第二章 26 サニーニョサキューバスとの出会い
「さあ、疾くと御覧あれ」
ツリトは今日も解体ショーを行った。最近は巨大魚がいなくて、いる方が珍しい、派手さはないが確実に技術が必要なことをやっていた。とにかく種類が増えていた。一回解体ショーをするごとに一種類魚の種類を増やすことにしていた。集客数を増やすための工夫だった。ツリトは既に何種類でもできるようになっていたが。そして、今日も今日とて白装束の輩はいた。が、いつもほどの嫌な目付きはしていなかった。理由はこの後のイベント、イキシチ王国近衛騎士団団長、サニーニョ・サキューバスとのショーがあったためだった。だから、嫌な視線が分散していた。
「やあ、宜しく。体を真っ二つにする以外ならいくらでも斬撃を飛ばしてくれ。私は金だが剣には自信があるんだ」
「それは、感じるよ。俺もやれるだけやってみるさ」
二人の手には剣が握られていた。サニーニョは金のオーラを纏っていた。ツリトも黒のオーラを纏った。
「それでは、先に攻撃を当てた方の勝ちです。では、始めっ!」
ツリトは斬撃を全方位から無数に飛ばした。その斬撃は空気砲で切れ味は失くしたが威力はそのままにした。サニーニョはオーラの気配を感じて後ろを向いて一閃大きく振りかざし向きを変えるともう一度一閃振りかざした。ツリトはその動きが見えていた。だが、踏み込もうとはしなかった。無駄が無く隙が無かった。間違いなく紛うことない剣才だった。ツリトは興奮した。だから、斬撃の空気砲の威力を最大限にして全方位から無数に飛ばした。サニーニョは更にスピードを上げてその空気砲を剣で斬った。そして、ツリトに向かって大きく一歩深く低く踏み込み一手速く大きく振り被った。ツリトは剣にオーラをサニーニョと同じぐらい纏って受け止めた。ツリトの体は吹き飛ばされた。ツリトはしっかり受け身を取った。ダメージはゼロだったが解せなかった。あり得ないことが今、起こっていたのだ。
「不思議か?ツリト君。何故、こんなことが起こったか疑問に答えてあげよう。まず、知っての通り黒と金ではオーラの力が全然違う。ツリト君と私では二十倍ほど違うだろう。だったら、何故、私がツリト君に力勝ちしたか?単純に筋肉量と言うのもある。だが、一番は体の使い方にある。ツリト君は自分の体を使い熟せていないんだ。折角の力が分散してしまっている。それが理由だ。私はサキューバスなのに金だった。だから、肉体の研究をした。私は体の使い方を感覚で理解した。だから、分かる。ツリト君は本気を出していない。否、出せない。だから、私がツリト君を強くしてあげよう。子供たちも私の修業の成果が少しは出て、体の使い方を少しづつ理解をしているんだ。長男のサルシアは怠けていてまだまだだが。あっ、今のは忘れてくれ。とにかく今日はツリト君に体の使い方が成ってないこと理解してもらえたら構わない。まだ、するかい?」
「何、勝った気でいるのさ。確かにおっさんの言う通りだと思うさ。だが、俺もまだ、本気は出していないぜ」
「その心意気は良し。だが、もういいかな。これ以上は殺し合いの領域になってしまう。おそらく、ツリト君があの解体ショーの斬撃をさっきの空気砲のような攻撃の威力でやったら私も余裕が無くなってしまう。そうしたらおそらく相打ちになる。これで、終わりにしよう」
サニーニョの肉体の動きはサンドラの動きも超えている。おそらく歴代のサキューバスの中で一番だ。ただ、オーラの才能が恵まれなかっただけが唯一の欠点だった。そのサニーニョを持ってしてもツリトには勝てないと判断した。ツリトのシックスセンスは既に高いレベルまで使え熟せていることが分かっていたから。真面に戦ったら先ほど言ったような結果になる。だが、ツリトがツリトパニックの時にやったことをされたら間違いなくなすすべなく負けることは分かっていた。
「今回の趣旨に救われた。公の前で赤っ恥をかかされずに済んで良かった」
これがサニーニョの心からの声だった。
「ツリト君おかえり。よく、フロンティアを除いて世界最強と言われてるサニーニョ相手に引き分けまで持って行ったね」
今日も今日とてメイは布団で寝転んでキュウリを齧りスマホを触りオーラを均一に纏う訓練をしていた。
「うん。凄かった。あのおっさんは中々に。シックスセンス無しでは勝てない」
「へえ。ところで今日の晩御飯は何?」
「メイ。もう一ヵ月半だ。いい加減料理ぐらいしてくれ」
「だって、ツリト君が作った料理美味しいんだもん」
「はあ」
「そろそろ、メイだけで獣を仕留めるか?」
「えっ⁉無理無理無理無理無理無理無理」
「はあ。じゃあ、ついて来て」
「じゃあ、メイは孤独な世界にいるから頑張って」
メイは嫌がりながらも暗くなって独りで家にいるのは怖いためついて来た。だが、獣匂が濃くなるとシックスセンスを使った。ツリトは呆れながら森の奥深くに進むとメイもそのままついて行った。
「さて、今日からシックスセンスは無しだ。殴り合いで殺して見せる」
『えぇっ⁉』
「俺の体の動きを理解するには丁度いい」
目の前には三メートルはあろうかという熊が黒色のオーラを纏って爪を立てていた。この無人島の世界は弱肉強食。外の人たちは便利な生活に憧れてフロンティアに近い無人島に足を踏み入れることも無くなった。また、飼育することで獣のオーラが弱体化して美味しい肉を簡単に手に入れることが可能になったこともフロンティアに近い無人島に外の人たちが行かなくなった理由の一つである。たまに、無人島から黒色のオーラを纏った生物が街中に現れることがあるが、その時は、化学兵器なりミサイルなりを使ってそこら一体を壊して対処することもある。もちろん、国家保有の黒が近くにいて対処できたらするが。そんな無人島の生物の目の前にいる熊は、フロンティアから離れて科学技術を身に着けることで人間として退化した人たちとは違い、フロンティアにいる生物のように進化して来た生物なため畏敬の形をしていた。その熊は従来の熊とは違い機動力があり、筋肉の質も良くなっていて、オーラを纏わなくても十分に強い。つまり、人間離れ改め熊離れしているのだ。ツリトは今まで斬撃を飛ばすことで簡単に殺していたがオーラの量、質、練度、滑らかさ、などなどは圧倒的に負けていた。そして、最も恐ろしいのは学習能力が上がっていることだった。最近ではツリトの姿を見ると群れになって襲って来ていた。だから、ツリトは上手いこと一匹だけに斬撃を飛ばすのを最近工夫していたのだ。今日はその工夫の一つで一回殴り合いをして油断させようと考えていた。丁度、サニーニョに体の使い方を指摘されて丁度良くもあった。
さて、長々と語ったがその熊が爪を立ててツリトに大きく足を踏み込み首を狙った。その動きには無駄がなく修練されていた。ツリトは軽く後ろに下がってそれを避けた。が、二段階の攻撃で踏み込んだ足を軸にタックルして来た。
「マジかっ⁉」
『ひえっ⁉』
ツリトは敢えて熊のタックルより低い姿勢を取ってタックルした。ツリトはオーラを接触面に多めに纏っていた。だが、ここで熊のシックスセンスが使われた。単純に筋力アップだ。ツリトは突き飛ばされた。
『ツ、ツリト君っ⁉』
ツリトはすぐに受け身を取る姿勢になりオーラもそれに合わせて移動させた。幸い怪我は無かった。ツリトはすぐに立ち上がりフットワークを取った。
「うん。やっぱり、無駄がある。野生の動物は違うなあ。ツンツンして見るか」
ツリトは精神を見た。自分の中にある本能、普段抑えている理性に空気砲のような刺激を与えて上手く機能させないようにした。これにより、記憶はなくても体が覚えている動きをして、本来の自分の動きをしてくれると期待した。ツリトは起きた時から自身の体が他人の体のように感じていた。だから、本来の自分を取り戻そうとした。
ツリトの動きは至極単純だった。熊に触れるまでは。ツリトはフットワークを取りながら熊が近づいて来た時に一気に間合いに踏み込んだ。そして、手首を肘から先を回転させて熊の心臓を貫いた。そこで、ツリトの理性が復旧して意識を取り戻した。
『ッ』
「なるほど。体の感覚的には動きが極端に良くなったわけではない。だが、戦い方が変わった。ふむ。俺が特別なことだけだな。分かったのは。他の熊は今ので逃げたし」
ツリトは右手を引き抜くと熊の血で汚れた体を斬撃の空気砲で弾いた。そして、血抜きを始めた。
「メイ。そろそろ限界だろう?」
メイは汗だくでシックスセンスを解いた。精神的に疲れが出るとメイは極端にシックスセンスの維持ができない。加えて、オーラ量が少ないため持続時間も短い。だが、この一ヵ月近くで成長はしていた。メイがシックスセンスを使っていた時間は十分だが、初め、ビビッてシックスセンスを使えなかった時に比べると確かに成長していた。
「ツリト君。さっきの、何?」
「知らん。俺の体に刻まれてた動きかな。無くなった記憶とは別に」
メイはツリトが一部記憶がないことはこの一ヵ月で既に感じていたし聞いてもいた。
「そっか。とりあえず、ツリト君は一歩前進したね」
「はあ、食べた食べた。ツリト君。トイレ行きたい」
「そろそろ茂みに入って独りでしてくれ」
「無理、視線を感じるもん。ねっ、お願い」
「はあ。わざわざぼっとんトイレを作ったじゃん。ちゃんと木を斬って組み立てて。視線なんてないじゃん」
「怖いものは怖いのっ!」
「はあ」
「入って来て」
「葉っぱがあるじゃん」
「ねえ、このやり取りもう良くない?」
「はあ」
メイはツリトに対する羞恥心は無くなり、トイレの後の自身に付着してる汚れもツリトに弾き飛ばしてもらっていた。葉っぱで拭きたくないそうだ。ツリトも月一の解体ショーの時に買って来れば良いのだが、まだ、向こうのトイレに一回も入ったことがないため、存在を知っていなかった。そして、ツリトもメイの裸を見るのに羞恥心は全くなかった。
ツリトはパパッと終わらした。
「じゃあ、お風呂行こう」
メイはツリトに密着して温泉がある森の奥深くに向かった。初めは本当に怖くてくっついていたが今はただ、ツリトと密着したいがためにくっついていた。ツリトはツリトでしっくりきて気持ちが落ち着いていた。




