第二章 21 三人の出会い
メイはツリトの解体ショーのニュースを見て興奮した。
まさか同世代にもう一人黒がいるなんて。
「ツリト。目付きが悪いけど、メイはタイプかな」
メイは最近の日課の一人かくれんぼ、皇帝が偉そうに座っている部屋に向かった。
「よし。今日は十分は持ち堪えるぞ」
メイは両手にガッツポーズを浮かべて気合を入れた。メイは完全な透明人間のようになっている。幽霊のような感じの存在となっている。足がないわけではない。生身の人間では見ることも聞くことも感じることもできないのだ。何故、メイが最近、皇帝の様子を見に来ているのか?それは白装束の服を着た人たちが原因だった。皇帝が怪しい取引をしようとしているからだった。現に今も…。
「では、私たちデコイ教が帝国で活動を行える代わりに毎月十億を振り込みます。今後ともよりよい関係を築きましょう」
「ええ。余も是非ともよりよい関係を求めていますよ」
皇帝は白装束の代表と握手した。白装束の人たちは部屋から出て行った。メイは白装束の跡をつけた。
「エケセテ皇帝、カマセ。奴は私がデコイ様と思っているようだがある意味では正解だな。実際はここにいる者たち全員がデコイ様の恩恵を受けて黒のオーラを纏えるのだが」
ここにいる白装束は十五人もいる。
「これは帝国が危ない。メイが何とかしないと。でも、どうすれば…。一番の強敵はライだけど、身内同士で争ってる場合じゃないし…」
メイは朝のニュースを思い出した。
「そっか。ツリト君がいるじゃん」
ショワ王国の南部はデコイ教の本部が置かれている。北部に一番大きい教会があるのだがルーフが睨みを効かせているため泣く泣く南部に本部を置いている。そのため、南部の支配に力を入れていた。今日も日課の孤児施設にやって来ていた。
「では、今月分の食事と服を持って来ました。子供は成長が早いですからね。服がないのではと思いまして」
「仰る通りで。本当にありがとうございます。服はすぐ汚れるし解れるので困っていたところだったんです」
「いえいえ。私たちは子供たちの笑顔を見たかっただけですから。どうですか?人数がまた増えたように見えるのですが?」
「はい。今月は新たに五人入って来ました。でも、もうすっかり皆と打ち解けています。最初の方は元気がなかったんですが、今は御覧の通りで。でも、また、ジャンヌちゃんはトイレに籠ってて…。ホントにごめんなさい」
「いえいえ、恥ずかしがり屋なのでしょう。無理にお会いしたいとは思っていませんよ。確か、十二歳でしたっけ?」
「ええ。思春期なもので。ちゃんと叱っておきます。最近は祈りも捧げなくなっているので。ホントに困ったものです」
「はははっ。仕方ないですよ。ジャンヌちゃんのオーラの色は分かりませんがこれから自立するためにも祈りを捧げていずれ黒色になって欲しいですからね。この前、新たにデコイ様に認められた者が現れたのですよ。信仰はちゃんと応えてくれるのに勿体ない」
「そうですか。今の話はジャンヌだけではなくこの施設にいる子供たち全員にお伝えしますね」
「ええ。是非とも宜しくお願いします。我々はそろそろ帰りますね。あんまり長居するのも失礼になるかと思いますから」
「いえっ!そんなことはありませんよっ!私たちはデコイ教の皆様に救われています」
「そのお言葉、ありがとうございます。これからの励みになります。さようなら。また、来月来ますね」
「はい。ありがとうございます」
孤児施設の代表は何度も頭を下げてお礼をした。白装束を着た信者たちは背中を向けて歪んだ笑みを浮かべながら何台もある大型車に乗り込んだ。
「カーン。最近疲れてる?」
「どうした、アレク?」
「最近視界が眩しくてさ」
カーンとアレクは二十二歳の青年だ。カーンが小さな車を運転してレーダーが示している目的地に向かっていた。それは、先ほど、デコイ教の信者たちが訪れた孤児施設だった。レーダーが示しているのは黒色のオーラが頻繁に観測されている場所だった。
「そうか?俺はそんな感じないんだが。それより、食料は足りるだろうか?」
「うーん。僕の発明品は余り表に出したくないしね」
「そのうえ、更に子供が増えるからな。そろそろ、長になるしかないか。だが、デコイ教が五月蠅くなりそうだし…はあ。面倒だな」
「完全自治区を作るしかないんじゃないか?僕の発明品で武装したら何とかなるんじゃない?」
「そうだなあ。俺もそれしかないと考えてる。まあ、今日のところはデコイ教の影響がどれぐらいあるのかの確認だから少しは気楽になろう」
カーンは頭頂部を、掻きすぎて薄くなっている、掻いて再び黙って運転を続けた。
「こんにちは。私たちは各地の孤児を保護する活動をしている者です。最近、こちらではベッド数が足りないという声を聞いたものですから」
「そうですか。ご親切にどうも。ですが、私たちは色々と間に合っていますよ。先ほど、デコイ教の信者の皆様が色々とご支援してくれましたから」
「そうですか。では、この飴ちゃんを配ってもいいですか?」
「ええ。子供たちも喜びます」
「ありがとうございます。アレク」
カーンとアレクは子供たち一人一人に飴ちゃんを配った。そして、部屋の隅にいるメイド服を着た少女、ここの子供たちの中では一番大きい、に最後に飴ちゃんを配ることになった。少女はテレビに夢中だった。
『では、疾くと御覧あれ』
テレビの中で黒色のオーラを纏った小さな少年が超巨大魚を細かく斬撃を飛ばして解体していた。少女は目を輝かせていたが、二人は思わず引きつった笑みを浮かべた。小声で話し合うほどに。
「おいおい、自分から公に姿を見せて大丈夫なのか?カーン。どう思う?」
「最近、教祖が変わって活動が活発化しているからな。イキシチ王国の内情はよく分からんがマズイことは確かだろうな」
「僕たちが助けに行くかい?」
「正直、そうしたいし、仲間にしたいしだが、サキューバス家が対応するはずだ。だから俺たちはこの勢力が大きい南部でできることをしよう」
「分かった。確かに僕たちができることはなさそうだね」
「ねえ、お兄さんたち。飴くれないの?ずっと待ってるんだけど?」
「ああ、ごめんごめん。僕がアレクでこっちがカーンね。君、名前は?」
「ジャンヌ。早く頂戴」
「ああ、もちろんだ。ところでジャンヌ」
「何?」
「俺たちについて来ないか?」
カーンとアレクは周りには見えないようにして手だけに黒色のオーラを纏った。
「一緒にデコイ教を退けないか?」
ジャンヌは顔に笑みを浮かべた。その笑みはカーンとアレクを馬鹿にするような笑みではない。余りの嬉しさを必死に抑えた笑みだった。
「待ってたよ。ずっと。情報は得てたからね」
ジャンヌは飴を受け取り口に放り込むと軽く両頬を叩いた。
「じゃあ、連れて行ってね。カーン、アレク」
「うん」「ああ」
カーンとアレクは孤児施設の代表の婆さんにジャンヌを引き取る旨を伝えに行った。ジャンヌは施設に残っている他人に一応ついて来るか聞いて回った。だが、誰も首を縦に振った者はいなかった。当然だ。関わりを持たなかったからだ。そして、一通り話し終えてカーンとアレクの元に向かうと案の定揉めていた。婆さんはジャンヌが黒色であることは知らない。ジャンヌが一度も人前でオーラを纏わなかったからだ。
「ジャンヌ。あなた、デコイ教の皆様にあんなにご支援して戴いているのに恩を仇で返すつもり⁉」
「うっさい、クソババア。まだ小さい子供をデコイ教の信者にさせるクズがっ!恩を仇⁉違うね。あいつらがやっていることはいずれ私たちの自由を失くすための布石さ。それを分からずに楽して食料や衣服を手に入れて。貰ったお金はお酒に使ってるクソがっ!だから私はアンタのことが嫌いなのさ。皆、それでもこの施設に残るって言うの?」
ジャンヌはわざと大きな声を出した。他の子どもたちにも聞こえるように。皆は最初は半信半疑だった。だが、婆さんが途中でボロを吐いた。分かりやすく「何でそれを⁉」と顔を真っ赤にさせてしかめっ面にさせてだ。それを聞いた子供たちは状況を理解した子から順に婆さんを睨むようになった。まだ、小さい子には理解した子が指を指して「わるもの」と言い聞かせていた。
「何よ、その目は!私に文句あるのかしら。誰にここまで育てられてきたの?私でしょ。だったらアンタラのおもちゃより私のお酒にお金を使ってもいいじゃないっ!それに、大きくなってデコイ教の本当の信者になったら生活も安泰だわ。私は将来の道も示してあげてるのに、何よ、その態度は!」
婆さんはこれでもかと言うほどの醜態を晒した。それはカーンとアレクだけではなくジャンヌまでもが呆れるほどだった。小さい子供たちの中にはその怒気に思わず涙を流した者もいた。カーンの沸点が切れた。カーンは黒色のオーラを纏った。
「二度と子供には近づくな。それと私たちのことは忘れろ」
カーンの強い意志が言霊と共にその婆さんを孤児施設から離れさせた。婆さんは孤児施設から出て行った。
「かっこいいね、カーン」
「やるじゃん、カーン」」
これがカナヤ新興国の基盤を作り上げる三人の出会いだった。
「さてと、俺たちの拠点に移動するか」
「どうすんの?今日は連れて帰る気がなかったから大型車で来てないよ。僕がここで作ろうか?」
「そうだなあ。拠点の大型車でも全員連れて帰るのは無理だからな」
アレクは外で砂に設計図を書いている間、カーンは子供たちを早速手玉に取っていた。
「これから向かう場所はお菓子の家だ。最高のチョコレートを御馳走するぜ」
「「「イェーイ‼」」」
「そのお菓子の家にはゲーム性があるっ!」
「「「えっ!」」」
子供たち全員が同時に首を傾げた。ジャンヌはと言うとテレビを見ていた。先ほどのツリトの解体ショーの生中継の録画を夢中で見ていた。小さい子供がリモコンを取ろうとしていてもお構いなしだった。ただ、「その生き方、いいなあ」「ツリトさんかあ、会いたいなあ」「目付きが悪いけど顔は悪くないなあ」などなど独り言つっていた。そのため、カーンの熱量をツッコむ者はいなかった。
「そうなるよな。だから実際に見せてあげよう」
カーンはポケットからスマホを取り出すと側面を三回ほど連続で刺激を与えた。テレビの画面が変わった。ジャンヌが精一杯の睨みを効かせてカーンを見たがカーンは軽く笑って誤魔化した。
「この映像を見てごらん」
テレビに映ったのは本当にチョコレートでできた一般的な普通の家だった。各部屋には子供たちが五人ずついた。スタートの音が鳴った。子供たちは部屋の壁をナイフとフォークで切り分けてパクパクと食べて行った。無我夢中に食べる者、一回一回味わって食べる者、顔が通るぐらいのアナができたら被りつく者など様々いた。そして、部屋のチョコレートを一番早く食べ終えたグループには新たにフルーツが使われたパフェが一人一人に御馳走された。そして、画面の最後には歓迎特別イベントの文字が書かれていた。
子供たちは呆気に取られて開いた口が塞がっていなかった。ジャンヌはカーンをずっと睨んでいた。カーンは子供たちの様子を見てニヤニヤしていた。
「さあ、見ての通り、歓迎特別イベントだ。俺たちの拠点に行きたいかあっ!」
「「「おうっ!」」」
「何が何でも行きたいかあっ!」
「「「おうっ」」」
「絶対に行きたいかあっ!」
「「「おうっ!」」」「くどいな」
一人の少女を除いて子供たちのボルテージは狂ったように上がっていた。ジャンヌはこの空気間に耐えられなくて外にいるアレクの元に行った。アレクは既に車を作り終えていた。その車はプロペラが付いていた。
「超最新型の世界に一つしかない空飛ぶ車さ。どうだい?」
「どうだい?って聞かれても凄いしか出て来ないんだけど」
アレクは嬉しそうにニッコリした。ジャンヌは呆気に取られた。
「ここが、俺たちの拠点さ」
空飛ぶ車で移動したのは森に入る前までだった。森の手前で降りて歩いて森の中に入った。ちなみに空飛ぶ車はスマホのボタンを押したことにより空間が歪んで沈んだ。ジャンヌはアレクに「もしかして、乗り物は作る必要はなかったんじゃないの?」と聞いたら、「これはこの場所限定に設定してあるんだ。設定しないとオーラの消費量がかなり大きいからさ」と答えていた。そして、森の中に進むとまた、木を何気なく押した。今度は子供たちも含めて地面の空間が歪み沈んだ。そして、見えたのがたくさんの子供たちが走り回っている光景だった。
「俺たちは実に六十近くの施設の子供たちを保護している。合計二千人以上もいるんだ。何故だか分かるか、ジャンヌ」
アレクが子供たちにこの地下の空間を案内している間、ジャンヌはカーンと二人でカーンの部屋、この地下空間のリーダーの部屋、で話していた。
「クソ宗教のせいでしょ?」
「ああ。ここ最近、一気に孤児の数が増えている。理由はデコイ教だ。奴らは親を支配することにより、大量のお金を奪っているんだ。そして優先順位が子供から信仰に移り変わっている。間違いなくシックスセンスの影響だ。今までもこのようなケースはたくさんあったのだがここ最近急増している」
「うん。大方、私が知ってる情報とおんなじ。これって近いうちに何か大きなことが起こるってことだよね?」
「多分な。ところで、どこからこの情報を得たんだ?」
「私のシックスセンス。見せてあげる」
「今ある部屋は全部で四つ。情報収集の部屋、自家栽培の部屋、衣裳部屋、癒しの部屋。どう、凄いでしょ?」
「これは、驚いたな。アレク」
「うん。上手く行けば未来都市ニューフロンティアが作れるんじゃないか?」
「ジャンヌ。シックスセンスの詳しい情報を教えてくれ」
「……二人とも反応が薄いっ!」
ジャンヌは自慢の部屋を丁寧に説明したのに、説明した時からの反応の悪さに忍耐袋の緒が切れた。そのため、文句を声を大にして言ったのだ。
「私はまだ十二歳。カーンとアレクは二十二歳なんでしょ?そしたら大人の対応としてとっても可愛い少女が自慢をしててホントに凄いことをしているんだからまずは、褒めるのが先でしょっ!計画だとか野望だとかは私を褒めることの次にするべきでしょっ!」
今しがた大人と言われた少年の心の二人は顔をお互いに見て大げさに笑った。
「と言ってもなあ。ジャンヌは口が悪いし、俺をずっと睨み付けてたからなあ」
「僕も口が悪かったのは良くないと思ったよ。どうだろう、カーン。この機会にジャンヌにお嬢様の雰囲気を纏わせないか?やっぱり、僕はメイド服を着ているのに今の態度や口調はダメだと思うんだ」
「そうだなあ。俺も教育が必要だと思っていたんだ。淑女たる雰囲気を纏わせることが俺たちの使命のように感じる。折角顔は可愛いのにこれじゃあ、余りに勿体ない。それに、服装に合った態度や言葉遣いというのは身に着けるべきだしな」
「そうだね。しかし、ジャンヌが僕たちに仕えるメイドとして育てるならちょっと合わない気がするな。だって、僕たちはメイドを雇うような器じゃないし」
「確かに。そう言えばジャンヌはどうしてメイド服を着ているんだ?」
「……。散々私を褒めろというのは無視しておいて、私に何故、メイド服を着ているかと質問をする。どういう神経をしてるの、お前らは!」
「「うん。これは可愛くないな。もっとお淑やかじゃないと」」
「声を揃えない!気持ち悪い」
「ねえ、カーン。僕のジャンヌのシックスセンスの予想を言っていい?」
「構わん。俺もある程度は予想している」
「ジャンヌ。君のシックスセンスは異空間に部屋を作る。部屋はどんな部屋も作れるんじゃないかな。オーラの消費についてはおそらくだが部屋の維持自体にはオーラは消費しない。部屋の効果を発揮する時にオーラは消費される。だから、自家栽培の部屋とかはオーラを常に消費しているんじゃないかい?それと、この異空間の狭さから考えるに異空間を広げて部屋を作るのにかなりオーラを消費してしまうんじゃないかい。でも、実はこれには裏技があるんだろう。異空間はオーラを使わずに広げられるんだろう?部屋はオーラを消費してしまうが。どうだい?」
ジャンヌは口いっぱいに空気を入れてアレクとカーンを睨んだ。




