第三章 30 ギキッキッキッキ。神経図太い奴じゃの
「ギキッキッキッキ。おもろいの、アシュ。じゃが、オラはホンマに二歳じゃ」
エルルは首を真下に向けて豪快に笑った。すると、シキラシは顔をムッとさせてアシュラに詰め寄った。
「だから、ホントに二歳なんだってば。おいらたちは全員二歳の幼馴染だよ。信じてないんでしょ!」
アシュラは顔を上下に動かした。そして、わざとシキラシが見えるところまで視線を下げなかった。
「むっ、からかわないでよっ!」
シキラシはアシュラの顔を掴んでまたキスをした。アシュラは目を見張ってシキラシを見つめた。サウルスはさすがにアシュラに近づいてアシュラを抱っこした。我慢の限界だった。鼻息を荒く一息吐いた。
「何をしてるの、シキラシ」
「だって、アシュがからかうんだもん」
「ギキッキッキッキっキッキッキっキッキッキッキ」
「フフフ」
「エルルもノコも何で笑ってるの?シキラシが暴走してるのよっ!」
「だって、凄く生き生きしてるじゃないですか」
「それに、オラは何度も見たじゃけえのお」
「シキラシ。さっきまでの恥ずかしがってたのはどこに行ったの?」
「エルルが、早いか遅いかだって言ってたし。おいらは、ずっと毎回、恥ずかしがってるみたいだし」
シキラシは顔を赤くして恥ずかしがり出した。
「シキラシは、カーってなると羞恥心を忘れるみたいじゃの。ギキッキッキッキッキッキッキ」
「ならないよっ!ほらっ!」
シキラシはジャンプしてアシュラの腰に脚を回すと再びキスをした。サウルスとアシュラはいきなりすぎてビックリしたが、悟った。それは、ニケも同様だった。
「ニケはエルルは結構な性格をしてるように見えるんだけど、ノコ?」
「ですね。一番真面なのはノコかもです」
「でも、ニケからしたら、ノコもおかしいよ。ノコが食べた激辛のキュウリは人間が食べたら喉が締まって窒息死するぐらいのものなのにピンピンしてるんだから、そういや、シキラシは匂い平気だったね」
「それは、私は人間とは違いますから。シキラシが平気だったのはノコがこの前の反省を生かして平気になるようにしてたからなんです」
アシュラに抱き着いていたシキラシは真っ赤な顔で見てそして、再び、アシュラにキスをした。アシュラはさすがにツッコんだ。
「今のは何で⁉」
「だって、ノコが思い出させたんだもん!」
「何を?」
「それは、・・・」
シキラシは何かを思い出したのか、顔は元々赤かったのだが明らかに体が硬直してまた、キスをした。今度は長かった。
「「ぷはっ」」
「からかわれると、じゃなくて恥ずかしくなるとってのが正確そうだな」
「冷静に分析してるけど、アシュも顔が赤いよ。じゃあ、そろそろエルルが見たものを話して欲しいな」
ニケは話が進みそうな気配がなかったため間に入った。
「ん?ああ。オラが見たものか。悪いんじゃが、それは、教えれん。アシュとシキラシが結ばれるのはオラが話しても問題ないと考えたからじゃ。オラたちが今日、アシュを呼んだのはアシュに力を与えるためじゃ」
「アシュがシキラシと結ばれる?」
サウルスがそこに引っ掛かった。ニケは正直、また、話が脱線したと思いため息を吐いた。
「おう。これは、何があっても変わらん。アシュは複数人と結ばれるんじゃけえ」
「「「「「は⁉」」」」」
エルル以外の五人は同時に驚いた。中でも驚いたのは当事者のアシュラではなくてサウルスだった。
「僕も含まれるの?」
「サウルスじゃな。サウルスは入・・・ギキッキッキッキッキ。る」
「うしっ!」
サウルスはガッツポーズをしてアシュラとシキラシを放してしまった。アシュラは浮遊してシキラシをしっかりと抱きしめた。
「じゃが、それは、誰もが望む未来じゃない。じゃけえ、今日、シキラシがアシュに力を与える必要があるんじゃ」
「つまり、俺がちゃんと救えないと死んでしまうわけか、インドラは」
「そうじゃ。じゃが、二つ言っておく。シキラシが力を与えたからと言って、必ずしも未来が明るくなるとは限らんじゃけえの。それと、インドラが死ぬ未来では星は滅びてアシュたちは死ぬ。それどころか、オラたち、アナザーフロンティアに住んどる連中もの」
「「「「「っ⁉」」」」」
エルル以外の全員に衝撃が走った。これは、近い将来に起こること。そして、それを阻止するための手綱を握っているのがアシュラ。しかも、その手綱は頑丈ではない。エルルは舐めるようにアシュラを見つめた。
「おそらく、インドラをここに連れて来るように指示しなかったことからも、シキラシの力ではインドラのシックスセンスの悪影響を取り除くことはできないんだな?」
「うん」
「星が滅びるというのはデストロイだな?」
「そうじゃ」
「とりあえずは、目先の問題。インドラの事だ。デストロイの事はミケ姉さんが何かテコ入れしてるし」
「じゃあ、ニケはアシュが少しでも楽になれるようにインドラのシックスセンスを知りたいんだけど」
「教えてもええんじゃが、アシュ。どうしたい?」
「必要ない。余計なノイズが入りそうだ」
「「アシュ⁉」」
「母さん。サウルス。俺は俺のやりたいように未来を描く」
「ギキッ。正解じゃ。例え、アシュが教えて欲しいと言っても教えるつもりは毛頭なかった」
「でも、それだと、インドラを確実に救えないんじゃ」
「良いか、ニケ。未来を教えたら未来は変わる。そして、シキラシのシックスセンスで与えられたシックスセンスは簡単に扱えるものじゃない。インドラのことを思う気持ちは分かるんじゃがな」
「母さんは俺がシキラシから与えられるシックスセンスを使い熟すのを手伝ってくれたらいいんだよ。それと、エルル。最後に一つだけ聞きたいことがある。インドラを救える可能性はどれぐらいだった?」
「ーーーーーー」
「これじゃけえ、シキラシは可愛いんじゃ。アシュ。やはり、聡いのお。一つだけアドバイスじゃ。焦るんじゃないぞ」
「・・・そうか。十分だ。シキラシ。俺にシックスセンスを与えろ」
「カッコいい」
「何?」
「うんうん。じゃあ、オーラとオーラを触れ合うよ」
二人はオーラを纏った。
「時短する」
シキラシはアシュラとキスをした。そうやって、より密着させてアシュラのオーラにシックスセンスを刻んで行き、そして、完成した。
「刻んだよ。アシュのオーラに。説明するね。おいらがアシュに与えた二つのシックスセンスについて。一つは細分化。もう一つは刻印。刻印の見本はノコにして貰おうか。ノコ」
「はい。アシュ。見ていてください」
ノコは森に近づくと木を一本舌を伸ばして引き抜き真上に上げた。それは十メートルほど上がってボンッと音を立てて地面に落ちた。
「では、今から刻印を見せます。アシュ。ちょっとこちらに」
アシュラはシキラシを抱えたまま浮遊して森の中に入りノコの顔を正面から見た。ニケとサウルスは瞬間移動で正面に来た。
「では、印を刻みます」
ノコの舌にラインが入った。数本の線が入ったのだ。だが、それだけで威圧感が増した。ノコは木を一本引き抜いた。そして、先ほどと、同じように軽く投げたように見えた。だが、実際は違う。その一本の木は空高く上がった。雲を突き破っていた。
「私の場合は元々がデカいから、舌にだけ刻印をするだけでもこれほどの力を扱えます。それだけ、刻印というのは気を付けないといけないものなのです」
ドンッ!
開けた土地に木が粉々になって落下した。
「規格外」「すげえ」「凄い」
ニケ、アシュ、サウルスはそれぞれ、言葉は違えど、同じ結論をした。
「ノコは凄いんだよ」
シキラシが嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、アシュ。もう一つのシックスセンス細分化を試してみようか」
「おう」
「そこの木を繊維一本すつに分解してみて」
「細分化、分解。なるほど」
アシュラはオーラを纏った。
確かに与えられたシックスセンス。これは、俺の体に既に適応している。おそらく歩けるように使えることができる。だが、ゼロイチ。最初の一歩目は間違いなく大事だ。だから、完璧なイメージが必要となる。まずは、対象を木を見る。イメージだ。一本一本の繊維を見る。違う。俺は透視のシックスセンスを得ているわけではない。イメージ。そうだ。イメージだ。俺のイメージを対象とリンクさせるイメージ。なら、俺のイメージは何だ?何でイメージをする。木という対象だけのイメージで行くのか?今回はそれで、いいのかもしれない。だが、汎用性を持たせようとすると言葉の概念でイメージした方がいい。つまり、対象の特徴を捉えて俺なりに纏める。具体的なイメージから毎回使えるイメージに落とし込んだほうが良いか。木、人で考えた方が良いな。感情から行動の繋がりを糸で繋ぐ。来たっ!これなら、具体的にいくらでも細分化できる。行ける。じゃあ、今回は木を構成しているものをイメージしてその繋がりを、繭と繭の間の全ての糸を消したら・・・。
「恐ろしいな」
アシュラは目の前の木を見事に完璧に分解して見せた。だが、同時にこの細分化は恐ろしい力だと明確に理解した。
「恐ろしいのはアシュじゃ。オラが想定してたより、完璧すぎる」
「エルル。俺にこの力を与えた時の未来を見ていないのか?」
「おう。オラがシキラシにこの二つの力を与えるように言ったのは、未来のアシュにオラが足りていないと判断した力ばかりじゃけえのお」
「確かに、細分化は俺の適応をかなり速くするだろう。かなり、使える。だが、細分化は俺がしっかりと管理していないと恐ろしく強力なものとなってしまう」
「さすがじゃ。よくそこに気付いた。この力が悪人に利用されたらおしまいじゃぞ」
「そうならないように、ママがいるの」「そうならないように、僕がいる」
「ふむ。やはり、素晴らしいんじゃぜ。アシュ、余り気にしすぎるんじゃないぞ」
「おう」
「ホントにアシュは凄い」
「ん?」
「何にもない。次は刻印だね。刻印は注意しないと体が壊れるよ」
「どういうことだ?」
「ノコ。お願い」
「はい。先ほど見た通り、刻印は超パワーを出せます。その理由は何だと思いますか?」
「おそらく、体内のオーラを燃料にしていない。つまり、空気中のオーラの残滓」
「正解です。故に、いくらでも、オーラを吸収できます。それは、超パワーを出せたり、それを自分のオーラに混ぜることで強力なシックスセンスを使うことができたりします。しかし、一方で、オーラの過剰摂取を起こす危険性があります。もちろん、コントロールは余裕のあるの内は意識的に可能です。でも、もし、余裕が無くなってコントロールをできなくなったら・・・ということです。ですが、アシュなら刻印の使い方を意識的に安全に使うことが可能なはずです」
「適応と意識認識の拡大」
「それです。上手く使ってくださいね」
「これだけの力を与えられて、勝てない敵や解決できない問題がある可能性が高いのか。・・・ホントに、厄介この上ない」
アシュラは顔を俯かせて少し震えていた。だが、口角がずっと上がっていたのをアシュの腕の中にいたシキラシだけが見ていた。だから、アシュラが笑って前を向いた時、正面にいたエルルとノコだけが驚いた。シキラシはアシュラの武者震いに驚きを通り越して尊敬を、ニケとサウルスは余り表情を変えず、ニヤニヤしていた。
「ギキッキッキッキ。神経図太い奴じゃの」
「ホントにです」




