第二章 36 ジャンヌの思い
九ヵ月が経った。
「「「えっ⁉」」」
ツリトはいつものように解体ショーをして、握手会を終えて、最近、参加するようになった飲み会に参加していた。
「俺は来月の解体ショーを最後に旅に出る」
「クソッ。先月、エージソンシリーズのリストバンドを買ったのはそのためか!ん、ってことはお前、フロンティアに行く気か⁉」
「今のところは行く気はないかな。先に見つけないといけないのがあるから。このまま、握手会で色んな人に会ってもいいんだけど、それじゃあ、俺の探し物は見つからないと思うんだよね」
「探し物って何なんだ?」
「エージソンシリーズだ。ショワで起こった事件でエージソンシリーズが多数発見されたみたいだが、俺は他にもあると睨んでる。あの日は俺も中々に面倒だったから旅に出ることに決めたんだ」
「あの日って、過去一の売り上げがあった日じゃないか。何も起こらなかったろう?」
「俺が何も起こさなかったんだ」
「「「マジ⁉」」」
「マジもマジ、大マジ。黒って凄いんだぜ」
沈黙が流れた。「ツリト君」「「若あ」」「ツリト」などだけが聞えた。沈黙を破ったのはやはり、おじさんだった。
「しゃーねえ。じゃあ、最後はパーッとお別れ会をしてやるぜ」
「私たちもちゃんとお別れをするよ。でも、最後の商売チャンスは逃さないよ」
「若ッ。俺もこうなったら心からお前を応援してやるぜ」
「私も」「俺も」……。
「皆、ありがとう」
この日はツリト以外二日酔いになった。ツリトは酒にとにかく強かった。
「キララ、ツリト君のイベントが一ヵ月後に終わるみたいよ」
「へえ。クリちゃんは会いに行くの?」
キララたち兄妹白龍は白龍王であるクリに指導を受けていた。白龍王に指導を受けれるのはある程度優秀な白龍しかできない。キララは兄妹の中でもクリによく可愛がられていた。それは、単純に人柄の理由と言うのもあるが、兄と姉より強いからと言うのもある。現に今もキララはクリの膝上に座っており、兄と姉は二人仲良く横たわっていた。因みにクリはキララの三個上で二十二歳である。
「うーん。行ってみたい気はするなあ。八年でどんな成長を遂げたか生で見てみたいし」
「そっか。スターと八年前に行ってたね」
「でも、インドラに許可を貰わないといけないからなあ。多分、誰一人行かせてもらえないよ。勝手に行ったとしたら後で何をされるか分からないし」
「そっかあ。インドラ様の調子は最近どうなの?」
「良くなって来てる。でも、確実に悪化もしてると思う」
「どういうこと?」
「前より、カナのおかげで器の強度は上がったんだけど、それにしても全然前みたいな精神的不安定さがないの。これは、何か悪いことが起こる前触れのような気がする」
「ふーん」
キララの脱獄で不安定にならなきゃいいけど。ホント、余計なことをしてくれたよね、カナって言う黒龍は。
「じゃあ、もう一回勝負しよっか、キララ」
「うん」
「ねえ、皆はどうするの?」
「クリ、まさか……。皆我慢してるんだよ」
「クロコクの言う通りよ。セツナたちの奥義を使うことになるかもしれないじゃん」
「もし、行こうとしたらナリが全力で止めるから」
「ウォーはクリに罰を与えたいのです」
「ミラも久々にクリのおっぱいを滅茶苦茶にしたい」
六人は天然温泉に入りながら談笑していた。ここ最近は六人で入ることが多くなっていた。インドラは一人で夜遅くに入るようになっていた。ずっとシックスセンスの訓練をしていた。最初の方はセツナたちは心配で様子を見ていたのだが、見た感じ大丈夫そうに見えたため六人で入るようになっていた。
「ちょっ、ほっホントに揉むなんてっ、あんっ♡」
「楽しそうね、皆」
「「「「インドラ⁉」」」」
「今日はゆっくりしようと思ってさ」
「インドラも揉んであげるのです」
「え?」
「インドラも揉んであげるのです」
六人は一斉にインドラに近づいた。インドラが怖いのは精神が不安定になる時であり、普段のインドラは可愛いのだ。ここ一年、インドラは急速に安定して行ってるため、寧ろ距離感はアシュラがいた頃に戻りつつもあったのだ。六人はインドラの可愛い反応を楽しみながら、もしもの時のことは、セツナの奥義のことは考えないようにした。
「「「来月で終わり⁉」」」
八人は体を小さくして一緒にお風呂に入っていた。お風呂にはテレビが備え付けられており、流し見をしていたところ、速報でツリトのことがニュースになったのだ。これには八人が一斉に反応した。そして、次の行動に一早く移ろうとしたのはアナだった。アナは近くにいたモナを捕まえると胸を掴みながらお願いした。
「今すぐ、ツリト君に会いに行きましょう」
「アナ姉、カナがツリト君と会ってからじゃないと会えないよ」
「モナの言う通りよ、アナ姉。それに、ようやくリナたちも会えるかもしれない」
「どういうこと、リナ?」
「リナ姉の言わんとすることは、多分、これで、カナは必ず会いに行くからってことだよねえ」
「そういうことねえ。セナもよく気付いたじゃん」
「でも、それじゃあ、アナたちはカナに会わないとツリト君に会えなくなるよ」
「それは……確かに。サナもありの気がして来た」
「サナ姉、ナナたちは決めたじゃん。カナにビビったらダメよ」
「ハナが手を貸さなきゃ外に出られないよ」
「むう、むう、こうなったら全員屈服させてやるう」
修羅場になって最終的に全員諦めて会いに行かないことになった。
「メイさん。僕、最後の日、ツリト君に会ってきます。だから、カーンさんたちは一人で対応してください。では」
ライは皇室にいきなり現れるとそれだけ言い残して去って行った。余りの突然の出来事にメイは一瞬理解が追いつかなかった。さっきツリトのニュースを見てツリトがエケセテ帝国に来てくれるのかなと淡い期待をしていた矢先に突然来たのだ。ライは雷刀を使って移動したため、もういない。
「もーうっ!」
ライの勝手な行動を咎めることができず、叫ぶしかできなかった。
「ツリト。………。ギリギリ間に合うか」
「ジン王。どうなさりました?」
「サルシア。調子はどうだい?」
「まだ、斬ることができていません」
「ふむ。仕方ない。その日はリザーリアたちだけで何とかしよう。行っておいで。余の勘ではサルシアにとって大きな出会いになるから」
「分かりました」
「「ツリト君が来月で解体ショーと握手会を終わらせる⁉」」
二人は一緒にお風呂に入りながらテレビのニュースでそれを知った。思わず叫んでしまった。晴天の霹靂だ。このままだと、ツリトの居場所が掴めなくなる可能性が出て来るのだから。カナは一度ツリトに会わないと瞬間移動ですぐ近くに行くことはできないのだ。ジャンヌの地下空間からという方法もあるが、乗り物は使用禁止にされているから、居場所を掴んでも会いに行くことは難しいのだ。
「ジャンヌ、今すぐカーンに伝えなさい。それと、アレクに認識阻害の発明品を作るように伝えなさい。絶対に行くわよ。許可なんて取る必要はないわ!」
「絶対について行く」
ジャンヌは静かに決意の炎を燃やした。
「カーン、アレク。絶対行かせて貰うわよっ!」
「ジャンヌはダメだ」「ジャンヌはダメさ」
二人の声が重なった。ジャンヌは風呂に上がるとすぐにカーンとアレクの元へ駆けつけた。カナはもう行く気満々で旅支度を始めていた。ジャンヌが二人に会いに行った理由は単純だ。ツリトの最後の解体ショーと握手会の日はカーンと一緒に外交の日だったからであった。ウールフ王に会ってからジン王、そして、メイ皇帝に会う日だったからだ。これは、建国一周年の一ヵ月前の日なのだ。一周年記念日に招待しようとしていたのだ。カナとジャンヌはカーンに付いて行くことになっていた。
「何でよっ!」
「そりゃあ、カナは俺たちの英雄だろう。最後ぐらい会わせてやらないと」
「そうだね。しっかり楽しんで貰いたいよ」
「私が一番の英雄よっ!」
「影のな。でも、光の英雄は間違いなくカナだ。ジャンヌにはカナの代わりをして貰わないとな」
「そうだね。僕は早速カナのために認識阻害の発明品の設計図を書き始めてるよ」
「……仕方ないわね。私がカナの代わりに行くわ」
ジャンヌはこの瞬間、ツリトを諦めた。否、カナヤ新興国で骨をうずめる覚悟を決めたのだ。ジャンヌは分かっていた。カーンとアレクはいつものようにからかっていると言うことを。では、何故、ジャンヌは折れたのか。ジャンヌはツリトが好きだ。それは間違いない。初めてテレビで見た時から自由さに憧れ力に驚嘆し目が放せなかった。だが、ジャンヌはカーンとアレクの存在も大切になっていた。
私独りでは建国はおろか、孤児施設にいる子供たちを救うことはできなかっただろう。私にはオーラの才能があった。やろうと思えば手に届く範囲なら独りで助けることはできただろう。でも、それは、同時に手に届かない範囲は助けることができなくなってしまうことだ。それは、私にとっては見捨てたことの罪悪感が勝ることだった。だから、施設で孤立した。何もしなかった。でも、カーンとアレクの存在を見つけてしまった。希望が生まれた。そして、あの日、カーンとアレクが現れた。私は心躍った。テレビを見て落ち着こうとした。その時だ。自由に自分の力を誇示した少年が現れたのは。私は目が放せなかった。ツリトさんの生き方は私には眩しかった。私もあんなふうになりたいと思った。ツリトさんを好きになった。だから、目下の問題、孤児施設の代表の悪事を皆の前で声高々に語った。ツリト君に勇気を貰ったのだ。この瞬間、私の人生の歯車は急速に回った。私は自分を表に出すようになった。ツリトさんに会いたいと言い続けて来た。そのための努力もした。でも、もし、本当に会ってイメージと違ったらどうしようとも思っていた。そうやって自分の中でもよく分からない感情を抱えながらカナヤ新興国の建国のために頑張って来た。カナさんと出会った。カナさんはツリトさんのことを曇りなく迷いなく間違いなく好きだった。私はツリトさんに会うのは怖くないのかと思った。でも、私の中でそれでも絶対会いたいという感情もあった。でも、
「二人は私のことが必要だもんね。それに、まだ、デコイ教を完全に消せてない。私たち三人が始めようとしたことは私たち三人で終わらせないと」
私はツリトさんが好きなのと同じぐらい強い感情で三人で安全なカナヤ新興国を作りたいという思いもある。だから、危険因子のデコイ教を何年掛かっても、一生かけてもこの世から消し去りたい。そしたら……。
ジャンヌは二人の反応がないため部屋から出た。目から涙が零れていることに部屋を出てから気付いた。




