【夏祭り編】短編 ※CP要素あり(古都優)
高校に入ってから家メンと会う機会が減った気がする。
中学のころは毎日会うのが当たり前だったから気にしていなかったが、
一ヶ月に数回しか会えなくなって、どれほど家に依存していたか気付いた。
幸せは無くなって初めて気付くものと言うが、まさにその通りである。
夕日が優の半身を紅く濡らし、教室の空気を温かく染めていた。
1日の疲れの癒やしに
ぼんやりと家のグルチャを見返していると…
透花:家不足つれぇ…そろそろ遊びいかん?
ピロンと通知音がなってメッセージが届いた。
裕介:一週間前に行ったばっかだろ
どうやら今日も今日とて透花の家不足による禁断症状が大暴れしているようである。
一週間前に会ったのにもう次の予定を入れようとするあたり相当依存しているようだ。
まるで新手のヤクである…違法にならないことを願おう。
まぁ、俺も似たようなもんか…とぼんやり思いながら会話を眺める。
瞳:でも今回ばかりは透花に賛成、私前回行けてないし
愁人:私もそろそろ行きたいです
思った以上に皆んなチャットを見ていたようですぐに返信が付いていく。
優:じゃあ来週月曜祝日だしどっか行こうぜ?
送信ボタンを押しながら自然と口角が上がる。
古都花:月曜いいね!私も行ける〜
メッセージを打つ手が止まった。
そっ…か、古都花も来るのか
最近全く会えてなかった気がする。やっぱり居心地が良いのだ、古都花の隣は。
不思議と胸の鼓動が大きく聞こえる。
月曜…楽しみだな
…物思いに耽るうちに、いつのまにか日程が決まっていた。
月曜、午前11時から夜まで
港の花火大会
思い返せば、花火なんて見るの、いつぶりだろうか…
中学2年生の頃、古都花と見に行ったのが最後だった気がする。
あの頃は、毎日門の前で駄弁ってたな…。
どう考えても無駄な時間だけど…楽しかった
いつの間にか夕日は落ちかけており、教室は段々と元の暗さを取り戻していく。
紺碧に染まる空に急かされ、優は一人帰路についた。
数ヶ月前なら、古都花と一緒だったのにな…
◆ ◆ ◆
予定が決まってから時間が流れるのが遅い気がする。
終わらない授業、ついでに課題
中学の頃は……なんて考えても、しょうがないか
時の流れをつれづれと待つ
◆ ◆ ◆
一日千秋の一週間を超えて、遂に月曜日…
朝、目覚ましの音で目が覚める。
今日こそは寝坊するわけにいかないからな
ピロン
グルチャの通知が鳴る
渉:着いたけどら○ぽーとってどこじゃ…
どうやら11時集合なのに8時に着いたようである。
阿呆かな…?
瞳:私は9:30頃着くよー!案内しようか?
さほろ:私は五十分くらいになりそうくらいになりそう
思いの外早い時間に到着しそうな家メンに呆れながらも急いで支度を始める。
集合時間に来れない阿呆だとは思うが、こちらとしても早く会いたいのだ…
古都花:私祭りから参加だけどどこで集まろう?
そう、古都花は祭りから参加である。
部活の関係で抜けられなかったそうだ。
準備しながら、今日は何しようか、どんな話をしようか、そんなことを考え、流れるメッセージを読み飛ばす。
古都花が来るなら、この間貰った帽子でも被るか…お揃い…。
扇子もいいな、暑くなったら仰いであげたりして…
想像するだけで顔が綻ぶ
楽しみだな…
暫くして、ようやく準備も終わった。
家を出ると、初夏の日差しが眩しい。
帽子持っておいて良かったな…
そんなことを思いながら駅に向かってゆっくりと歩き出した。
◆ ◆ ◆
ら○ぽーとに着いた。
他のメンバーは裕介を除いて全員すでに到着しているようで、エントランスのソファで駄弁っているのがすぐに見つかった。
よっ、と声を掛けると
いきなり透花が飛びついてきた
邪魔やねんと言って押しのけると他のメンツもおはようと声をかけてくる。
古都花は…祭りからか
なんだか、もう会える気がしてた。
ジュースを買ったり、服を選んだり、そうやってだらだらと過ごすうちに、いつのまにか昼を過ぎていた。
古都花が合流する時間である。
そんな時、古都花からメッセージが届いた。
家のグルチャにである。
古都花: 友達連れてくかもしれんけどよき?
心臓がキュッとする。
そっか、古都花はもう友達できたのか…俺以外に…
優: 俺に構ってくれんならいい
書きながら頰が紅潮するのを感じた。
送ってから恥ずかしくなるも時すでに遅し、もう三件も既読がつき、隣で透花が悶えている。
てえてえてえてえてえてえ……と延々と聞こえているのは無視しよう。
優:古都花今どこにいる?
古都花:今フードコートの外なんだけど
優:そこで待ってて、迎えいくわ
メッセージを送信して席を立つ
透花は…遂に床に突っ伏し始めた
慌ててフードコートの外に出ると、すぐに見つかった。
お揃いのキャップをかぶって手を振る古都花につい駆け寄る。
飛びついて抱きつくと、背後で透花が倒れる音がした…が、今は目の前の古都花の方が大事である。気にせず抱きつき続けると、他の家メンも集まってきた。
「ら○ぽーと組は全員集まったことだし、そろそろ移動するか」
裕介の一声で全員が花火会場に移動した。
道中コンビニに寄って食料を調達する。
古都花は連れてきた高校の友人と喋っているようだ。
離れているからか、なんの話をしているかはわからない。
でも、友達と談笑する古都花を見ると、腹の奥から込み上げる苦い何かがあって
「古都花ハ○ゲンダッツ奢ってー」
「ねぇ高いって、聞いてないし」
仲良さげに話す2人の間に入りたくて、話しかける理由を作るためにアイスを頼む
ほんとは特に食べたいわけでもないんだけどな…
そんなことを思いながらレジに並ぶ古都花の背中を眺めた
◆ ◆ ◆
祭り会場に着くと、先に到着していた璃久が浴衣姿で待っていた。
狐の面がよく似合っている。
古都花の浴衣…多分似合うんだろうな
今度また祭り誘うか…
手から古都花の体温が伝わってくるからだろうか、他の人を見ても頭の中は一つのことしか考えられない。
すでに次の予定を立てながら所在なさげに歩く優の耳に、聞き慣れた、それでいて心臓を握りしめる声が響く
「ねぇ優、今から二人で抜け出さね?」
聞き間違いかと思って振り向くも、やはり古都花はこちらを向いて微笑を浮かべていて…
その笑みに目が吸い寄せられ、反射で頷いてしまった。
屋台の外れのベンチに向かう古都花の手が、やけに力強く感じて、鼓動が早くなる。
きっと小走りな所為だろう
そう言い聞かせて握る力を強めた。
ベンチに座っても心臓の鼓動は止まらない。
今は完全に古都花と二人きり
そう思うだけで、むず痒いような、それでいて温かい気持ちになる。
花火が始まった
小さな花火から始まり、段々派手に、大きくなっていく
隣に座り、無数の花束に照らされる古都花が、いつもよりも鮮やかに見えて、目が離せない
不意に手が触れた
反射で手を離すも、古都花から近づいてきて手が重なる。
いつのまにか恋人繋ぎになった手は、固く結ばれていて、一生解けないような気がした。
「今頃絶対家メン古都優で悶えてるやついるんだろうなw」
「透花とか透花とか…透花とか」
透花ばっかじゃねえか…
でも、古都優として揶揄われるのも、悪くなかったな…
思い出に耽り、古都花の体温を吸収する
しかし、温かいかい空間に、ぬるま湯が注がれた
花火は、消えるものなのだ
「ビジネスなのにね」
その一言で、全身が重くなり、沈んだ気がした。
知ってた
知ってたけど
少しは期待するだろうが
「俺は本気だけどな」
「え、なんて?」
口をついて出た言葉は、大輪の花の散る音にかき消されて、古都花には届かなかった。
「…なんでもねえよ」
暗くなった空に、静かな夜が覆い被さって、解けた手を冷やしていく。
最後の花火が、一際大きく光って、消えていった。