第二章 27 メイとの別れ
「はあ。ようやく、完成した。異空間自体はショワ王国だけではなく全世界、なんならフロンティアまで広げられた。イキシチ王国、エケセテ帝国にもリニアモーターカーで移動できる。地上にも座標を刻んだ。でも、なんで私だけイキシチ王国行きのリニアモータ―カーを使うことができないのっ!」
ルーフ王からの要求に無事三日で準備できた三人は今、異空間に百万人ほど孤児を抱えていた。孤児と言っても十八を超えた人はたくさんいた。同じ孤児として教育したり支援したりしている人も含まれている。そして、百万人という数字は南部の孤児の保護するスピードをかなり上げたのもあるがルーフ王が実際より二十万人少なく言っていたこともある。加えて十万人ほど大人が付いて来たのもあった。準備していた数より三十万人ほど増えたが、場所と部屋をかなりのハイペースで広げて増やしていたため余裕で対応できた。だが、ここで困ったことが起こった。大人たち十万人が酒がないじゃないかとのたまいやがったのだ。これを皮切りにジャンヌはたくさんの迷惑を被られた。アレクが色々と異空間を発展させている間、ジャンヌは大人たちの趣味のために色々と奔走させられたのだ。作った部屋の種類は自家栽培の部屋大人用、筋トレの部屋、浴場、トイレ、台所、ギャンブルの部屋、教室、ゲーム、スポーツ、エロ、などなど様々とあった。その間、アレクに異空間の交通の便を任せていたのだがここで問題が起こったのだ。
「だって、ジャンヌは絶対勝手にイキシチ王国に行くでしょ。だから、ジャンヌにはイキシチ王国方面の乗り物は全部使うのを禁止しているんだ。カーンに頼まれてね」
「ああ。実際、今、行こうとしてたしな。これは、ここで子供たちの面倒を見てくれる大人が外の人と交流を持つために作ったんだ。ジャンヌには利用させないぞ」
「ぬう、ぬう、ぬう。だったらっ、独力で行って見せる」
「それを僕もカーンに言ったんだ。でも」
「ジャンヌのシックスセンスは部屋は作れるけど乗り物は作れないだろう?だから、イキシチ王国に行くことはすぐには不可能と判断した」
「ぐぬぬぅ。ぐぬぬぅ。ぐぬぬぅ。絶対私はツリトさんに会って見せるんだからっ!」
「ところで、この機会に全ての孤児施設を廃業にしたいんだ。ジャンヌついて来てくれ。それと、この帽子を被ってくれ」
「何で私がっ。それと何で帽子を被るの?髪型が崩れる」
「ジャンヌは建国する時に女王様になって貰おうと思ってな。社会見学だ。で、帽子を被るのは顔バレをちょっと防ぎたい。知っての通り、デコイ教も気付き始めてるから。今はショワ王国に目が行っているがいつ、気付かれるか分からんからな」
「その帽子は顔の認識阻害できるようになってるから」
「はあ。絶対イキシチ王国に行って見せるんだから」
「どうしたんですか。サンドラさん?」
「いや、最近、ツリトのオーラの練度が上がってると思ってな。ケイとアイよりも練度の上がり方が早い。同い年のはずなんだが」
「へえ。誘拐しますか?」
「いや、このままでいいだろうよ。こないだのサニーニョの奴がよっぽど効いたのか」
サンドラは楽しそうに笑っていた。ウィーチはツリトは誘拐させてもらえないだろうなあと諦めながらもずっとニコニコしていた。
「ツリト君。もう一回お願い」
メイはツリトに空気砲を飛ばして貰っていた。それを木の枝の先端に極端にオーラを集めて突いていた。ここ一年、メイは毎日武器を使った訓練をしていた。ツリトは回転を空気砲に咥えていた。そのため小さい力で大きな威力を出せるようになっていた。二人のオーラの練度はこの訓練のおかげで確実に上がっていた。ツリトの最後の一発をメイは軽々と木の枝全体にオーラを纏わせて斬った。
「よしっ。じゃあ、熊を狩りに行って来て」
「待って。まだ無理。ここ最近、熊たちが鍛え始めて肉に弾力が生まれて美味しいんだけど、倒すのが難しくなってるの。もっと鍛えてからにさせて」
「じゃあ、今日も俺を負ぶって走るのか?」
「うん。この一年で肉体が大きくなってシックスセンスの効果も上がったし威力も上がったの。だから、メイは筋トレをするっ!」
「はあ。不意打ちで簡単に殺せるだろう?」
「不意打ちだったらいくらでも殺せるけど、防がれた時に対処できないと意味ないもん」
「はいはい」
メイとツリトはこの一年で身長が伸びて筋肉もついて来た。身体能力も上がって来ていた。これはツリトが地道に三食昼寝付きの優雅な生活をサポートしたからであった。ツリトが捕らえている野生の進化した熊は長年、種を保存するために肉体改造を遺伝子から行った。その肉を毎日食べていた二人の体は、筋肉は急激な成長を遂げていた。体が筋肉でムキムキになったのではない。筋肉の質が上がったのだ。龍ほどはないがそれでも常人の十倍近くの力を得ていた。ここで一つ、疑問が生まれる。ツリト、アシュラはずっとフロンティアに住んでいたのに何でそうなったのか?大きな理由はゼウスがツリトの肉体にリミッターを掛けたからであった。もう一つはフロンティアは人間が食物連鎖の頂点に立ち野生の動物の進化が遅いからだった。一方、無人島のほぼフロンティアは熊が食物連鎖の頂点に立っていたため好きなように鍛えていたのである。そのため、一年で二人は尋常な進化を遂げていた。一方、無人島の野生の熊もこの一年でツリトに対抗するために独自の鍛錬と進化をしていた。メイはツリトとしか一緒にいないし、無人島全体のレベルが高いためそこまで成長はしていないと勘違いしていたのだ。ツリトは月に一回、解体ショーをしに行ってるためこの変化は感じていた。だから、メイにはそろそろ帝国に帰ったらと言っているがメイがここから離れようとはしなかった。
「はあ。疲れた。ツリト君、熊を狩りに行って来てよ」
「はいはい」
ここ最近のツリトの熊狩りはメイを負ぶってやっていた。両手は使えないし動きも鈍ってしまう。だが、そんなことは関係なかった。ツリトは先ほどの空気砲の斬撃の出力を最大にして回転させることで簡単に脳を貫いていた。そこからはもう簡単に馴れた手つきで血抜きをした。熊たちはツリトの顔を見るとすぐに逃げてしまう境地まで辿り着いたためツリトは一匹だけ仕留めるのは簡単だった。
二人は晩御飯を食べ終えて、一緒にお風呂に入っていた。ツリトの上にメイが乗っていた。ツリトとメイは何の疑問もなかった。
「ねえ。ツリト君。最近の解体ショーはどう?」
「まあ、収入は大幅減だな。どうしても一番最初と比べるとダメダメだな。デコイ教の数は相変わらず同じだ。相変わらず嫌な視線だった。帝国の状況は?」
「ライが雷刀を手にして以降、政治が大胆になって来てるんだって。明らかにデコイ教との繋がりが伺える政策も出て来てるし」
「ふーん。メイの孤独ならライがいくら黒でも皇帝の首に届くと思うんだが?」
「エージソンシリーズは舐めたらダメよ。鬼に金棒なんだから」
これが、メイが帝国に行くのに踏み切れない一つの理由だった。
「ねえ、やっぱり、ツリト君も帝国に来てよ」
「無理。権力は嫌い。己が弱くなる」
メイが踏み切れない理由のもう一つはこれだ。メイはツリトと離れたくなかった。帝国でまだ大きな変化が起きていないため、メイはギリギリまで粘るつもりだった。ツリトはそんなことは知らずにメイの小さな胸を揉んでいた。ツリトは癖になっていた。
「うーん。おかしいなあ。僕の暗殺部隊がまた、一人減った。デコイ、恐ろしいわあ。僕の爆弾が起動したちゅうことは体にオーラを流されたちゅうことやし」
ルーフの暗殺部隊はデコイ教解体、基、デコイを殺すために潜入捜査をしていた。そこで信者になりそうな人たちを助ける目的も込みで。ルーフは情報が漏れないように体に他人のオーラが流れたら爆発して自殺するように仕向けていた。つまり、デコイも巻き込んで解決しようとしていた。だが、これは二回目だった。二回、デコイは死んだ。はずだったのにだ。
「また、新たなデコイが生まれてしもうたね。どないしよ。また振り出しやん」
「ジャンヌ。また、身長伸びたか?」
「メイド服がようやく似合って来たね」
「何よ?」
ジャンヌはカーンとアレクに何か頼まれない限り部屋に籠っていた。部屋の名は重力負荷の部屋。何故、こんな部屋を作ったか?トレーニングをするため。否。独りになるため否。どれも一番の理由ではない。一番の理由はジャンヌが作ろうとしている部屋はオーラの練度が足りなかったからだ。どうやら、オーラの練度によって部屋の強度や効果が上がるみたいだった。そんな部屋に二人がやって来た。こういう時はジャンヌにとってはいつも悪い知らせだった。
「ジャンヌ。アレクのためにもう一つ異空間を作ってくれないか?」
「はあ。何個目よ?」
「三個目だねゴミは圧縮して場所は取らないようにしてるんだけど、満足のいくものが作れないんだ。そろそろ狭くなって来たからまた、お願い」
「と言うことだ。今度はもっと異空間の強度が高いもので頼む」
ジャンヌはたくさんの異空間を作ることができる。そして、異空間で作る部屋には段階がある。異空間の強度によって作る部屋の強度も効果も上がるのだ。アレクはよく資源の部屋を利用している。自身のオーラを資源に変えることができる。アレクのシックスセンスで作る発明品は一度触ったことのある物質でしか生成されない。そのためよりよい資源を求めているのだ。今回も発明品の機能に資源が耐えきれなかったのだ。もちろん、アレク自身もオーラの練度を上げるトレーニングはしているが、それでも、耐えられないみたいだった。だから、ジャンヌにもサポートをしてもらおうとしていた。三人はこの一年間、それぞれの目標のためにオーラの練度を上げているがアレクの目標としている発明品は依然として完成していなかった。
「分かったわ。私も丁度、もっと負荷の掛かる部屋を作ろうと思っていたところだから」
「うーん。スパイがいますね。見つけたら逐一私に報告してください」
「はい。ところで、誰かが孤児施設の子供を攫っているみたいなのですが、どうしましょうか?」
「そうですね。今は、スパイの発見を優先しましょう。ないとは思いますが内部崩壊は嫌ですからね」
「分かりました」
デコイの部下は扉から出て行った。
「困ったなあ。だが、今の私の真価を発揮するのはまだ早い」
「ライ、調子はどうだい?」
「好調好調絶好調です。この一年で雷刀には大分馴れてきました。今なら王国のサニーニョにも勝てる自信があります」
「そうかそうか。今日も余に客が来る。見張りを頼む」
「あの白装束ですね。了解です。どうですか?調子は」
「まあまあと言ったところだ」
ライの目には皇帝の目は濁って見えた。皇帝はそのまま部屋に戻った。日課のオーラの練度を上げる訓練だ。黒色のオーラを纏っていた。
メイがツリトと会ってから二年が経っていた。メイはあと一ヵ月で十二歳となる。今日もツリトは解体ショーが終わっていつものように寄り道をせずに帰っていた。ただ、いつもと違うのはツリトが海の中を走ったことだった。ツリトは海に一閃斬撃を飛ばして海を弾くことで砂の上を全力で走っていた。これを何度も繰り返してツリトは家に帰った。
「おかえり。今日の晩御飯は何?」
「もう、いい加減自分で作れるだろう?」
「お約束は終わったね。じゃあ、今日は何する?」
「俺は本気で思ってるんだが。まあいいや。じゃあ、そろそろ狩りに行こう。もう二年だからな」
「…うん」
メイは帝国の情勢を毎日見ている。最近きな臭いニュースが増えていた。いよいよ独りでも帝国に行かなきゃいけない時が迫っていた。
「じゃあ、頑張れよ」
「うんっ!」
メイはこの二年で自分に合う戦い方を模索していた。真っ向から戦うとなった時に勝てるようにだ。メイが選んだのは遠距離戦。メイは石を手に持っていたその石にオーラを集中させて襲って来る熊、メイは舐められているから一匹、の頭に思い切り投げた。熊はそれで、死んだ。
「やった!」
メイはツリトに抱き着いて喜んだ。ツリトも抱きしめて喜んだ。
「メイ、明日、帝国に戻る。もう一回聞くね、ツリト君。一緒に来てくれない?」
二人は無人島から大陸に移動した。最後の挨拶をメイとツリトはしていた。
「俺は行かない。だけど、スマホ出して」
「うっうん」
ツリトはスマホを出しQRコードを出した。メイはそれを読み込んだ。
「何をくれたの?」
「二百億。皇帝になるのに足しにしてくれ」
「…いいの?」
「構わん」
「ねえ、メイはツリト君もことが好き」
「ツリト君は?」
「嫌いじゃない」
「じゃあ、普通?」
「普通でもない」
「そっか」
ちゅっ♡
メイはツリトの顔を振り返って見ずに走って涙を堪えてツリトと別れた。ツリトはただ茫然としていた。
「よしっ。メイにできることをやろうっ!」
メイはツリトと別れて一番最初に向かったのは武器やだった。メイが欲しかったもの。それは拳銃と水の魔晶石だった。メイは今しがたツリトから貰ったお金で買った。そして、メイはエケセテ帝国に行ったのだった。
メイは一ヵ月間帝国の大企業に顔を見せていた。社長に直接会って状況を確認した。子供だと馬鹿にする者はいなかった。メイが黒色のオーラを纏っていきなり現れるからだ。社長の中には信者になっている者はまだいなかった。ただ、一ヵ月後に皇帝に会いに行く約束をどの社長もしていた。
「ふう」
メイは安堵のため息を心からした。ギリギリ間に合った。次に皇帝の様子を見に行くと体が震えた。金色のオーラだったはずのカマセ皇帝が黒色のオーラを纏っていたのだ。デコイ教の恐ろしさを心から実感した。
それから一ヵ月間、メイは入念な準備とオーラの練度を上げる訓練をした。
決戦の日が来た。
「よしっ。メイの作戦は絶対嵌る」
メイは両頬を叩いて気合を入れた。皇帝の謁見部屋に社長たちが集まる前に皇帝の自室分厚い壁に分厚い窓、豪華な装飾品が備えられている部屋に壁をすり抜けて入った。
ここでメイがツリトとの二年間の暮らしで進化したことを纏めよう。一つ目、オーラ量が増えた。二つ目、オーラの練度が上がった。三つ目、シックスセンスの孤独にメイ自身が選んだ人は入れるようになった。四つ目、孤独な世界の領域に制限を掛けることでオーラの消費量を抑えるようにできた。五つ目、孤独な世界の強度が上がったこと。六つ目、肉体が成長したこと。大きく言うとこの六つだった。
メイはこの孤独な世界で水の魔晶石にオーラを纏って領域内、つまり、皇帝の自室に水を溢れさせた。
この水の影響は今はメイしか受けていない。水が部屋いっぱいに溜まったところで孤独な世界にカマセ皇帝を入れた。皇帝は一瞬の出来事に理解が追いつかなかった。と言うより、呼吸ができなくなって肺に水が入り、急な水圧を感じ戸惑った。メイはそれを確認して拳銃にオーラを纏わせて皇帝の頭をぶち抜いた。
皇帝は死んだ。何の抵抗もできず、何が起きたのかも分からずに。




