第三章 02 お祝い
「さてさてさーて。ちょっとさすがにしつこいかな」
ツリトはウールフたちの微笑ましい雰囲気から一人抜け出していきなり、カーンとアレクの横に現れた。当然国民は一瞬静まり、また、別のざわめきが起こることになった。
「ゆっくりしてくれて良かったのに。僕たちはちょっと面白くなって来ていたのに」
「と言ってももう朝日が昇り始めてるぜ。今日は建国記念日だってのにこんなのにエネルギーを使ってどうするんだよ」
「いや、俺ももうちょっと国民が落ち着いたらシックスセンスを使おうと思っていたんだが、もう凄く元気で元気で。何か凄く人が集まって来ているんだよ」
「ふむ。中々に面倒臭くなってるな。しゃーない」
アシュラはカーンの体に触れた。
「カーンの言霊はより、届きやすくなる。カーン。カナへの感謝の念を強くしてくれ。おそらくそれで、時期にこの騒ぎは収まる」
「皆のもの。今は私たちへの怒りを向けるのではなくカナの今までの行いへの感謝を感じようじゃないか」
これにより、徐々にカーンたちへの怒りが収まっていった。この怒りはカナのためになっていないとようやく気付いたのだ。徐々に野次は無くなり次第に静かになって行った。
「本日、正午より開催する建国記念イベントをお楽しみにしていてくださいっ!」
最後にカーンはそれだけを言って三人はロンギヌスの中に、ジャンヌの異空間に戻ることとなった。
「やあ、カーン君。立派に建国したみたいじゃないか」
カーンとアレクは一仕事終えて寛ごうといつものリビング、ジャンヌと一緒に食事を取っている部屋、に入った時、鳩に豆鉄砲を食らったように分かりやすく動揺したと同時にアシュラに視線を向けた。
「ツリト殿。君が私たちを呼んでいたのはこう言うことだったのか」
「ツリト君があの封印の壺を開けたのか。でも、納得だな」
「まあ、そういうことだから」
「テリオとシリウスも僕みたいに元気やよ」
「ツリトのお、おかげでなあ」
「そうか。ジャンヌはどうした?」
「ジャンヌは・・・テリオさんとシリウスにこの異空間の案内をしている」
「ツリト君。その間は何だい?」
ウールフとルーフは二人とも先ほどからニヤニヤしていたが堪え切れずにクスクスと笑い出した。
「ツリト殿のハーレムがバレたのか」
「ん。そういうこと。だから、視線に耐え切れずに逃げて来た」
「なるほど。さすがはツリト君だ。ちゃんと正直に話したんだね。そういう逃げない姿勢は素晴らしいと思うよ、僕は」
「いや、カーンとアレクの状況を説明するにあたりカナのことを話す必要があって仕方なくだ。だから、今頃はもっと酷いことになっているかもしれない」
「「はははっ」」
「まあでも、ルーフ殿が無事で良かった」
「僕も自分の仮設が合っていて良かった」
「この度はご心配をお掛けしました。それでやけど、僕がおらん間に王国から宗教国に変えてたみたいやね。まあ、そこらへんの事情もウールフから話を聞いて納得はできたけど、まさか、カーン君が実際に建国するとは思わんかったよ」
「ええ。私も正直かなり幸運だったと思っていますよ。何しろ、カナがいなかったら今の私たちはいないのだから」
「正直、ビックリしたよ。そのカナって子がデコイの魂を弱らしたんやろ。やっぱり、フロンティアの子って凄いんやね」
「ですね。でも、今回、デコイを殺した完全に殺した者がいる」
「ああ。今も世界ニュースで昨日の大騒ぎと一緒にデコイ教壊滅のニュースが大々的に報じられているう。だがあ、俺がデコイを殺した時には既に魂は死んでいるような状態だったあ。おそらくう、今回の首謀者ウィーチが殺ったあ」
「ウールフ。それは違う。おそらく、サンドラだ。ウィーチに魂を操る力はない」
「ホンマにサンドラサキューバスが存在したん?僕信じられんのやけど」
「信じられないのは分かるけど、マジのマジ。大マジだよ。サンドラはお宅の息子さんの腕を切断しましたよ。しかも、シックスセンスを使わずにね」
「ふーん。サンドラが敵だとすると、エージソンに操られているとすると、僕たちってかなりヤバいっちゅうことやん。だって、他にもたくさん偉人が操られている可能性があるっちゅうことやろ」
「でも、サンドラもウィーチも操られている感じがなかったんだよな。それでだけど、過去の偉人、フロンティアの外の偉人が他にもいる可能性だが、正直怪しいと思っているんだよな」
「その心は何なん?」
「エージソンが複数人いたのに、今回、ウィーチは一人しか現れなかった。それに、本来、魂を複製するには生きている人間からしか複製できないと思うんだ。死んだら、魂はユグドラシルに帰るはずだから」
「エージソンは死が近づいた時、魂の研究を行ったと言われているけど、どんなに科学技術が進歩しても発明品を作っても普通はそこに到達できないと思うんだ。僕はクローンを作ることができても魂の複製を可能にする発明品を作れるとは到底思えないんだ」
「なるほど。専門家のアレクが言うんだ。間違いないだろう。だが、そう考えると、エージソンを操る敵がいるということになるな。より、各国で連携を取る必要があるな。もちろん、ツリト殿たちとも」
「せやね。今回の事件の映像は残念ながらないけど、各国の被害は相当なものやさかいね」
今回のウィーチの事件で、エージソンが宇宙空間から直接、隕石を落とした攻撃があったが、その際に各企業が保有していた衛星は壊されていた。そのため、映像として残っていたのは核個人が撮影した動画のみとなるのだが、誰も危険自体のためのんびりカメラを構えていた者はいなかったのだ。
「それなら、ジャンヌの情報収集の部屋から映像を確認できると思うよ。僕たちは今回そこから戦いの映像を確認していたからさ」
「さすがはジャンヌやね。めっちゃ有能やん。じゃあ、もう一つだけ話しても構わん?建国記念日セレモニーで宗教国から王国に改名をするための時間をくれん?」
「ええ。もちろん。そもそもデコイが死亡次第宗教国から王国に名称変更するつもりでしたから」
「だね」「ああ」
「ちょっと待って。私がおかしいのかな」
「うんうん。テリオさんはおかしくないよ。おかしいのはツリト君だって」
「そうよね。だって、ここにいる十四人とも子供を作ってるって普通に考えておかしいもんね」
シリウスとテリオは今しがたアナ、リナ、モナ、セナ、ユナ、サナ、ナナ、ハナ、カナ、キララ、ジャンヌ、ケイ、アイ、インドラは全員ツリトと子供を作ったと知らされていた。他にもツリトの本当の名前はアシュラであることや、カナたちは天空から来た龍人であることや、ケイとアイは敵に監禁されていたことや、アシュラとインドラは姉弟であることも聞いた。これが、普通の反応である。だが、一つだけ伝えられた情報には嘘が混じっている。インドラだ。インドラはアシュラとまだ、子供を作っていない。それなのに嘘を吐いているのは単純に見栄を張るためである。可愛い。
「おかしくはないわ。ホントにここにいる全員、アシュと子供を作っているわ」
今、否、ずっと会話の主導権を握っていたのはインドラだった。インドラを中心に会話が進んでいた。そして、今、インドラはまた、見栄を張るためだけに嘘を吐いた。可愛い。
「これは、この場にいる女の子以外にも子供を作っている可能性が高いわね。良かったわ。ウールフがツリト君みたいに育たなくて」
「私も、もし、ウールフがツリト君みたいに育っていたらと思うとぞっとするよ。きっとすぐに離れようとしたと思う」
「凄い言われようだよ。インドラ言っちゃって」
キララは凄く腹を括っていてツリトがアシュラと分かっていてもアシュラ様と呼ばないと決めたため、インドラもインドラ様と呼ばないようにしたのだ。キララのこのクソ度胸は中々に大したもので、アナたちはさすがに引いていた。だから、アナたちはインドラ様と呼んでいる。そして、キララにインドラと言われることに対して、インドラ自身は悪くない感じだなあとも思っていた。だから、このモブに徹したようなキララの反応にも気分を上げて意気揚々と応えるのだ。
「アシュは素晴らしい弟で漢よ。人のだっ、旦那のことを悪く言わないでっ」
インドラは少し甘噛みした。やはり、嘘を吐いているためすらすらと言葉が出て来なかったのだ。可愛い。このインドラの言葉に続くようにして皆が頷いた。完全にモブキャラに徹していた。
「何か、一気に疲れが来ちゃった。ジャンヌちゃん、ご飯用意して貰えない?」
「私もお腹空いた。ウールフも呼んで一緒にご飯食べたい」
「了解。じゃあ、インドラちゃん。ちょっと案内して来る」
「ツリトさん。そっちも話し合いが終わったの?」
ジャンヌがテリオとシリウスを連れて歩いていた時、向かい側からカーンとアレクがルーフ、ウールフとアシュラを引き連れて歩いて来ていた。お互い食事部屋に向かっていた。それぞれ食べたいものを食べるためだった。ジャンヌは少し離れた距離からアシュラを視界に捉えると大声を出して手を振って来たのだ。
「ホントに、これが、本来のジャンヌだよな。人の目を全く気にしないこの感じ」
「だよね。この数日でちょっとずつ元に戻って来ていたけど、楽しそうにしていてホントによかった」
「ジャンヌが聞こえないのを良いことに凄いこと言ってるやん」
「モテモテだなあ、ツリト」
「そうかあ?普通だろ」
アシュラもここ数日で急速に昔の感覚を思い出して来ていて感覚が一般的な正常状態から少しずつ離れて来ていた。四人は少しアシュラに呆れたがジャンヌの様子を見ているとすぐに気持ちが晴れて行き、気持ちよくなっていた。
「僕、ああいう素直な子、結構好きやねん」
思わずルーフは心の声が漏れてしまった。
ルーフたちが四人で食事を取り始めた頃、ジャンヌたちもまた四人で話し合いをしていた。
「じゃあ、まずは、ジャンヌ、おめでとう」
「これで、僕とテレビのチャンネルを巡って争うことは無くなるね」
四人はそれぞれグラスを持ってワインを片手に持っていた。そして、カーンとアレクの祝いの言葉を合図に乾杯を行った。
「だが、ようやく、三人それぞれ、夢に手が届いたな。俺は建国して多くの人を幸せにする夢。アレクはたくさんの凄くてカッコいいロボットの制作。そして、ジャンヌは、ツリト殿の奥さんになること。三人それぞれ夢に手が届いてホントに良私のかった」
「だね。僕たち三人は本当によくやったよ。そして、まだまだ先に行くことができるのも知った。ジャンヌは僕たちより先に夢の先に行った。ホントに誇らしい。だから、ツリト君。ジャンヌを絶対に見捨てないでね」
「ああ。大丈夫だ。フロンティアに行くからな。他人の目を気にしなくていい」
「カーンもアレクも饒舌ね。心配しなくてもツリトさんはちゃんと期待に応えてくれる男よ」
ジャンヌは誇らしげに胸を張って答えるとアシュラにキスをした。アシュラもジャンヌが二人に宣言したためにジャンヌの期待に応えるほかなかった。だから、アシュラもジャンヌにお返しにキスをした。二人は口笛を鳴らして反応した。
「とりあえず、今日は飲もう。お祝いだ」
「そうだね。こんな嬉しい日に嬉しいことが重なっているんだからね」
カーンとアレクは盛り上がってどんどんワインを口に運んだ。よっぽど、ジャンヌに幸せが訪れたことが嬉しかったのだろう。ジャンヌがアシュラの近くにいることが嬉しかったのだろう。
「なあ、あんなペースで飲んで大丈夫か?」
「うん。いざとなったら、シックスセンスでアルコールを抜くから。だから、ゆっくり飲みましょう。あと、五時間はゆっくりできるから」
「今日は寝る気がないんだな」
「うんっ!」
ジャンヌは今、感じている幸せを噛みしめてもう一度アシュラにキスをした。




