがアシュよりも早くゼウスのライバルって存在になってあげるよ」
「フン。貴様の戦い方は特殊過ぎる。このゼウスの鍛錬には向かぬ」
「ニケに負けても?」
「フン。勝ってから宣へ」
アシュラはずっとサウルスにベロチュウをされながら会話を聞いていた。だから、サウルスを持ち上げて浮遊した。尚もサウルスは変わらずアシュラにベロチュウをしたままだ。
「じゃあ、始める?」
「ああ。ニケとこのゼウスの攻撃は世界に影響を及ぼさない」
ニケは肩甲骨周りを軽くストレッチをしてゼウスはやはり、腕を組んだまま直立していた。
「よしっ、じゃあ、いざ尋常に」
「「勝負」」
ニケは背中の後ろで手の甲を合わせようとすると同時に手のひらにタコの吸盤を付けた。そして、予想通りゼウスは「飛べ」と言ってから瞬間移動をした。そして、上から三番目の両手でニケの両手を掴んだ。
「なっ⁉」
「にしし」
ニケは吸盤を膨らませた。同時に体も膨らませた。一歩前に出て両手が自由になると手の甲を返して少しだけ肩を閉じて背中の後ろで手を叩いた。オーラを飛ばしてゼウスにぶつけた。一瞬だけゼウスのオーラが揺れている瞬間にもう一度体を膨らませて右手の甲に左手を置いて右手のひらからオーラと空気砲をぶつけた。ゼウスは再びオーラを揺らされた。ニケはそれを確認すると反転して手刀をゼウスの上から五番目の左腕に向けてわざと外して放った。
「っ⁉」
ゼウスはこのニケのフェイントに体が硬直した。オーラを若干多めに移動をしていた。だから、次の攻撃に対応できなかった。ゼウスの上から五番目の腕が切断された。
「フン」
ゼウスは笑った。
ニケが行った攻撃は逆手刀だ。河童にしかできない技を行ったのだ。逆手刀。通常の手刀は小指から相手の体に当てる。しかし、逆手刀は人差し指から相手の体に当てる。では河童にしかできない技と言ったのは何故か。それは水掻きだ。河童は当然、水掻きが薄くて大きい。そして、強度が強い。その水掻きを生かした逆手刀でゼウスの上から五番目の左腕を切断したのだ。
「見事。肩慣らしは終わったか?」
「とっくに、温まってるよ」
「では」
ゼウスは体にハートの紋様を刻んで上から二番目の両手の拳を合わせて上から三番目の手に着いた吸盤を外した。
「ギアを上げるか」
「だね」
ニケは大きく息を吸って体を膨らました。
「まだ、ニケのシックスセンスは使わないであげる」
「フン」
ニケは一歩踏み出して瞬間移動をするとたくさんの分身を出現させた。海の小型危険生物は群れで挑んで来るのだがその時によく分身の瞬間移動をするのだ。
「さあ、一斉にやっちゃおうか」
ゼウスがやって来た。だから、本体のニケは一歩踏み出して瞬間移動をすると同時に分身のニケたちは同時に背中の後ろで手の甲を合わせてからゼウスに向けてオーラと豪風を飛ばした。四方八方から飛んで来たためゼウスのオーラは激しく揺れると同時に竜巻が発生した。ゼウスは竜巻の中にいた。
「フン」
ゼウスは笑うとオーラの揺れが収まった後に動いた。
「簡易領域」
ゼウスは地面に大きい影を出現させた。その陰から腕がたくさん生えて来ていずれも手刀で体を真っ二つにされて消えた。
「さて、残りはこの竜巻だが、このゼウスを出し抜くには竜巻を解決した瞬間。つまり、浮遊せよ」
ゼウスは上に浮遊して行き竜巻を抜けた。案の定、体を膨らませて浮遊しているニケがいた。
「あちゃあ、読まれてたか。なら、轟け」
ゼウスの頭上には薄暗く広がる雲はなかった。つまり、ニケによる発動となる。晴天から雷が轟いた。
ゼウスは変速で自分の体を最速で動かしたため、雷を避けた。そして、ニケにシックスセンスを発動される前に上から三番目の右手の人差し指に左手を覆ってニケがシックスセンスを使うのを無効にしようとした。だが、それができなかった。理由は単純だ。ゼウスが変速で肉体を動かすスピードが上がっているのにも関わらず、ニケの方が動くスピードが速かったからだ。ニケは背中の後ろで手の甲を合わせてから手を叩いてゼウスにオーラをぶつけた。
ゼウスは笑った。
「それも、既に使い熟すか、ニケ」
「『身壊』。ようやく、体が馴れて来たよ」
『身壊』。字の通り身を壊す。河童は皮膚呼吸も可能だ。また、水の中でも動けるために肺に特別な酸素を生み出す仕組みがある。だから、心臓を動かすスピードがかなり遅い。その心臓を無理やり速く動かすことで体を動かすスピードを無理やり上げる禁術だ。
「行くよ」
ニケは両腕を上げてゼウスの腕の前で空振りした。ゼウスはまた引っ掛かった。否、ちゃんと防御態勢を取らないと腕が斬り落とされると判断したからだ。ニケは逆手刀で上から五番目の腕から、一番下の腕から一番上の腕まで一気に斬り落とした。そして、ゼウスの心臓がある胸の位置の皮膚だけに衝撃を与えるように張り手をした。ゼウスは痛みを一瞬に感じた。
「っ!」
ゼウスは体に刻んでいたハートの紋様のおかげで腕十本を生やして胸の痛みも消した。
「タフねえ」
ゼウスは星の紋様を胸に一つ刻んだ。そして、上から二番目の右手の拳を左手のひらに当てるとニケはゼウスに引き寄せられた。ニケは敢えてゼウスに自ら力を入れて近づくことで加速してゼウスに近づいた。ゼウスは一番上の両手のひらを合わせるとオーラを倍増した。そして、ニケが両手を前に出して簡易的なオーラを飛ばす拍手をしようとした時、ニケは不可視のパンチを鳩尾に食らった。ニケは膨らんでいて皮膚と筋肉の間に入っていた空気がクッションになって浮遊を止めてしまうほどのダメージは負わなかった。
「っとに、どこから、攻撃して来た?」
「フン。そろそろ、お互い本気でやるか?」
「だね」
「飛べ」
ニケも瞬間移動をして地面に着地した。そして、相対した。
「これをすると、戦いの面白さが無くなるんだよね」
「駆け引きがない故な」
「だね」
「三段階の領域」
ニケとゼウスは何もない球の影の中に入った。お互いオーラを纏っていない。影の中は中央に丸いバトルフィールドがあり、端は空洞になっていた。
「さて、第一ラウンド。だけど、ニケは余計なことはしない」
ニケは空洞の中に落ちて球の陰に当たった。すると、また、中央のバトルフィールドに立って戻った。
「懸命だな」
「そりゃあ、そうだよ。だって、怪我は残っちゃうんだから」
「ホントに、便利なシックスセンスにしたものだ」
「にしし。じゃあ、次はニケの無双の番だね」
「悪いが、このゼウスも次に掛ける」
ゼウスはバトルフィールドから落ちて影の球の表面に当たった。そして、バトルフィールドの上に瞬間移動をされた。
「っとに、種が分かれば有利が少なくなるなあ」
「フン。例え、三回目、貴様が負けても何度でもペナルティーなしに再チャレンジできるだろう?」
「まあ、そこの絶対有利は揺らがないけど・・・」
「始めるか」
「うん。いざ尋常に」
「「勝負」」
ニケは一歩踏み出してゼウスの後ろに瞬間移動をすると同時に背中の後ろに手の甲を合わせた。ゼウスは一番上の手を合わせてオーラを増幅させた。
「簡易領域」
ゼウスはバトルフィールドと球の内側にも影を広げた。そこから、たくさんの大きさの腕が出現した。そして、そして、球の内側はゼウスの手で覆い隠された。ゼウスの四方八方には多くな腕で守られた。
「汚っ!」
ニケは逃げ道を塞がれたことに思わず心から叫んだ。試しに体を膨らませて手を叩いた。領域内にある全ての腕のオーラが激しく揺れた。
「斬ったって意味ないから最速で決める!」
ニケは一歩踏み出すと瞬間移動でゼウスを守っている腕の前に瞬間移動をした。
「『身壊』」
ニケは息を大きく吸ってから右手の手のひらを広げた。そして、指先を地面に向けて腕を引いて右足を下げた。
「「カラワラ流螺旋」」
声が重なった。ニケは思わず心の中で笑った。
良い性格をしてる。
ニケは指先を地面から上に捻りながらの突きをゼウスを囲っていた腕を貫通させて放った。それに合わせるようにしてゼウスの上から五番目の右腕による同じ技が放たれた。二人の手のひらが重なった。お互い腕を回転させていて銃から放たれた弾丸のように勢いが付いている。ニケは『身壊』により身体能力が上がり力はもちろんだがスピードが爆発的に上がった。更に皮膚呼吸の時に空気中のオーラの残滓を吸収している。ゼウスは一番上の手のひらを合わせてオーラを増幅している。オーラ量もオーラの質もニケよりも圧倒的に上である。
勝ったのはーーーーー、ゼウスだった。
ニケに右腕は破壊されて粉々になった。そして、血がどぼどぼと流れた。ニケは領域を解いた。ゼウスはすぐにハートの紋様をニケに刻むとニケの右腕はすぐに生えた。ニケはその場で座って笑った。
「ダメだったかあ」
「このゼウスに力勝負で挑むのには無理がある」
「ニケも部位鍛錬しようかなあ」
ゼウスの最も恐ろしいのはこれだった。オーラは身体能力を上げるものだ。つまり、強くなるには二通りのやり方がある。一つはオーラの練度を上げる。もう一つは己の肉体を鍛える。大抵の人は前者しか極めない。だが、ゼウスは後者も極めている。おまけに、部位鍛錬で更に肉体を追い詰めているのだ。
「止めておけ。女がそんなことをするものではない」
「確かに。ニケのぷにぷにでやわやわでもちもちの肌がごつごつになったら嫌だわ」
「フン。違いない」
サウルスがアシュラを胸で窒息死させながら降りて来た。
「ニケも負けたじゃん」
「だね。アシュは死んでるの?」
「うん。アシュは僕の胸に殺された」
「そっかそっか。アシュを渡してくれる?」
ニケは眠っているふりをしているアシュラを受け取るとアシュラの心臓を軽く押した。アシュラは咳込んで目を開けた。
「俺は、起きろと言われたら起きていた!」
「にしし。で、アシュ。ママの戦いはどうだった?」
「凄かった」
「そっか。アシュと二人だったら勝ってたかもなあ」
「それはない。このゼウス、もう一つのシックスセンスは使っていない」
「そういや、ゼウスのもう一つのシックスセンスって何なの?」
アシュラがずっと気になっていたことを聞いた。
「詠唱、刻印、合掌、変速。これは既に使った。もう一つは筋力強化。特に腕を。だから、怪腕と名付けている」
「ヤバい奴。さすがに引くわ。あれだけの怪力に更に怪力をプラスするとか」
「「うんうん」」
「でも、これが、フロンティアの王たる所以か。どうせなら、俺はフロンティアの王を目指そうかな」
『僕ね、皆に凄い奴って見られたいんだ。だから、どうせなら、僕ね僕ね、フロンティアの王を目指そうかな』
ゼウスはツリトの姿が重なって見えた。
『「何故だ?」』
「だって、判断力、戦闘力がずば抜けてるもん。俺はゼウスみたいに、うんうん。ゼウス以上に強くなる。そうすれば、インドラとのことをきっと、どうにかできる」
『だって、判断力、戦闘力がずば抜けてるもん。僕ねゼウスみたいに、うんうん。ゼウス以上に強くなる。そうすれば、パパとママの無念もきっと、どうにかできる』
恨まないのか?
ゼウスは思わず口に出掛けた。
『恨む?何でさ?これだけの凄さを見たら、パパとママのことは仕方なかったんだって思うし。にしし。だから、だからさ、僕を、僕をね、弟子にしてよ』
沈黙が流れた。ゼウスは思わず喋っていた。
「弟子になるか?」
アシュラは目を大きく開いて丸くして笑った。ニケとサウルスは悲しそうな顔をした。
「俺は、俺にはそういうのは間に合ってる。俺にはママやサウルスがいる。他にもたくさん。だからさ、偶に、俺を鍛えてくれたら嬉しい」
「フン。そうか」
ゼウスは少し寂しそうな顔をした。ニケとサウルスはツリトとゼウスの関係を知っていたため、心が少しキュッと締め付けられた。




