第三章 12 きっかけ
「シューン様。大丈夫ですか?」
シューンは大量の汗を掻いて地面で寝転がっていた。筋肉も硬直して動けないのだ。
「仕方ないさ、セツナ。無のイメージをしたのだから」
シューンのシックスセンスは基本、有のイメージしかできない。何かを創造するのは得意だが、何かの影響を消すイメージはできない。シューンはこの十六年で無のイメージを実現するための訓練を行っていた。シューン自身は知らないが、アンチシックスセンスを自力でやってのけたのだ。そして、シューンは実用化するまでのレベルに持って行っていた。だが、この様だった。
「無のイメージが体に負担が掛かることは知っています。ですが、ここまでじゃなかったはずです。つまり、それだけ、インドラが圧倒的だと言うことですね」
インドラがアシュラとイチャイチャしていることを知ったセツナはシューンに会いに行っていた。決意を伝えるために。
「ああ、情けない」
「シューン様。セツナたちは覚悟を決めました。今、皆で最後の晩餐をしています。インドラがニケさんのところに向かうとなったら協力お願いしますね。では」
セツナは一滴の涙だけ流して浮遊してその場を離れた。シューンは悔しさと情けなさで唇を噛んだ。
「さあ、皆。今日は飲みましょう」
たくさんのキュウリを眼前に並べて酒樽を横に置いたセツナはわざとに声を明るくして龍王に呼びかけた。
「何たって、最後の晩餐なのです。きっとアシュがいなくなった瞬間にニケさんのところにインドラは行きます。それまでがウォーの人生なのです」
「ミラはインドラの心に綺麗な炎を燃やすことができたら後悔はない」
「じゃあ、クリはインドラの心を明るくしたら後悔はないなあ」
「クロコクはインドラの心の闇を少しでも除ければ」
「ナリはインドラにお仕置き、一泡吹かせれたら大丈夫かな」
「「「だから、そんな顔しないでセツナ」」」
セツナの瞳からは涙が流れていた。
「皆。セツナはまだ、これからもずっと皆といたいよ」
「例え、ウォーたちの肉体が無くなってもウォーたちは繋がれるのです。インドラのために皆と繋がるなら全然構わないのです」
「セツナがその調子でいても、ミラが心を燃やしてあげるよ」
「心の闇は、クロコクが」
「そして、心を照らすのはクリが」
「ナリはセツナのサポートを」
「皆が心の中にいても、今までみたいに、皆で机を囲ってワイワイできないじゃん。セツナは皆の肉体と精神合わせて好きなの。だから、だからさ、待っててね。ずっと、ずっと」
「そもそも、インドラによって再起不能、ワンチャン殺される可能性があるのです。セツナ。先のことじゃなくて今のことを考えましょう」
全員が笑った。
「そうだね」
「リナ。アシュはどんな感じ?」
「アシュラ君は今、サキューバス家に入ってなにやら話してるみたい」
アシュラたちがサキューバス家に入ってから情報を得にくくなっていた。
「うん。なるほどね。変化があったら教えてね」
そのインドラの懐には水色が勝った銀髪の可愛らしい顔をしてキララが重たい重たい瞼を擦って上げていた。
「ねえ、インドラ様。もう、眠いんだけど」
「キララ。アシュが起きて頑張ってるのにキララがそんなこと言ってどうするの?」
「でも、眠いものは眠いじゃん。ねえ、カナさん」
「カナも眠いかなあ。だって、昨日は凄く頑張ったもの」
「でも、そなこと言ったらアシュラ君が一番疲れてると思うんんだよね。セナにオーラをたくさん吸収されててあれだけ戦ったんだから」
「信じられない」
メイは思わず、絶句した。あれだけの大規模な戦いを万全ではない状態で勝って魅せたという事実に。
「ジャンヌ⁉」
リナは情報を常に共有していたが脳内に流れている映像にはラグがあった。だから、カナは自分でも独自に情報を得ていたため一早く気付いたのだ。ジャンヌがサニーの超引力で一瞬にして強く引かれていたことを。だが、ここで、もう一人、一早く情報を得ている者がいた。インドラだ、インドラはリナのオーラを吸収して練度を上げて自分でラグなしに情報を得ていたため、すぐに気付いた。
「多分、アシュは死なない。もしかしたら、負けるかもだろうけど、殺されはしないかな。このタイミングしかないね」
インドラは瞳に二つずらして重ねた星の紋様を描いた。この場にいた全員が危険を感じた。だから、それぞれ反撃、逃亡しようと動こうとしたが、遅かった。
「眠って」
インドラ以外は眠ってしまった。
「ようやく、アシュに邪魔される心配はなくなった。あとは、直接会いに行ってもいいけど、どうせ、セツナたちは見てるんだろうなあ。先に対処しよっか」
インドラは瞳に丸の紋様を描き空間の歪みに入って行った。
「やっぱり、インドラは変わらなかったか。皆、準備はいい?シューン様もごめんね。今までホントにありがと」
「何をする気なの、セツナ?」
歪んだ空間から瞳に丸の紋様を描いていたインドラが現れた。インドラは丸の紋様を消した。
「インドラを止めるために一つになるんだよ」
セツナたちは神龍の横にいた。セツナは神龍に触れて黒色のオーラを纏っていた。そのセツナに龍王たちが触れていた。
「イメージしろ。融合の悪影響は無であることを」
「まさか・・・」
セツナの体に炎龍王のミラ、水龍王のウォー、白龍王のクリ、黒龍王のクロコク、雷龍王のナリが吸収された。セツナは赤色と青色の二色の髪が紫っぽい髪色になり、元は目が大きくクリッとでも大人びていたセツナの顔がクリの可愛らしさを、クロコクのカッコよさを、ナリのキリッした感じを、ミラの凛々しさを、ウォーの子供っぽさを帯びた。体系もそれぞれの特徴を帯びていた。
「これが、『セツナ』たちの奥義。そして、その奥義を更に上へ引き上げる」
『セツナ』は神龍の血を体内に流し出した。インドラとシューンの目から見ても見る見るうちに神龍の血に順応していた。そして、体に影響が出そうになったぐらいで神龍の血を『セツナ』は体内に流すことを止めた。
「インドラ、諦めてくれた?」
「全然。だって、神龍の度合いがそっちの方が上になっただけじゃん。そんなんじゃ、私は止められないよ。止まらないし」
インドラは瞳に星を三つずらして重ねた紋様を宿した。
「眠っ」
インドラは吹き飛ばされた。
「シューン様。休んでてください」
シューンは大量の汗を掻いて地面に膝間付いていた。
「インドラを頼む」
「はい」
『セツナ』は雷を纏って吹き飛んだインドラの元に一瞬で向かった。
「うーん。ちゃんと、皆がいるんだね」
「ナリは今のインドラは間違ってると思うからお灸をすえてあげるよ」
「ふーん。やれるもんならね」
インドラは神龍の鱗を纏った。オーラの量も練度も爆発的に上がった。『セツナ』も同じように神龍の鱗を纏ってオーラの量も練度も爆発的に上げた。
「被害が出るのもアレだし、異空間で勝負しよっか」
「そうだね。その方が心置きなくインドラを止めれる」
インドラは予め吸収していたジャンヌのオーラを使って異空間を作った。その異空間は鏡張りだった。
「悪いけど、さっさと勝たせてもらうね。眠っ」
「悪いけど、そんな簡単にインドラの攻撃を受けると思わないことです」
『セツナ』は部屋一体に水の膜を張った。インドラのシックスセンスを無効化する水の膜だった。
「なら、力づくで倒すだけだね」
インドラはハナのオーラを使って『セツナ』の年齢を下げて、赤ちゃんほどの体にしようとした。
「何で・・・」
『セツナ』の体はそのままだった。
「だって、ウォーたちはたった今、生まれたばかりなのですから」
『セツナ』は目の前に水鏡をたくさん生み出すと水でできた分身をたくさん生み出した。
「ただの水分身と思わないことだね」
『セツナ』の水分身は雷のように速く、インドラに突進して行った。
インドラは吸収していたメイのシックスセンスで孤独の世界に入った。
「はあ。中々やるなあ。私も奥義を出さないとヤバいかも」
インドラは鏡張りの部屋の外に出ると、孤独な世界から出て、部屋ごと潰した。当然『セツナ』はこの程度の攻撃で倒れるはずがなく、水鏡を通じてインドラの裏を盗った。インドラは後ろに現れた水分身を吸収していたツリトの斬撃で斬った。
「私も本気をださないとキツイかな」
インドラが『セツナ』の元に向かおうとした時、体に電流が走った。
「っ⁉」
「今、ウォーの水がインドラに浸透した。だから、今度はミラの番なんだよね」
『セツナ』はインドラの体内に浸透した水を頼りに、インドラの負の感情に炎を着火した。
「インドラが、ニケさんを殺そうとするなら、思想を変えてでも止める。それが、ミラたちの決断なの」
「だから、インドラの心の闇を少しでも剥がす」
「クリはインドラの心に温もりを。温かい光を照らす」
「私の心には触れさせない。アシュにも触れさせないと決めてるのっ!」
インドラは『セツナ』の攻撃を反転しようとした。だが、遅かった。インドラは『セツナ』に吸収されて融合した。
「うぐっ。アシュのおかげでまだ、生きてる。でも、アシュはセツナの代わりに倒れて、神龍の血が無くなっちゃった」
「それを言うなら、うぐっ、ウォーも助けてもらいました」
「ミラも」「クリも」「クロコクも」「ナリも」
「ねえ、今度、また、インドラがあんなふうになっちゃたら一緒に戦ってくれる?うぐっ、セツナに命を預けてくれない?きっと、一つになれてしまうから」
「これは・・・私が初めて暴走してしまった時の。そう、この時から覚悟を決めてたのね」
「今度は、インドラの記憶を、あの時、何を見たのか見せてもらうよ。セツナたちはずっと知りたかったんだから」
それは、森の中だった。ボロボロの大人の姿のアシュラが土の上に寝転びたくさんの同じ顔をした男に囲まれていた。
「お前の力を手に入れることで星の中枢、魂を認識でき、滅ぼすことができる。故にだ。私はお前の全てを手に入れる」
「ハッ。星が滅びるか。悪いがそんなことは間違いなく起きん。条件を満たしているのは俺だけじゃないからな。例え、俺が死んでもインドラが対処してくれるさ」
「あの、インドラか?今、木に括りつけられているぞ。フッ。ツリトの斬撃を持たないお前たちが私に勝てると。笑わせるな」
「デストロイ、お前が婆ちゃんを殺して奪った尻子玉がそんなに嬉しいのか。インドラはそんなものなくてもお前を殺せるぜ」
「ふん。もういい。お前の望みは叶うことはない」
その同じ顔をした男のうち一人が『逆夢』を振ってアシュラの首を斬った。
「お前はサンドラと戦った時ぐらいワクワクしたぞ。さて、インドラ。お前を殺して完全に終わらせる」
インドラの口の中にはアシュラの尻子玉が入っていた。
「バカ」




