第三章 24 心が叫びたがってるんだ!キキは
空はすっかり闇を描き、フロンティア、自然豊かでたくさんの木に囲まれている、では静寂が広がる中、一際騒がしい集団がいた。ミケは顔を顰めながら、夫であるキキの横でミキ、エマの双子の兄、を抱っこしてエマを背負っていた。と言うのも、ミケの耳は限界だったからだ。
「やっぱり、無理!ミキは連れてく。会いたいなら河童の村に来て!」
ミケは瞬間移動をしてこの大騒音の苦しみから消えた。
「そりゃあ、そうなるわな」
キキは目の前の酒樽を肌身離さず抱いている鬼たちがどんちゃん騒ぎをしている光景を見てこの苦しみを耐えて乗り越えてくれないミケにとても切ない寂しさを抱えながら大声で叫んだ。
「お前らのせいで、マジで子供の顔が見れなくなっちまうそ、俺ーー!」
尚も酒樽から酒を直接掬って酒を飲み続ける鬼たちに、聞こえないふりをしているのではなく実際に聞こえていない、ため息を吐きながらキキはミケのいる河童の村に全速力で走った。鬼の村と河童の村は千キロほど離れている。だから、普通ならオーラを纏って走っていても、しかも、フロンティアの野生の動物や虫に気を遣いながらとなると一日あっても辿り着けない。だが、キキならば十分もあれば辿り着くことができる。それを可能にしているのは鬼族の長である鬼神たるキキの特別な体に関係する。
鬼。鬼の起源はフロンティアに生えている危険な花、鬼花を食べたことに遡る。鬼になりたい人間たちは強さを求めて鬼花を食べた。鬼花を食った生物は必ず、超パワーを得て死ぬ未来を辿っていた。だから、多くの人が死んだ。だが、死なずに生き残った人間がいた。その人間のことを鬼と呼ぶこととなった。鬼たちは有り余るパワーを溜めるために角を生やすようになった。また、代々酒が趣味だった鬼たちは酒をエネルギーに変える体質に変えた。そんな鬼たちの中でも更に強さを求める者たちがいた。その鬼たちはもう一つ鬼花を食べるようになった。何人もの鬼たちが死んだ。だが、生き残った鬼が一人いた。その鬼を鬼神と呼ぶことにした。鬼神は一つの鬼花だけなら、問題なく食べれるようになった。そして、副作用として千里眼も身に着けた。角も二本目が生えて来た。そんな鬼神が代々受け継がれて行き、現代の最高傑作がキキだ。鬼神と河童の子のミキとエマは鬼の血が薄まった以上、最高傑作かどうかはまだ、分からない。
「クソッ!もっと早く会いに行かないと。ニケさんと天空に行かれたら・・・」
キキは焦燥に駆られながら角のエネルギーを使い更にスピードを上げた。そうして、木、動物、虫、などなどを超高速で避けながらようやく、河童の村に辿り着いた。だが、キキは河童の村に入ることができなかった。
「クソッ!ミケの仕業だな」
ミケは河童の村の範囲にミケのオリジナルの植物で結界を敷いていた。キキは堪らず、千里眼でミケの様子を見た。ミケは同じ顔をした双子の姉、ニケと共に話していた。子供たちは既に寝かしているみたいで軽く酒を飲んで愚痴っているようだった。
「ぬう、ぬう、ぬう。大声で呼べないじゃないかっ!」
赤ちゃんを、河童の村に住む子供たちを起こしてはいけないと分かっているが、独り言つキキの声は長年鬼の村で生きて来たため、大きくて透き通っていた。キキは鬼神であるため、鬼たちが酔っぱらって度が過ぎたことを起こした時に対処する必要があった。だから、日頃から、よく叫んでいて声が鍛えられたのだ。
「クソッ。分かった。ミキのことは分かったから、一回話そう。なあ」
「五月蠅い」
後ろからニケにより皮膚を叩かれたキキは情けなくも「いっ」と漏らしてしまった。そして、瞬間移動をして目の前に現れていたミケの顔は鬼よりも鬼の形相をしていて非常に怖かった。
「アンタ、バカァー!」
ミケはキキの耳だけに聞こえるように手で口元を覆い、キキの耳元で叫んだ。不思議なことに、その声は静寂な森の中を反響しなかった。
「まず、何が鬼の皆を説得して静かに暮らしてもらうようにするよ。ミキを使って一日掛けた成果があれなの?」
「いや、面目ない」
ミケとキキは特別な植物の中にいた。ミケが作った外部に音を遮断するための植物だ。その中でキキは正座をしてミケの顔を真面に見れず下を向いて話していた。まるで、子供だった。
「ミキとエマはミケが育てる。いいね?」
「・・・」
「いいね?・・・。基本、ミケが育てるけど、会いたいときはいつでも来ていいから。それに、千里眼でずっとミケたちのことを見てるんでしょ?」
「くっ、ぬう、うぅ、分かった。その条件で行こう。ただ、エマはともかくミキの鬼神としての成長は大丈夫か?」
「問題ない。ミケに掛かれば簡単に安全に鬼花を食べさせることができる。キキも分かってるでしょ?」
「ああ。確かに、俺はミケのおかげで鬼花を二つ食うことができた。だが、それは、ずっと鬼の村で酒をエネルギーに変え続けて、ストレスに耐え続けた俺の体だからだ。そこらへんはどうなんだ?」
「問題ない。ミケのシックスセンスに掛かればそこら辺の問題はなにもかも解決できる。もちろん、河童としての成長もさせる」
「そんなこと、できるのか?」
「できるかできないかは実際にやってみないと分からないよ。でも、ニケのところの、アシュラとインドラ、特にアシュラは才能の塊だから、必ず、両方を使い熟す。だから、ミケがミキとエマを必ず、両方を使い熟すように成長させる。キキにできることは、うん。おいしい、お酒を造りなさい。効率よく角を生やすための。鬼の長年の技術で体に害のでないお酒は造れてるんだから、余裕よね?」
「ああ。分かった。でも、絶対に毎日会いに行くからな。毎日だ。それと、俺はまだ、諦めていないからな。鬼の村で一緒に住むことを」
「まあ、無理だろうね。じゃあ、いくつか、新作の種。良かったら、鬼の皆で食べて」
「あ、ありがとう」
「何?別に、ミケは鬼が酒を飲むことは全然怒っていないよ。ただ、五月蠅すぎることが問題なんだよ」
ミケは立ち上がって伸びをすると、植物の中から出た。キキも出た。
「じゃあ、ホントにホントに小声で、ね?」
「そんな、念を押さなくても」
「まだ、大きい」
「ぬっ⁉」
「終わった?」
「うん。ニケ姉。アシュは起きちゃったか」
月明りに照らされたアシュラ、インドラ、エマ、ミキ、と横並びにふわふわの植物の上で寝寝ていた四人の赤ちゃんの内、アシュラだけが黙って静かに満天の星空を見ていた。ニケはアシュラを抱き上げた。アシュラは暴れていた。星空が見えなくなり、怒っていた。
「この通り、凄く元気。どうやら、オーラを上手く流せているから回復とか早いみたい」
「凄いな。アシュはどっちを色濃く受け継いでいるんだい?」
キキは驚嘆してミケに尋ねたが、まだ、声が大きくて横から腕をつねられていた。
「多分、河童。もしかしたら、気付いているのかも。河童の呼吸の仕方に」
すると、アシュラは体が膨らんだ。元々丸みを帯びている体が更に丸みを帯びた。ミケとキキも驚いたがミケはキキの口を塞ぐことを優先してキキは思わず、大声が出そうなのを止められてホッとしていた。
「やっぱり」
ニケは軽くアシュラのおでこにデコピンをして、オーラの流れをほんの少しだけ乱すと膨らむのを止めて元の姿に戻った。
「アシュ。ちょっと大人び過ぎ。おっぱい吸う?」
アシュラは何の躊躇いもなく頷いた。知識や思考力は大人びていたが、肉体は大人になっていない。それに、まだ、羞恥心というものを知らないのだ。それに、おっぱいが必要なことはアシュラは自分で分かっていた。
「こういうところは、ちゃんと赤ちゃんなんだよね。混乱しちゃいそう。ミケ、インドラをちょっと見てて」
「分かった」
ニケはアシュラを抱っこして去った。ミケとキキは少し間を置いてから話し始めた。
「じゃあ、エマを抱っこする?」
キキはもう声を出すことを諦めて何度も頷いた。ミケはようやく、その手に気付いてくれた、とホッとした。自分から言うのはやはり、気が引けたのだ。キキはエマを抱っこすると頬をツンツンしたり手を握ったりと一通り楽しんだ。声を出せないストレスで眉間に皴を寄せていたキキの表情はすっかり明るくなり、頬が緩んでいた。
「ミキを抱っこするのも気持ちいけど、エマも結構気持ちいでしょ」
キキは頷いた。ミケもミキを抱っこすると表情が緩んだ。偶に、インドラの頬をツンツンしながら静かに抱っこを楽しんだ。
一方その頃、アシュラはニケのおっぱいを吸いながら月明りと星明りが反射した川の前いた。
「ねえ、アシュ。アシュはホントにアシュなの?」
アシュラはニケのおっぱいとシックスセンスにより回復したためオーラを纏った。
「俺が、シックスセンスに目覚めるのが早すぎるってことか?」
「うん。アシュの言っていたシックスセンス。適応と意識認識の拡大。それは間違いないと思ってる。でもね、胎児でシックスセンスに目覚めるのは明らかに早すぎる」
「だから、外部からの、違うな。内部からの影響を受けている。つまり、遺伝子に俺がこうなるように仕込まれていた可能性がある。って言いたいんだな」
「そう。だから、精神はアシュではないんじゃって思った。でも、心子玉、魂は間違いなくアシュ。それは、アシュと同じようにお腹にいた時からシックスセンスを授けられている可能性があるインドラも」
「・・・控えめに言っても、俺のシックスセンスはかなり強い。並みの人間じゃあすぐに身が耐えきれなくなり、死んでしまうほどに」
「うん。やっぱり、そこに気付いてる。じゃあ、ニケの、ママの言いたいことは分かるね?」
「インドラも相当に強いシックスセンスを授けられている可能性がある。もし、耐えきれなかったら、俺が助けろってことだろ?」
「うん。でも、気を付けてね。分かってると思うけど、アシュとインドラの未来は不安定だからね」
「占い、ね。確かに。でも、大丈夫。俺がインドラを死なせない」
ニケは抱っこしているアシュラが話していることに違和感をもう、覚えていない。だが、まだ、とても小さい、赤ちゃんのアシュラに覚悟を背負わせたことに罪悪感を覚えた。その思いが顔に出ていたのだろう。アシュラは浮遊してニケを真正面から見つめた。
「俺にこのシックスセンスを与えた先祖はきっと、インドラが授けられているシックスセンスからインドラを守るために授けたのだろうよ。だったら、期待に応えてやるさ。先祖が与えた試練を期待以上の成果で応えてやる」
「何だかすごーくちんちくりんな感じ。アシュ。頑張ってね」
ニケは真正面のアシュラのおでこにキスをした。そして、頬をツンツンしようとしたした時、アシュラは浮遊できなくなった。ニケは慌ててキャッチした。
「ホント。こんな天使な赤ちゃんがあんなに話せてしっかりした考えを持ってるなんて不思議。アシュ。信じてるよ。今日のことは絶対忘れないから」




