第三章 21 ニケとミケ
「ニケ姉。今月はこれぐらいでいいかなあ?ミケもミケで大変なんだよ」
と目付きの鋭い三白眼の引き締まった体の女性はその大きな胸にふわふわの綿の服を着た、まだ、泣くことでしか意思の伝えられない赤ちゃんをあやしながら自分と全く同じ姿の女性に話し掛けた。ニケも同様、赤ちゃんを抱いているのだが、右手と左で器用に抱っこしてワイルドだった。ミケが届けていたのは新作の作物だった。
「って言ってもミケ。ミキはキキが育てるんでしょ?」
「まあね。私が鬼族のところで生活したくないって言ったら、エマとミキを別々に育てることになった」
「まあ、あそこは五月蠅いからねえ。どれぐらいの頻度で会うことになってるの?」
「一日一回は絶対顔を合わすようにしてる。鬼たちが眠った後に」
「だったら、いいじゃん。もっと話そうよ」
「シューンは?」
「龍王たちを面倒見てる。まだ、五歳だから」
「でも、龍王は大変ね。子供がある程度育ったらフロンティアに行くんだから」
「仕方ないよ。子孫を残したら神龍の血にチャレンジしなきゃなんだから。ニケだって龍王だったら間違いなく逃げてるね」
「はあ。そう。じゃあ、会いに行く?スマイルとラフに」
「どうなの、上手く行ってるの?」
「そりゃあ、ラブラブなんじゃない?」
「違う。外でってこと」
「ああ、それなら、問題ないよ。あと、ちょっとでカッパー完全自治区を作れそうだから」
「へえ、やるじゃん。じゃあ、行こうか」
二人は瞬間移動をして、スマイルとラフのもとに行った。
スマイルとラフは森の中に住んでいた。ショワ王国の海際のスラム街的な場所だ。スラム街的な場所はショワ王国に限った話ではない。どの国もフロンティアと海を挟んでの土地は統治していないのだ。だから、国の社会の不適合者がよく流入している。なぜ、そのような、スラム街的な場所を各国統治していないのかと言うと、フロンティアから黒色の生物がそれなりにやって来るからだった。だから、統治を諦めたのだ。そして、街中に行ったフロンティアから来た人が心に傷を負って戻って来る場所でもあるからだった。スマイルたちは木造建築の家を建てて、周りにミケが作った生物除けの作物を育てて住んでいた。
「久しぶり。こっちの生活には慣れた?」
「久しぶり、ニケ。今のところは大丈夫だよ」
「くっくっくっくっくっくっ」
家の中に案内されたニケとミケは向かい合って座っていた。スマイルはやはり、視線を引きつける笑顔をしていて、ラフはニケの器用に赤ちゃんを二人器用に抱っこしている姿を見て笑っていた。
「そんなに、おかしい?」
「初めて見る抱っこの仕方だからね」
「そうなの?」
「うん。まあ、滅多に見ないかな。でも、可愛いねえ、三人とも」
「「でしょー」」
「二人も子作りしたらいいじゃない」
「今からカッパーを立ち上げるからね。軌道に乗ったら作り始めるよ」
「ふーん。兄妹仲良く?」
「僕は作っても良かったんだけどね。スマイルとミケがダメだって」
「だって、これから、ミケたちにとってのフロンティアに行くんだよ。先が見えないんだから、中々できないでしょ?」
「私も大変そうだなあって思って」
「ふーん」
ニケは納得していなかったがそれなりにはちゃんとした理由があるのだろうと思ったため、これ以上は食い下がらなかった。すると、不思議そうにしてスマイルが赤ちゃんたちを見た。
「それにしても、静かね」
「うん。ニケたちはミケが作ったクリームを塗ってるからね」
「赤ちゃんが好きな匂いがする作物から獲れた絞り汁をクリームにしたんだあ」
「相変わらずね、ミケ。やっぱり、多すぎて名前を付けるのが面倒臭いの?」
「うん。いちいち一つずつに名前を付けてたらキリがないし。それに、皆、便利だったりおいしかったりしたら名前なんてどうでもいいから。それより、皆の調子はどう?」
「ここにいる人達は皆、ミケの作物にハマって興味津々。だから、もう、すぐにでも、仲間になれると思うわ」
「じゃあ、順調ね。このまま、世界中の人達にミケの自信作のキュウリシリーズを食べさせて、デストロイ捜索のヒントを掴もっか」
「サンドラは、大丈夫かしらね?」
「上手くやってるでしょ。まあ、ヘマはしないぐらいは強いと思うし。ニケよりは確実に弱いけど」
「まあまあ、スマイルもニケもサンドラの心配をする必要はないんじゃないか?僕は信じてるよ。上手くやることを」
この一ヵ月後、カッパーのキュウリシリーズは全世界で大ヒットを遂げた。
ニケとミケは一度天空に戻ると授乳タイムを設けていた。
「次、どこ行く?」
「シャーンのところに行く?ニケ姉は見ておいた方がいいでしょ?」
「そうね。アシュもインドラも会う機会が多いだろうし。でも、ちょっと待って。これ、届けて来る」
「えっと、九人子供がいるところだっけ?」
「そう。それと、白龍の有力家庭のシャイニングさんのところ」
「じゃあ、ちゃっちゃっと終わらせよう」
「エリナさん宅に来たけど・・・」
「ニケ姉、仲良くする人はちゃんと選びなよ」
ニケとミケは扉の前で怒声を聞いていた。「ノビタ、どこに行こうとしてたのっ!」「ギャンブル⁉」「いい加減にしてよね。九人もいるんだよ」「なのに、どうして、地上に行こうとしたのっ!」「私のこと嫌いになったのっ!」「「「うぇーん!」」」
「ねえ、夫の声が聞えないんだけど、もしかして、死んでる?」
「ミケ。中に置いて逃げる?」
逃亡計画を立て始めていた二人は本気で実行しようとした瞬間、目の前の扉が目の前に迫って来た。中から、ホントに小さな九人の女の子が泣きながら一斉に飛び出して来た。
「「ゲッ!」」
二人が顔を顰めたと同時に扉から怒りの形相をしているエリナと首根っこを掴まれた猫のように力のない半泣きのノビタが現れた。
「ニケさん、ミケさん⁉えっ、ちょっ、とりあえず、アナたちを捕まえて!」
「ミケ、アシュラとインドラをお願い」
「ちょっ、もう、仕方ないわね」
ミケはインドラとアシュラを浮遊させると近くに引き寄せた。ニケはオーラを纏って領域を作った。アナたちはその領域の中に入って行き止まりに当たった。
「「「いたっ!うぇーん!いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、うぇーん!」」」
「これが、九人の恐ろしさか・・・。ふう、ユナちゃんが一番冷静そうね」
ニケは一瞬で九人の内から一番冷静そうであったユナを見抜き、一歩だけ踏み込んでユナを捕まえた。
「ユナちゃん。あっぷっぷー」
ニケは鋭い三白眼のを白目にして顔をおかしく歪ませながら、ユナの両頬を人差し指で上げた。ユナは思わず、顔がニッコリして笑顔になった。そして、腹を抱えて笑うほどになり、涙も収まった。
「お姉さん、おもしろい!」
ユナが明るい声で叫んだことで、泣いていたアナたちは一斉に泣き止んでニケの顔を見た。皆、腹を抱えて笑い。近づいて来た。
「でしょでしょ。だから、ユナちゃんにもやってもらうよっ!」
「えっ⁉、ユナはや・・・」
「強制ね。あっぷっぷー」
ニケはユナの顔を適当に弄って無茶苦茶にした。アナたちはユナの顔を見て大戸絵で笑った。そうして場の空気が弾むと、ニケはエリナの元に一歩だけ踏み出して近づいた。
「何があったのか、話してもらうよ、エリナさん、ノビタさん」
ニケはオーラを纏うのを止めて領域を解いた。
「さすが、ニケ姉」
ミケが姉のニケを誇りに思っているのが見て取れるぐらい深く頷いていた。
「ユナ姉、さっきの顔やってよ」
「カナ、からかわないで」
「「「いいねえ、カナ。賛成」」」
「ちょっとー」
と二歳にしては自然に会話が弾んで騒がしい部屋の中でニケとミケが横に座り、ニケは相変わらず、二人の赤ちゃんを独りで豪快に器用に腕で抱いている。机を挟んで向かい側にエリナと首根っこを掴まれているノビタがいた。
「今日は、届けてくれて、ありがとう」
「それは、全然、構わないけど、どうしたの?ニケたちは外で断片的にしか聞こえなかったんだけどさ」
「ほらっ!」
ノビタは項を乱暴に押されていた。情けない。
「今日は、僕は絶好調の日だったんだ。だから、外に降りて、ギャンブルをして、プレセントを買って来ようと。子供たちへの」
「だから、ここで、見つけなさいって言ってるのよ。九人の面倒をエリナ独りで見ろって言ってるの⁉」
ニケとミケは赤ちゃんを小刻みに揺らしてあやしながら聞いていた。だから、エリナは申し訳なさそうに縮こまった。
「ごめん」
「いいよいいよ。ノビタさん、何を買おうとしたの?ニケには外に何があるのか知らないけど、子供九人の面倒を放棄してまでの価値がそのプレセントにはあるの?」
「うぐっ」
「もしかして、ギャンブルの方がインセンティブになってたんじゃ・・・」
ミケが疑いを掛けるとニケもエリナも睨んだ。
「ちっ、違う!動機は娘たちが先だ!断じて」
「「「ふーん」」」
「外の方が間違いなく料理の組み合わせとかは優れている。一つ一つのおいしさを無視するならね。だから、アナたちにたくさん、勝って来ようと思って。このなけなしの全財産、十万マーニーをを増やして」
「ミケ。舐められちゃってるよ」
「だね、ニケ姉。本領発揮してあげようかしら。ちょっと、エマを預かってて」
「はいよ」
ニケはエマを浮かせると三人分の面倒を見ることにした。ミケは肩に掛けていたバックから種を一つ取り出すと外に出た。種にオーラを纏わすと木が育ち一定の大きさに育つと栗が生えた。人の頭ほどの大きさがあった。ミケはそれを取ると、部屋の中に戻って来た。そして、持って来た作物の中から卵を取り出すと、元々この家に会った牛乳も取り出した。
「見ていなさい。外の料理なんぞよりも断然おいしい、モンブランとやらを作ってあげるわ」
三十分ほど経った。シックスセンスを使って工程をスキップしてたくさんのモンブランを作った。その手際の良さを子供たちですら目を見張った。そして、皆の前にモンブランを並べると一斉に食べ出した。
「「「おいしいっ!」」」
「ニケ姉。エマたちにはこれを」
ミケはモンブランを作ると同時に赤ちゃん用にミルクを作っていた。クリをペースト状に変えてミルクに混ぜ合わせていた。ニケは哺乳瓶ならぬ瓢箪をエマ、アシュラ、インドラに一斉に伸ばした。手が三つあるわけではない。瓢箪も浮遊させて操っているのだ。だから、ニケはミケの作ったモンブランを食べながらしていた。恐ろしいほど正確で速い処理速度だ。
「さてと、これを超えられると言うのかしら?」
ニケが自信満々に聞いた。ミケは自分が作ったのに・・・などとは思わずに胸を張って純粋に自信満々に胸を張った。
「どうなのよ?」
エリナが追撃を食らわせる。
「くっ、くっ、ごめんなさい」
「クソっ!って言わなかったのは宜しい。じゃあ、占ってあげて」
「ニケさんとミケさんを?」
「はもちろんだけど、エマちゃん、インドラちゃん、アシュラ君の未来」
「ああ、待った。ニケはいい」
「ミケも」
「いいの?」
「うん。アシュとインドラ、エマの未来を占うのはニケも、多分ミケも心配だから知りたいけど、でも、ニケたちの未来は別にいい。明るくても暗くてもニケたちは未来のことなんて考えずに今を生きていきたいもの」
「だよね」
ミケはやはり、深く頷いた。エリナとノビタはそのニケとミケの在り方にカッコいいと思って見惚れてしまった。
「じゃあ、アシュラ君とインドラちゃん、そして、エマちゃんを占おう。天使が出たら明るい、悪魔が出たら暗い」
ノビタはオーラを纏ってカードの束を具現した。そして、広げた。
「子供たちに最初に触れさせてあげて欲しい。でないと、子供たち自身の未来を占えないから」
「「了解」」
ニケとミケは子供たちを浮遊させると適当に体の一部を触れさせようとした。だが、三人とも自分で手を伸ばした。
「さすがは、ニケたちの子だ」「さすがは、ミケたちの子だ」
二人は満足そうにして頷いた。エリナとノビタは驚いてアシュラとインドラ、エマを見ていた。ニケとミケは子供たちがカードに触れたのを見ると引き寄せて抱っこしてからそのカードを見た。エマは、天使のマーク。アシュラとインドラは天使と悪魔、両方描かれていた。
「「「これって?」」」
三人とも頭に?を浮かべてノビタを見た。ノビタは珍しく顔を顰めていた。
「これは、一番厄介だ。天使なら何も特別に対応しなくても自然と良い未来が訪れる。悪魔だったら、ちゃんとじっくり対策を立てたら未来を変えることができる。でも、天使と悪魔、両方だと、少しの些細なことでどちらにもなってしまう。細心の注意を払わないと厄介なことになる」
「・・・まあ、なんとかなるかな。何がトリガーになるのかは知らない。でも、アシュもインドラもきっと強く生きてくれる。河童と神龍の子なんだからね。それに、アシュとインドラはちょっとやそっとのことだと全然動じない強い子だから」
「まあ、だろうね。外から、エリナさんの怒鳴り散らかしてた声を聞いていても堂々としていたからね。エマはちょっと縮こまってたけど、アシュとインドラは身動き一つしてなかった。特にアシュなんて顔色一つ変えてなかった」
「ちょっと、異常だけどね。二人とも気にしなくていいよ。二人は自分たちできっと良い未来を勝ち取るからさ。じゃあ、次、予定あるから行くよ」
ニケは勢いよく水を飲むと立ち上がった。そして、アナたちの元へ挨拶しに行った。
「じゃあ、バイバイ」
ニケはしゃがんで目線を合わせた。皆、口にモンブランをいっぱいに付けていた。そして、アシュラとインドラの頬を次々に指でツンツンしに来た。そんな中、ユナはニケの足に抱き着いた。
「すっごくカッコよかった」
「ユナちゃんもね。ユナちゃんのおかげで収集が付いたから」
「ありがとっ!」
と話している内に一番口にモンブランを付けていたカナがモンブランを食べながらやって来てカナはインドラの頬をツンツンし終えるとアシュラを見た。アシュラは一切顔色一つ変えておらず、それが、気に食わなかったのか顔を凄く近付けて睨んでいた。尚もアシュラは顔色一つ変えないためカナはもっと近付けた。
「じーーー」
ニケはユナとの交流を終えてアシュラとインドラを見ようとすると、目の前にカナがアシュラを睨んでいたので何事かと思ってしばらく見つめていた。どんどん顔を近付けて可愛い顔で眉間を寄せているため微笑ましかった。
「カナちゃん。諦めた方がいいかも。今日は機嫌が悪いから」
「でも、でもでもでも、年下なのに生意気」
「末っ子だからって腹いせは良くないと思うよ、カナちゃん」
「違うもん。じーー」
カナがそうやって睨みを利かせているとユナがカナの肩を後ろから叩いた。カナはびっくりして前のめりになってアシュラに向かって倒れそうになり、ユナは急いで腰に手を回して止めた。
「ふう。ぎり、セーフ?」
ユナが恐る恐るニケに尋ねた。
「うん。鼻にカナの唇がちょっと当たったぐらい。ありがとう」
「えへへ」
「えへへじゃないっ!危なかったじゃん」
「ごめんごめん。でも、そんなにカナがアシュラ君のことが気になるなら」
ユナはカナの後ろに回り込んでカナの顔をアシュラの前に持って行くと先ほどのニケの変顔のようにしてカナの顔で遊んだ。すると、インドラが先に笑い出してちょっとした後にアシュラも笑い出した。
「ようやく笑った」
カナはアシュラを笑わせれて表情を明るくして、ユナはニケのようにしてカナとアシュラを笑わせたことがとても、嬉しかった。
「やるじゃん、ユナちゃん。カナちゃんも」
「「えへへ」」
「じゃあ、バイバイ」
ニケは立ち上がってミケたちを見た。温かく見守っていて、帰る準備は既に済ませていたようだった。




