第三章 08 アンチシックスセンスの目覚め
サンドラサキューバスは笑っていた。
「イカれてる」
サンドラはアシュラを経由して、サキューバス家の血を経由して戦いの状況を見ていた。
「やっぱり、面白い奴だ。アシュラ」
「まだ、完璧にイメージできていない」
アシュラは二つの糸で繋がっている球をイメージしていた。アシュラは通常、オーラの球からシックスセンスの球に力とベクトルを加えるイメージをしてシックスセンスを使っている。だが、今はそれをベクトルはそのままで力の向きを逆方向にオーラの球に向けていた。ハッキリ言って矛盾している。
「だが、この矛盾を完璧にイメージさせないとこの戦いの勝利条件を満たせない」
アシュラは紫と赤の二色のトラのように大きい猫、プリティーにより、速く部屋を駆けて貰った。
「頑張って耐えてくれ」
「ツリトさん。今すぐに助けるからっ!・・・って言いたいところだけど、どんどん部屋の壁が私に迫って来るし、部屋の強度が尋常じゃない」
ジャンヌは全力で走りながら部屋を外側から壊そうとしていた。シックスアルファーの神速のライフルにカーンのオーラが保存されている疑似水晶を嵌めて壁を撃っていた。いずれも穴を開けるように言霊を宿して。それでも一向に穴が開くことはなかった。
「どうしよっ。このままじゃ、ツリトさんが死んじゃうっ!」
「アシュラ君。逃げたって無駄だよ。今度は更にオーラの練度を上げて捕まえるから」
サニーは独り言つった。アシュラが壁を壊して逃げていたのは意外と効果的だった。サニーはそのために部屋を拡張する必要があったからだ。ジャンヌが外側から部屋を壊せないことからも分かる通り、サニーは部屋の強度を極端に上げていた。ジャンヌは通常部屋の内側の強度を上げることにより、部屋の効果を高めていた。だが、サニーは内側外側関係なしに部屋の強度を上げていたため自身のシックスセンスの超引力を十分に機能して使えることができていなかった。
「だから、一回、黒のオーラは纏わない。白に全振りする。そもそも黒のシックスセンスの効果を部屋に付与してるしね」
サニーは壁に自身の超引力を最大限の力で付与した。そして、瞬間移動をしてアシュラの前に現れた。
「やっぱり、さすがに壁に張り付いちゃってるね」
サニーの目の前には逆立ちをしているようにして張り付いている紫と赤のトラのような大きさのプリティーと相対して張り付いているアシュラがいた。
「アシュラ君が自分から諦めてくれないなら、アシュラ君の全てを奪う。まず、初めにアシュラ君のオーラの源自体をアシュラ君から盗る」
「まさか、なんでも引き寄せられるのか」
「まあね。対応できるなら頑張りなよ。サニーの好きなアシュラ君に戻って貰うために」
「ようやくか。俺はこのタイミングを待っていた。このままじゃあ、間違いなくサニーは負けるぜ」
アシュラは脂汗を掻いている顔を無理やり笑顔にして余裕そうに語った。
「強がり」
「フッ。今に見てろ」
サニーはアシュラの態度は本当に強がりにしか見えなかった。間違っているとは思っていなかった。この推測は正しい。アシュラは確かに強がっている。それは己の心を奮い立たして激痛に耐えるためだ。だから、本気で今のタイミングを待っていたのだ。早く勝負を終わらすために。アシュラはイメージし続けていた。
「あらら、仮に助かったとしても機動力が無くなったね」
紫と赤の二色のトラほどに大きい猫、プリティーはオーラを吸われて消えた。吸われたオーラは空中で留まっていた。
「まあ、構わんよ。元より、時間稼ぎのためだけに協力して貰っていただけだからさ」
「どこまで、その強がりを維持できるかな?」
アシュラはイメージをした。オーラの球からシックスセンスの球に糸を繋げるイメージだ。ただしベクトルと力の向きは逆に。アシュラの現在のイメージ状態はベクトルはシックスセンスの球に行っているが力は全く逆方向に加えることができずにいた。だが、その状態が変わった。外部からの力によりベクトルは間違いなくシックスセンスの方に行っているのだが力が逆に掛かっていた。
「この感覚か。サニー。感謝する。お前は俺を新たな次元に連れて行ってくれた」
「何を言っているの?」
アシュラのイメージの世界に新たなイメージが上書きされた。新たにアンチシックスセンスの球が生まれた。そこからは簡単だった。簡単にアンチシックスセンスに糸を繋げられた。
「俺の斬撃の反転だ。そうだなあ。超再生とでも名付けておくか」
アシュラの両腕が生えた。
「何でっ!シックスセンスは使えないはずでしょっ!」
「そんなに使って欲しいならシックスセンスも回復して魅せよう」
アシュラは壁を空間事斬る斬撃で真っ二つに斬った。
「さて、振り出しだ。第二ラウンドと行きますか」
「アシュラ君。どうしてそこまで抗うのっ!」
「それは、サニーが凄く可哀想な小さな子供に見えるから。体は成長していても心は成長していない。ただ、妥協して来ただけで大人にはなっていない」
「アシュラ君にっ、サニーの何が分かるっていうのっ!誰も、サニーに触れることができないのっ!」
「うーん。でも、それって意識がある間で眠ってしまっている時は触れることができているんじゃないのか?ネルさんの話だと、暴走して催眠ガスで眠った後、いつもベッドまで運んでいてその間が凄く嬉しいのってさ。つまり、サニーは思い込んでしまっているんだ」
「五月蠅いっ!そんなこと知ってるよ。でもっ、サニーが意識のある内に触れれる人は誰もいないっ!」
「それが、俺ってわけさ」
サニーは灰色のオーラを纏った。アシュラはサニーの瞳がどんどんと濁っているように見えた。サニーはアシュラの重心を崩してから超引力でアシュラを引き寄せた。そして、アシュラの斬撃をまた、右腕に飛ばした。
「芸がないな」
アシュラはすぐに右腕を生やした。
「もう、俺には効かないぜ。サニー。サニーがしたいことは何だ?俺が自由になって欲しい。サニーみたいに縛られて欲しくない。これは曲がってて間違っているけど、俺のためだ。サニー自身がしたいことはなんだ。どんな未来を描きたい?」
「サニーは、サニーは。ただ、普通に触れ合ってお喋りできる人が欲しい」
「俺は、サニーのシックスセンスに適応する。俺がサニーに触れてやる」
アシュラは宙に浮いてサニーに引き寄せられていた状態から解放されて地面に立った。そして、サニーの手を取ろうとした時だった。
「でも、怖い。サニーはいつだって望んだことと逆のことが起こるから」
サニーの目から涙が流れていた。それはアシュラを助けると妄執に囚われていた時よりも辛そうで悲しそうでやりきれなかった。
アシュラは強い力で弾かれて部屋の外まで異空間を突き破りながら飛ばされた。一瞬だけジャンヌが見えた。
「ジン王。本当に大丈夫なんですか?ツリト君は?」
「大丈夫。ツリト本人には余の勘は伝えていないから。余のイキシチ家に伝わるシックスセンスは本人に伝えなければ間違いなく当たってきた。これは、父も祖父も、その前もずっとそうだった。勘が外れたことはない」
「と言うことは、ジン王。もし、ツリト少年がジン王の勘を知っていたらその勘は変わる可能性があるのですか?」
「ああ。だが、ここまでツリトが一方的にやられる展開になるはずではなかった。余の勘ではツリトの方が実力は上だったから」
「もしかしたら、ツリトは舐めプをしているんじゃ・・・サニーに傷一つ付けないために」
全員の顔がアシュラの腕が治った安堵感から、再び不安を帯びた。
サルシアの予想通り、アシュラはサニーに傷一つ付けないように戦っていた。
「俺が、サニーの精神を無理やり変えることはできる。だが、サニーが自分でトラウマを乗り越えないと意味がない。だが、センスもあるのかよ」
サニーがアシュラの前に瞬間移動して現れた。
「アシュラ君のその超再生、どれぐらい腕や足を斬り落としたらできなくなる?」
「そうだなあ。万全の俺なら一日経ったって無理だな」
「じゃあ、一時間もあればさすがに使えなくなるね」
「なあ、サニー。今、俺を弾いたのはサニーのシックスセンスを反転させたもの、ご先祖様の発明したアンチシックスセンスって言うんだぜ。すげえ、センスの塊だな」
「違うっ!サニーがサキューバス家の血には恵まれてなんかいるはずないっ!本当に恵まれてたらあんな地下空間でずっと独りで暮らすなんてことあるはずないっ!」
「シックスセンスを初めて使う時は誰だって大なり小なり失敗はしてしまう。それがサニーは大きすぎただけだ。確か五歳でシックスセンスに目覚めたんだっけか?遅いなあ。でも、確実にサニーはサキューバス家の血にもサニーのシックスセンスにも恵まれている。両親が才能はないって言ったのかもな。でも、違った。サニー。サニーはそれを認められていないのか?まずは、それを認めろ。そしたら、シックスセンスにサニー自身が振り回されることは無くなるはずだ」
「分かったように言わないでっ!サニーはとっくに才能には諦めてたの。でも、サルシアを助けようと思ったら才能に目覚めてしまった。それが、サニーにとってどれだけ辛いことになったか?苦しいことになったか?悲しいことになったか?分かってないのに、分かったように言わないでよっ!」
「苦しいんだろうよ。インドラがいたから、何度もそういう人たちの苦しみを考えたことはあるよ。辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、それらがサニーだけのことと思うなよ。家族も、仲間もっ、同じぐらい強く感じてるよっ!」
「っ!でもっ、サニーが一番感じてるに決まってる!」
サニーはアシュラの重心を崩して倒すと超弾力でアシュラを壁に向かって弾かせた。壁はアシュラの形をくり貫かれて行った。その様子を見ながらサニーは鋭い斬撃をアシュラに何度も無数に飛ばした。
「ったく。頑固だなあ。まあ、トラウマはそう簡単に消せないから仕方ないけど」
アシュラは瞬間移動をしてサニーを後ろから抱きしめようとした。だが、
「無駄だよ」
サニーはアシュラを再び超弾力で弾いた。無数の斬撃も迫って来ていた。アシュラはまたも、壁を、異空間を貫いて行った。
「ジリ貧だな」
アシュラは再び瞬間移動をしてサニーの真正面に立った。
「ねえ、もうボロボロじゃん。いい加減諦めなよ」
アシュラの服は所々、破れていた。至るところに穴が開いている。どれも、超引力超弾力の攻撃を受けていた時に開いた穴だった。だから、アシュラはその時に受けたダメージも逐一超再生をしていた。
「どうした?心配か?俺の勝利は確実に近づいているんだぜ。しゃあない、見せてやろう。俺の、サニーのオーラへの適応度をな」
アシュラは上着をとシャツを脱いだ。お腹に星が五つ描かれていて、三つ黒色に光っていた。
「この星が五つ黒色に光った時、俺はサニーのオーラに適応する。慎重に俺の自由を奪ってみせろよ」




