第三章 13 奥義
「すう、はあ、すう、はあ、すう、はあ」「っ⁉」
インドラは取り乱していて必死に落ち着こうとした。
『セツナ』は息を飲んだ。余りに衝撃な未来で硬直したのだ。
まさか、これが起こる未来?
でも、ありえないのです。
そうよ。だって、ツリトはアシュだもん。
違う。今見たのは、インドラがあの日に見たもの。
ということは、これで、インドラの心が暴走して闇ができたの⁉
でも、確かなことはインドラがアシュだけを必死に守ろうとしていた理由が想像できる。
『セツナ』の中の六人はセツナ、ウォー、ミラ、クリ、クロコク、ナリが順に思考を整理して行った。インドラが二歳でこの未来を見てしまい、暴走してしまった。これが、インドラが自己を守るために忘れてしまうほど強烈に突然に見た未来というのならばそれは、余りにも、
「悲しかったね。辛かったね。でも、もう大丈夫。その未来はもう起きない。アシュは死なない。だから、もう、そんなに辛そうにしなくていいの」
インドラは耳を塞ぎ、両目を力いっぱいに閉じて外からの情報を遮断しようとしていた。それは、聞きたくない、見たくないと必死に自己を守っているようだった。否、守っているのだ。己の過去の記憶すらも遮断しようとしているのだ。だが、その悲しみ、辛さ、苦しみからは逃げることができなかった。
「アシュは、私が守るの。近づくな、デストロイ」
インドラは自力で『セツナ』との融合から逃れた。精神世界の交流から現実世界の交流に戻った。
「お前だけは、私が殺すっ!」
インドラはツリトの斬撃で『セツナ』を斬ろうとした。『セツナ』は雷を纏って光速で斬撃から逃げ、雷撃を飛ばした。しかし、インドラは、瞳に星を三つずらして重ねた瞳を宿して雷撃を反射した。『セツナ』は間一髪で避けた。
「ウォーがインドラの視界をとりあえず、塞ぐのです」
『セツナ』はインドラの目の周りに水鏡を出現させようとした時、インドラは神龍の力を使って消えた。
「っ⁉」
ウォーは咄嗟に自身を大量の水で囲って己の水鏡で先ほど崩壊して更地になった空間に移動した。
「ヤバいのです。本格的に魂を融合しないと。セツナ。覚悟を決めてください」
でも、まだ、その段階に行かなくても・・・
「セツナ。躊躇ってる場合じゃないのです。もう、このまま、個々でインドラに対処していても対処のしようがありません。セツナの魂を優先して融合してください」
インドラが瞬間移動をして『セツナ』の前に現れた。
「どこまで逃げても地獄の果てまで追いかけるっ!」
インドラはデストロイの幻影を見ていた。
アシュラがツリトになった日から数日。セツナたちは十五歳だ。
「インドラがまた、戻っちゃった。今度はホントにアシュはいない。セツナたちは覚悟を決めないといけない」
「ですね。でも、今回はより一歩深く踏み込まないとです」
「ミラたちは覚悟をしてるよ。セツナが迷ってるなら心を燃やしてあげるよ」
「アシュはツリトになっても元気にしてた。だから、ツリトがアシュに戻った時、インドラが暴走して色んなものを壊してるってなったら、アシュも危ない。だから、セツナが迷ってるならクリは負の感情を照らしてあげる」
「クロコクはセツナの負の感情の闇を取り除きます」
「グズグズ迷ってるならナリの雷を落としてあげる」
「何で、皆はそう、キッパリできるの?」
セツナは当然の質問をしていた。ウォーたちはおかしいのだ。自分の命を軽く見ている。
「ウォーはやっぱり、アシュのあんな顔は見たくないのです。インドラが突然壊れちゃってアシュが必死に頑張って止めようとして、でも、アシュだけの力じゃ無理で泣き潰れていた時のあの顔は二度と見たくないのです。セツナは眠ってて分からなかったかもだけど、あの顔はもう見たくないです」
セツナ以外は静かに、だが、あの時の記憶を噛みしめて頷いた。
「だから、ウォーたちは覚悟は決まっています。セツナの魂の中にウォーたちの魂を入れて融合してください。ウォーたちはセツナの中で生きます」
「セツナ。早くお願いします」
でも、ホントに戻れなくなっちゃうっ!セツナはまだ、皆と一緒にいたい!
「このままだと間違いなくインドラに殺されちゃう。でも、融合したら、インドラを止められるかもしれない。現状維持が一番ダメなんですっ!」
インドラは容赦なく、ツリトの斬撃を無数に飛ばしていた。『セツナ』はインドラの周りに水の咆哮を飛ばすことでインドラの体勢を崩して何とか、空中で避けていた。
セツナ。ごめんね。インドラを止めたいという闘志を燃やす。
インドラが不安に思っていることを取り除く。
インドラに希望を与える。
さあ、さっさと覚悟を決めなさい!
「ああ、最後まで迷ってごめん。今、覚悟を決めたよ」
『セツナ』のオーラが綺麗に透き通り、練度が上がった。インドラは思わず見惚れてそして、デストロイの幻影を見なくなった。
「インドラ。また、アシュを悲しませるなら、記憶を消しなさい」
『セツナ』は炎龍王と水龍王、そして、元々持っていた炎水龍王の龍の力を使った。『セツナ』は視界いっぱいに氷の壁を作り、インドラの視界から逃れると水鏡を目の前に作った。そして、水鏡に枝を入れた。その枝は水を吸収することですくすく育ちやがて、実が実った。そして、まだまだ大きく成長して行った。すると、インドラは『セツナ』の後ろに瞬間移動をすると、もう一度、鋭い斬撃を、今度は溜めを作って放った。『セツナ』は雷を纏うと水鏡の中に入った。水鏡は斬られたがすぐに修復した。
「私がそんな怪しいところにわざわざ入るわけないじゃない」
インドラは星を三つずらして重ねた紋様を描く瞳にオーラを溜めると全てを燃やす炎を放った。水鏡の中に入った炎は中にあった木を次々に燃やしていた。インドラが、その様子を水鏡から注意深く見ていると、後ろから引かれた。もう一つ水鏡が作られていて中から引かれたのだ。
「っ⁉」
「これは、『セツナ』が作った木と毒。いくら、インドラでも弱るよね?」
「神龍の力ね」
神龍。それは人類が進化するために作った生物だ。元々はコモドドラゴン、オオトカゲを起源とする。既に無人島の下りで述べたことがあるが、フロンティアの生物は獣であっても皆、黒色のオーラを纏っている。コモドドラゴン、オオトカゲは習性として丸呑みをする。そのため、多くが丸呑みした生物のシックスセンスを吸収するシックスセンスを持つ。この吸収は肉体にも変化が訪れる。コモドドラゴンは食べる生物を制限しなければ恐ろしいほど巨大になり、想像ができない進化を遂げる。この性質を利用して作ったのが竜だ。爆発的な力を持つ。恐竜をイメージして欲しい。その竜に鳥を喰わしたのが龍となる。龍はここから、炎、水、木、草、光、闇、血、毒、草、などなどの特化したシックスセンスを持つ生物を喰わせた。これにより、今日まで生き残ったのが、炎龍、水龍、雷龍、白龍、黒龍である。この、龍の血を体内に流した人を龍人と呼ぶ。龍王の称号は龍の能力を十分に発揮できる人に与えられるものだ。炎水龍王は、神龍に憧れて作られたもので炎龍王と水龍王の子供の成功例である。ただし、この成功はシックスセンスが介入していて、普通ならその子供は死んでしまう。そして、ようやく、神龍だが、神龍は龍を作ってから、好きなように生きさせてできた生き物だ。あらゆるシックスセンスが使えるしできないことがないとされている。故に神龍と呼ばれている。龍人になることは相当の負荷が掛かる。例えば、龍生九子という言葉がある。本来は竜生九子だが、今は置いておく。龍のなりぞ来ないの生まれて来る九人の子供のことを言う。カナたちは後天的に黒龍の力を発揮できるようになっている。つまり、黒龍の血を成長の過程で流したのだ。龍生九子になるのは龍の血が薄いとき、例えば、龍人と人との間に生まれて来る子供だ。既に、龍の血の影響のことはカナたちの父親、ノビタのことでも分かる通り相当の負荷が掛かる。だから、生まれて来る子供が苦しまないように子供の数が増えるとされている。また、増える数の最大限度の数とも言われている。つまり、生まれて来る子供が苦しまないなら子供の数は少なくなる。例えば、キララは三姉妹だ。龍王たちは一人っ子だ。龍で生まれて来る子の影響がこれほどある。では、神龍と河童の間に生まれたインドラとアシュラの影響はどうなのか?全く問題がなかった。寧ろ、河童の遺伝子に負けた。だから、神龍の血による影響はインドラとアシュラにはない。そのため、濃度は自然と濃い。そして、『セツナ』の中に入っている神龍の血はインドラの中に入っていたものが起源だ。
「そうよ。そして、『セツナ』は融合のシックスセンスを持っている。つまり、神龍の力は『セツナ』の方が上よ」
「だから?私は、別に、神龍の力を一番頼っている訳じゃないから」
インドラは瞬間移動をしてセツナの裏を盗ると、わざとに分かりやすく目にオーラを集中させた。『セツナ』はそれを見て一瞬体が固まり、猛烈に思考を開始した。インドラは敢えてパンチを鳩尾に入れた。
「神龍は万能なわけじゃないよ」
インドラは今度は『セツナ』の後ろに瞬間移動をすると、先ほどと同じ全てを燃やす炎を『セツナ』に放った。『セツナ』は一瞬、かなり、もがき苦しんだがすぐに水を纏うとその炎を着ぐるみを脱ぐようにして水と一緒に剥がした。インドラはそれを見て、両目にハートの紋様を描いた。
「鬱陶しい」
インドラは『セツナ』の体とリンクした。しかし、これは、完全に悪手だった。先ほど、強制的に精神世界で話し合って精神が壊れたのに、これでは完全に同じ轍を踏んでいた。インドラは単純にオーラを吸収しようとしていただけなのだが、そこまで、頭が回っていなかったのだ。だから、『セツナ』は再び、精神からインドらを攻める。
「白龍と黒龍の力を融合する」
『セツナ』は黒龍の力でインドラの心の闇を集め、白龍の力で心に光を灯した。インドラは徐々に表情が和らいで行ったが。
「私はアシュに死んで欲しくないの。そのためには、アシュの記憶を消した母さんには重い罰を死を与えなきゃいけないのっ!邪魔よ、『セツナ』」
インドラは瞳に描いたハートの紋様を消して精神世界から逃れた。
「ようやく、話せるほどには戻ったかな。このまま、皆の分まで背負ってインドラを助けて魅せる」
「まさか、『セツナ』がここまで邪魔できるとは思ってなかった。だから、少しだけ本気を出しちゃう」
インドラの顔に、まるで、歌舞伎の隈取のように太い紋様が入った。それは、目の周りだけだったが確かにそう見えるものだった。
「凄い。目元にどんどんオーラが溜まってる」
「『セツナ』だけが奥義を持っているとは思わないことよ」




