第三章 06 邂逅
「ここが、サキューバス家だよ、ジャンヌ、ツリト」
ジン王が案内したのは王都に流れている川の橋の下だった。道中、飲み屋街に向けて通行人が増えていたため、アシュラは視線が来ないように興味の糸を逐一斬っていた。ジン王が橋の下の壁を三回叩くとドアが見えた。正確にはドアノブが浮き出たのだ。ジン王はそのドアを開けた。ドアの前にいたのは若々しい女性だった。
「やあ。連れて来たよ。ネル」
「こんばんは。ジン王様。ツリト君。それと・・・」
アシュラの腕に抱き着いていたジャンヌは一歩前に出て名を答えた。
「ジャンヌです。昨日まで、カナヤ新興国のために頑張っていました」
「そうなのね。とりあえず、中に入って」
案内されたのは極一般的な家庭という感じの部屋だった。四人の大人が暮らすと丁度いいぐらいの部屋の大きさだった。
「ごめんなさいね。ここには、何もないの」
ネルはポットの湯を急須に注いでお茶をたてた。そして、四人分入れるとジン王が話し出した。
「今回はツリトに頼んだのはサニーニョの解放だ。サルシアは?」
「地下室で最後の足掻きをしています。でも、サルシアが本当にしようとしていることは、おそらく」
「そうか。なら、早速ツリトを連れて行こう」
「待ってくださいっ!いきなりは余りに危険ですっ!」
アシュラとジャンヌはこの二人のやり取りを顔を合わせて顰め面で聞いていた。ジャンヌは何か厄介そうだなあと。アシュラはかなり厄介だと。アシュラはずっと精神世界を視ていた。ジン王の特に目立った太い糸は冷静さ、緊張、期待、不安の四つだった。ネルの特に目立った太い糸は愛、焦り、恐怖、現状維持、希望の五つだった。そして、その太い糸を細分化して見てみるとそのほとんどが一人の人物から来ていることが分かった。だから、アシュラはかなり厄介そうだと考えたのだ。実は、かなり厄介そうと考えたのにはもう一つ理由はあった。ツリトの精神世界の視界には下から二人の糸が繋がっていた。一つはサルシアだ。サルシアは焦り、恐怖、が特に太かった。今まで見たことないほどだ。だが、最もヤバかったのはもう一人だ。愛、恐怖、寂しさ、憎悪、この四つの糸が異常に太かった。その太さは柱だ。礼拝堂にあるような柱ほどに太く張って複雑に絡み合っていた。インドラの精神状態は怖くて見たことのないアシュラがインドラに並ぶほどなんじゃないかと思うほどだった。
「こんなに精神状態が乱れている人は見たことがない。サルシアの近くにいる奴は誰だ?」
「「「っ⁉」」」
ツリトに三人の視線が集まった。その視線は皆驚愕していたがそれぞれ種類は違っていた。ジャンヌは単純にサルシア以外にサキューバス家の人がいるという事実に、ジン王とネルは精神状態が異常に乱れているとアシュラが言い当てたことにだ。
「ジン王。俺に何をさせようとしている?」
今度はジン王に視線が集まった。少しの沈黙の後、ネルにアイコンタクトをすると喋り出した。
「実はサキューバス家、ネルとサニーニョの間にはサルシアの他にもう一人子供がいる。名前をサニーと言う。サルシアの二つ上だ。彼女はには大きなトラウマがある。実は・・・・・・ということだ」
「なるほどね。どうして、サニーニョがサルシアに熱心にまだ、三歳なのに修業させていたか分かった。ジン王。隠していることがあるだろう?」
「「っ⁉」」
「サニーニョがサルシアに熱心に小さい時から指導をしていた理由、それは、サルシアも欠陥品だったからだろう。合点が行った。俺が今までに会ったことのあるサキューバス家はサンドラ、サニーニョ、サルシアだ。どれも特徴が違った。サルシアは金以下のオーラのコピー。サニーニョは力の使い方を熟知していた。サンドラはおそらく力の使い方をある程度知っていて金以下のオーラのコピーだ。ちなみに、サンドラの根拠はあの時、おちょくって戦っていたがウールフやサルシア、ライのオーラはコピーできていなかったからだ。若干話は逸れたが俺が聞きたいことは一つ。サキューバス家の完成形とはなんだ?」
「黒以下のオーラのコピーと体の使い方の熟知だ。余たちはコピーと連動と呼んでいる。このコピーと連動を完璧に使い熟しているのがサニーというわけだ」
「なるほどね。ポテンシャルはサンドラ異常なのか。センスは別として。で、俺に何をして欲しい?」
「余からの願いはサニーを縛っているものを解いて欲しい」
「私はサニーが自由に外に出れて色んな関係性を築けるようにしてあげたい」
「悪いが俺は俺のやりたいようにやってサニーを助ける」
地下室に向かった。ジャンヌと二人で向かうことにした。地下室では甲高い音が鳴り響いていた。
「よう、サルシア。俺がサニーニョの封印の壺の封印を解く」
「ツリト⁉それに、ジャンヌ!ダメだ。今すぐここから離れるんだ」
「悪いけど、無理だよ。ツリトさんは一度やると決めたらやる人だから」
「違う。そういうことじゃないんだ。危険だから、ここからっ!」
「サルシア。俺に全て任せろ。俺が何とかしてやるから。だから、もう、楽になれ。お前も結構、縛られているぞ」
サルシアの顔は必死だった。重圧、焦燥、寂寥、怒り、そのどれもを感じる表情をしていた。両手も剣を振りすぎて血が滲んでいた。サルシアなら普通に回復できるはずだ。それさえも忘れるほど思考が塞がっていたということだ。サルシアは涙を流した。
「僕がっ、解決するって約束したんだ。そのためにも、まずは、父さんを助けてからって決めたんだ。だから、邪魔しないでくれ、邪魔しないでくれよっ!」
それは心の底からの叫びだ。ずっとサルシアが抱えて来た苦しみだ。サニーニョの解放とサニーのことに対する重圧、全然できないことへの焦燥、本来の家族の温もりを感じることのできない寂寥、サキューバス家の才能に恵まれずサニーニョのこともサニーのことも解決できない自分自身への怒り。サルシアはずっと縛られていた。
「もういい。もういいんだ。俺に任せろ」
アシュラはサルシアに抱擁をした。そして、サルシアの意識を斬った。
「さてと、封印の壺は無理やり開けても中の人に影響を及ぼすことはない」
サニーニョサキューバスの解放の瞬間だった。サニーニョはやはり、オーラの練度を上げて出て来た。
「私の封印を解いたのは君だったか、ツリト少年」
「早速で悪いんだけど、状況は分かるか?」
サニーニョは周りを見てすぐに状況を理解した。否、理解せざるを得なかった。急速に猛々しい、禍々しいオーラを感じたのだ。それは、誰もが震えてしまうほどだった。アシュラを除いて。ジャンヌがサニーの部屋の方に引っ張られた。目にも止まらぬ速さだった。
「「「っ⁉」」」
ジャンヌはドアに思い切りぶつかりドアごと引き寄せられた。
「サニーッ!」
「悪いがお父さん、これは、第三者が解決するしかない」
「なっ⁉」
アシュラはサニーニョにサルシアを預けて瞬間移動させてジン王の元に移動させた。
そして、すぐに、ジャンヌをアシュラの元に瞬間移動させた。
「大丈夫か?」
「うん。でも、この子、ヤバい」
「だな。悪いけどジン王たちをジャンヌの異空間に連れて行ってくれ」
「ツリトさんは?」
「俺のやることは元より決まっている」
アシュラはジャンヌをサルシアたちの元へ瞬間移動させた。
「あーあ。折角、アシュラ君の自由のために、サニーがジャンヌの全てを奪ってあげようと思ったのに」
「メンヘラか」
「だね。サニーの憧れたアシュラ君を返して貰うよ」
「俺はいつでも自由だし、変わっていない。俺が束縛されていると感じているのなら、それはサニーの身勝手という奴だぜ」
「違うっ!アシュラ君は完全に縛られてるっ!優しいから許して自棄になってるだけで過程の気持ちを無視してるっ!」
「なあ、俺のことはどう思ってるんだ?」
「自由に空を飛んでいる鳥で、鳥籠に入っているサニーと違うから憧れてた。でも、アシュラ君は鳥籠の中に入ってしまった。サニーみたいになって欲しくないの。サニーみたいに縛られて押さえつけられて、独りで一生抜け出せない暗闇にずっと閉じこもることにはなって欲しくないのっ!」
「別に、子供ができることは俺の明るい将来を暗くすることじゃない。より明るくすることだ」
「でも、アシュラ君はほとんど逆レイプされてる。望んで手に入れていないものを手に入れると絶対壊れちゃう。だから、サニーがアシュラ君が壊れないように彼女たちとの関りを消してあげるって言ってるのよっ!」
「メンヘラが過ぎるな。誰もが同じ道を通ったら同じゴールに辿り着くわけじゃない。そこらへんはこれから学べばいいよ。俺が教えるさ」
「だからっ!サニーのようにならないようにしてあげるって言ってるじゃん!アシュラ君にはそうなって欲しくないのっ!」
「シックスセンスの余りの強大さ、上限のない強さは周りに被害をもたらしやすいから精神的に不安定になることは知っている。思考が迫ばることも仕方ないさ。でもなあ、俺が描く俺だけが決めれる未来を俺以外の誰かが勝手に塞いだり、終わらせたりすることだけは、俺は絶対許さない。俺はそんな生き方をしたいよ。だから、サニー。サニーもサニーが描きたい未来をサニーだけのやり方でサニー以外に邪魔されることなくサニーが決めて生きたらいいと思うよ。もし、描きたい未来を描けないなら俺が手伝ってやるよ。サニーの本当の望みはなんだ?」
アシュラは強い怒気を含めて意志を伝えて、温かい優しさを持ってサニーに寄り添った。それでも、サニーは依然として不安定なままで・・・。
「サニーは、例えサニーが完全に身も壊れてもアシュラ君におんなじ道は辿らせないっ!」
サニーは猛々しく禍々しい灰色のオーラを纏った。そして、アシュラとサニーの二人だけの異空間が生まれた。アシュラも黒色のオーラを最大限まで練度を上げて纏った。
「ここで、アシュラ君を完全にサニーが調教するっ!」
「やれやれ、ホントにメンヘラだな。厄介この上ない」




