第三章 17 アシュラとの可能性
『では、疾くと御覧あれ』
水鏡に映されている少年は超巨大魚を簡単に綺麗に小さく鋭い斬撃を飛ばして綺麗に斬り分けていた。それを見ていた現地の人は呆気に取られて開いた口が塞がらずにいた。ただ、白装束を着た人たちだけが嫌な笑みを浮かべていて気になった。だが、そんなことよりもだ。
「やっぱり、アシュは凄い。もう、ツリトのシックスセンスを使い熟してる。私も負けてられない」
「インドラ。焦りは禁物なのです。確かに、アシュはツリト君になっても凄いですけど、あれはセンスとしか言いようがありません。インドラもセンスはあるのですから、ゆっくりと自分のペースでやれば良いのです」
「そうね、インドラ。ウォーの言う通りよ。インドラも確実に成長してるんだから。それに、セツナとは違って神龍の血も順調に使い熟して来てるじゃん」
「でも」
「ミラはアシュに負けないぞって闘志を燃やすのは良いと思うけど、やっぱり、焦りはダメだと思う」
「ちゃんとインドラにはインドラの光が、才能があるんだから」
「アシュの陰になんかなってないよ」
「もし、自分を卑下してたら雷を落とすよ」
「・・・うん。ありがと」
「さあ、残りを食べましょう。まだまだ、いっぱいあるのですから」
ウォーが沈んだ空気を変えるために無駄に明るい声で呼びかけた。龍王たちはウォーに静かに感心した。
ちょっと遅めの朝ごはん、昼も兼用のご飯を食べ終わりインドラは気分を落ち着かせるために日課の訓練を行っていた。
「私も頑張らないと。アシュに負けてられない」
インドラは父であるシューンのいる神龍がいる場所に向かっていた。シューンは神龍の隣で倒れて休んでいた。
「どうした、インドラ?」
「いや、その、アシュのこと知ってる?」
「うぐっ」
「大丈夫かなあ」
「だっ大丈夫さ。寧ろアシュならあれぐらい目立って当然だ」
シューンは自分の動揺を見せないためにインドラを抱擁して、頭を軽くポンポンして叩いた。インドラも瞳にハートの紋様を描きながら内心ドキドキしていた。シューンはインドラのこの動揺をアシュラのことだと思い、心を落ち着かせて顔を突き合わせた。インドラは急いで瞳に描かれているハートの紋様を消した。
「大丈夫。何かあったら父さんが必ず、新技を完成させてアシュを守るから」
「うんっ!」
インドラは少し罪悪感を感じつつも父の温かい言葉に心が少し落ち着いた。素直に父のオーラを少し頂戴と言えなかったことに自己嫌悪を更に覚えた。
「勝手に父さんのオーラを吸収しちゃったけど、でも、私のシックスセンスを進化させるために使うって言ったらきっとくれなかったもん」
そうやってインドラは自分を納得させるといつもの鉱石の前に移動をした。
「ちょっと、良くないかもだけど、一回、感覚を掴みたかったんだもん」
インドラはオーラを纏った。そして、そのオーラを眼に集めるイメージをした。インドラはこのイメージがまだ、完璧にできず、かなりのオーラを無駄にしていたのだ。インドラはそれを無くすために、一回完璧なイメージをしたいと思っていたため、父のシューンのオーラを吸収していたのだ。
「これぐらいできないと、アシュに追いつけないし、ましてや守ることなんてできない。だから、勝手にオーラを吸収してごめんなさい、父さん」
インドラは眼にオーラを集中させていたがオーラを一点に集めることがまだできていなかった。
「瞳にオーラを集中させて」
インドラは父のシューンのシックスセンスでイメージした。すると、全身のオーラが瞳に移動する感覚を全身で感じた。
「凄い。これが一点にオーラを集める感覚。多分、一つの星の時よりも威力は断然に上がる。これを極めていけばきっと、私はもっと、もっと、強くなれる」
シューンのオーラを使い果たした。だから、自分のオーラを纏った。先ほどと同じように瞳にオーラを集中させてみた。できた。できてしまった。
「父さんの、シックスセンスのおかげだろうけど、凄くイメージが完璧にできる。しかも、私のオーラだからか、さっきより、オーラの練度も上がってる。・・・私は、今、強くなってる」
インドラが確実に大きく成長した瞬間だった。
晩御飯の準備をする前にクロコクに会いに行った。クロコクに会いに行った理由は一つだった。
「別にインドラは付いて来なくて良かったのに」
「だって、ミケ姉さんの食べ物を極秘に届けるんでしょ?」
「まあ、叔母さんの家にね」
「でも、やっぱりたくさん持って行ってるね」
「そりゃ、合計十一人だもん。しかも、インドラより二歳上、丁度、成長期まっしぐらだからね」
「へえ。確か、問題児だったよね」
「ぐっ!まあでも、あの子たちなりに考えてやってたことだからさ。それに、九人だから黒龍としての才能はないのよ」
「まあ、確かに、黒龍を生かしたシックスセンスを手に入れなかったのは良いことなのかも」
「でしょ」
クロコクは丁度辿り着いた家の扉をノックもなしに開け放った。
「久しぶり、叔母さん」
「やあ、いらっしゃい、クロコクちゃん」
「あはは、どうも」
カナたちの母親エリナは父親のノビタの膝上に座り、カナたちはその前で、タロット占いをして貰っていた。エリナは何事もなかったかのように挨拶をして、ノビタは恥ずかしそうに照れながら挨拶をした。
「いつも、ありがとう。外で堂々と育てられないからさ」
「ごめんなさい」
インドラは思わず謝っていた。皆がそのインドラを見て慰めようとする言葉を呑んだ。インドラが本気でそう思っているからだ。だから、誰もが次に発する言葉は重要だと考えていたため沈黙が流れた。長い沈黙を破ったのはカナだった。
「父さんの占いを受けて見なよ」
「え?」
「インドラ様がホントに悪かったのなら将来きっと悪いことが起こる。でも、インドラ様が悪くなかったのなら将来、今よりもきっとより明るい未来が待ってるはずでしょ?ナナ姉曰く、徳を積んでいたらちゃんと良いことは起こるみたいだし」
「そうね。インドラ。受けて見なさい」
「でも、絶対、私には悪い未来しかないに決まってる!」
「だったら、一応それを確かめたらいいじゃん。それに、カナは、インドラ様は根が良い人だって知ってるよ」
カナはインドラを無理やり父親の前に机を挟んで座らせた。さすがにエリナはノビタから降りていた。
「何でも聞いちゃっていいから」
「僕が言おうと思ってたんだけど、エリナ」
「ごめんごめん。でも、インドラ様、ホントに何でも聞いていいから」
「じゃあ、私が今抱えているものは将来晴れるの?」
「オーケイ。じゃあ、このカードの中から一つ引いて見て」
ノビタはいきなり手元にカードの束を具現した。そして、適当にシャッフルすると両手でカードの束を広げた。インドラはどれにするか迷って一番下にあったカードを取った。それを見た皆はインドラはが自分なんかダメダメなんだと一番下のカードを取っていると思って少し悲しくなったが、必死に顔に出ないように隠した。
「これだね。今回は二択だ。明るい未来なら白、暗い未来なら黒だ。さあ、裏返してごらん」
インドラは緊張して恐る恐る息を呑みながらカードを裏返して見た。そこには、白色の天使が描かれていて、光を放っていた。
「これは・・・」
「当たりだ。ちゃんとインドラ様は自分が描きたい未来を描けるということさ。天使もいるからね」
「良かったじゃん、インドラ」
「・・・うん」
インドラは照れながら嬉しそうにしていた。少し走っていた緊張が安堵に変わった。
「他に知りたいことは?」
「アシュ。アシュラの未来は?」
「なるほど。アシュラ様だね。ちょっと待ってね」
ノビタは指を鳴らすとカードを消して新たなカードの束を具現した。
「さあ、今回はちょっと変わって来る。アシュラ様が引くわけじゃないからね。インドラ様がアシュラ様に及ぼす影響が良いか悪いかさ。引くかい?」
「・・・」
インドラの手が震えた。怖かった。もし、悪い影響を及ぼすってなったらと思うと怖かった。だから手が震えた。泣きそうになった。そうして、自分の殻に籠ってしまいそうになった瞬間、横から手が伸びて来た。
「あれ、天使が出ちゃったよ。カナ、アシュラ様に会ったことないんだけどなあ」
「「「っ⁉」」」
全員がカナを凝視した。カナの姉たちは今まで黙ってたがこれは一言何か言わないといけないと思うが開いた口が塞がらず喋ることができず、エリナとクロコクは何のために引いた⁉と驚きの余り喋れず、ノビタは驚いてはいるが、面白い展開になったと笑いを我慢して、インドラはショックで落ち込んだ。
「カナ、何で引いたの」
ユナ姉がカナに後ろから抱き着いて聞いていた。その手はカナのまだ小さな胸を抑えていて正直に答えろと言っていた。
「ゆっ、ユナ姉⁉いや、カナは普通にインドラ様を安心させようかなって。どうせ、カナは黒龍を生かすためのシックスセンスじゃないから、きっと、神龍の力を持っていたアシュラ君には良い影響は与えられないだろうなあって思ったから、先に悪魔を引いて安心させようと思ったんだけど、まあ、結果はこの通りに。父さん、占いが悪いんじゃない?」
「いや、僕の占いは完璧さ。ホントにカナがアシュラ様に与える影響は大きいのかもな」
「「「じゃあ、」」」
八人の声が重なった。カナの姉たちだ。八人は一斉にカードを引いた。いずれも天使だった。
「「「やっぱり」」」
「まあ、当然だよね。カナたちは姉妹だもん」
さすがに沈黙が流れた。非常に気まずい空気だ。インドラはもう今にも泣きそうな顔をしていた。だから、クロコクとエリナは同時にカードを引いた。誰かが悪魔のカードを引くしか解決方法がないと。二人が引いたカードはエリナが薄い白色でクロコクは天使だった。
クロコクちゃん、何をしてるの!
エリナの目がクロコクを完全に責めていた。クロコクはインドラに申し訳なさを感じて顔を顰めていたが、あることに気付き、舞い上がってしまった。
よくよく考えたら大好きなアシュにいい影響を与えられるってことよね。ヤバい。嬉しすぎる。
空気を読めていないカナたち九人姉妹と舞い上がってしまったクロコクのせいでその場の空気がちょっとおかしくなった。だから、ノビタは敢えてインドラに引くことを促すことに決めた。
「インドラ様。この流れは間違いなくアシュラ様に良い影響を与えることになるんじゃないかな?」
「でも、きっと私がアシュにいい影響を与えるなんて、そんなこと・・・」
「あるさ。言っただろう?さっき。インドラ様が描きたい未来を描けるって。インドラ様がアシュラ様に良い影響を及ぼしたい、関りたいと思っているなら引くべきさ」
インドラは泣いていた。怖かった。でも、アシュと楽しい未来を描きたい。この一心で引くことを決めた。否、引くしかなかった。
「引く」
インドラは恐る恐るカードを引いた。今度は束の時に一番上にあったカードを引いた。皆はそのインドラの変化を感じて安心した。カードを見るまでもなかった。インドラが引いたカードは
「天使だ」
インドラが引いた天使のカードは誰よりも明るく輝いていた。インドラの顔は笑顔で満ち溢れた。




