第二章 29 握手会デビュー
二年の月日が流れた。とうとうこの日が来た。ツリトは今、十五歳になった。椅子に座ってニコニコしていた。目の前には長蛇の列があった。そう、握手会が開催されたのだ。この握手会は前々から企画されていた。だが、さすがに十五歳からにしようという案が出ていたために今日開催されたのだ。握手の時間に応じて金を取るシステムだった。今回は初回と言うこともあって多めに取ることになっていた。だが、来客にとってそんなことはどうでも良かった。来ているのはほとんどが金持ちだったからだ。ツリトを個人で雇おうとするほどだからだ。黒色のオーラを持つものを一個人で雇うには一ヵ月一億は最低でもいる。そこから値段の交渉を行うとなるとかなりの額がいる。それをしようとするのだから相当な物なのだ。しかし、そんな中、悪意を感じる嫌な視線が紛れ込んでいた。
「それでは、握手会を始めます。スマホは必ずツリト君のスマホに当ててくださいね」
握手会が始まった。順番に誘いを断りながら熟していった。普通の服を着ていたデコイ教信者が現れた。
「こんにちは」
「こんにちは」
その信者は見えにくいように黒色のオーラを纏っていた。シックスセンスは催眠。デコイ教の信者の中でも選ばれし信者だった。元のオーラの色も紫色とかなり優秀だった。彼の名前はリー。小さい時に親がデコイ教信者になり、孤児になったのだ。孤児になったリーは親を追ってすぐに信者になった。それからずっと活動を行って来て二十年。リーは三十歳になっていた。リーはこれまでにたくさんの親子をデコイ教信者にさせた。偉大なるデコイ様のために、また、デコイになるために。そして、今日もツリトを信者にしようとして来ていた。仲間も一緒に来ていた。仲間は先に握手をしてツリトの分析をしていた。その結果を既にリーは受け取っていた。リーはツリトに催眠を掛けるのは簡単だと考えていた。
「ツリトさん。あなたはデコイ教信者になりたいですよね?」
「いや、俺は別に」
「ん⁉なりたいですよね?」
リーは確かに催眠を掛けていた。はずだった。しかし、掛かっていなかった。違和感があった。オーラが紫に戻っていた。そのおかしさに気付いた時には胸に感じていた黒い焦燥が消えていた。だが、デコイ教の一員の自覚はあった。信仰は両親に会わせてくれると信じているから。
「デコイ教に入ってくれ!」
「ごめんなさい。今、あなたを突き動かしているのは両親に会いたいという思いですか?俺には分かる。あなたはずっと愛に飢えている。愛を一番与えてくれたのが両親だったから焦れているんでしょ?」
「ちっ、違うっ!」
「そうですか。もう少し言いましょう。あなたはデコイ教に固執していますね。両親がデコイ教信者になったんじゃないですか?」
「…」
「だから、両親を求めてデコイ教に入ったんでしょう?俺には分かる。あなたがデコイ教に固執する気持ちと同じぐらいデコイ教を嫌悪する気持ちがあることを。でも、両親から愛されたい欲が勝ってしまった。だから、信者になった。違いますか?」
「うっ、うう」
「はっきり言いましょう。あなたはデコイ教信者にならなくても愛を享受することができる。愛は日常に溢れているんだ。今もあなたは愛に満たされている。あなたが今、こうして正気に戻れているのは何故か?それは社会があなたたちを助けたいと思っているからです。信じてください。あなたを愛してくれる人はこの世界にはたくさんいます。思い出して見てください。今までもあなたに愛を教えてくれた人はいるはずです」
「先…生」
「そうです。他にもいるはずです。あなたがもし、これからも道に迷いそうになったら思い出すのです。あなたを愛してくれる人は世界にはたくさんいることを」
「私は、お…俺は酷いことを愛のないことをたくさんしてしまった」
「まずは、ルーフ王の元に行きなさい。これまでの罪を懺悔するのです。そして、一生を掛けて世界からの愛を感じながら生きてください。デコイ教に気持ちが揺らいでしまった時はあなたを愛してくれた人を思い出してください」
「はい。ありがとうございます。ツリトさん」
リーは泣いた。
ツリトはオーラを斬る技術を身に着けていた。
「最近、デコイ教信者が改心して僕のところに来るんやけど何でやろ?」
ルーフ王に会いたいという国民が最近出て来ていた。初めて現れた時は目から鱗だったがこう十人、百人とどんどん増えていくと疑問に思って来る。
「王国のツリト君のおかげらしいけどどうして、信者が減っていることを分かっててツリト君にデコイは刺客を送ってるんやろ?不思議やわあ。まあ、おかげで僕たちは助かっとるんやけど」
こうなって来るとツリトをショワ王国に連れて行きたいがそう簡単には行かない。国家保有の黒は二年前サルシアと発表されたがツリトは王国から一歩も出ていないため既に王国のもののように考えるべきだ。
「うん。仕方ない。ウールフをデコイと接触させてみよか」
「「「ツリト君が握手会を始めたっ⁉」」」
それはいつもの定期時間にリナがユナとカナを除いて七人で外に出ている時に知った。リナがこの情報を伝えた時、六人はリナを一斉に掴みかかった。それほどまでに衝撃だったのだ。この興奮を抑えるには時間が掛かってしまうだろう。現にアナは宙に浮き天空の外に行こうとしたのだから。それをセナがオーラを付着させて引っ張ることでなんとか抑えた。
「セナ。放してよっ!」
「アナ姉。興奮しすぎ。セナも興奮してるんだから我慢してよ」
「リナの興奮ぶりを見て落ち着いて聞くと思ったのにアナ姉ったら。モナも場所入れ替えしようとしてたでしょ?」
「気付いてた?でも、サナも遠くにモナの分身を出して同じことしようとしてたよ」
「サナはユナ姉のシックスセンスを使おうと」
「嘘。ナナは知ってるよ。だって、サナ姉の徳は積まれていなかったもん」
「ハナはアナ姉は帰ったら小さくした方がいいと思う」
「「「賛成」」」
アナ以外全員異論がなかった。七人は帰るのにいつもの二倍以上時間が掛かった。
「ユナ姉。もう慣れて来たけど、今日は遅くない?」
「そうね、カナ。どうしたのかしら?」
「ねえ、母さんも父さんもどう思う?」
カナたちの母さんは名をエリナ、黒龍の龍人だ。オーラは黒。シックスセンスは暗闇を移動する。父さんはノビタ。人間だ。オーラは黒。シックスセンスは占いだ。
「母さんは知らないわよ。ノビタ、どう思う?」
「大丈夫だろう。今日の占いは皆、良かったじゃないか。明るい未来のための大事な日の一つになるって」
「ちょっと、子供たちの前でどこ触ってるの!」
ノビタの上にエレナは座っていてノビタはエレナの胸を揉んでいた。カナたちは正直、その体勢でいる時点でダメだろと思っている。
「それにしては、何も起きていないんだけど。ねえ、ユナ姉」
「そうねえ」
多分、ツリト君に関する大事な情報が手に入ったんだわ。
ユナは自然とカナの胸を揉んでいた。ユナとカナも父さんと母さんのように座っていたために。
「アシュ、ホント何をしてるの?」
インドラは密かにリナのオーラを吸収して時々ツリトの情報を盗み見ていた。
「待っててね。母さんから解放させてあげるから」
インドラの目の前には息を切らして倒れているシューン、父の姿があった。
「どういうことよ、ツリト君!」
メイは皇帝になって帝国にいるデコイ教信者を確実に殺し続けていた。皇帝になってから、毎日ツリトにメールを送っていたが全く以って返事がなかった。ツリトのことを知るのはニュースのみ。そして、握手会をするというニュースを寝る前に知った。これは、メイも黙ってられなかった。
「返信がないことはもう慣れたからいいわ。でも、でもよ、どうして、握手会なんてしたのよっ。ツリト君のバカッ!ツリト君に触れていいのはメイだけなのにっ!」
メイは怒り狂ってその日は眠れなかった。




