第二章 28 ジャンヌの決意
時代が変わった。エケセテ帝国史上初の暗殺事件が起きた。今までも皇帝を暗殺して新たな皇帝が誕生したことはあった。だが、齢十二歳にして皇帝になったのは史上初だ。この事実は公表しなかった。理由はメイが公表させなかったからだ。水面下で進められていたデコイ教との関係を水面下に壊すためだ。唯一事情を知っていたライはメイの護衛を務めることとなった。
「はあ。一年経ったけどまだ、排除しきれていないかあ」
「そうですね。僕も知ってる限りの潜伏場所にいる信者はたくさん殺したんですがまだまだいますね。痕跡を辿ろうとしても内では紫のオーラが限界。これじゃあ、手がかりが掴めませんね」
「うん。ライは引き続き情報が入ったら殺しに行って。メイは出入国を徹底して厳しくするから」
これが、帝国の自動狙撃システムロンギヌスの運用再開の始まりだった。
「リザーリア、サルシア、三人で王国のデコイ教信者を排除するぞ」
ツリトは一年経っても相変わらず無人島で住んでいた。今では熊を殴り合いで倒せるほどに成長していた。しかし、少しだけ面倒なことが起きていた。デコイ教信者が攻めて来ていたのだ。寝ている時も起きている時も形振り構わずだ。ツリトは斬撃を飛ばして余裕で殺しているため被害は受けていないがイキシチ王国王様ジンがツリトの保護に動き出した。デコイ教信者が形振り構わずに襲って来るようになったのはメイと別れて一ヵ月後だった。それから徐々に攻撃を仕掛けて来るようになった。その事実をツリトは黙っていたが先日、ジン王を狙った事件が多発しているがツリト君は大丈夫か?という旨のメッセージが届きおじさんに追及されてツリトが正直に答えたことで明るみになった。それを受けてサニーニョたちが動き始めた。
サキューバスのシックスセンスを受け継いだのはサルシア一人だった。サルシアは十五歳でようやくサニーニョから実戦の許可を貰ったのだ。サルシアが託されたことはデコイ教信者の発見だった。捜索能力でサルシアに勝る者は現在ではフロンティアの外にはいない。おそらく最終的には見つけることができる人はたくさんいる。だが、見つけるのに掛かる時間がサルシアほど短い人はいるはずがなかった。だから、サルシアは近衛騎士団に所属してデコイ教信者の排除に動き出した。
三人は目撃情報を元に瞬間移動して一人一人、殺して行った。もちろん情報を得てからゆっくりと殺した。白のオーラを使って拷問をしたのだ。サルシアはオーラに縛りを付けることはまだできなかった。
「アレク。何か新作は出来ているか?」
「うん。拳銃だ。弾丸自体にオーラが蓄積されているんだ。そのため、オーラを纏わずとも爆発的な威力が出せる。弾丸の予備はここにたくさんある」
「そうか。これで、少し楽になりそうだ。最近孤児の保護に行くとどうしてもデコイ教の信者と鉢合うんだ。俺たちの活動は既に有名で謎の集団だから、デコイ教は孤児施設に常に見張りを付けているんだ」
「そっか。カーン。このことはジャンヌには?」
「もちろん隠してる。ただ、信者が黒色のオーラを纏うようになったことは伝えた」
「そっか。なら、カーン。あんまり頭を掻きすぎないようにね。しんどかったら、ルーフ王に助けを求めていいんだから」
「ああ、分かっている」
ジャンヌは十五歳になっていた。オーラの練度を上げる修業はしているが依然としてイキシチ王国に行くための部屋が作れなかった。否、早く移動できるための部屋が作れなかった。そして、最近、ツリトに会えないストレスが溜まり出して発散のために初めてしまった。きっかけはできごころからだった。同世代の子と親密に関わって来なかったジャンヌでも性の話題は気にする話題の一つだ。そして、一般的に独りでする人も結構いることも知識としては知っていた。だから、やってしまったのだ。ハマってしまった。
「っん♡うっ。んんーーーん」
「ねえ、ツリト君の情報は今日、ゲットできた、リナ?」
「うんうん。どうやら獣としかほとんど会って無くて目新しい情報はないなあ」
「そっかあ。折角ナナが皆の徳を使ってリナのシックスセンスの効果を高めたのに骨折り損かあ」
「でも、一年間、決まった人にしか会わないって変わってるね。サナ、折角たくさん働いたのに残念」
「リナ姉。三年前からしか見ることができないの?セナがやって見ようか?」
「できないよ。リナでできないんだから」
「じゃあ、ハナがリナの体を大人にしよっか?」
「それじゃあ、オーラ量は増えると思うけど練度が上がらないから意味ないよ」
「リナ。とりあえず、ユナにも知らせてあげよう」
「ねえ。姉ちゃんたちはどこに行ったの?」
「どうしたの、カナ?」
「毎日、決まった時間にカナに内緒でどこかに出掛けるじゃん。ホントにユナ姉は知らないの?」
「うん。どこに行ったかは知らないよお」
「ふーん」
ユナとカナは毎日同じ会話を三年間していた。たまたま、地上に降りたスターが自慢して来た日以来、九人はツリトに夢中になっていた。カナが特に意識している様子を見せていて姉たちは自分たちが意識する時はカナのいないところでしようということになっていた。ユナは感情をシックスセンスの影響もあってコントロールできるためカナの見張り役を買って出たのだ。それに、カナを独り占めできるのも嬉しかったのだ。ユナはカナの成長している胸を揉むのを楽しんでいた。
「ユナ姉、やめて」
キララは今日も白龍としてのトレーニングを行っていた。白龍の咆哮は光を集めてするものだからだ。キララのシックスセンスは十二歳の時に目覚めたと皆思っている。実際は否だ。キララは五歳の時にはシックスセンスに目覚めていた。キララはまだシックスセンスに目覚めていないと嘘を吐いていた。皆を欺いていた。しかし、十二歳の時、白龍王と黒龍王に兄であるスターが連れて行かれる時に自分も行きたいがためにオーラの練度を自在に上げれると嘘を吐いたのだ。しかし、今、目覚めたばかりだからと連れて行ってくれなかったのだ。それから、キララは皆を欺かなければならなくなった。今も咆哮の結果を少し欺いている。こんな風に今は、皆からバレていないが時々様子を見に来るインドラの目は怖かった。私は分かっているわよ。瞳が訴えかけていて怖かった。だから、キララがツリトに会いに行けなかったのだ。
インドラはシューンと神龍の力を使い熟すトレーニングをしていた。父親や龍王たちの前では笑顔を振り撒いていた。だが、独りになった時、インドラは目のトレーニングを行った。具体的には燃やしたりワープしたりなどのトレーニングである。インドラは年々そのペースを上げていて目の紋様を重ねる段階にまで行っていた。
「アシュ。母さんの拷問から必ず解放してあげるからね」
インドラは再び精神が不安定になっていた。
ジャンヌは十五歳になった。カーンとアレクも二十五歳になった。三人が築き上げている地下空間では独自の経済が回り始めていた。人数は増えて二百万人ほどになっていた。大人、二十歳以上、五十万人ほど、子供百五十万人ほどいた。子供たちは午前中、授業を受けて昼からは体を動かしたり、職業体験をしたりとしていた。また、その時にお金を使うようにした。いずれ、地上で生活するようになった時、社会に適応できるようにするためだった。ジャンヌは十六歳だが異空間の主と言うことで自由に生活していた。もちろんカーンと一緒に出掛けることも多くなってはいるが。ジャンヌの日常は依然として変わらず、イキシチ王国に、ツリトに会うために動いていた。ジャンヌが作ろうとしているのは物流センターで仕組みとしては空からの視点で送り先の座標を決めて立体的にも発送できるようにする部屋である。ジャンヌはその贈り物の中に自分が入ってツリトに会おうと考えていた。仕組み自体は改良したりしてやっているのだが、どうしても時間が掛かりすぎてしまうのだ。だから、毎日、オーラの練度を上げる修業を重力負荷の部屋でしていた。アレクは相変わらず失敗作を作り続けていた。カーンは表社会に根回しを行っていて、また、頭を掻き出していた。ジャンヌとアレクはただただ心配してせめて、髪の毛のケアは行おうとしていた。ジャンヌは髪の毛に聞く食べ物をアレクは頭皮マッサージの機械を作っていた。
「最近、ワカメは飽きたんだが。それと、この帽子は何なんだ?帽子はより禿げになると聞いたことがあるんだが?」
「カーン。それは僕の発明の試作品なんだ。認識阻害もあるから是非使って見てくれ」
「最近、ワカメの栽培にハマってるのよ。実際に海水を取って来てやっててたくさんあるから」
「そうか。だが、なんでもかんでもワカメを練り込まないで欲しいな。美味しいからまだいいんだがな」
「なら、文句を言わずに食べなさいなっ」
「ああ。じゃあ、お風呂に入って来るよ」
カーンは帽子を机に置いて密閉の部屋から出て行った。ジャンヌとアレクは同時にため息を吐いた。
「ねえ。やっぱり、私もデコイ教の殺しに参加するよ」
ジャンヌはカーンのストレスとアレクがカーンの武器を発明しているところを目撃したことからカーンがデコイ教信者を積極的にではないだろうが、殺していることは悟った。それをアレクに問い詰めたところ、アレクはあっさりと白状した。
「ダメだ。ジャンヌがするぐらいなら僕がしなければならない。でも、僕たちがカーンのことを思うならカーンに頼まれていることをするのが一番なんだ。だから、頼まれごとができたら僕が手伝うよ」
「カッコいいこと言うけど、未来都市の準備はできてるの?」
「…まだ」
「じゃあ、やっぱり私が行く」
「ダメだ。それだけは絶対に。ジャンヌは戦闘向きのシックスセンスじゃない。それに、格闘技なんてやったことがないだろう?」
「戦闘用の異空間を作ったら殺せるっ!」
「ダメだ。殺し合いには万が一がある。ジャンヌには任せられない」
「もう、知らないっ!」
ジャンヌは一向に平行線の話し合いに嫌気が指して扉を思い切り閉めて出て行った。
「はあ。僕だってカーンを手伝いたいさ。でも、ジャンヌはダメだ。参加させないのは二人で決めたことなんだ」
「こうなったら…、フロンティアに行ってやるっ!」
ジャンヌは更なる力を付けるために未開の地、フロンティアに行くことに決めた。二つの目的があった。一つは、力があると示すためだ。もう一つは何か良い収穫を得ようと考えたからだ。ジャンヌはアレクのリニアモーターカーに乗ってフロンティアの領地の海岸沿いの座標に向かった。そして、フロンティアに上陸した。
アレクが気付いたのは一時間後だった。
「よしっ。私の力を示してやるっ!」
ジャンヌは海岸沿いを歩いた。見たことのない貝や蟹がたくさんいた。黒色のオーラを纏っていた。
「凄い。やっぱり、次元が違う」
森の中からは獣匂がプンプンと香っていた。ジャンヌは死骸の貝殻や蟹の甲羅などをなるべく多く拾っていった。いずれも異空間に投げ入れるようにして入れた。すると森から視線を感じた。角の生えた牛がジャンヌを見ていた。その牛は月明りに照らされて透けていた。カラットカウ。キララが地上で初めて仕留めることとなる牛だ。
「確か、カラットカウ。希少生物とされている牛」
フロンティアの外、つまり国がある大陸では希少生物とされている。希少生物故にこの牛から取れる宝石は高値で取引される。しかし、周りが固いダイヤに覆われていて仕留めるのは難しいとされている。青色のオーラなのにとにかく強いと評判だ。そのカラットカウがフロンティアでは黒色のオーラを纏っていた。
「しかも、黒色。丁度良い」
ジャンヌは一度、異空間に戻って部屋を作った。そして、再び地上に向かった。カラットカウは変わらず同じ場所にいた。ジャンヌは大きな音を立てた。すると海の生物、牛共にジャンヌの元にやって来た。
「っ⁉」
息を飲んだ。これだけの黒のオーラを纏った生物がやって来るのは初めての体験で同時に背筋が凍るものだったからだ。ジャンヌはギリギリまで引き付けて地面の空間を歪ませた。自分の足元には別の異空間に行くための歪みを作った。ジャンヌはギリギリのところで傷一つ無く生還した。
「ふう。あれ以上は進めない」
「何をしてるんだ、ジャンヌっ!」
アレクは丁度、駆け付けたところだった。
「……」
「……」
二人は顔を見合わせた。フロンティアに足を踏み入れることはどれだけ危険なのかは誰もが知っている。かつて、フロンティアに探検に行った部隊は全員もれなく行方不明。その数は一万人を超えている。何もされていないのに必要以上の脅威を感じてミサイルを発射した帝国はミサイルが反転されてしまい、大被害にあった。他にもフロンティアに関わろうとして痛い目に遭った人はいくらでもいる。それほど危険なことをジャンヌが知らないはずはないのだ。アレクは心配そうにジャンヌの全身を隈なく観察し、ジャンヌはただアレクの顔をじっと見ていた。
「とりあえず、怪我は無くて良かった。この死骸を回収したんだね。生きてる生物には会っていないね?」
「……」
「会ったのか。分かった。怒らないから何をしたのか言ってくれ」
「私を囮にしてたくさんの生物を捕獲した」
「そっか。怪我が無くて良かった。本当に良かった」
アレクは思わずジャンヌに抱きしめた。アレクの目からは涙が零れていた。ジャンヌはそれを見て思わず涙が零れた。
「ごめんね。心配掛けて」
「全くだ」
「で、これが、ジャンヌが捕らえたフロンティアの生物か」
ガラスを挟んで目の前にはカラットカウが五匹、跳び貝ざっと三十匹、鋏がかなり鋭利な蟹十匹、などなどが睨み合っていた。
「この部屋は?」
「空気の調節ができる部屋」
「考えたね」
「でしょう」
「僕は怒ってるからね。調子に乗ったらダメだよ。でも、今回だけはカーンに黙っててあげる」
「誰に黙ってあげるって」
「「ヒィッ」」
「ジャンヌっ!」
カーンもジャンヌを抱きしめた。カーンの目にも涙が浮かんでいた。
「絶対にこれから無茶な真似はするなよ」
「…うん」
「でも、凄いな、ジャンヌ」
「でしょう」
「怒ってるからな」
「ごめんなさい」
「でも、よく怪我なしで戻って来た。しかも、生物を連れて。よくやった」
「ふふん」
ジャンヌは胸を張って笑った。カーンとアレクは思った。
こいつ、全く反省してない。
二人は敢えて追及しなかった。ジャンヌの成果に目を向けることにした。
「ねえ。育てる?それとも殺す?」
「正直、今の俺らじゃ育てるのは危ないだろう。一体ずつぐらいは残して殺して食べよう」
「そうだね。三人でこっそり食べてしまおう」
「じゃあ、窒息死させるよ」
三人はシンプルな味付けで食べた。今回の戦利品はカラットカウの宝石や生物の甲羅、貝殻、などもあるが、一番はそれらが纏っていたオーラの練度だった。これが一番の収穫だった。映像に残してこれからの参考になったのだ。これにより、三人の活動は円滑に進むことになった。
ツリトもジャンヌがフロンティアに足を踏み込んだ時、フロンティアに足を踏み入れようとしていた。無人島の生物のレベルが低すぎるようになったからだ。海に斬撃を飛ばして走ってそして、フロンティアの土地に足を踏み入れようとした時、強く弾かれた。
「なっ⁉やっぱり俺はフロンティアから来ていたんだ」
ツリトはそれだけを確認するために向かっていた。だから踵を返して家に帰った。
「フン。やはり、記憶がなくてもやって来たか。だが、このゼウス。それも見越して封印をアシュラに刻んだのだ」
☆をどうか、★に塗りつぶして欲しいです。




