第三章 34 前は向いた。だが、歩けていない。故にーーー
「ホントにもう行くの?」
「おう。近いんだろ、エルル」
「ギキッキッキッキ。そうじゃあ。その日はもう近い。アシュ。焦るんじゃないぞ」
「おう。焦らないように頑張る」
「無理しすぎないでくださいね。アシュが細分化と刻印を使い熟すにはまだ、肉体が追いついていませんから。でも、焦らないでください。ノコとシキラシはエルルを通じて大きく分けて二つの未来を見ています。一つはインドラが死んでしまう未来。もう一つはインドラが死なないもののアシュが死んで星が滅び皆死んでしまう未来。二つとも、アシュが焦って起こってしまう未来です。気を付けてください。焦らなければこの二つの未来は大きく変わります。ですよね、エルル?」
「オラが話す言葉を奪うんじゃないんじゃぜえ。じゃが、ノコが言った通りじゃ。一つだけ言っておくんじゃぜえ。その大きく分けて二つの未来は、アシュに細分化と刻印のシックスセンスを与える前の未来じゃ。じゃのに、何故、オラたちは焦るんじゃないぞと言ってるかをちゃんと考えるんじゃぜえ」
「おう。俺はインドラが死ななければ、どんな結果になってもいい。何度でも挑戦してインドラのシックスセンスを適応させるって決めたから」
「そうか。一歩前進じゃな」
「アシュ」
「どうした?」
シキラシがアシュラの両手を掴んで心配そうに見つめた。目にはいっぱいの涙を溜めて。
「アシュ。恐怖に負けないでね。おいらはアシュが恐怖にさえ負けなければきっと描きたい未来を描けるって信じてるから」
シキラシはアシュラにキスをした。零れる涙を見せたくなかった。だから、落ち着くまでずっとしていようと思っていると唇をこじ開けられた。舌が舌と絡み合ってとろけそうになって体が凄く熱くなった。
だから、シキラシは離れた。
「俺は成長している。恐怖に負けるつもりはない」
「アシュ。カッコいいこと言ってるけど、顔が真っ赤だよ。あと、こんなことはまだ、成長しなくていいのよ。サウルスが可哀想じゃないの」
「ぼっ、僕は可哀想じゃない。なんなら、実際に試したっていい」
「アシュ。私たちはインドラのシックスセンスについては何も言わない。ノイズになるとお互い違う理由から認識しています。ですが、私たちはアシュを信じて応援しています。頑張ってください」
「インドラを守ってあげて」
「おう!」
ノコが空間にひびを入れた。アシュラたちはその中に入ってフロンティアに帰った。
「アシュが、アシュがノイズになるって言ってて良かった。もし、未来を知りたいって言ってたらきっと立ち上がれなかった」
「ギキッキッキッキッキ。インドラが死ぬ未来も死なない未来もどっちもインドラの尻子玉を抜くしか対応できなかったじゃけえの。じゃからこそ、気付いて欲しいんじゃ。先祖からのメッセージにのお」
「ですね。直接聞いて欲しいです」
「アシュ。表情が硬くなってる。ニッコリしなきゃ」
フロンティアに戻って来てすぐにニケがしゃがんでアシュに目を合わせて笑った。
「うん。分かってる。母さん。切り、替えることができなかったら、考えてることがあるから」
「なるほど。何となく分かったよ。でも、ママはそれをあんまり、お勧めしたくないから、ニッコリしてよね」
ニケはアシュラの頬に人差し指を突き刺して口角を無理やり上げた。
「まだ、足りないなあ」
ニケはアシュラの脇をこそばゆくさせた。アシュラは自然と笑って笑顔になった。
「この笑顔だよ。でも、不安になったらやっていいから。じゃあ、サウルス。アシュラを抱っこしてて」
「いいの?」
「おう。表情が硬くなった時のために」
「アシュー!」
河童の村に着いて家に帰った瞬間、入り口で待ち構えていたインドラはアシュラに飛び込んで抱き着いた。アシュラはインドラを抱きしめた。心臓がバクバク言っていた。だから、アシュラは恐怖を必死に抑えてせめて表情だけは見られまいと強く抱きしめた。
アシュの表情を正面から見ていたミケはニケとサウルスの表情を見てインドラのことで良くないことを知ったと察した。
エマはアシュラがインドラを見た瞬間に怯えているということだけを気付いて、その恐怖から解放させてあげたいって思って、インドラをミケに、母に瞬間移動をしてそれから、アシュラの胸に瞬間移動をして今はただ、その恐怖をインドラのことを忘れて欲しいと思って、エマのことで頭をいっぱいにして楽になって欲しいと思って、アシュラにキスをしていた。
「エマ!」
インドラが抗議してエマに怒った。だが、エマはアシュラのことだけ考えていて、インドラの声は聞こえていなくて、キスに夢中だった。
「ぼっ、僕の役目だったのに」
ニケは苦笑しつつミケにアイコンタクトで謝った。アシュラはインドラと離れてからも心臓はバクバクしていた。だが、エマの体温を直に感じてサウルスの温もりも感じて心がだんだんと落ち着いて来ていた。エマはアシュラとの初めてのキスがもう終わると思うとだんだんと遅れて恥ずかしさが込み上げて来て離れた。
「っ⁉」
離れてアシュラの顔を見た時、アシュラはまだ怯えていると感じた。だから、もう一回と思った時、ニケが前に出た。
「インドラ。昨日は寂しくしてごめんね」
ニケはミケに抱っこされているインドラを受け取って優しく微笑んだ。だが、
「許さないっ!私もアシュと一緒に行きたかった!」
インドラはニケの腕の中で暴れた。アシュラはその様子を見て胸を撫で下ろした。
「ビビり過ぎだ」
「ホントによ、アシュ。インドラはインドラ。恐怖する要素はない美少女よ」
エマはサウルスの言葉でもまだアシュラが落ち着いていないように見えたから、インドラの視界はニケで塞がったからエマは何度もアシュラにキスをした。
「アシュ。どこにも行かないでね。私、昨日は凄ーく寂しかったんだからね」
「おっ、おう。悪い」
「全くだよ」
部屋の中に入ってふかふかの椅子に座るとインドラがアシュラの右腕に抱き着いてアシュラの肩に顔を乗せて脚をルンルンに振っていた。アシュラの左腕には同じようにエマが抱き着いていた。ニケとミケは外に出て話に行き、サウルスはミキの面倒を見ていた。ミキは相変わらず石を何段にも積み重ねている途中だった。
「アシュ。もしかして、体調悪い?手が震えてるよ」
インドラは心配そうにアシュラを見た。アシュラは更に心臓が跳ねて手が震えた。エマはサウルスを見た。サウルスは露骨に表情にアシュラを心配していると出してはいなかったが、胸の前で何度も手を擦っていた。
「今は、インドラに悟られたくない」
「何か言った?」
「インドラ。ちょっと俺の上に乗って」
「え⁉いいの?」
「おう」
インドラは体の向きを反転させて脚をアシュラの腰に巻き付けた。
「へへえ」
インドラの顔が綻んだ。尚もアシュラの手が震えていたことをエマは見た。
「でも、きっとアシュは震えを止めれないから見せないようにしようとしてるんだ」
「エマ?何か言った?」
「うんうん。インドラ。アシュを見てみて」
「な・・・」
アシュラはインドラの顔が向いた瞬間すぐにキスをした。アシュラがインドラにキスをした理由はインドラが好きなことももちろんある。だが、一番はアシュラがインドラに恐怖を抱いていることを隠すためだった。インドラは急速に顔を真っ赤に染めながらもアシュラのキスを拒まず、むしろ、積極的に何度もアシュラにキスをしに行っていた。インドラから何度もキスをされる内にアシュラは徐々に震えが止まって来た。
ビビるな。インドラはいつも、インドラなんだ。想像で恐怖を抱くなんて間違ってるんだから。インドラはこんなにも可愛いんだから。
「そっか。ニケ姉。大丈夫?」
「アシュが頑張ってるんだから、弱音なんて吐いてられないよ」
「今は二人だよ」
「でも、ニケはアシュとインドラのことで実は、そこまで深刻に考えていないの」
「どうして?」
「多分、アシュとインドラの問題は時間は掛かるかもしれないけど、きっと解決できるの。ニケがより深刻に問題視しているのは、デストロイのこと」
「そっか。でも、デストロイのことはミケとスマイルとラフに任せてよ。絶賛捜索中だから」
「頼むよ。でも、売り出し方を少し変えて見てもいいかもしれないよ」
「と言うと?」
「ミケならどんなものでもヒット作物を作ることができると思う。でも、それをデストロイが食べたいって思うようにしないといけないってこと。もちろん、外の人全員に食べさせるって目的は全然良いことではあると思うんだけどね」
「なるほど。異空間に住んでいる可能性が高いんじゃないかってことね」
「そう言うこと」
「分かった。両方のやり方でプロデュースして見る」
「うん。お願い」
「アシュは大丈夫?」
「少なくとも自発的に落ち着こうとしているから、今は大丈夫」
「ミケがアシュの気持ちを落ち着かせようか?」
「そうね。心がぐらつく度にキスをしてインドラの気を逸らそうなんていつまでもできないし」
「おかえり。ニケ、ミケ。ミキの集中力はずば抜けてるね」
ニケとミケが帰って来た時、インドラはまだ、アシュラにキスをしていた。まるで、マーキングをしているようだった。エマはアシュラからインドラを引き離そうと必死だった。アシュラは流れに身を任せていて目を瞑っていた。
「確かに、凄いわ。キキの血を色濃く受け継いでいるのね。ニケ姉。アシュを落ち着かせる必要ってあるのかなあ?」
「インドラが落ち着いたらお願い」
「了解。サウルス。よく我慢したね。アシュに甘えに行きな」
「いいの、ニケ?」
「サウルスは天空には来ないでしょ」
「まあ。うん。そだね。じゃあ、遠慮なく」
サウルスは立ち上がるとアシュラを漁夫の利して抱きしめた。インドラとエマは浮遊してアシュラを引っ張って取り返そうとしたが、サウルスは大人気ないことにシックスセンスを使ってインドラとエマにサウルスとアシュラを触れさせないようにした。
「ズルっ子。卑怯者!」
「サウルスは楽しんだんでしょ!だったら、エマを助けるのが当然の流れじゃん」
「うーん。素直に楽しめないなあ。アシュ。ちょっと走りに行こうか」
「サウルス。どこに行くの?」
「うーん。ニケも付いて来て」
「どこに行くつもりなの?」
「内緒」
「サウルス。どこに行くつもりなの?」
「アシュに新たな恐怖を与えてあげようと思って」
アシュラの心臓がバクバクした。
「これじゃあ、時間を掛けて前を向くしかない。だから、新たな恐怖を与えてあげようってね」
ニケは笑った。
「なるほどね。確かに、アシュにいい経験になりそうだしね。でも、サウルス。一つ勘違いして欲しくないんだけど、多分、ニケは勝てるよ」
「じゃあ、アシュの後にお願いしようかな」
「このゼウスに何用だ?」
「アシュをボコボコにしてあげて欲しいの。あっ、僕はやらないよ。それで、もし、アシュが勝ったらカシャさんに会わせて」
ゼウスがアシュラを睨んだ。アシュラは恐怖で体が震えた。
ホームズとワトソンからのメッセージに気付けなかったか。まあ、気付いたとて容易ではないが。
「カシャは心の療養中だ。未来を見る心の余裕などあらぬ。故に、このゼウスがアシュラを直々に育ててやろう。立て!」
アシュラは鳥肌が立った。否、アシュラだけではない。ニケもサウルスもユグドラシルの近くにいた生物たちも鳥肌が立ち圧倒された。自然が騒がしくなった。アシュラはサウルスの胸から離れ立った。
「どこからでも、掛かって来い。このゼウスに自ら触れることができたら、アシュラの勝ちだ。だが、心して掛かれ。死ぬ寸前まで追い詰める故な」




