第三章 22 アシュラはご機嫌斜め
ニケとミケは一度、授乳と排泄物処理のため休憩していた。
「はあ。意外と二人持ちは疲れるわね」
「そりゃあそうよ。やっぱり、ベビーカー作ろうか?」
「いい。二人の温もりを感じたいから」
「でも、これから、歩けるようになるまで大変よ。それに、神龍の血が入ってるからいつ、浮遊し始めるか分からないんでしょ?」
「そう。それが、楽しみだから、目を離せない」
「じゃあ、まだまだ予定があるんだから、次は白龍の・・・」
「シャイニングさんの家」
「今回は騒がしくないね」
「ミケ。龍はどこの家も騒がしいわけじゃないよ」
「分かってる。でも、さっきは凄かったから」
ニケは扉をノックして開けた。母親のシャイニングと父親のコウが子供たち三人の面倒を見ていた。微笑ましい感じだった。
「あら、ニケさん。ミケさん。ありがとう」
シャイニングはニケとミケに気付くとミケが浮遊させていた作物を受け取った。
「それと、これ」
ミケはもう一つ浮遊させていたモンブランを渡した。
「わざわざ、作ってくれたの?」
「うん。ちょっと作ってから時間が経っちゃってるけどね」
「ありがとう。コウ、子供たち連れて来て」
「ああ」
コウはスター、シャルル、キララを連れてやって来た。スターとシャルルはミケが持って来たモンブランに涎を垂らして目を輝かしていた。キララは赤ちゃんのほうに目をやっていた。シャイニングが子供たちにモンブランを手渡そうと振り向いた時、キララは浮遊して赤ちゃんの顔を直に見た。
「あらっ、キララちゃん、どうしたの?」
「えっと、この子!、全然動いてない」
キララはアシュラを指さした。キララはニケとミケが来た時からずっと気になっていたのだ。エマはモンブランに釣られて手が伸びていたし、インドラはアシュラの顔をペタペタと触っていた。だが、当のアシュラはお腹に手を組んでまるで、棺桶に入っているのかというほど動いていなかった。
「いいところに、目が行くね。どう、アシュを笑わしてみる?」
「・・・うんっ!」
ニケはアシュラを浮遊させた。アシュラは地面に垂直に浮遊して首もちゃんと大丈夫だった。
「キララの可愛い顔を歪ませたくないし。・・・うーん。キララの顔が面白い顔になってないかなあ」
キララは知らず知らずの内に体内のオーラを使ってシックスセンスを使っていた。これが、キララが初めてシックスセンスを使った瞬間だった。アシュラはキララを見て笑っていた。そして、キララに触れようと近づいた。キララはシックスセンスを使っていた意識はなかったし、面白い顔をしていた意識はなかったのでとても驚いた。だが、それよりもアシュラが近づいてくれたことが嬉しかった。だから、腕を伸ばして待っているとアシュラはキララの腕に上手く収まらず、顔がキララに当たった。キララとアシュラが初めてキスをした瞬間だった。ニケは慌ててアシュラを引き寄せた。
「大丈夫、キララちゃん?」
「うん。アシュ?を笑わせれたから」
「やるねえ、キララちゃん。ミケのモンブランをお食べ」
ミケはタイミングを見てキララにモンブランを渡した。ニケとミケだけが気付いていた。キララの顔を見ていたから。キララがシックスセンスを使ったことを。だから、ニケは対応が少し遅れたし、ミケは称賛した。
「うん、ありがとう」
「さてと、ニケ姉。行こっか」
「そだね。じゃあ、また」
「ええ、また、宜しくお願いします」
「僕からも」
シャイニングとコウはニケとミケに頭を下げた。ミケとニケは軽く会釈して済まして瞬間移動で出て行った。
「それにしても、驚いたね」
「うん。自覚は無かったけど、シックスセンスを使っていた。それに、ミケのモンブランに先に目が行かないなんて変わってる」
「確かに、ミケのモンブランじゃなくて、ニケ姉の方に行くから何事かと思ったよ」
「ホントに。じゃあ、次はフロンティアだね。誰から行く?」
「多分。まだ、飲んだくれてるだろうから、ミキは最後にするとして、サウルスさんに会いに行く?」
「ゲッ⁉」
「ニケ姉にも苦手のものがあるんだね」
「だって、凄く睨んで来るんだもん。神龍に、・・・違うわね。テラノを奪われたって怒ってるんだと思うの」
「まあ、義姉さんなんだから、ちゃんと仲良くね」
「モンブランはまだ余ってる?」
「殺されちゃうかもよ?」
「大丈夫。きっと喜ぶよ」
ミケはニケの妙な自信に心配に思いながらもまあ、何とかなるだろうと思った。二人とも楽観的だったのだ。
「到着。やっぱり、ここは開けてるなあ」
ニケとミケはフロンティアの竜の縄張りに入っていた。
竜。龍ではなく竜だ。イメージとしてティラノサウルスだ。龍は空を飛ぶ。だが、竜は空を飛ばない。中には飛ぶ竜もいるが基本、大きな翼を必要とするためフィジカルが極端に弱くなる。竜はとにかく、フィジカルが強く、力が強い。鬼よりも簡単に超パワーが受け継がれやすい。龍と竜の違いは単純で、コモドドラゴンが進化して行く過程で、汎用型にするか、特化型にするかの差である。だから、龍と竜は共に血が特別でもある。そして、竜にも龍同様神竜と呼ばれる存在がいる。神竜は対近接戦闘のシックスセンスを多数保有しているのだ。この龍と竜の違いから分かる通り、血を混ぜることは、例えば、黒龍王と白龍王が血を混ぜないようにするのと同じように、本来、混ぜようとしない。ましてや、神龍と神竜の血となると誰もが反対する禁忌なのだ。その禁忌を行ったのが、神龍であるシューンの双子の姉シャーンと神竜であるサウルスの双子の兄であるテラノが結婚し子供を産んだのだ。ニケとミケが龍の縄張りに来たのはその子供たちに会うのと自分たちの子供を見せるためでもあった。
さて、竜の縄張りが開けている理由は、簡単だ。近接戦闘に優れていると前述したことからも分かるように野生の動物、敵などが攻めて来た時に上手く対応できるようにするためだった。だから、その障害として遠くから見ても何をしているのかが丸見えと言うのがある。中心にそれぞれ、家を建ててその周りを飲みながら見張りをしていると言うのが龍人の習性だった。だが、それはほとんど形だけのもので、実際はほとんど、神竜を中心とした竜たちが外部からの攻撃に対応している。だから、ニケとミケを視界に捉えると神竜は凄い勢いで走って来た。そして、その神竜に乗っていたのがサウルスだった。
「さすが、神竜ね。迫力が凄い」
「ニケ姉でも、やっぱりそう感じるんだ」
「うん。やっぱり、デカいし。サウルス義姉さんの可愛い顔で眉間に皴を寄せている姿が小さく見えて来るしね」
「聞こえてるわよ、ニケ」
「あちゃあ」
ニケは浮遊して神竜の上に乗っているサウルスに目線を合わせた。サウルスは歯をガタガタと言わせてニケを睨んだ。
「全部、わざとやってるでしょ!」
「あちゃあ」
「あんたねえ」
サウルスはニケの悪びれない態度により一層強く睨むのだが、元が可愛いため全然怖くない。サウルスは諦めてニケの抱っこしている二人の赤ちゃんを見た。ミケもそのタイミングで浮遊した。
「この子たちが?」
「うん。アシュとインドラ」
「で、そっちが?」
「エマ」
「ふーん。ニケ。一人、抱っこしよっか?」
「じゃあ、今日は、アシュをお願いしよっかな。今日、笑わせた人はニケとミケを含めて四人だけよ」
「何?ワタシが笑ってないって言ってるの?」
「「さあ?」」
「フンッ!笑わしてあげるわよ」
サウルスは強引にニケからアシュラを奪って抱っこした。
「じゃあ、兄さんたちのところに行くから乗って」
「「やった」」
神竜は三人を乗せて走った。そして、人の溜まり場に着くと腕相撲をしたり、相撲をしたり、乱取りをしたりとしているのが見え、その上を浮遊している赤ちゃんを抱っこして背負っている神龍のシャーンがいた。シャーンは三人に気付くと近づいて来た。
「珍しいね。サウルス義姉さんが直々に案内してくれるなんて」
「別に。神龍が勝手に走っただけよ」
「そっか。この子がアシュ?」
「「「・・・」」」
サウルスがニケとミケを睨んだ。ため息を少し吐くとサウルスは答えた。
「そうよ。この子がアシュラで、ニケが抱っこしてるのがインドラ。で、ミケが抱っこしてるのがエマ」
「そっか。じゃあ、ワタシの子は、前がシャランで後ろが双子の妹のキュウ。どっちも女の子」
「そっか。可愛いねえ。ニケみたいな子を見つけないとね」
ニケの言葉にキリッとサウルスが睨んだ。サウルスはまだ、失恋したことを乗り越えられていないのだろう。だから、未だにニケとミケはサウルスがシャーンに目を合わせていないことにも気付いていた。
「そうね。ニケの言う通り、将来に竜と龍の血に上手く適応した子を残すにはニケみたいに強い遺伝子が必要よね。それだったら、アシュなんか丁度いいんじゃない?」
インドラが暴れ出した。まだ、言葉を理解できていないが、本能的に察知したのかもしれない。ニケはあやしながら答えた。
「まあね。アシュはニケに似ていて、インドラはシューンに似ているから。アシュはニケを色濃く受け継いでるかも」
「そうね。インドラはシャランやキュウに少し似てるわ」
「立ち話?も何だし案内してよ」
ミケはタイミングを見て話し掛けた。正直少し置いてけぼりにされていたから寂しかった。
「そうね。そのために来たんだものね。じゃあ」
「待って。僕はちょっと歩いて来る。だから、アシュは」
「そのまま、抱っこしてあげてて。また、来るから」
「いや、折角来たんだから、顔を見せてあげなきゃ」
「いいから。ニケがまた、ここに来る口実が欲しいんだよ。だから、フロンティアの光景をアシュに魅せてあげて」
「ニケがそう言うなら」
サウルスは神龍から降りるとアシュを抱えておもむろに歩いてシャーンから離れた。
「ごめん。ニケ。気を遣わせて」
「いいよ。これからゆっくり解して行ったらいいんだから」
「でも、サウルスさんは見つけないとね。好きな男を」
「そうね。サウルス義姉さんはテラノに最低限しか顔を合わせてないから」
三人は寂しそうなサウルスの背中を見えなくなるまで見守った。
「ああ、やっぱり、ダメだなあ。顔が笑えてない」
サウルスは森の奥に進みながら、先ほどのことを反省していた。ニケにも遠回しに笑えと言われた。だが、どうしても、兄をテラノのことを思い出すと表情が険しくなってしまう。
「でも、この子も、僕に負けないぐらい表情が険しいなあ。笑わせてやるって言ったからには笑わせないと。っていうか笑わせたい」
サウルスは気持ちを切り替えてアシュラのことを意識した。アシュラは微動だにせず、表情も変えずにいて赤ちゃんらしくないのだ。
「笑わせるだけじゃなくて、色んな表情を見たいなあ」
サウルスはちょっと危険な野生の猪の生息地に向かった。そこの猪は突進をとにかく伸ばしていて、瞬発力が並外れている。もちろん、体の大きさは巨大化している。動き出しを見極めれないとかなり危険の生物だ。
「それにしても、全然泣かないなあ。大丈夫かしら」
猪の生息地隊に入って雰囲気が重くなったのだが、アシュラは微動だにせず、キョロキョロしていた。
「ちゃんと、危険だって分かってるのに泣かない。相当な大物ね」
アシュラの胆力に驚嘆しつつ、更に深く、匂いが濃い方に移動した。そして、猪に囲まれた。一斉に突進された。サウルスはオーラを纏った。尚も猪は構わず突進している。そうやって、もう逃げる隙間もなくなった瞬間、猪の突進の速度が止まった。急速に遅くなったのだ。サウルスはアシュラの顔をずっと見ていた。アシュラは泣き出すとか、暴れるとかそんな反応はせずに笑顔だった。ただ、ニタッとした笑みだった。
「何よ、その笑みは!」
サウルスは心を見空かれている気がした。アシュラを猪と真正面から向き合わせてみた。鋭い視線の猪と真正面から向き合わせているのに一向にしてニタッとした笑みから変わらない。
「アシュ。あなた、もう色々できるんじゃないの?」
サウルスはアシュラの目を真っ向から見て疑った。既に相当高い知能を持っていると思えたからだ。
「そうでないと、そんな嫌な笑みを浮かべられるはずないわっ!」
「お見事」
ちょっと高い声が聞えた。一瞬、どこから聞こえたのだろうと思った。透き通っていた。サウルスは驚愕の表情をしてアシュラを見た。
「サウルス。君が初めてさ。俺が既に喋れることに気付いたのはね」
「・・・このクソガキッ!」
サウルスはアシュラが自分のあくせくしている姿を嘲っていたのかと思うと零歳にして生意気だと怒りが込み上げて来た。




