第二章 01 スキャンダル
目が覚めたら風呂の中にいた。後ろからは二つの柔らかい感触と脇とお腹周りにも柔らかい感触があった。肩に当たっている髪が少しこそばゆかった。逆に前からも感触があった。二つの膨らみと首に回された柔らかな感触、そして、サファイアのように赤い透明な眼が目の前にあった。心拍数が爆発的に上がり体温が上がった。呼吸をしようとするが呼吸をすることができない。体の中から体温が上がって来る。この熱を何とかしたくてもどうすることもできなかった。前後から体を抑えられていて身動きが取れないからだ。ようやく呼吸をすることが出来た。お互いのベロからとろっと糸を引いて。
「「っは。はあ。はあ。はあ。……」」
「やっと起きたね、カナさん」
「ええ。ようやくね。どうしっよっか。また、流しちゃう?」
「でも、もう十時だよ。そろそろお腹減った」
「十時⁉八時間近くも眠っていたのか。いや、違う。意識が戻っただけで確かに体に疲れが残っている。どういう原理なんだ?」
「まあ、簡単に言うと操れるのよ。ツリト君を本能のままに」
「そう。ツリトを本能のままに。だから、今の状況はツリトが望んだことなんだよ」
「……信じん。俺は信じんぞ」
「まあ、でも、ツリト君はそろそろ龍鱗が体全身に纏われてもいいはずなんだけど、心臓のところに少しだけしか纏っていないんだよね。つまり、まだまだ、カナたちはツリト君と勝手にたくさん遊べるんだよね」
「おいっ、まだする気か?」
「ツリト君が望むならいくらでもするよ」
「カナさん。どんだけ体力あるの。キララ、そろそろ限界」
「じゃあ、先に上がって良いよ、キララ。カナはツリト君とまだまだ楽しむから」
「昼から王様に会う約束があるだろう、カナ」
「むう。じゃあ、あと一時間だけ。キララ、どうする?」
「キララはホントに疲れたから先に上がる。楽しんでね、二人とも」
「じゃあ、俺も上が……」
ツリトの意識はまた、ボーとした。カナはツリトの胸に龍の血を流したのだ。
「カナさん。調節が上手いね。ホントに一時間ぐらいで終わりそう」
「ありがとう、キララ。じゃあ、待ってて」
「うん」
キララは体を軽く洗うと浴室から出て行った。
「さて、ようやく二人きりになった。思ったより時間が掛かったなあ。じゃあ、ツリト君いっぱい楽しもっか」
一時間後、先に風呂から上がったツリトはキララが珍しくテレビを点けていることにまずは、驚いた。次に驚いたのはテレビのワイドショーで昨日のイキシチ王国のことを報道していたことは構わないのだが、その中で一つ、すぐに対処しなければならない緊急事態のことを報道されていた。所謂、匂わせ、についてだ。報道の内容は簡単に纏めるとこんな感じだ。
一つ、ツリトとカナは婚約する可能性がある。
二つ、ツリトは浮気しているのではないか。
この二つの報道は言うまでもなくエージソンの黒シリーズである指輪から憶測で報道されている。昨日の記者会見でカメラはしっかりと捕えていたのだ。ツリトとカナが同じ指輪をしていることから報道された。少しだけ予備知識を入れておこう。一般的にエージソンの黒シリーズは写真付きでネットで全世界に公開されている。そのため、ツリトとカナが着けている指輪は見たことのないもののため婚約の可能性が報道されていた。そして、二つ目だが、ツリトが親愛の指輪を着けていたことだ。ネットにキララが親愛の指輪を着けていた写真が流出している。今回、キララはツリトに頼まれて王国民を避難させる手伝いをしたただの、マジシャンということになっている。そのため、一つ目の報道の信憑性から面白半分でツリトは浮気をしているとネット民が冗談で言ったのが拡散されたのだ。キララがツリトの愛人であるということは世間には広がっていない。だが、世の中にはこういうことに向いたシックスセンス使いがいるのだ。例えば、マスコミで働いている者たちとかだ。つまり、今は、冗談でワイドショーでワイワイ言っているが本腰を入れて対処しないとヤバいということだ。
「マズイな。このままだと、俺が恐れていたことが起こる。生きていく場所が無くなってしまう」
時刻は正午、いつもなら外食しているが、今はホテルの自室で六人で食事を取っているが、野郎三人はニヤニヤしてツリトを見ていた。
「おい、そんな顔をしていないでマスコミ対策を考えてくれ」
「クッ。僕は何もしなくてもいいと思うよ。カナさんは傷つけられることはないと思うからね」
「僕は寧ろ、報道された方がいいと思いますね。どんなに叩かれてもツリトさんは無事に旦那になれますよ」
「俺がマスコミを社会的に殺してやろうか?」
「こいつら、まともに対応しようとしてやがらねえ」
「ねえ、ツリト。何をそんなに焦っているの?」
「いいか、キララ。俺とカナ、キララの関係はどんな風に成り立って今、どういう状況になってる?」
「えっと。キララがツリトに一方的に好意を伝えてから、カナさんがまず、ツリトと子供を作って、その後、キララがツリトと子供を作った。逆レイプで。でも、ツリトはキララとカナさん両方をちゃんと愛してくれている」
「じゃあ、マスコミはその通りに報道してくれると思うか?」
「しないの?そもそも勝手に他人のことを報道していいの?」
「構わないのよ、キララ。それに、これはカナヤ新興国の女王カナが関わっているから。もっと言うと、カナとキララのことはおそらく悪く報道はされない。ツリトがクズ男として報道される」
「どういうこと⁉」
「黒は国籍がないんだ。そんでもって、国家公認の黒は各国一人ずついて均衡を保っている。イキシチ王国はサルシア・サキューバス、エケセテ帝国はライ・エレク、ジョワ宗教国はウールフ・ショワ、カナヤ新興国カナ・カナヤ、今、世界情勢的には四人が睨みを効かせているから戦争が起こっていないんだ。これで、俺がカナヤ新興国の女王カナ・カナヤと婚約することが発表されるとする。そしたら事実はどうあれ、俺がクズ男として報道される方が世界的には安心なわけさ。だから、この野郎どもはまともにマスコミ対策のことは考えてくれないんだ。そんでもって、俺がどうするのか笑って楽しんでいるんだ。どうだ、だんだん、こいつら薄情者どものことがさらに嫌いになって来ただろう」
キララがようやく状況を理解して野郎三人のことを睨み付けた。
「キララたちに命を救ってもらったのにホントにクズね!」
「まあまあ、キララ。皆、それぞれ立場があるから余計なことは言えないのよ。シックスセンスで、もし、アドバイスされたことがバレたら命を最悪狙われるかもしれないから。でも、友達に対してする行動ではないよね」
「とりあえず、王様に助けを請うしかないかな」
「まあ、それがいいんじゃないかい。僕は手伝わない」
「僕は助けた方がいいような気がしてきました。確かにその可能性はありますから!」
「俺は御免だ。いつ、背中を刺されるか分かったもんじゃない」
「ツリト君、ジン王に助けを請うのはいいと思うけど、本気でカナたちの作戦を実行するしかないんじゃない?」
「だな。図らずともそれしかない状況になったからな」
「作戦?」
「今回の件はよくやってくれた、ツリト。君のおかげでイキシチ王国は被害がほとんどない。それに国力が更に上がるだろう」
「ええ。俺の今回の功績はかなり大きいと思っています。俺の次の危険を見てください。俺はまだまだ、ちやほやされたいんだ」
「ツリト君!」「ツリト」
二人はツリトの両腕に抱き着いてはいたが抱き着く力をさらに強くして同時に少し睨みつけて来た。今、王室にはジン王と黒六人しかいない。重鎮たちは王様が参加させなかった。具体的に言うとサルシアが怖気つかせた。そして、今は、今回のツリトの功績を称えていた。今回、ツリトはバウバウ家のことはもちろんのこと、エージソンという危険の存在を一早く知らせて、サンドラという脅威を退けたことだ。この功績でお金はもちろん、王様のシックスセンスで今後の予定、計画を立てようとしている。
「ああ。それについては既に見てある。やはり、エージソンたちによる刺客が現れて命の危険がかなりある。これは同様にここにいる全員にもだ」
「あのですね。そんなことは分かっているんですよ。俺個人の今後の生活の危険についてを聞いているんですよ。俺はこのままだとおそらくクズ男のレッテルが貼られる。それだけは避けたいんだ!」
「ははは。それについては更なる危険が待ち受けているよ。今より状況は確実に悪くなる。でも、大丈夫だ。これについてはカナを女王から引きずり降ろしたら問題はない」
「ちょっと待って。ツリト君の状況が今より酷くなるとは具体的にどういうこと?」
「それは分からんが余はそう判断した」
「まあ、今できることはしとかないとな。更に状況が悪くなってしまう」
「さて、ツリトのことはこれぐらいにして、これからのエージソン対策について各国で共有したい。ウールフ殿、いかがですか?」
「余からも提案しようとしていた」
「そうか。ライ、皇帝は?」
「閣下も応じるそうですよ」
「カナヤ新興国からは今朝、同じ内容の手紙を貰っている。つまり、四大国会議は近日開くことになる。それでだが、各国の非公認の黒をそれぞれ捜索してくれ。なるべく仲間を増やしておきたい。だから、ツリトとキララ、カナ女王、今度会う時はただのカナかな、三人も参加してもらうことになる。宜しく頼むよ」
「まあ、余の国は、っていうか、どこの国も常に探していて見つけられていないんだけどなあ」
「ですね。僕は少し、心当たりがありますが」
「僕はツリトがいたから、っていうか目立ちすぎていたから余計に分からない」
「カナヤ新興国は正直分からないな。建国して間もないから全然、嘘の情報が飛び回っているから。でも、捜索能力は一番長けているから本気になったら簡単に分かるかもしれないわ」
「ふむ。確かに。では、それぞれ宜しく頼む」
「カナ、その鬼電いつまで無視してるの?」
「うーん。このまま夜逃げしちゃう?」
「夜逃げって言うには空は明るいぜ」
「じゃあ、駆け落ちだ。カナは国を捨ててツリト君と駆け落ちして静かな田舎で暮らす」
「あのお、キララのこと忘れてない?」
「全然。忘れてないさ。これからはキララが頼みだからな」
「そうね。これからの生活はキララがいないと生きていけないもの。でも、カナが女王を止めるにしても、新たな黒を探さないといけないのよね。本気で逃げようと思ったら全然できるんだけど、それじゃあ、後味が悪いもんねえ」
三人は喫茶店にいる。ウサギの亜人がいる喫茶店だ。もちろんキララに欺いて貰っている。ライとウールフはそれぞれツリトを見てわざと、にたあと笑ってからサルシアの瞬間移動でそれぞれ自国に戻った。カナも本来なら戻らないといけないのだが、帰ってからが面倒臭そうだから帰っていない。正直、ツリト自身も面倒臭いことになりそうだからカナヤ新興国に行きたくはない。だが、こうして、王国で時間を潰せば潰すほど面倒臭くなることは二人は分かっている。キララはそんなことは分かっていないため、三人でのデートを楽しもうとしている。喫茶店に、それもウサギの亜人の喫茶店に、行くように提案したのはキララだった。ツリトとカナが深刻に考えていることから気を逸らそうとしたためだ。キララの狙いはウサギの亜人が近くに来た時のツリトの顔でようやく見事に的中した。
「お待たせしました。アイスクリーム三つ、ワッフルと苺ワッフルとチョコレートワッフル、アイスコーヒーと紅茶とメロンソーダでーす。ごっゆくりー」
ウサギの亜人の可愛らしいミニスカメイドを来た店員が元気よくお盆に乗せてやって来た。ツリトは自然と目が足元から長い耳まで動いていた。当然、両隣にいる二人は抱き着いている手を強めてツリトの両耳を強く引っ張るのだった。
「っ痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!」
「キララ。これは確かにギルティだわ。ツリト君は下心が丸出しだった」
「でしょ。だから、あの時、あんな風に言ったのさ」
「これは、帰ったらお仕置きね。ツリト君にはきついお仕置きが必要だわ」
「カナ、その鬼電は大丈夫か?」
「え?」
「カナ、その鬼電は大丈夫か?」
「ツリト君。今、発言権がないことは分かっているのかな?」
カナはかつて、キララに見せたあの身が震えるような怖い雰囲気を纏い笑顔でツリトの顔に顔を近付けた。ツリトは怖くてそれ以上、何も言うことが出来なかった。キララは今のカナには何を言っても藪蛇だと感じ黙ってチョコレートワッフルを食べ始めた。ツリトとカナも黙々と食べ始めた。
ワッフルの喫茶店で一服した三人がホテルの自室に着いたと同時にサルシアが瞬間移動してやって来た。もうそろそろで日が暮れそうだった。
「ぅわ!」「「っ」」
「いきなり脅かすな。サルシア、どうしたんだ?」
「カナ女王。今すぐカナヤ新興国に帰ってください。現実に向き合いましょう。このままだと、ツリトの命が危ないです」
「何で俺が⁉」
「カナ女王が中々、帰って来ないからツリトが誘拐したんじゃないかと疑いが掛かった」
「え、何でそうなるの?」
「もちろん新興国も本気でツリトが誘拐したとは思っていない。だが、駆け落ちして逃げたという風にするよりツリトに誘拐されたということにする方がカナを新興国に留めることができるからさ」
「待って、ジン王が言っていたことってこういうことだったのか⁉」
「それは知らない。だが、もう少しでツリトを世界的の悪にしようと企てられる。余計な面倒ごとは避けたい。荷物を纏めて今すぐ王国から出て行ってくれ」
「クッ。カナはこんなことでは屈しないわ」
「カナ、何でそんなに戻るのが嫌なんだ?」
「あそこに戻るのはもう嫌なのよ!ツリト君たちは知らないけど、カナは普段、日の当たらない閉ざされた空間で過ごされているのよ。そこで、毎日上がって来る政治の報告書を読む退屈なあの日常には戻りたくないのよ!」
「そんなに公務はハードなのか?」
「ハードよ。毎日、山のように積み重なった書類を眺める日々、おまけにそれを監視するジャンヌの目!ツリト君との甘々な生活に慣れたカナはもう戻ることはできない!」
「おっおう」
カナの余りの勢い三人は何も言えなくなった。だが、状況を動かさないとツリトは国際指名手配犯になってしまうことになる。同じ疑問に行きついた四人はそれぞれ対応を考え始めた。そして、キララがピコン!と、言ったように見えた、グーで手のひらを叩くと元気よく手を挙げた。
「はいはいはい!あのさ、ツリトが例え指名手配犯になったとしても三人でいれば捕まえることなんて誰にもできないんじゃないかな?」
「そうか。確かにそうだ。俺たちが力を合わせたら余裕で逃げ切れる。でも、一回、今持っているお金は全部なくさないといけないけど」
「うーん。それはどうかな。人数の不利がある。僕たちは人員を増やすことができるからね。例えば、ウールフはツリトを本気で殺すとすると持久戦に持ち込むだろうし、ライはどさくさに紛れて帝国に引き入れて更に状況を悪化させようとするだろうし、それに、まだ、未確認のツリトより強い黒が本気でツリトを殺しに掛かって来て、カナさんを連れ戻そうとするかもしれない。それに、逃げ切ったとしても、そんな状況でエージソン率いる集団に勝つことはできないだろうしね。ん、待てよ。意外とお互いに修業になる可能性もあるんじゃないか?」
「なあ、説得するなら最後まで説得の形を取ってくれよ。サルシア」
「すまない」
「カナはどう考えるんだ?」
「カナは正直、難しいと思う。新興国は本気になればカナだけを連れ出す方法はあると思うから。もし、カナだけ連れ戻すとツリト君が何するか分からないからその手札は切ってないんだと思う。そうねえ。サルシア、条件を伝えに行って貰えないかしら。カナとツリト君の婚約を認めるなら帰っても構わないと。それと、もし承認されなかったらツリト君は各国に睨みを効かせて頂戴。カナを傷つけたら各国を潰すって」
「……わっ分かった。サルシア、伝えてやってくれ」
「ツリト、世界の敵になる覚悟はあるんだね?」
「おう。俺の本職はそもそも旅人だ。気まぐれに動くからな」
「顔が引きつってるけど大丈夫かい?」
「おうよ。何があっても俺がカナとキララを守るさ。それに、いざとなったら未開の地、フロンティアに行くさ」
「本気なんだね?」
「おう」
「分かった。できる限り僕が誠心誠意伝えて来るよ。早まらないでくれよ」
「おう。もちろんだ」
「じゃあ、行って来る」
サルシアは瞬間移動で消えた。三人は同時にため息を吐いた。
「それで、カナ?日の当たらない空間で公務をしていると言っていたが、もしかして…」
「うん。その、もしかしてだよ。新興国には黒がカナを含めて少なくとも四人いる。そのうちのカナ以外の三人がカナヤ新興国を建国した本当の英雄よ」
それから一時間後、三人がいちゃつきながら時間を潰しているとサルシアがドアを叩いて戻って来た。
「カナ女王、カナヤ新興国は女王の意向を認めるそうです。荷物を纏めてください。それとツリト様も同様にと」
「キララは?」
「……」
「キララは堂々と一緒に来なさい。どうせ、国民にカナたちの関係がバレることなんてないんだから」
「そうだな。バレるとしても、俺が悪いように書かれるだけでキララは何も悪く書かれないと思うから。それに、俺たちと一緒にいたいだろう?」
「うんっ!キララも荷物を纏める」
「はあ。ツリト頑張りなよ。これで晴れてツリトはツリト様と言われる立場だけど、ジン王の忠告通りカナさんをしっかりと女王の座から引きずり降ろすんだよ」
「ああ、分かってる。まだ、ジン王が言っていた状況が悪くなるっていうのには出くわしていないしな。次、会う時には全て丸く解決しといてやるよ」
「頼んだよ。そうでないと、ツリトは確実にエージソン関連以外で大変なことになるんだから」
「ああ、分かってる。向こうで何とかして見せるよ」
「さてと、準備はできたね。頑張るんだよカナさん、キララ、そして、ツリト。僕をエージソン関連以外の面倒ごとに巻き込まないようにね」
カナ、キララ、ツリトは星形の壁に囲まれた一つの頂点に飛ばされた。




