第三章 31 アシュの特訓
「ということで、お願いね、ミケ」
『そういうことなら、仕方ないよ』
奥から二人の甲高い声が聞えた。
『サウルスは帰って来させて』
『エマもインドラと同じ』
「だって、サウルス。どうする?」
「僕はここに残るよ。帰ったら何をされるか分からないからね。特にエマには」
ニケはインドラとエマが騒ぎそうと思ったから、ミケも長くなりそうだと思ったから、
「『じゃあね』」
別れの挨拶をして、ニケは水鏡を消した。
「さてと、アシュはどんな調子かな」
「相変わらずみたいだよ、ニケ」
「そっか」
「なんで、おいらはサウルスに抱っこされてるのさ?」
「それは、アシュの訓練の邪魔にならないようにだよ」
「おいらは邪魔しないよ」
「嘘はよしなよ。僕が引き離すまでずっと抱き着いていたじゃない」
「むう」
そんな三人の目の前ではエルルが暇そうに寝転びながらノコとアシュラを見ていた。アシュラはノコを持ち上げようとしていた。アシュラは全身に刺青を入れたように体にラインを刻んでいた。
「全然持ち上がっていませんよ」
今、アシュラは真っ直ぐ一直線にに体を伸ばしているノコを持ち上げていた。その光景はお互いの体全身を使って心電図に一回だけ拍動をしたのを表しているようだった。
「今、体を慣らしてるんだ。もう少し、もう少しだけ待ってくれ」
アシュラは空気中のオーラの残滓を吸収して力いっぱいの子を持ち上げていた。だが、まだ、大量のオーラの練度を上げるまではできていなかった。
「確か、龍の血も入ってますよね。どうして、龍鱗を纏わないんですか?」
「同時に龍と河童の力を使うのは正直、難しいんだ」
「難しい?」
「そう。できなくはない。だが、難しい。龍と河童の特徴の両方を常に良いとこ取りするのが」
「良いとこ取りする?ですか」
「ああ。例えば、今、話題に上がった龍鱗は表面が固いから、河童の呼吸ができなくなる。それに、切り替えに時間が掛かるし、上手く合わせることができない」
「そうですか」
「アシュ。そこまで、分かってるんじゃったら、ちゃんと結び付けて考えるんじゃぜえ。そこに気付いているなら先祖からのメッセージに気付けるはずじゃ」
「どうして、教えない?」
「ちゃんと、メッセージを受け取って欲しいからじゃ。先祖の声を聞いて欲しいからじゃ。それに、それは、デストロイを殺すために必要となる。オラから言えるのはここまでじゃ。あとは、ノイズになってしまうじゃろ?」
「ハッ。分かったよ。ちゃんと魂の形を理解しろってころだろ?」
「そうじゃ、そうじゃ。ギキッキッキッキ」
「ここ最近で魂の形を理解していたのが、ツリト、アシュのおじいちゃんに当たるわけです」
「ってことは、母さんもなのか?」
「ーーー」
「ママもなのか?」
「ママとミケは深くは知れてない」
「ふーん。じゃあ、いずれ、俺も辿り着くだろう。さてと、練度を上げる」
アシュラはオーラを縮小させて練度を上げて行った。そして、ノコを持ち上げたまま浮遊した。アシュラは両手にノコの腹を乗せたまま、浮遊してやがて、大音量の音波のように大きな角度でノコを完全に地面から離した。
「完璧です」
「ギキッキッキッキ。早いの」
アシュラはゆっくりと落下してノコを静かに地面に置いた。
「アシュ。やるねえ。次はどうするの、シキラシ?」
サウルスの腕に抱っこされていたシキラシは地面に着地してアシュラと視線を同じにした。
「次はシックスセンスへの応用」
「どんだけなのよ、っとに」
サウルスは逃げ回っていた。アシュラは木龍の力を使って木で作った龍と竜を操って駆けまわるサウルスを追っていた。サウルスが苦戦していたのには理由がある。一つは
「いちいち攻撃がデカいから威力が凄い」
サウルスの視界を塞ぎながら幾度もなく木が飛来してくるのだ。ご丁寧に逃げ道を失くして。そして、サウルスが苦戦していたもう一つは
「アシュ。そろそろ、シックスセンスを使わせてもらうよ」
サウルスはシックスセンスを使わずに逃げ回っていたのだ。アシュラの肩慣らしの時間が必要だったのだ。、サウルスは十分だと判断して竜鱗を纏いシックスセンスを使うことにした。
「行くよ」
「うん。ドンと来い」
サウルスの目の前には木で作った竜が体を前屈みにしてサウルスと体当たりをしようとしていた。そして、その上では浮遊していた木で作った龍が肺を膨らませるようにして口を膨らませていた。
「じゃあ、よーい」
「「ドン!」」
サウルスが一歩を踏み込んだと同時にアシュラが木で作った竜を針ほどの大きさの棘まで分解して一直線にサウルスに飛ばした。サウルスは思わず
良い性格をしてる!
と皮肉り、構わずそのまま突っ込んだ。その無数の棘はサウルスに一直線に飛びサウルスに直撃する、瞬間に急激に遅くなって止まった。それは、サウルスに当たる直前に空気に固定されたようだった。
「そう、来ると思ったから、俺はいくつか罠を用意した」
サウルスが正面を覆っている木の棘を反射していた時、上から木で作った龍が近距離まで落ちて来た。
「っ⁉」
サウルスは構わず真っ直ぐにアシュラに向かって走った。サウルスのシックスセンスで木の龍は当たることはない。だから、木の龍が頭上で不自然に曲がって落ちてそして、地面に落下して壊れた木が爆発した。神龍の血に眠る木龍の力と炎龍の力を組み合わせた合体技だ。サウルスは視界が炎で染まる中、尚も真っ直ぐに進んだ。だから、気が付かなかった。アシュラが背中の後ろで手の甲を会わせていることに。
「第一の領域」
サウルスとニケとアシュラだけの空間となった。ニケだけがオーラを纏っていた。アシュラは刺青のようなラインは消え、サウルスは竜鱗が剥がれていた。
「アシュ。それは、皆が倒れちゃう」
「ちゃんと、調節するつもりだったよ」
「アシュが調節できるのは分かってる。でも、神竜を甘く見たらいけないよ。龍とは違って竜は特化型なんだからね。竜は対人戦闘に優れているんだから」
「そういうこと。アシュ。僕は河童のそれはさすがに怖いからちゃんと対策できる方法はあったの。ニケ。僕にシックスセンスを使えるようにしてくれない」
「いいわよ」
サウルスもオーラを纏えるようになった。そして、筋骨隆々になって手を握った。
「こういうことだよ、アシュ。これは、オーラにまで作用するんだ」
アシュラは両手をグーパーした。
「握られた感触があった。なるほど。凄いな。ホントに対人戦闘に優れている。なるほどな。これは、調整が鈍るかも」
「でも、シキラシのシックスセンスは凄いなあ。ニケもお願いしよっかな」
ニケは種明かしを終えて領域を解いた。すると、シキラシが走ってアシュラの元に向かって来ていた。
「アシュ。怪我は無い?」
「うん。無いよ」
「じゃあ、何となくでも、シックスセンスの使い方に馴れた?」
「うん」
「じゃあ、次は追いかけっこだね。全力で逃げてね」
「クソッ。遊ばれてる」
アシュラは息切れを起こしながら開いた大地を走っていた。そのアシュラを余裕で追いかけているのがノコだった。アシュラが苦戦しているのには理由がある。
「瞬間移動をしたらいけないのはキツイな」
と愚痴を零していると後ろから舌を急速に伸びてきていた。アシュラは地面を思い切り踏み込んで真っ直ぐに跳んだ。ギリギリで避けることができた。
「それに、浮遊も禁止。キツイな」
「今のは反応が良かったんじゃないですか。咄嗟でも大分、コントロールできていましたよ」
「でも、転んだ」
アシュラは立ち上がると同時に水龍の力で水を開けた土地に浸す勢いで出現させた。刻印のおかげでホントに視界いっぱいが水に囲まれた。アシュラは水が引ける前に水をノコを縛るために操った。しかし、その水はノコの体をすり抜けている。アシュラは縛ることは諦めて水の壁をノコの全方位に作った。アシュは再び全力で逃げた。そして、逃げながら白龍の力を使って水の壁に光を注いだ。アシュラが今回の追いかけっこでの勝利条件は二つ。
「制限時間まで逃げ続ける。あるいは背中に乗るってほとんど不可能じゃないか。・・・それに、まだ、刻印を刻んでいない。俺から仕掛けるのは不可能か」
「眩しいですが、余り大したものではありませんね。さてと、十分に準備ができたはずです。行きます」
ノコは水壁にそのまま突っ込んですり抜けてアシュラのオーラの流れを感じる場所に地を這った。
「動きませんね。水もかなり引いていて隠れる場所もないはずですが」
ノコは不思議に思いながらもそのまま這った。そして、感じていたオーラの流れがある場所に辿り着くとそこにいたのはアシュラのレプリカの木で刻印も刻まれていた。
「やられましたね。では、アシュはどこにいるのでしょうか?」
ノコは刻印を刻んだアシュラのレプリカの木を舌に刻印を刻んでしならせて潰そうとした。すると、アシュラはノコの背中に乗っていた。
「俺の勝ちだ。オーラを尻子玉に収納して気配を消していたんだ」
「ノコたちが望んでいた結果じゃないですが、やるじゃないですか」
「俺に時間いっぱい全力で走って欲しかったんだろうが、さっきので、大分馴れたよ」
「なら、いいですけど。では、このまま、シキラシたちのところに帰りましょうか。もう、夕暮れです」
「だな」
「アシュ。おかえり。どうだった?」
「かなり、使い熟せた」
「そっかそっか」
「ところで、サウルスたちは何をやってるんだ?」
アシュラとノコの目の前ではサウルスがシキラシに可愛く何度もグーで叩かれていた。シキラシの顔を見ると前髪が切られていた。
「いや。やっぱり、顔全体が見えた方が良いじゃない」
「うん」
「だから、サウルスが紙をカットして伸びすぎたパッツンを止めさせたの。思い切っておでこが見える髪型にね」
「なるほど。そういうことですか。シキラシのパッツンはシキラシ自身はアイデンティティーと思っていますからね。アシュ。気を付けてくださいね」
「何を?」
「それは、決まってるじゃないですか。今、シキラシは最大級に恥ずかしがってるんですよ」
「じゃあ、俺は逃げてれば・・・」
「それは、ダメです。シキラシには逆効果です。それに、フロンティアまで会いに行きたいと言い出しかねません」
「母さんはどうすれば良いと思う?」
「ーーーー」
「ママはどうすれば良いと思う?」
「そうね。受け入れたらいいんじゃない?知ってるのはサウルスとママだけなんだから」
「今のは何ですか?」
ノコは思わずツッコんだ。ニケはアシュラに母さんと呼ばれるのを嫌っていてママと呼ばないと基本、反応をしないようにしていた。理由は単純で母さんは子供らしくないからだ。
「そう言えば、エルルはどこに行ったの?」
「フロンティアからアシュが来ているから、今日は盛大に騒ぐんじゃって言ってどっか行った」
「なるほど。アシュ。気を付けてください。面倒なことになりますよ」
すると、シキラシはようやく、アシュラとノコが帰って来たことに気付いてアシュラの元に向かって走って来た。
「ねえねえ。おいらの髪型おかしいよね?」
「可愛いけど?」
「からかってるでしょ!」
シキラシは元々赤かった顔を更に赤く、耳まで真っ赤に染めてアシュラとキスをした。そのキスはシキラシが落ち着くまで続いていて長かった。アシュラはドキドキするのだが、未だにやはり、分からない。
「どういう流れで、こうなるんだ?」
「また、からかった!」
シキラシは再び顔を真っ赤に染めてアシュラとキスをした。シキラシはまた、前髪のことを弄られたと思ったのだ。
「でも、ホントに可愛い顔がよく見えてる」
「んっ⁉ーーーあっ、かっ」
アシュラは顎を掴むことで距離を取った。しかし、それは、シキラシにとってはより恥ずかしくなることで、アシュラが話そうとした時、アシュラの首に手を回して飛び込んだ。
「おいっ⁉」
「こっ、これ以上はダメ!」
シキラシは恥ずかしさがマックスになってアシュラにキスをした。顔をしっかりと抑えてアシュラが逃げれないようにしていた。アシュラはシキラシが満足するまで動かないようにした。
ドンッ!
「よしっ!親父たちに話は着けたんじゃぜえ。シキラシ。アシュを両親に紹介じゃ!」
エルルの突然の登場はシキラシをより一層恥ずかしくした。




