第二章 17 デコイ教
「私の悲願のために宜しく頼んだぞ、デコイ」
「私が必ずや星の魂を見つけてみせます」
それがデストロイとの別れの挨拶だった。
「いいですか?デコイ教に入って頂くにあたり、前金として一千万マニーのお納めが必須の条件となります。そうすることで、我らが教祖、デコイ様がお会いしてくれます。そうすれば、あなたたちは救われます。最悪、前金を払って頂き、デコイ様にお会いになって救ってもらうだけでも構いませんよ」
「あっ、あの…。ホントにデコイ様にお会いしたら息子の病は治るのですか?私たちはイキシチ王国に行きたいと考えているのですが」
「なるほど。サキュバース家の天才児サルシアにお願いしようと考えてらっしゃるのですね。ですが、息子さんは持ちますか?今も顔が真っ赤になって苦しそうですよ。我が教祖である、デコイ様に頼めばすぐに治すことができますよ」
「私と息子は既に信頼できる筋から直通でサルシアさんに会うための手はずを整えて貰っているんです。もう、帰っていいですか?三十分後には待ち合わせをしているんです」
「その待ち合わせ相手とはジャカーではありませんか?瞬間移動ができる。実を言いますとそのジャッカーは巷で有名な詐欺師です。瞬間移動で世界中どこにも行けると言っているが、実際は青でそこまでの力はないです。ですが、あなたたちが私たちの話を信用できないと仰るのであれば今すぐ帰って頂いて構いませんよ。…そう、睨まないでください。信用でいないのであれば、今すぐ、帰って頂いて構いませんよ。ですが、ホントにお困りになった時には是非我らが教祖、デコイ様を御頼り下さい。待っていますよ」
母親は睨み付けてからまだ、高熱で苦しんでいる小さな息子を抱っこしてドアを勢いよく閉めて外に出て行った。
「遅い。もう、三十分過ぎてる。ジョイ、頑張って。もう、少しだから。頑張って、頑張って」
母親は息子の苦しそうな姿に必死に涙を堪えながらジャッカーを待っていた。だが、そのジャッカーは一向に来る気配がなかった。後ろを振り返ると頭を掻きながら煙草を咥えたジャッカーがゆっくりと歩いてやって来た。
「よお、前払いで百万ありがとなあ。ちょっと連絡を取っていて遅くなったあ。じゃあ、行こうか」
ジャッカーは謝りもせずに、しかも、煙草を吸ってやって来た。そして、青色のオーラを纏った。
「えっ⁉」
母親が前に会った時、ジャッカーは黒色のオーラを纏っていたのだ。それが、今、実際には青色のオーラを纏っている。そして、ジャッカーが連れて行ったのは先ほどの部屋であった。胸元に星の紋様を刻んだ白装束の来た先ほどの女がいる部屋だった。
「はっ⁉」
「悪いなあ。俺は頼まれただけだ。だが、デコイ様が息子の病を治してくれるのは確かだから。じゃあな」
「待って!…全部、あなたたちが仕込んだことなの?このクズどもっ」
母親は抱っこしている息子を連れてまた部屋を出ようとした。すると、息子の体温が急激に上がり、呼吸が荒くなった。
「ジョイ!待ってて、すぐに街医者に行くから。気休めにはなるだろうけど、持ちこたえて。頑張るんだよ」
母親はドアを勢いよく開けて出て行こうとした。ドアが開かなかった。代わりにジャッカーが額に星形の刺青を入れた青年を連れて来た。
「こちらが我らが教祖、デコイ様です」
女がその青年を紹介した。しかし、母親の記憶ではデコイ様は老人だった。
「私の方が信仰が強かったため乗り移ったのですよ。私がデコイです。息子さんを見せなさい。私が救ってあげましょう」
デコイは母親の前に行って息子を抱っこした。そして、女に目配せして合図を送った。デコイは黒色のオーラを纏った。デコイはニッコリと母親に笑って見せた。息子は見る見る内に元気になった。
「ママ。お腹減った」
母親は泣いて崩れ落ちた。息子はぴょんぴょんと跳び上がった。
「私を信じて頂けましたか?代金は一千万で構いません」
デコイはオーラを纏ったまま母親と息子に手を触れた。
「はい。ありがとうごさいます。お金は後日振り込まさせて頂きます」
「ありがとうございます。では、デコイ教の信者になりなさい」
「はい」「うん」
母親、息子共に土下座して返事をした。
母親と息子がいなくなった部屋で。
「今回はよくやった。この調子で頼むよ」
「「はい」」
デコイは部屋から出て行った。
「しかし、性格が変わったな」
「ジャッカー」
「悪い悪い。だが、信仰のたまものなんだろうなあと思ってな」
「ウールフ、まだまだ、ダメやなあ。僕の隠形を全くもって身に着けてなあい」
ここは障害物が多く光が全く入って来ない部屋だった。そこで、ショワ王国の王様、ルーフは息子であるウールフを一方的に痛めつけていた。
「俺はそれなりによくやってるさあ」
まだ、十二歳ほどの少年、ウールフは不用意にも声を出してしまった。気配は完璧に消せていた。全く動いていなかったため完全に気配は消せていたのだ。ウールフはルーフに鎌を掛けられたのだ。声を出したことによって居場所を特定されたのだ。ウールフはルーフが迫って来ているのを肌で感じた。だから、部分獣化で鋭い爪を突き立てて息を殺して待っていた。突如、爆音が聞えた。ウールフは思わず耳を塞ぐと同時にムカついた。
「クソ親父。予め仕掛けていやがったな」
そう呟いた時には喉元の皮一枚だけを斬られていた。
「終了だね」
女性の声が聞こえると同時に部屋に明かりが灯された。ウールフの視界には砂が床に広がっていた。右手には破れた砂袋があった。ウールフは砂袋の山から身を出した。
「この部屋にあるあらゆる障害物は既に僕が爆弾仕掛けてるに決まってるやん。何を悠長なこと言ってるん?」
「今回はシックスセンスを使わないって約束だろうがよお」
「別にい、見つけるんにシックスセンスは使ってないやん。何これ、僕が悪いん?」
「別にお父さんは悪くないと思うわ。だって、これは気配を探る訓練だもの。先に気配を出したのはウールフだもの。ダメねえ、ホント」
「チッ」
ウールフはドアを勢いよく開けるとドンッと言わせてドアを閉めた。その様子をウールフの母、テリオと父、ルーフはニコニコと見ていた。
「それで、実際のところどうだったの?」
「ウールフの隠形は完璧やなあ。僕の教えた技術以上のもんを持ってる。どこで身に着けてきとるんやろか?」
「母さん、ウールフがシリウスとキャッキャッしてるのを見たよ」
「へえ、女の子とイチャついて身に着けたんやあ。僕にも教えてやあ、テリオ」
「母さん、できないよ。そんなの」
「チッ。シックスセンスで予め場所を知ってて遊んでたなあ。隠形勝負じゃなかったのかよお」
「隠形というのは生身の気配だけではなくオーラの気配をも消すことを言うんだよ。ウールフのオーラの気配はまだまだだね。ぶぎゅー、すりすりすりすりい」
後ろから金色のオーラを纏った少女はウールフに後ろから抱き着き、頬をすりすりとすり合わせた。その少女の名前はシリウス。先ほど名の上がった少女だった。シリウスは十二歳でウールフの幼馴染だった。
「相変わらず凄いな。全く気付かなかった。と言うより、母さんや親父にもお、気付かれずに皇居に忍び込んだのかあ?」
「やだなあ。できるけど、ちゃんとテリオさんに許可は貰ってるよ。私たちは親公認のカップルだということよ」
「俺はあ、そんな関係になったあ覚えはない」
「じゃあ、どういう関係?」
「それは…アレだあ」
「アレ?」
「アレって言ったらアレだ。俺たちはアレという関係だ」
「ヘタレ。意気地なし。男らしくない。恥ずかしがりや。顔も照れちゃって。いいよ。今は、アレの関係ということで。でも、ちゃんといつか言ってもらうからね」
「で、今日はどこに行く?」
「私、あそこ行きたい。最近できたスイーツ屋。安心して、私の隠形でウールフを目立たせないようにしてあげるから。でも、ちゃんとくっついてよね」




