第三章 27 アシュは人気者
「アシュ。アシュ。アシュ。アシュ。・・・」
「ちゃんと聞こえてる」
アシュラとインドラは一歳になった。インドラは、少しずつ喋り出していて、普通に会話するぐらいなら全然できるようになっていた。インドラはアシュラとずっと肌身離さずの状態となっていた。アシュラの腕に全体重を掛けて歩くようになっていた。これでは、姉の威厳というものが全くない。
「えへえ」
「よしよし」
アシュラはインドラの頭を左手で撫でた。インドラは嬉しそうにして更に身を寄せて来る。その二人の頭をニケは嬉しそうに撫でた。
「二人とも、一緒に潜ろうか」
アシュラとインドラは川のほとりでイチャついていてニケは川の中を潜ってとにかく、大きな魚を探していた。そして、ニケは今しがた見つけたため川のほとりに瞬間移動をして二人に会いに来たのだ。
「「うんっ!」」
アシュラとインドラはニケと一緒に川の中に潜った。身に着けているのはミケお手製の服ぐらいで、あとは、何も身に着けていなかった。顔まで潜るとニケが話し掛けた。
「じゃあ、ついて来てね」
「「うん」」
これは、河童の特性の一つだ。水の中でも会話ができる。河童は水の中に入ると皮膚呼吸で得た水の中の酸素を肺に回し、そして、話す時は直接、骨に響かせるように自動的にシックスセンスが働くのだ。これにより、ずっと水の中に潜れるし話すことも苦にならない。河童は水の中でこそ真価を発揮する。
ニケが先導してアシュラとインドラはついて行った。
「わあ」「すげえ」
アシュラとインドラは目的の大きな魚に出会うことだが、その道中も楽しいものだった。今は魚の群れの中に入って一緒に泳いでいた。
「凄ーく気持ちいでしょ?」
「「うん」」
魚の群れと一緒に泳いでいると急に進行方向を魚たちが変えた。インドラは怖くなってアシュラに抱き着いた。
「どうしたの、母さん?」
「アシュ、インドラを守っててね。来るよ。今回の巨大魚が」
すると目の前からギザギザの歯をしたサメの巨大魚が現れた。そのサメは逃げた魚を引き付けていた。
「第二の領域」
巨大サメとニケとアシュラとインドラだけが同じ空間にいる。サメは水の中を加速して泳ぎ、口元にニケを引き付けようとした。が、できずに、そのまま、ニケに突っ込んだ。ニケはそれを待ち構えていたため、両肩を開いて背中の後ろて手の甲を重ねていた。そして、サメとぶつかる直前、サメを挟んで思い切り叩いた。
「捕獲完了。じゃあ、行こっか」
「うん」「改めて、桁違いの強さだ」
「「「わあ」」」
巨大サメを捕まえた三人は家の外で巨大魚を置いていた。アシュラが神龍の力を使って机を急遽作ったのだ。その巨大サメを浮遊して上から眺めた龍王たちは揃って声を上げた。
「はあ。父さんのシックスセンスがあれば。仕方ないか。じゃあ、捌くよ」
ニケは今から掛かる時間を思うと憂鬱だが、頑張ることにした。フロンティアで手に入れたシックスセンス、剣乱舞を使うことにした。言葉の通り、たくさんの剣を具現し、一個一個を別々の動きをして、舞うようにして斬るシックスセンスだ。ニケはこのシックスセンスに一工夫を行った。ニケは剣を四本具現した。
「さあさあ、斬り刻もう」
ニケはまず、肛門の辺りを斬って尻子玉を取り出してアシュラに渡した。アシュラは神龍の力を使って水の瓶を作ると尻子玉を入れて洗った。そして、口に入れた。
「うん。確かに手に入れた」
「良かった良かった。じゃあ、まずは、頭だね」
ニケは宙に浮く四本の剣の内、一つを操ると頭を斬った。その時、剣に血が吸収されていた。その後は、四本の剣で次々に斬り刻んでサメを捌いて行った。そのやり方は手慣れたもので五分ほどで終わっていた。
「じゃあ、皆、ここから手伝ってね。アシュとインドラは好きにしてていいよ」
「やったー」「どうしようか」
「じゃあじゃあ、アシュ。座っていい?」
アシュラとインドラは二人とも並んで座っていたがインドラはアシュラの膝を叩いて聞いて来た。
「いいよ」
「やったー」
インドラはアシュラに背中を向けて座るのではなく顔を向けて座って来た。そして、アシュラにキスをした。
「へへえ」
インドラはアシュラのことが大好きでスキンシップがかなり激しく、いつも一緒にいるようになった。だから、アシュラは独りになることは全く無くなった。それに、アシュラもインドラの態度が嫌いではなく、寧ろ好きだったため、インドラの求愛を受け入れていた。その様子をジーと見つめる視線が多いことも気付いていた。
「ねえ、アシュ。インドラ。クリたちと遊ばない?」
「クロコクとクリは日影を作るだけだからさ」
龍王たちはアシュラが初めて泣いた日、後から、ニケにアシュラが抱えていたものを聞いてアシュラのことが気になっていた。そして、この一年で間違いなく好きになっていた。インドラのことも好きになっているが、アシュラは精神年齢の高さからか、完全に異性としての好きとなっていた。
「どうする、インドラ?」
「アシュとくっついていれるなら」
「だって」
「「いいよ」」
「インドラ、何がしたい?」
「アシュと一緒に入れるやつ」
「かくれんぼだって。じゃあ、俺とインドラが隠れるけど、それでいい?」
「いいよ」
「じゃあ、頃国たちは三十秒後に探しに行くね」
「「うん」」
アシュラとインドラは二人で浮遊して森の中に入った。
「どこに、隠れる?」
「アシュといれたらどこでもいい」
「はあ。ちょっとは考えなよ」
アシュラは適当に草むらに入るとインドラを脚の上に座らせて神龍の力で同じ草を辺り一帯に出現させた。そして、アシュラは身体のオーラの流れを木と同じように適応して黙った。そこで、丁度、三十秒が経った。
「ねえ、アシュ。ね・・・」
アシュラはインドラの口を途中で塞いだ。そして、水中で使われるシックスセンスを適応して陸上でも使えるようにしてインドラの骨に直接声を響かせた。
「シー。見つかっちゃう」
インドラはアシュラに顔を触れられたことにドキドキして体温は上がったが黙った。
アシュラたちにとって、かくれんぼとはフロンティアで生き抜くための大事な特訓だ。気配を消す。体外にオーラを漏らさないようにすることができないといけない。そうすることで、厳しい環境の中で生き抜くことができる。アシュラは既にそれができている。だが、今回は木のようにオーラの流れを変えるように適応した。それは、何故か?答えは簡単で、インドラができないからだ。だから、インドラを休憩している野生の動物と勘違いさせようとしたのだ。
一方その頃、クリとクロコクはオーラを纏い浮遊してアシュラとインドラを探していた。
「固まった二人のオーラの気配が感じない。クロコク、感じる?」
「うんうん。クロコクも。だから、影に違和感がないか探してるんだけど、全然」
「凄い勢いで成長するな、アシュは。じゃあ、クロコク。ちょっとインドラに意地悪をしよっか」
クリは白龍の鱗を体に纏った。クロコクは黒龍の鱗を体に纏った。
「クリ、黒く染める?」
「うん」
クリは自身に光を集めた。クロコクは闇を地面に集めた。すると、一瞬だけ一定距離内の地面から一メートルは真っ暗闇で、そこから上は真っ白に輝いた。
「キャッー!」
インドラは突然暗く染まった視界に怖くなってアシュの言いつけを守ることができなかった。アシュラは焦った。見つかったことにではない。インドラの叫びで野生の動物が駆け付けて来る可能性があったからだ。実際に獣たちの咆哮が聞えて来た。
「あらら」
「ごっ、ごめん。アシュ」
「大丈夫。インドラは悪くないから。それに、獣たちはインドラが叫んだことが原因ではあるけど、ここまでの危機感を与えたのは間違いなくクリとクロコクのせいだから」
インドラは器用にアシュラの脚の上で体を反転させてアシュラを見た。アシュラは優しぐ抱擁して立ち上がった。
「アシュ、どうしたの?」
「インドラ。ちょっと、ごめん」
アシュラはインドラの耳に指を突っ込むと影を集めた耳栓を嵌めた。
「アシュ。聞こえない、聞こえない」
アシュラは更に地面を掘ってインドラを入れた。そして、影で蓋をすると、手の甲を背中の後ろで合わせた。そして、手のひらにオーラを集中させた。
「最後の仕上げだ」
アシュラは身体を膨らませた。そして、手のひらに一気に膨らませていたものの正体、空気を集めると同時に手を叩いた。すると、爆音が生まれてオーラも弾かれた。オーラが爆音に乗って森全体に広がったのだ。獣たちの咆哮は止み、一斉に森から逃げ始めた。アシュラは地面の影を消してインドラを持ち上げて影の耳栓を抜いた。
「お待たせ」
「怖かった」
インドラはアシュラに泣いて抱き着いた。アシュラはインドラが泣き止むまで待っていたため、結局、ニケが瞬間移動で迎えに来た。
「ママ。クリとクロコクはどうしたの?」
「クリとクロコクは酔っちゃってるわ」
ニケの瞬間移動で家に帰ったアシュラとインドラは千鳥足で歩いているクリとクロコクを見て驚いた。どうして、そんなことになってるのだろう?と。だが、アシュラはすぐに分かった。
「耳がやられたら、そりゃあ、そうなるか」
平衡感覚を保つのに重要なのは耳だ。あの、爆音でオーラを纏えなくなるためダメージ大なのだ。
「そう。アシュ。大分使い熟してるねえ」
ニケはアシュラの頭を撫でた。それを見たインドラはアシュラを羨ましそうに見ていたため、ニケはインドラの頭も撫でた。
「でも、どうして耳を治してあげてないの?」
「それは、お仕置きよ。正攻法でかくれんぼをしてなかったことのね」
「まあ、あれで、獣の気分が荒くなったからなあ。でも」
アシュラは二人仲良く肩をくっつけて項垂れているクリとクロコクの前に行った。
「回復系のシックスセンスを手に入れてて良かったなあ」
アシュラは浮遊してから、まずは、クロコクの両耳に手をやった。そして、両手にオーラを纏うと十秒ほど経った頃にクロコクは元気になった。クロコクはすぐにアシュラを抱きしめた。
「アシュー。ありがとう。大好き」
「おっ、おう。ちょっ、離れてくれ」
クロコクは構わずアシュラを抱きしめていて頬をすりすりして来てもいた。アシュラは背中越しに感じる冷たい視線に背中が凍り付いていたのだが、クロコクはお構いなしだった。すると、クロコクの横に座っていたクリがゆっくりと手を伸ばして来ていて口を膨らましていた。さすがに、クロコクはアシュラを可愛がるのを止めたが、アシュラを放さなかった。クロコクはアシュラを持ち上げてクリと正面から向き合わせた。
「じゃあ、次はクリだな」
アシュラはクロコクにやったのと同じようにして、クリを回復させた。クリはすぐにクロコクからアシュラを奪って頬をすりすりさせた。
「アシュー。ありがとう。大大大好き」
クリはクロコクと競うようにして大を増やした。クロコクはそれを聞いてすぐにアシュのお腹に手を回して力尽くで奪い返そうとしていた。すると、
「アシュを一番大好きなのは、私だよっ!と遠くから叫び声が聞こえた」
インドラはニケの腕の中で必死に手足をバタバタさせて訴えかけていた。
「「「いただきます」」」
シューンも家に帰って来て皆で昼ご飯を食べることとなった。ミケの作った作物も使ってたくさんの料理をニケと龍王たちは作っていた。
「はい、アシュ。あーん」
「俺は別に普通に食べれるんだけど」
「ママがしたいの」
アシュラはニケにあーんして貰っていた。アシュラは既に箸を握って独りで食べれるのだが、どうしても、体の大きさが小さいため、手が届かないことがある。そのため、ニケがあーんをしているとアシュラは認識していたが、これは、単純に、ニケがしたいと思っているからしていることだった。アシュラがこんなふうにして貰っているとなると、当然、インドラはシューンにアーンしてもらっている。ちなみに、あーんする相手は一回の食事ごとに交代している。
「さあ、アシュ。あーんなのです」
実は食事前は必ず問題が起きている。アシュラとインドラの隣を誰が行くかを争っている。アシュラの隣を決めてからインドラの隣を決めている。龍王たちは、順番制にしたら揉めないで済むのだが、毎回の食事で隣に行きたいために毎日、朝から勝負をして決めていた。そして、今日、三連勝して調子が良かったのがウォーなのである。
「どうですか?おいしいですか?」
「うん」
「そうですか。でしたら、ドンドン食べましょう。ほら、あーん」
ウォーは今日、サメの身を全て水洗いして主に煮付けを作っていた。だから、ずっとアシュラに煮付けしたサメをアーンしていた。
「そろそろ、別のも食べたい」
「却下です。アシュは煮付けが一番美味しいと言いました。ほら、あーん」
「捏造するな」
ニケはそんな様子をニコニコして見ていた。だが、ニケ以外はニコニコと微笑んでいなくて、一番厳しい目付きをしていたのは、やはり、インドラだった。インドラはアシュラの対角線上にいたため、アシュラの横に行けない。だから、
「アシュにそんな意地悪しないで!」
インドラはウォーに激怒した。




