第三章 19 『セツナ』の悪あがき
「これが、インドラの心の変化だったのですか」
『セツナ』の融合で精神世界で対話を始めた六人はインドラの気持ちの変化を覗いた。ウォーはあの頃のことを懐かしく思いながらも、インドラがどういう心理で動いていたのかが分かり悲しくなった。
「私はアシュを守りたい。ただ、それだけよ」
「アシュは強くなっています。アシュもきっと同じぐらい強くインドラを守りたいと思っているはずです」
「ダメ。アシュにはデストロイの件は一切関わらせない。未来が変わっていることは分かってる。ツリトが繋いだ未来がアシュにプラスになっていることは分かってる。それでも・・・私はアシュを守りたいの」
「ねえ、セツナたちじゃあ、力になれないの?」
「なれない。正直、セツナたちがここまでやれるとは思ってなかった。でも、足りない。デストロイは私たちと戦うんじゃない。私たちを殺戮するの。だから、私は一人で適切に対処して行って魂を消滅させるの」
「じゃあ、アシュはどうなの?ミラはこの前の戦いを見る限り熱いガッツもあるし、強さも申し分なかったと思うんだけど?」
「確かに、アシュはツリトの力も得て更に強くなった。でもね、心配なの。心配しちゃダメなの⁉心配だから関わらせたくないの!」
「インドラ。ニケさんのことはどう思っているのですか?」
「母さんはやっぱり、許せない。アシュをツリトにさせてしまった責任があるから。昔のように欠けた記憶を埋めるために利用はしていない」
「どうするのですか?」
「母さんは自身のシックスセンスを使えずにゼウスに負けた。だから、そのシックスセンスを貰う。確実にデストロイの魂を消滅させるために」
「「「っ⁉」」」
龍王たちは息を呑んだ。インドラの目的は良い。だが、その過程はダメだ。
「では、他にも奪おうとしているのはあるのですか?」
「コキュートスの名刀かな」
「アシュ以外なら頼ってもいいんじゃないですか?」
「ダメ。頼ってもダメだったんだよ。だから、私や天狗、カシャさんが見た未来でもデストロイに勝てなかったんだから」
「譲れないのですか?」
「譲れない。だって、私が今、思っていることがアシュを助けるための最善だと思ってるから」
「そのためなら、そのためなら、皆の心配を無視するの?インドラが独りになってしまうことへの皆の心配を無視するの?インドラがアシュを思う気持ちと同じぐらい、ウォーたちはインドラのことを思ってる自信はあります。きっとアシュも同じです。ウォーたちの、アシュの心配を無視してまで、独りで成し遂げたいと思うのですか?」
「っ⁉」
「ねえ、インドラ。セツナたちは、ずっと、インドラの心配をしてたのよ」
「ミラも。その独りでどうにかしようというガッツを、皆でどうにかしようというガッツに変えることはできないの?」
「その独りでどうにかしたいって思うのは、心にずっとある闇が原因?」
「心に屋根を作って光が当たってない」
「インドラがナリたちの気持ちを無視するなら雷を落としてあげる」
インドラは大きく深呼吸をして心を落ち着かせようとした。それでもまだ、心臓はバクバクと動いていた。だが、インドラは嘘を吐く。
「私は、自分の望みのためなら、誰のことも無視できるの。もういいかな。今度は、眠ってもらうよ」
精神世界から現実世界に戻った。インドラは『セツナ』から離れた。瞳に刻んでいたハートの紋様から星を三つ重ねてずらした紋様に変えた。龍鱗を纏った体に虹色の翅も羽ばたかせていつでも高速で移動する準備をした。一方、『セツナ』はより光沢のある龍鱗を纏った体に虹色の翅を生やしている。そして、雷と炎を纏っている。
「ねえ、もうほとんど、オーラが残ってないでしょ?」
「さあね。『セツナ』はまだまだ全然元気だよ」
「強がり」
『セツナ』は手のひらに炎を生み出した。その炎は瞬く間に大量に煙を発生させた。視界いっぱいに煙が大量に発生した。インドラは煙が発生したのを見て『セツナ』の後ろに瞬間移動をした。『セツナ』はそれを予想していたため、炎を生み出していた時に背中に水鏡を作っていた。だから、『セツナ』は水鏡の中に入ってその場から逃げた。
「うーん。そう簡単には準備の時間は稼げないか」
インドラも当然瞬間移動で詰め寄って来る。『セツナ』は今度は左手に青色の炎を生み出すと赤色の炎と青色の炎を融合した。今度の煙は一味違った。煙に催眠作用のあるガスが含まれているのだ。
「風よ、圧縮して地面に運べ」
異空間の部屋の天井から地面に煙が圧縮されて流れた。『セツナ』の姿が見えた時、『セツナ』は限界まで背中を屈めていた。それは、まるで、翅を大きく羽ばたかせようと鳥が身を屈めるようだった。だから、『セツナ』のスピードは今までよりも速く、インドラの体を捕らえた。インドラは『セツナ』の左手の青色の炎をお腹に食らったと同時に感電もした。『セツナ』はインドラの動きが止まった一瞬で距離を詰めると体に纏っている炎を青色に変えてインドラの右腕に飛びついた。
「燃えろ」
インドラは自身に入った体内の催眠作用を燃やした。だが、右腕はすでに取られていて腕十字を空中で決められていた。関節が外れる音が聞えた。一瞬意識が飛びそうになったがなんとか堪えた。だから、瞳の紋様をハートに変えて『セツナ』のオーラを吸収しようとしたところ、『セツナ』の虹色の翅が動いた。近距離からの体に纏っているオーラの分離。インドラの吸収が一瞬遅くなった。その一瞬で『セツナ』はインドラの顔に向かっての近距離の炎龍の咆哮、青色の炎を放った。しかし、インドラはその青色の炎をハートの紋様を刻んだ瞳で吸収することで攻撃を凌いだ。
「・・・どうやって?」
『セツナ』は衝撃だった。隠し技まで披露してこれだ。体外のオーラは分離していたはずだ。だから
「危なかったあ。まさか、『セツナ』が近接戦闘術を覚えていたなんてビックリした。でも、私の隈取は空気中のオーラの残滓を体内に、眼に蓄積するから体外のオーラが分離しても関係ないの。だから右腕はもう治ってるし『セツナ』のオーラを吸収している。終わりだね。選んでいいよ。オーラを全て吸収されて眠るか、今すぐに眠るか?」
「じゃあ、『セツナ』は最後まで粘るよ」
「一応、言っておくけど、さっきみたいにオーラの流れを乱しても無駄だよ。あと、もうミラの炎もナリの雷も纏えないよ。オーラも纏えない。体内のオーラも私に不規則に吸収されて使えない。何ができると言うの?」
「アシュが来るまでの悪あがきだよ」
「アシュかあ。多分来れないよ。今、戦ってるからさ」
「アシュは負けないよ。そう簡単には」
「うん。でも、アシュはもう限界だから。ここ数日、ずっと戦ってる。昨日はあんな大規模な戦いをしてる。今、戦ってるサニーって子は相当強い。きっとギリギリの戦いになる。だから、来れないよ」
セツナの龍鱗が剥がれて行った。次々に下に落ちて行った。翅も消えた。『セツナ』は辛うじて浮遊できていた。
「もう、ダメだね。『セツナ』のおかげで手札が増えたよ。ありがと。あとは、ゆっくりお眠り」
『セツナ』はもう浮遊すらできなくなった。インドラの腕にしがみつかないと落ちてしまうほどにだ。だから、インドラは『セツナ』の腕十字している脚を払って右腕にぶら下がっているセツナの脇に手を入れて持ち上げた。
「心配してくれてありがとう。でも、私はアシュをこれ以上関わらせたくないの」
「インドラ」
「何?」
「『セツナ』は最後まで粘ると言ったよね?」
「何を・・・?」
インドラは真下を見た。翅の粉によって分離されていたオーラが龍鱗に付着していた。
「これが、『セツナ』の最後の攻撃。頑張ってね」
『セツナ』はインドラに抱き着いていた。インドラの胸の上に自分の胸が乗って頭一つ分視界が高い。どうしても、視線が上に行くのだ。それは腕十字を決めた時からそうだった。だから、『セツナ』の仕掛けた攻撃に気が付かなかったのだ。
「逃げてもいいけど、どこまでも追うよ」
『セツナ』はインドラに予め牽制した。少しでも対応する時間を短くするために。
「じゃあ、対応するまでだね」
インドラはハートを刻んだ紋様の瞳から、星を三つずらして重ねた瞳に変えた。
「ちょっと、浮いてて」
『セツナ』は浮遊した。一方、インドラは地面に落ちている龍鱗を見た。一つ一つの龍鱗に粉に付着したオーラがたくさん付着していた。その龍鱗一つ一つは炎と雷を纏っていた。
「悪あがきだね」
インドラは全てを焼き尽くす炎を放った。簡単に焼き尽くせるだろうと。だが、その炎は消えた。粉に当たった瞬間にオーラの塊となって龍鱗に付着するオーラの一部となった。
「っ⁉」
「さあ、『セツナ』の悪あがきに耐えて見てね」
一つ一つの龍鱗が光速で飛んで来た。その龍鱗はインドラに向かって飛んで行った。インドラはツリトのオーラを使って鋭い斬撃を飛ばした。だが、その斬撃も消えてオーラになって吸収された。そして、龍鱗が目の前に迫った瞬間止まった。
「は?」
インドラは思考が止まった。外的要因ではない。内的要因だ。分からなかった。攻撃を食らわせた方が大ダメージを与えられるはずだからだ。
「『セツナ』がしようとしたことは封印だよ」
インドラと『セツナ』は『セツナ』の龍鱗に囲まれて封印された。暗闇の中だった。だが、一番マズいのはオーラを纏えなくなってしまうことだった。封印の中はオーラが纏えなかった。虹色の翅から出ていた粉がオーラを吸収し続けているからだ。
「なるほど。これは時間稼ぎに使えそうね。ありがとう、『セツナ』」
「何を、言っているの?」
「言ったよね。私の隈取は空気中のオーラの残滓を吸収できる。つまり、今、私は翅の粉によるオーラの吸収よりも速く空気中のオーラの残滓からオーラを吸収できるの。誉めてあげるわ、『セツナ』。魅せて上げる。私のもう一つの奥義の内の一つをね」
インドラは星を三つずらして重ねた紋様を刻んだ瞳から何も紋様を刻んでいない青白く輝く瞳に変えた。そして、その瞳は暗闇の中『セツナ』の龍鱗の封印を見て燃やした。龍鱗は完全に燃え尽きて暗闇の視界は晴れて明るくなった。インドラは『セツナ』の脇に腕を入れて持ち上げた。
「外部から壊せないなら、内部から壊せばいい。ただ、それをしただけよ」
『セツナ』は驚愕の表情をした。完璧とは行かずとも上出来だったのだ。それをこんな風にあっさりと終わらされるなんて、全く想像していなかった。
「どんだけ、タフなのよ」
「私はアシュのお姉ちゃんだからね」
インドラは一度瞬きをすると、青白く輝いている瞳から星を三つずらした紋様を刻んだ瞳に変えた。
「もう、星の数は三つである必要はないけど、『セツナ』には尊敬の証としてこの瞳で眠って貰う。私のわがままが終わったら起こしに来るから。ごめんね」
「残念だけど、『セツナ』の勝ちみたい。久しぶり、アシュ」
『セツナ』の瞳からは大粒の涙が流れていた。『セツナ』の瞳に映っていたのはぼやけていたが服を着替え直した元気な姿のアシュラだった。
「俺と一緒に過ごした数時間は楽しくなかったのか、インドラ?」
「楽しいに決まってるじゃん。でも、今を求めるより未来を求めてるだけだよ。だって、私はアシュが大好きで愛してるんだから」




