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TSURITOー繋げた未来  作者: カバの牢獄
第一章 英雄への一歩目
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第一章 08 黒六人集結

「ホントに大丈夫?」

「うん。すぐ終わるから」


 ツリトはキララに脇を抱えられてバウバウ家と貧民街の壁を見ている。ツリトはオーラ増量ネックレスを掛けて扇子で自分のオーラを細かく目に見えないほどの大きさにして貧民街とバウバウ家に飛ばした。まず、貧民街の壁を粉々に斬り砂になるほどサラサラにした。次に王様への殺意の糸とそれを起こしている原因の間違った知識の糸も粉々に斬った。扇子をキララに渡した。キララはツリトを左腕で抱えると右手に持った扇子を同じように振って貧民街とバウバウ家にオーラを目に見えないようにして飛ばした。そして正しい知識をバウバウ家当主ジャン・バウバウから知りたいと思うように欺いた。ツリトは予め異空間の巣に傷をつけていた時の感覚から異空間の巣を斬って巣を潰した。


「よしっ。今日のところはこんなもんだな。後はサルシアに会って直接報告だ」

「大丈夫?」

「今、無理しないと危険な気がする」


 ツリトとキララとサルシアはホテルの部屋の何も置いていない広い和室にいる。ツリトは黒シリーズの風呂敷を広げてサルシアの前に今日、回収した黒シリーズ全てを見せた。


「これは…まさか全部黒シリーズか?だが、ありえない。こんなに純度と密度が濃いものじゃなかったはずだ。エージソンの黒シリーズは」

「信じられないのも分かるけど、とりあえず集合を掛けたい」

「分かった。ライとウールフとカナさんを連れて来よう」

「カナはもうそろそろ起きると思うから俺から電話するよ」

「ああ、よろしく頼む」




 黒六人が集まった。


「ホントにこんなことが…」

「マジですね…」

「マジか…」


 三人それぞれ絶句した。ツリトはカナとキララに挟まれてサルシアはウールフとライに挟まれている。六人は、ツリトだけは落ち着きを少し取り戻しているが思わず体を震わしている。


「とりあえず、詳しい話をするから黙って聞いてくれ」


 ツリトは少し離れて腰を下ろした。円を囲むようにして全員の顔を見て話し始めた。


「まず、俺はキララと貧民街で黒のオーラを探した。そしたら、王城から一番離れた貧民街の王都を囲む壁に密接している雨風を防ぐためだけの家に親密の指輪があった。俺は危険だと知りつつ、指輪ケースを開けてワープした。ワープした先はここにある黒シリーズの保管庫だった。保管庫の扉が少しだけ開いていてその隙間から衝撃な光景を見た。若い姿のエージソンが六人で鈴を作っていた。そして、他にも二人、若い姿のエージソンがいた。その二人のエージソンはクローンを作る技術と人造人間の話をしていた。俺は危険だと判断して、黒シリーズを全部回収してから半径五キロの球にいる黒を全員殺すつもりで斬撃を飛ばしたが死んでいないものがたくさんいた。ていうか死んでなかった。それを確認して逃げて来た」

「ごめん。ちょっと待って。エージソンって千年前の偉人よね?」

「ああ」

「エージソンって攫われて死んだはずでは?」

「ああ」

「エージソンてただの発明家じゃなかったか?」

「ああ」

「エージソンは性格は悪魔だったのかあ?」

「知らん。歴史書は何でも興味津々な無垢な少年のような性格って書いている。皆、嘘みたいな話だが事実だ。そんでもって俺たちは対策しないといけない。幸いなことに奴らが作った進化した強化した黒シリーズはこんなにある。俺たちにできることを考えよう」


 一番早く立ち直ったのはカナだった。カナはツリトの左手を強く握った。


「まあ、悲観的になる必要はないんじゃないかな。奇襲を仕掛けられたならヤバかったけどカナたちは対策ができるんだし」

「そうですね。真正面からの勝負なら負けることはないですよ」

「そうだな。敵の揚げ足を取ってえやろう」

「確かに僕たち黒には黒シリーズは鬼に金棒だからね」

「まあでも、カナとキララは無理させれねえから、実質四人で何とかしないといけない」


 場の張りつめた空気が一瞬にして和んだ。キララとカナはツリトに抱き着き残りの三人はツリトを馬鹿にするように笑い、ツリトは自虐で笑った。


「ってことでまず、質問だが、ウールフ。いつから親密の指輪がないことが分かった?」

「実は、分からないんだ。そもそもあれはあんまり使いどころがないからなあ。もちろん保管していたが誰も確認していなかったからいつ無くなったか分からん。最後にあったと記録上書かれているのは百年前ぐらいだ」

「ふむ。なるほど。他、実は無くなってるよって国いる?」

「カナのところはちゃんとあるわ」

「僕のところもありますね」

「僕のところもある」

「そうか。で、王様はまだ、危険を感じてるか?」

「ああ。感じている。より強く」

「そうか。なら、間違いなく明日、人造人間が来るな。だが、敵は俺とサルシアだけと踏んでいるだろうから二体出して来るんじゃないだろうか?」

「僕もそれで間違っていないと思う。エージソンが作る人造人間だ。相当ヤバいに決まってる。おそらく一体でも相当な実力だろう」

「僕もそうだと思います。おそらく他国にはまだ攻めてこないんじゃないかと思いますしね。規模は分かりませんが、それだけヤバいのを千年かけて準備している可能性がありますから。それに他国に攻めて来たのなら一瞬で向かえばいいですから」

「俺も他国にせめて来ることはないと思う。少なくとも俺の国ではない。それに他国も攻めるなら世界各地に同時攻撃をするはずだ。おそらく今回はツリトへの報復と世界への見せしめの両方の意味が含まれるだろうから」

「カナはツリト君が危険なら全力で助けるだけだから」

「それは、キララもだよっ」

「残念だけど二人には直接は戦いに参加してもらわない。カナはホントに遠くから敵の攻撃を受けないところから援護してもらう。キララはマジックショーで一般市民の避難誘導をお願いする」

「じゃあ、ツリト君は?」

「俺は人造人間の相手をする。皆は人造人間はどんなシックスセンスでどんな肉体強化を受けてると思う?それに人間か亜人か?黒は当然として」

「僕は肉体は強化されていたらシックスセンスの無効化しかないと思う。それに亜人の可能性は高いと思う」

「僕はですね。透明になるとか瞬間移動するとか小細工はして来ないと思います。やっぱり僕も、今回は全世界に見せしめの目的もあると思いますから」

「俺はあ、確かに小細工はしないと思うがあ、クローンっていう情報があったから過去の黒が現れる可能性も十分にあると思う」

「カナは敵の予想はせずに確実に殺せる必殺技があるのかどうかが重要だと思う」

「なるほど。確かに人造人間と勝手に決めつけてたな。でも、俺は必殺技がある」

「黒シリーズを利用するの?」

「使うけど、俺の斬撃に工夫する。おそらくだが、簡単にライの腕も落とせる」

「ほほう。それはどういう意味でしょう?」

「もちろん、ライが俺の視界に収まっていたらの限定付きだよ。ちょっと見せようか?」

「まさか、腕を斬り落とすつもりですか?」

「違う。種明かししよう」

「ええ。見たいです。皆も興味津々な目でツリトさんを見ていますよ」


 周りを見てみると皆、面白がって見ていた。カナとキララは何故か胸を張っていたが。


「じゃあ、ちょっとだけ。まあ、見たら納得するさ。サルシア、リザーリアのシックスセンスでボール作って適当に投げてくれ」

「分かった」


 サルシアは白色のオーラを纏うと白い球を作って軽く上に投げた。ツリトはそれを斬って見せた。


「なっ!」

「サルシアさん、ホントにシックスセンスを弾くようにしましたか?」

「俺もお、ちょっと信じられないわ」

「ツリト君なら当然だよね」

「そうよ。ツリトなら当然よ」

「信じられないならサルシアにおんなじ球を投げてもらったらいい。試してみな」


 サルシアは同じ白い球を二つ作るとライとウールフにそれぞれ投げて渡した。ライとウールフは黒色のオーラを纏いシックスセンスを使ったのか持っていた手が弾かれて球はストンと畳に落ちた。ツリトは落ちた二つの白い球を真っ二つに斬った。


「ということだ。つまり、空間事斬っている。対処するにはもっと練度を上げるか同じように空間を操れるようになるかだな。悪いが俺はお前たちの一歩先に行ったみたいだ」

「確かに凄いですね。僕たちも負けてられません。ツリトさんが回収してくれた黒シリーズから僕に合う物を見つけて見せますよ」

「僕も使おうかな」

「おいおい、サルシアが使ったらホントに鬼に金棒だぜえ。俺は隠密行動しか向いてないからなあ。俺も役に立ちそうなものを身に着けたいな」

「カナも進化したライフルがあったら使って見ようかな」

「キララもちょっと探して見ようかな」

「ほどほどにな」




 場所はかつて五人で戦った砂漠、近くに岩石地帯があるところだ。時刻はとっくに二時だ。カナとウールフはまだ起きて数時間しか経っていないがツリト、キララ、サルシア、ライは深夜で疲れが溜まっている。ツリトは眠くなっている。


「こんなに試してみたい武器があると眠れませんよ。それに初めて扱うには危険な物がいくつかありますから」


 ライのこの一言で皆で移動した。ツリトは眠っても良かったのだが、カナとキララが行きたそうにしていたので仕方なく来ていた。


 皆それぞれ試してみたい武器はざっと決めていて後は試しで使ってみようとしている。


「では、サルシアさん!しっかり責任の盾を構えていてください。僕のパワーアップした雷刀を試してみます」


 ツリトはオーラ増量ネックレスを掛けて丸い盾を胸前に構えている。この責任の盾はあらゆる攻撃を反射する。サルシアは足元と腕と盾にオーラをより多く纏って踏ん張っている。一方、ライは雷刀にもいつも通りのオーラを纏わして武者震いしている。


「サルシアさん。かなりヤバいです。ホントに油断しないでください」

「分かってる。ちゃんと視てる」

「では行きます!」


 ライは大きく大きく息を吸って抜刀の構えを取った。そして、息を吸い終わるとツリトたち黒でも見えない速さで盾に強烈な反響音を響かせてお互いに吹き飛んだ。ツリトたちが分かったのは金色の光が盾にぶつかり弾けたことだけだ。そして、ようやく雷が轟き鳴り響いた。


「おいっ、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だよ。攻撃は跳ね返したんだが、勢いに押された」

「僕も大丈夫です。咄嗟に刀で受け止めましたから」


 二人とも受け身を取っていて怪我一つないようだ。そして、余りの黒シリーズの性能の良さに舌を巻いて驚いていた。


「これはあ、ヤバいなあ。戦いの次元が跳ね上がってしまったあ」

「だな。俺も正直ここまでとは思わなんだ」

「カナの遠距離砲と同じぐらいだった」

「キララもビックリ。龍より速いかも」

「マジか…」

「僕は岩石地帯で速度を上げます!」


 着物にオーラ増量ネックレスを入れてこの場から消えた。雷が轟く音が鳴り止まない。サルシアは頭を掻いて戻って来た。


「いやはや、ホント困っちゃうな。次は誰にする?」

「俺があ、行くう」


 煙管を加えたウールフはかなり雰囲気が出ている。今日は黒い袴を着ていて下駄も履いている。ライと似たような格好である。首に掛けているオーラ増量ネックレスのおかげでオーラを纏っている量がとても多くなっている。そのオーラの少しを煙管の煙に費やしたウールフは煙で視界をぼやけさせた。そこからはツリトたちは何が起こったのかは分からない。ただ煙が晴れるとサルシアの首元に尖った爪を突き立てていた。


「すげえなあ。全然見えなかった」

「ホントにね」

「キララも」


 ウールフは上機嫌で戻って来てサルシアは戸惑っていたが煙管を凝視して戻って来た。


「その煙管の効果は何だい?」

「説明書によるとお、煙はシックスセンスを使いにくくすると同時に煙管を咥えている人以外の五感があ、失われるらしいい」


 エージソンの黒シリーズには特長がある。必ず説明書も一緒に作られることだ。説明書は実物としてあるのではなく黒のオーラを纏ったら勝手に頭に流れて来る。


「凄いな。煙が充満するスピードもかなり速かったし、何より流れない。その場で留まっている。恐ろしいな。次は誰が行く?」

「カナが行く。でも、一応、結界を作ってくれない?上から徐々に距離を遠ざけて打って行くから」


 カナはツリトの右手を放して前に出てオーラを纏った。


「分かった」


 サルシアは訓練所で見た結界より純度や効果が高い結界を訓練所の大きさぐらいに張った。箱の蓋無し状態である。カナは空中を駆け上がって五十メートルほど離れたところで左手を挙げた。右手には神速のライフルの進化版を持っている。今日も長袖長ズボンの動きやすい服を着ている。ポケットからはネックレスのチェーンが少し見えている。ライフルは普通の小型拳銃ほどの大きさである。左手を下ろした。カナは右手の引き金を引くと一瞬で砂埃が巻き上がった。スピードは依然カナが遠距離から打ったオーラ砲と同じぐらいの速さだった。


「これで、この速さ。ヤバいな」

「だね。僕は鳥肌が立ってしまったよ。あの日の恐怖を思い出して」

「俺もお」

「ツリト。二人は何をされたの?」

「知らない方がいい」


 カナはこうして話している間にも上空に駆け上がっている。次は一キロほど離れたところで止まり左手を挙げた。左手を下ろすと右手で引き金を引いた今度は銃身が微妙に伸びている。オーラ砲はさっきのライの速度を上回った。結界内が濁った後、音が聞こえて来た。


「ふはっはっはっはっはっは」

「ねえ、ホントに二人はカナさんに何されたの?」


 サルシアとウールフは身震いして顔が真っ青になっていた。カナはさらに遠く上空に上がった。十キロほどだろうか。左手を挙げた。全員が息を飲んだ。カナのライフルはスコープが付いて銃身も長くなり完全なライフルになっている。だが、カナはスコープを覗いて構えていない。それどころか片手で持っている。左手を下ろした。ライフルのトリガーを引いた。四人は絶句して声も出なかった。何が起こったのか分からなかった。いや、撃たれるポイントは分かっているのだ。だが、振り返る前に砂埃が目に見えた。そして、音がかなり遅く聞こえた。カナは満足したのか地上に降りるとツリトの左手を握った。


「ねえ。どうかした?」

「んや。俺は全然平気。でも、野郎ども二人は古傷が痛んじゃったかな。キララは衝撃からまだ抜け出せていない感じかな」


 ツリトはキララの角を握った。


「ふあっ。キララは全然平気だよっ」


 ツリトとカナは二人で思わず噴き出した。キララが可愛すぎた。


「もう、キララはホントに全然平気だよっ!」

「んや、もう遅い」

「ツリト、僕も全然平気なんだけど。勝手に古傷が痛んだみたいに言わないで欲しいな」

「そうだぜえ。俺も星の数を数えていただけだぜ」

「ツリト?」

「ああ、堪え切れない。くはっはっはっはっはっは」


 今度はキララも大笑いした。十分に二人を笑いものにして満足したツリトたちはサルシアによって強制的に話題転換された。


「もう、いいかな。次は誰にする?」

「キララが行く。ツリト、キララに触れてみて」


 ツリトとキララはさっきまで結界があった場所に移動した。キララは右手に持っていた仮面を顔に着けた。首にはオーラ増量ネックレスを掛けている。キララがオーラを纏って軽くステップを踏んだ。キララの姿が揺らいで見えた。ツリトはキララが欺いていると思い、糸を斬ろうとした。が、糸が見えなかった。頭が気持ち悪くなって来た。


「厄介この上ないな」


 試しに足元の砂を斬って砂吹雪を起こした。砂が体をすり抜けていた。


「ふむ。当たらない。考えられる可能性として、仮面はすり抜ける効果がある。あるいはそもそも今見えているのは幻術。おそらく後者。つまり俺は欺かれている。だからキララがいるのは真後ろだな」

「正解っ」


 キララは仮面を右手に持って後ろからツリトに抱き着いた。足もしっかり絡まして。


「なるほど。砂浜で足跡が付かないように、足音を立てないように浮いてたのか」

「そうっ。仮面の正式名称は真実を隠す仮面。効果は仮面を着けた者の姿を隠す。隠し方は着けた人の意識次第」

「キララのシックスセンスと相性がいい。隠し方を欺ける。二重でトラップを仕掛けるのはいい方法だと思う」

「なるほどね。厄介この上ないな」

 カナたちは決着が着いても中々戻って来ないから自分たちから来たらしい。

「カナ。パクんなくていいから」

「えへへ」


 カナはツリトに真正面から抱き着いた。美少女二人にサンドウィッチされている。


「最高か!」

「僕は仮面の効果は知っていたけど仮面を嵌めてからは分からなくなったよ」

「俺の煙管とちょっとおだけ似てるなあ」

「じゃあ、次は僕と戦うかい、ツリト」

「何を使うのさ?」

「そうだね。僕のシックスセンスを生かすためにこの刀を使って見ようかな」


 サルシアが手に取ったものは一見、普通の刀だった。だが、正直、全員が一番扱いが難しいと判断したものだった。自由な刀。刀を持っている者の斬りたい物だけ斬る。それ以外はすり抜けるというものだ。


「それじゃあ、俺はどうしようかな。これにするか」

「それかあ。中々良い性格してるね」


 ツリトが手に取ったのは片眼鏡だ。お互いにオーラ増量ネックレスを首に掛けて黒シリーズは二つずつ見えてある。オーラを纏って片眼鏡を掛けると服装が変わる。紳士服とリボンが付いているハットだ。全身灰色に包まれた。靴は変えられなかったのがエージソンに感謝したい。スーツ靴だと動きにくいからだ。もちろん、ただ服装が変わったわけじゃない。ちゃんと効果がある。騙す。ただ、それだけだ。


「それじゃあ、始めようか」


 サルシアは黒と白が合わさった灰色のオーラを爆発的に纏っている。ただし、刀だけは黒色のオーラを纏っている。ツリトも黒のオーラを爆発的に纏っている。二人は同時に動いた。サルシアは白色のオーラで団長のリザーリアがやったように白色の若干透けている鎧を纏った。これにより、サルシア以外のオーラは弾かれる。ツリトは熊の手で砂を掻くようにして斬撃を無数に四方八方から飛ばした。サルシアは砂の衝撃で少しだけ体勢を崩した。視界は砂が舞って悪くなっているがちゃんとツリトの居場所は分かっている。オーラのプレッシャーを感じているからだ。すぐに体勢を立て直し目の前にいるツリトに足を一歩踏み出して刀を振った。


「オーラ‼」


 サルシアはツリトの胴体に向けて振った一閃は空を斬った。代わりに片眼鏡に薄っすらと、それと右手にオーラを纏っているツリトに頭に銃口を突き付けられた。


「いつの間に神速のライフルを貸してもらったんだい?」


 サルシアの頭にも白の透き通ったオーラの鎧を纏っているのだが、神速のライフルはオーラ砲であるため鎧で弾くことはできない。


「正直、オーラを斬って決着を着けるのは分かっていたから、最後は脅しのために神速のライフルで決めてやろうかと思ってな」

「そうか。だが、この近さ。オーラを全身に纏っていないツリトと僕の一閃はどっちが速いだろうか?」

「だったら、試してみるか?俺は一応右手だけにオーラは纏っているからな。俺が引き金を引く速さとサルシアの一振り、どっちが速いか」

「そうだね。もし、僕が遅かったらさすがにこの距離だと勢いをもろに食らってしまうだろうけど」

「じゃあ、ちょっと違うかもだけど。いざ尋常に」

「「勝負」」


 サルシアはツリトの服を斬ることを目的に刀を振った。だが、ツリトの左上半身のオーラが爆発的に増えて刃を通すことができなかった。ツリトはオーラを纏うのを止めて服装も元に戻った。


「なっ⁉これはどういうことだ。オーラを纏っていない⁉」

「実を言うとサルシアが空を斬った時には勝負がついていたんだよね。今ならオーラが纏えるはずだぜ」

「ホントだ。さっきまで纏っていた分は消えてるけど確かに纏える。一体、何をしたんだい?」

「皆の前で種明かしをしよう」


 カナとキララは何故かガッツポーズをしていた。ウールフは少し笑ってサルシアを見ていた。


「早速教えてくれるかな」

「サルシアの持っている刀が俺の体をすり抜けた時、俺はオーラをどこに纏っていたでしょう?」

「だから、右手に纏っていたんじゃないのか?」

「そうだそうだ。カナさんの神速のライフルを持って」

「カナさんの神速のライフルならここにあるよ」

「うん。ほらっ」

「「なっ⁉」」

「ツリト君は右手と片眼鏡にオーラを纏っていたのよね」

「正解。実際に見せよう」


 ツリトは片眼鏡にオーラを纏って紳士服を着てハットを被ると右手にさっきと同じように多めにオーラを纏った。


「まず、帽子をこんな風に傾けて右目を見えにくくする。次に右手を構えるとこんな感じになる。後は右手のこの鉄砲ポーズを神速のライフルを持っていると騙すだけ」

「そうか。僕に右手だけオーラを纏っていると思わせたんだな」

「正解。サルシアの位置からだと片眼鏡にオーラが纏われていることがオーラが重なって分からなかったはずだ。視覚的に片眼鏡にオーラは纏っていないと思わせた。だが、サルシアは気付くべきだったな。この片眼鏡はオーラを纏っている時、オーラを流している人は紳士服を着せられることを。まあ、こんなの珍しいし、戦っている時だから、すぐに気付くのは難しかっただろうけど」

「んぬぬぬ。じゃあ、君が左上半身のオーラがあんなに早く急増したのは?」

「あれは予め、薄―――――――く纏ってたから。こんな風に」


 ツリトは紳士服と自分の服を捲って素肌を見せた。何故か、カナはちょっと顔を赤く染めていた。素肌には本当に薄くオーラが纏われていた。そして、次の瞬間、急増した。


「こんな感じ」

「んぬぬ。じゃあ、最後、僕がオーラを纏えなくなったのは?」

「俺の斬撃だ。正直、サルシアのオーラがどういう感じなのか分からないから遠くからは斬れないんだけど触れていたから斬れた」

「じゃあ、僕は話さずにすぐに斬りかかるべきだったのか」

「だな。でも、俺の近距離からの斬撃で頭は割れなくても脳が揺れて気絶はできてたけどな。だから、サルシアはもっと二刀流で攻めるべきだったな。折角腰に刀掛けてるんだから」

「そうだね。正直かなり使いづらかった」

「唯一、勝てたチャンスは初めに空を斬った時に俺の服を斬ることだったな」

「だね。それでもツリトはまだ本気を出していないんだから。ホントに恐ろしいよ。それに、その片眼鏡、怪盗は本来、戦うために使う奴じゃないし」

「まあな。サルシア、ちょっとその刀貸してくれ」

「いいけど、何を?」

「ちょっとアドバイス。っていうかこれができたら戦いが凄く楽になると思うぜ」


 ツリトは紳士服のまま刀を持って真上に上げると刀を真下に振った。少しだけ空間が歪んだ。


「空間の感覚を掴め。空間は斬られると少し歪むぞ」

「はあ。ツリト。これは空間の感覚を掴んでいる君にしかできないんじゃないか?」

「仕方ない。一分だけ付き合ってやるから感覚を掴め」




「はあ、お前センスないな。十分もやったぞ」


 一分やってダメだったので十分程度ツリトが空間を無数に斬り続けるから歪んだ空間を斬れとやっていたが目の前の空間でさえ斬ることはできなかった。


「ツリトだってイメージしてできたわけじゃないんだろう?」


「俺は蟻の亜人が作った異空間を斬ったことで空間を斬る感覚を掴んだ。一発で壊すのが無理だったから傷をつけて適応させた。はあ」

「悪かったね」

「はあ。とりあえず、今日に備えて寝た方が良くないか?」

「そうだね。僕も疲れていたからかもしれない」

「単純にセンスの問題だ。ライはどうする?」


 ライは今も尚、岩石地帯で岩石を次々に斬りながら雷を轟き鳴かせている。王国と時差は変わらないはずなんだが。


「仕方ない。僕はここで休むよ。皆はどうする?」

「カナはツリト君と二人きりで寝たい」

「カナさん、抜け駆けはズルいですよ」

「俺はあ、ちょっとだけ仮眠が取れたらいいからここで休もお」

「皆、自分が使う武器は取った?」

「ツリト、持って行くつもりかい?」

「あったら、色々試したくなって休めねえだろう。それにすぐにマスターはできない」

「ツリトお、持ってけえ。確かにい、試したくなるう」

「了解っ」

「ちょっと待って。僕は二つ取る」


 サルシアが武器を二つ取った後、ツリトは風呂敷に乗っているたくさんの黒シリーズから指輪ケースを四個取ると風呂敷を包んだ。すると小さくなってポケットに入るぐらいの大きさになった。この黒シリーズは一度、黒のオーラを流すと開けるまで維持してくれる。他にも効果はあるのだが、持ち運びに便利なためこの用途で使っている。


「じゃあ、俺たちをホテルに連れて行ってくれ。もう三時を過ぎてるよ」


 キララはツリトの右腕に抱き着きカナは左腕に抱き着いた。サルシアは白いオーラを纏うと瞬間移動で三人をホテルのドアの前に飛ばした。


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