第二章 32 カナの決断
カナは初めてツリトの存在を知ったのは割と優秀な白龍の兄妹の長男が自慢していたのを聞いたからであった。どうやら、白龍王と黒龍王と一緒に地上に行ったそうだ。だが、カナが一番興味を持ったのはインドラ様並みのポテンシャルを持った少年、ツリトのことだった。カナだけではない。他の龍人たちも興味を持ったのはツリトの存在だった。中でも間違いなく自分と同じぐらい興味を持っていると確信できるのはやはり姉たちだった。姉たちは実にこの七年間、カナには気付かれていないと思っている、密かにツリトの情報を得ていた。カナも毎日寝る前に情報を得ていた。だから、決めたのだ。天空から地上に降りる。
「ねえ、ユナ姉。ちょっと外出ない?」
「外?どこ行くの?」
「お花摘みに行こうよ」
「うん」
「「じゃあ、行って来るね」」
「「いってらっしゃい」」
二人は今日は自棄に動きやすい長袖長ズボンの服を着て帽子を被って出て行った。二人が出て行った家で母と父は珍しく向かい合って座っていた。
「ねえ、確か今日の占いって全員、幸運だったよね」
「でも、同時に別離の占いも出ている。どうしたい?」
「家に連れ戻したい」
「そっか」
「ユナとカナが家に出たよ。作戦開始ね」
カナの姉たちは今日、地上に降りることを計画していた。この後、カナとユナと合流してナナの今まで溜めに溜めた徳を一気に使い切ろうと考えていた。そして、カナを気絶させた後、地上に下りようと考えていた。しかし、地上で面倒なことが起きているのも分かっていた。だが、今日しかなかった。今日が父の占いで一番良かったからだ。
「じゃあ、まず、ナナの徳を全部使うね。実に一人五個分。カナだけ七個あるけど。じゃあ、ポテンシャルを上げるよ」
ナナは五個分の徳を使ってポテンシャルを引き上げた。結果、ポテンシャルと共にポテンシャルを引き出しやすくできるようになった。
「皆もポテンシャルを引き上げるよ」
ナナは一斉にポテンシャルを引き上げた。七人が怪しく笑った。
「「「じゃあ、始めるよ」」」
同じ頃、ユナとカナはお花を摘みに行って二手に分かれていた。ユナはモナの瞬間移動を待っていた。カナはナナの徳が無くなるのを待っていた。
「よしっ。ようやく無くなった。皆のも無くなってる。ユナ姉も無くなった」
カナのシックスセンスはコピーだ。サキューバス家のシックスセンスよりも上質だ。コピーする相手の力量は関係ない。カナもユナに続いて姉たちの元に瞬間移動された。
「カナ。今からポテンシャルを上げるね」
「どうしたの、ナナ姉?」
「アナたちは今から地上に行くの」
「リナの情報だと凄い戦いが起こってるみたいだけどここで何もない生活をするよりマシでしょ?」
「モナが常に安全なところに連れて行くから」
「セナは予め母さんのシックスセンスを吸収しておいたから」
「ユナも逃げれる隙ぐらいは作れるよ」
「サナも攪乱できると思う」
「ナナは今、皆のサポートをしたよ」
「ハナも少しだけなら隙を作れるかも」
やっぱり。でも、難しいよ。
「地上に行って何をするつもりなの?」
「「「カナをツリト君に会わしてあげるんだよ」」」
「ふーん。で、どうするの?」
「このまま、アナたちが作った道で地上に降りる。インドラ様の結界は皆で穴を開けたから地上に降りれるよ」
「へえ。こそこそとそんなことしてたんだ。私から逃げ切れると思ってたの?」
「「「インドラ様⁉」」」
「全部知ってたよ。今から皆がしようとしていること」
サナは九人の分身をいっぱいに出現させることにした。モナは九人を目的地に瞬間移動させようとした。アナはインドラを振動させようとした。ユナはインドラの心を弛緩させようとした。セナは影を通してインドラを遠くに移動させようとした。ハナはインドラを二歳ぐらいにしようとした。カナはインドラの真似をしようとした。
「そんなに焦らなくてもいいのに」
インドラは目に星形の紋様を二つ刻んだ。カナも刻んだ。対象が反転された。つまり、皆がやろうとしたことが反転した。アナ、セナ、ユナ、サナ、ハナがやろうとしたことは自身に起きた。カナはインドラが反転して全員に返そうとしたことをインドラ自身に反転させた。結果、アナは自身が振動されて、ユナは心が弛緩されて、セナは影の中に入り、ハナは自身が年齢が二歳になった。モナはシックスセンスによりインドラはどこかに瞬間移動された。インドラは自身が振動されて気持ちが緩み、二歳の体になり、暗闇の影の中に入り、アナたちが準備していた出口付近に分身もたくさん飛ばされた。カナは唯一影響を受けなかった。が、器がインドラのシックスセンスを使うのに耐えれなかった。目から大量の血が流れて膝も付いた。全身の筋肉が硬直した。意識が一瞬飛んだ。
「「「カナ!」」」
リナ、ユナ、ナナの三人が一番重症のカナに駆け寄った。カナの二つ重なった星形の紋様を刻んだ両目を見てカナに起こったことを悟った。
「「「これが、インドラ様の力……」」」
三人はインドラの神龍がどれほどヤバいのかを理解した。否、理解していない。ただ、底知れない力を感じ、恐怖を覚えてしまった。それは姉妹全員が覚えてしまっていた。ただ一人、カナだけを除いては。カナは三人の龍の血を吸収した。賭けだった。だが、勝算のある賭けだ。ナナにより、体のポテンシャルは上がっている。だから、父親のように苦しまずに龍の血を濃くすることができると考えていた。カナはこの賭けに成功した。器の強度を少しだけ上げることに成功した。呼吸は整い、目からの流血は収まり、筋肉の疲労は少しだけ緩まった。気付けばアナたちも回復していた。無傷だったセナが全員を回復していたのだ。どうやら、カナの回復はセナによる影響の方が大きかったようだ。ただ、カナ以外は震えてしまっていた。
「皆、大丈夫?」
「「「…うん」」」
「なるほどね。しばらく母さんと父さんに匿ってもらいな」
「「「カナはっ⁉」」」
「カナはツリト君に会いに行く。…大丈夫!ツリト君はインドラ様と同様、それ以上のポテンシャルがあるって言ってたじゃん。スターが。だから、安心して」
カナはわざと表情を大きく動かして笑って胸を張って見せた。そして、姉たちを母と父の元に瞬間移動させた。
「ふう。インドラ様は一番、カナに怒ってると思うんだよね。何たってカナのせいで攻撃を受けたから。さてと、どうやって、地上に行こうかな」
カナにより天空を囲っていた結界、アナたちにより穴を開けられていた、のところに小さい二歳の姿のインドラが宙を浮いて泣いていた。ずっと張っていた心が緩んでいたからだ。姿も相まってインドラはアシュラと別れた瞬間のことを思い出していた。アシュラとの別れは母により無理やり引き離されて起こった。別れる瞬間の前のことも思い出した。インドラはアシュラの体を粉々に折りそうになった瞬間まで思い出してしまった。瞬間、インドラは壊れた。
「あっ、あ、あああああ、アシュ。ごめん。アシュ。…姉ちゃんが母さんから助け出してあげるからっ!」
インドラの精神状態がおかしくなっていた理由。それは自己の防衛反応にあった。インドラは誰よりも愛しているアシュラを殺してしまいそうになったことで精神が崩壊しそうになった。精神が崩壊するのを防ぐためにアシュラを傷つけたことを無理やり忘れさせたのだ。そのため、アシュラとの最後の別れが母により力づくで引き離された記憶だけが残った。だから、母を恨んでいた。ただ、それも十歳までは段々と無くなっていた。十歳までまあまあの頻度で連絡を取っていたからだ。インドラ自身記憶が欠けていることに気付いていたからもある。それにより、アシュラと会えていないのは自分に原因があると悟っていた。だが、十歳のアシュラがツリトになった日、父を通じて全てを知り逆戻りの道を辿ることになった。最初は自身の行動を受け入れてアシュラにちゃんと謝ろうと考えていた。そのためにはゼウスを倒さないといけない。だから、父親と特訓をすることにした。器の強度を上げた。同時にシックスセンスの強化も行った。ここで、問題が起こった。インドラは再びアシュラを粉々に折りそうになったきっかけの記憶を見てしまった。その記憶はたくさんの同じ姿の男に囲まれてアシュラが殺される未来だった。これにより、インドラは壊れていた。そして、再び壊れて行った。今度は母との連絡が一切なかったために余計に深く壊れていた。ただ、憎悪の矛先を母独りに絞ることで一見しただけでは分からないようにはなっていた。ここで、父シューンがインドらにある工夫を施していた。アシュラへの愛をより深くしていた。そのため、インドラはシックスセンスにより目に紋様を刻んでいる時もある程度は正常を保てるようになっていた。しかし、ハナのシックスセンスの反転の反転を食らったことでハナのシックスセンスの効果が上がり、インドラの精神状態が一瞬だけ狂ったのだ。そのため、インドラは今、見たくない過去を見たのだ。インドラは目にハートの紋様を刻んだ。アナの振動の反転の反転を食らったことによるダメージを回復するためと、ハナのシックスセンスの影響を無くすためだ。ここで幸運が起こった。精神の不安定さも回復したのだ。インドラは大きく深呼吸した。
「とりあえず、あの子たちには、特にカナにはお仕置きね」
インドラとカナたち姉妹が衝突した時、天空の龍王たちは異変に気付いた。インドラが膨大の練度の高いオーラを纏ったからだ。
「セツナ。どうする?」
元炎水龍王のセツナは炎龍王のミラに指示を促された。
「皆は一応各龍の天空に行って頂戴。セツナはシューン様と一緒にインドラを見て来る」
「「「「「うんっ!」」」」」
「じゃあ、セツナ、行って来るよ」
水龍王のウォーは水のゲートを作りそれぞれを瞬間移動させた。
「シューン様っ!」
「ああ。余が、俺様が対応しないといけない。手伝ってくれ」
「あなたたちだったのね。全く」
カナを除いた八人は父と母と黒龍王の三歳上のクロコクの前で正座させられていた。
「ごめんね、クロコクちゃん。まさか、家の子たちが地上に行こうとしてたなんて」
「ただでさえ自由なシックスセンスにさせておいておまけに地上に行こうとするなんてしっかりしてよね。叔母さん」
「面目ないわ」
「で、何か言い訳はあるかしら?……ないようね。罰としてあなたたちには黒龍王の血を流してあげる」
クロコクは満面の笑みで提案した。さすがに母も父も八人も震えた。
「カナを探しに行きたいから。あっ、叔母さんと叔父さんはシャドウたちに忠告しに行っててね」
クロコクはアナたち八人に自分の龍の血を少しだけ流した。それほど、黒龍王と黒龍、特にクロコクとアナたちの黒龍の血には差があったのだ。クロコクは血を流すとアナたちの様子を確認せずにインドラの元に急いだ。
白龍王のクリは後、一秒来るのが遅ければ新たに脱走者を許してしまうところだった。
「スターったら、ホントに。シャルルも乗せられちゃって。はあ。キララは偉いねえ」
「あはははは」
クッ。キララも地上に降りようと思っていたのにっ!
キララも一応、正座させられて母と父に監視させられてしまった。クリもまたインドラの元に向かった。
同様のことは水龍王と炎龍王と雷龍王もしていた。彼女らは全員、インドラの元に向かっていた。一方その頃カナは別の出口を探していた。
「うーん。絶対姉ちゃんたちが用意していたルートにインドラ様はいるだろうしなあ。でも、インドラ様の眼を使って結界を破るのは危険だし。どうしよう。でも、インドラ様の力を使うしかないかな」
カナはとりあえず、自身の分身を作り始めた。全方位にカナの分身を走らせた。
インドラは自身の分身を黒龍の天空の全方位に瞬間移動させた。
「さて、九人纏めて捕まえないと」
「その必要はないよ。セツナたちも手伝うから」
「父さん、セツナ」
インドラの本体の元に二人がやって来た。いずれも、インドラの様子に細心の注意を払っていた。二人が駆け付けた直後、龍王たちも順番にやって来た。
「カナ以外は全員ちゃんと捕えたよ」
「そっか。じゃあ、カナを一緒に捕まえようか」
「結界の前にはインドラ様がたくさん。それにシューン様と龍王たちも加っちゃった。どうしよう、逃げ場がない。ワンチャン狙わないとダメかな」
カナはリナのシックスセンスを使ってインドラたちの情報を得た。そして、誰かとは出くわさなければならないと決断した。カナが出くわしたのは……
「カナ⁉」「カナ⁉」「カナ⁉」…………………
各龍人たちがカナに体を触られては消える、触られては消える、触られては消えるを何度も繰り返していた。カナは突如、現れては触れて消えるのだ。龍人たちは挑発されていると怒り狂った。ただし、スター、シャルル、キララの三姉妹のみ部屋で軟禁されていてカナの行動を知っていない。
「どういうつもり?」
インドラは現れてはすぐ消えるカナを見て疑問に思った。カナの行動はマイナスにしかならないと考えていた。敵を増やすだけだと。だから、カナが突如目の前に現れた時、反応が遅れてしまった。
「インドラ様。カナたちを許してね♡」
カナはインドラにキスをして不意を突いた。インドラは力いっぱい抵抗したがオーラを纏えていないためカナを振りほどくことができなかった。カナはセナのシックスセンスを使ったのだ。
嘘でしょ⁉こっちはいっぱいオーラを纏ってるのに。どんだけ凄いのよ、神龍は。それでも、ごめんね。インドラ様。カナはカナの目的のためにインドラ様にカナの本気をぶつけるから。
カナはインドラのオーラをかなり吸収し終えるとナナのシックスセンスに切り替えた。先ほど集めた、奪い取った徳。実に百個分を最大限に利用することにした。
まずは、十個分。自身のシックスセンスと体の強度を上げる。
「インドラ様が精神的に不安定なのは知ってるよ。そして、結界を作った理由もね。でもさ、カナたちを縛る理由にはなってないんだよ。確か、インドラ様は神龍の力に器が耐えきれていないって皆から言われてるけど、違うよね。神龍の力じゃなくてシックスセンスの力のせいだよね。だから、九十個分を使わせてもらうよ。インドラ様。肉体の強度の上昇とシックスセンスによる肉体への負荷の減少。これで足りるかどうかは分からないけどインドラ様のプラスになるはずよ。だから許してね♡」
インドラは眠った。分身たちは消えた。結界も解かれた。カナは瞬間移動をして天空から抜け出した。そして、地上に舞い降りた。地上は街が崩壊されていた。
カナが結界を解いた時八人は親の監視に合っていた。
「絶対に行ったらダメよ」
「はははっ」
母親は止めていて父親は笑っていた。八人は既に決心していた。
「「「ごめん」」」
モナは八人を連れて瞬間移動した。天空から離れたのだ。そして、地上に舞い降りた。
八人が去った後、母エリナと父ノビタは笑っていた。
「やっぱり、ノビタの占い通りになっちゃったね。どうしよっか。また、子供作る?」
「暫くは二人だけの時間を楽しみたいかな。それに、次も九人は大変だ」
インドラが眠っているところにシューンたちが集まった。皆、驚愕の表情をしていた。
「まさか、インドラが負けるなんて」
「はい。シューン様。追いますか?」
「いい。インドラに勝ったんだ。強く生きれるさ」




